#13 話をしよう
「西に、『灰の海峡』がある。ダリア西部の果てだ」
「…灰の海峡って」
「蘭やあの二人の監視が言ってたダリアって…まさか。信じられない」
俺たちは、渡ってしまったんだ。
『灰の海峡』を。
あの聖なる海峡を。
呆然としていると下の方から声が聞こえてきた。
「黒、流星、蘭!外はどうだ。出ても大丈夫か?」
ベルさんたちが泣きじゃくっていた青年や朱里やリブちゃんたちを連れて上がってきた。
「大丈夫だ、暗いから気を付けて」
続々と梯子を上がってくる。
蘭はコンパスの光を消した。灰の海峡が闇に溶けた。
18人、全員が外に出る。
解放感と驚きが一同を襲った。
「真っ暗で何も見えないな」
一二三さんが蘭に尋ねた。
「何の音だ?」
「…わからない」
「そうか、…また明日明るくなったら見に来た方がいい。」
蘭はまだ灰の海峡のことをみんなには言わなかった。
「もう戻ろう。暗いしあぶない。今日はいろいろあったからみんな疲れてるだろう。細かいことは明日また話し合えばいい。あの男たちが言った出発までも多少猶予がある。」
―――――
蘭の呼びかけでみんなが元のBB4に戻ると、その光景がガラッと変わっていた。
「なんか…きれいになってる?」
格子と壁が全くないまっさらなフロアになっていた。
中央には大きなテーブルとイス。
「この部屋簡単に模様替えできる仕様なのか?壁もやけに脆かったし」
「あの二人が用意してくれたって事?」
テーブルには夕食と思われるようなものが置いてあった。
…といってもここ2週間牢の中で食べていた硬いパンだけだけど。
「まぁあいつらが用意してくれたんだし、みんなで話しながら飯食うか!」
ベルさんが言った。
それまでの地獄のような日々から少し抜け出したような感覚。
みんなでふるさとのことや家族のことを話しながらご飯を食べた。
俺も少し、ニューダイブの親父とおふくろの事を思い出してしまった。
今日の夕食で分かったこと。
ここの人たちはニューリドル、ニューダイブ、ダリアの3国から集められたという事。
ここに集められた人たちの年齢は当初はもっと幅広かったが、白い煙で絞られてしまったという事。
全員の年齢は聞かなかったが、年少っぽい朱里は13歳。リブちゃんは14歳らしい。
俺たちが植え付けられてしまった能力は
手からナイフを出す能力
超人的なパワーを出す能力
と、その両方。
まだ、わからないことはあまりにも多すぎるし、ダリア出身と言ってた蘭や凛奈はこの夕食中あまり口を開かなかった。
夕飯を全員が食べ終えるとき。
「リブちゃん、静かになったと思ったらもうねちゃった」
隣にいた瑛愛さんが言った。
「もともと、すぐ眠っちゃうような子なのか、あの白い煙のせいなのか…」
有綺さんが続く。
俺と流星には覚えがあった。
「きっと白い煙のせいだと思う。リブちゃんと同じくチョーカーをしていない流星も白い煙を吸ってから今日までずっと眠ってた」
「そう、だから目が覚めたとき黒に2週間以上経ってるって言われたときびっくりだよ」
「おそらく、俺たちみたいな能力が流星とリブにもあるんだろう。それが見えないところで体力を奪っていて、体の小さいリブは眠ることでそれを回復しているのかもしれない」
蘭が言った。
一二三さんが続く。
「まぁ、俺たちも休もう。外からは誰も襲ってこないだろうし、出発を命じる位だからあの男たちも手だしすることもなさそうだから。BB2とBB6は壁とベッドが残ってるからそこで休むといい。」
瑛愛さんがリブを抱えて立ち上がる。
「じゃあリブちゃん連れて上がるわね。…ケイもくる?」
名前に反応するケイ、明るい瑛愛さんの表情と手招きで伝わったみたいで3人で上に上がっていった。
「朱里、お前も俺と一緒に行くか」
不安そうな最年少の朱里を誘ったのはニューリドルで教師をやっていたというベルさんだ。
残った13人を前に一二三さんが口を開いた。
「…これでいいか、蘭?」
「あぁ。」
「…なんだ?」
雰囲気が一気に冷たくなった。
「子供と…言葉のわからないケイを避けて話がしたかったんだ。…これから全員が向かうかもしれないダリアの話をさせてくれ」
蘭が神妙な面持ちで話を切り出した。




