『運命の王子様』を探すため
聖剣を携えたあたしは家に戻って、瞬く間に出発の準備を整えた。
あったりまえよね、17年間も待たせちゃったんだもん!
早く『運命の王子様』に会いに行かなくちゃ!
良かったわ。いつか『運命の王子様』を探して旅に出るときのために、お小遣い貯金しておいて!
とはいっても、これだけじゃ足らない。
仕方ないので、畑仕事から戻ってきた両親に頼んでみることにした。
「ねー、お父さん、お母さん! あたし、聖剣を手に入れたの! 村を出て『運命の王子様』探しに行くから旅費ちょうだい!」
聖剣を見せながら言ったっていうのに、残念ながら両親はちっとも取り合ってくれなかった。
逆に
「お前、そんな剣を作ってまで旅に出たいのか……」
なんて泣かれちゃった。
一方でレオンも
【俺は聖剣だぞ? 見た目だってこんなに神々しいんだぞ? ……なのに小娘が作った剣だと思われた……】
なんて良く分からない理由で泣き始めた。
なんなのよ!
なんであっちでもこっちでも泣いてるのよ!
泣きたいのはあたしの方よ、せっかく旅に出られると思ってたのに両親に信じてもらえなかったんだからね!
そんな困り果てるあたしの前に現れたのは、「ローゼの説明ではこうなるだろうと思った」なんて言いながら、わざわざうちまで来てくれたアーヴィン。
さすがは人前に出ることの多い神官だけあって、言葉には説得力があった。彼がきちんとした説明をしてくれたおかげで、最終的に両親はうなずいた上で、旅費もちゃんとくれたんだけど……。
……なんか複雑。どうして実の娘より、他人のアーヴィンを信じるのよ。あたしだってちゃんと説明したのにな……。
【当たり前だろうが。お前の頼み方でうなずく奴なんかいないぞ】
ってレオンには突っ込まれたけど、何言ってるのよこいつ。失礼ね。
もう一度踏んづけてやろうかしら!
* * *
翌朝。
あたしはウキウキしながら、出発前に神殿のアーヴィンへ挨拶に出かけた。
「おはよう、アーヴィン。これから出かけてくるわ!」
「おはよう、ローゼ。どこへ行くか決めたのかい?」
「うーんとね。色々考えたんだけど、あたしは旅の初心者でしょ? 今回はあんまり遠くまでは行かずに付近の町を回ってくる程度にしようかと思って。だからそんなにかからず村へ戻ってくるつもりよ」
あたしが言うと、アーヴィンはいつもの穏やかな笑みでうなずく。
「魔物を倒したら、きちんと神殿で申告するんだよ。報奨金が出るからね」
「うん、分かった!」
「……レオン。ローゼをお願いします」
【任せとけって】
不思議なんだけど、レオンの声が聞こえるのはあたしとアーヴィンだけみたい。
この聖剣の主になったあたしはともかく、なんでアーヴィンに聞こえるのかは不思議だったんだけど
【おそらく、俺が現れた時に居合わせたからだろう】
レオン曰くそういうことらしい。
まあ、あたしだけにしか聞こえてなかったら、自分の頭がおかしくなっただけだと思ったかもしれない。アーヴィンにも聞こえてたのは結果的にありがたかったわ。
「じゃあね、アーヴィン。行ってくる。お土産買ってくるからね!」
神殿を出たあたしが今日の天気みたいに晴れ晴れとした気持ちで大きく手を振ると、アーヴィンも肩の辺りまで手を上げて振り返してくれる。
「本当に気を付けるんだよ」
「大丈夫! せっかく旅に出られるんだもの、どこかで待ってくれてる『運命の王子様』のためにも怪我なんてできないわ!」
あたしの言葉を聞いたアーヴィンはうなずいてくれる。彼の表情は笑顔だ。
……なのにあたしは、なぜかアーヴィンが悲しんでいるような気がした。