#11 接触
まだ牢の形を保っているBB4フロア。
そのそこまで広くない廊下に、囚われた人達が一堂に集まった。
「16、17、18人か」
一二三さんが言った。
性別も年齢も、おそらく出身もバラバラな男女が17人。目的もわからない謎の施設で、人以上の能力を植え付けられた状態でここにいる。
一瞬だけ微妙な空気が流れた。
一人一人の顔は、不安そのものだった。
「これからどうなるんだ。」
「おそらく、相手にこちらをまとめて殺そうなんて考えはないだろ。」
「となると一番怖いのは、…人体実験?」
「それにしても、俺たちを捕まえてあの煙を吸わせたやつに接触しないと何もわからない」
そんなことを話している時だった。
ふと、蘭が口を開いた。
「誰か来る。」
凛奈が続いた。
「…こっちだ」
凛奈が見た方向はA棟につながる通路の方向だった。
少し経つとコツコツと足音が聞こえ始める。
「二人?」
蘭が言った。
そして、凛奈と蘭が通路の入り口の方に近づき、他の人たちを下げる。
この二人はほかの人たちとは違う、『ずっと戦ってきた人』だ。
通路の扉が開く、それと同時に蘭と凛奈が手からナイフを伸ばした。
「おっと、そんなに警戒しなくてもいいのに」
A棟側に男が二人立っていた。
通路の扉には見たこともない格子がかかっている。
スイッチ一つで格子が現れるような仕組みか…?
俺たちが逃げないようにするためか、攻撃されないようにするためか。
長身の男の半歩後ろにいるやつが俺に「ナイフを出せ」と言ったやつだった。
ここの人たちを集めてしばらくしていたからか、俺たち18人はひどく冷静だった。
蘭が問いかけた。
「お前たちは何者だ、それと目的を聞かせろ」
二人組の長身の方が俺たちを諭すように両掌をこちらに向ける。
「分かってる。まず名前な。僕がレッダ、隣がスカイ」
「…本名か?」
そう聞いたのも蘭だった。
「…君鋭いね。コードネームだよ。本名は伝えちゃいけないことになってる。僕たち新政府軍の決まりだよ」
「新政府軍…?お前らダリア内部の人間か?」
ダリア…?
蘭の口にしたその3文字は聞いたことのない言葉だった。
「俺たち新政府軍は新たな国家システムを構築するために、そしてそれを広げるために活動をしている。そういう組織だ。君たちは、そのための捕虜だね」
この場にいる蘭と凛奈以外の16人には難しすぎる話だった。
訳も分からず、口をはさむこともできない。
レッダと名乗る長身の男は話を続ける。
「僕たちも時間がない。端的に言おう、白い煙を吸って発現した君たちの能力が『プライム』。このプライムを新政府軍国家の構築に利用しようとしていてね。まだ決定じゃないけど。
君たちには強くなってもらわないと困る。」
強くなってもらわないと困る…その言葉の瞬間、少しレッダの目が変わったような気がした。
あと、時間がないってどういうことだ?
「目先の予定を話そう。2日後、ここダリア西部からメトロポリタンに向かって出発する。この中にその道のりがいかに厳しいかわかるやつがいるだろう。」
レッダが蘭の目を見た。
「ここであきらめるのは勝手だ。ここで飢えて死ねばいい。2日の猶予、絶望を嘆くなり、生きる方法を考えるなりすればいい。生きるための答えはないわけではないだろ。
あと、ここまで生き残ったせめてものねぎらい。
この通路の先、上に続く階段と梯子がある。そこから地上に出れるから出てみるといい。
ただ、『ツインケーブ』から2キロ以上離れるとチョーカーの爆弾が起動するからな。チョーカーを着けていないものが破った場合はこの中にいる誰かの爆弾が起動する。余計なことはしない方がいい。
じゃあ出発まで」
そして、また口をはさむ隙もなく通路の扉が閉まった。
扉にはさっきまでなかった「17:05」という表示が出ていた。
「いかれた反逆者集団か」
ぼそっとつぶやいた蘭がひとりでに扉に触れる。
扉が開いたが、そこには誰もいなかった。
時間が経つと扉が自動で閉まる。
表示は「17:06」となっていた。




