エピローグ
さすがに酷すぎる状態だったんで、あたしは告白の後に一度家に帰って、お風呂に入ってから神殿に戻ってきた。
今はアーヴィンに淹れてもらったお茶を飲みながらお菓子を食べてるんだけど、しみじみ思うの。
なんてことないお茶だし、昔からよく食べてるお菓子だけど、どの町で食べたどの食べ物より美味しいなって。
――ううん。タナブゥタの露店で食べたものは、今と同じくらい美味しかったかも。
【いいか?】
そんなあたしに向かって、諭すようにレオンが言う。
【お前はこれからも聖剣の主として、魔物退治に行く必要があるんだからな】
「えーっ!!」
びっくりしたあたしは大声を上げる。
良かった、お菓子を飲み込んだ後で。もし手に持ってたら絶対落としてたわ。
「だ、だって、あたしはもう村の外に行く必要がなくなって……」
【そんなもんはお前の都合だろうが。俺の都合とは関係ない】
「何それ! だったらあたしは、いつまで聖剣の主でいる必要があるの?」
【一生だ】
レオンの言葉を聞いてあたしは愕然とする。
一生、聖剣を持つ?
じゃああたしはこの先ずっと、魔物退治をするってこと……?
「……呪いの剣……」
【失礼な奴だな! 俺は聖剣だぞ!】
「だって、アーヴィンが浮気しちゃったらどうするのよ!」
大丈夫だよ、と横から笑いながら言うのはもちろんアーヴィンだ。
「ローゼが魔物退治に出かけている間、私はちゃんと村で帰りを待っているからね」
「……本当に? 綺麗な女の人を見かけたらフラフラ~ってなびいたりしない?」
「しないよ。私はローゼの『運命の王子様』なんだろう?」
優しい瞳のアーヴィンは、真摯な声であたしに言ってくれる。
「……うん。そうよね。あたし、アーヴィンを信じるわ」
彼を見ながら微笑んだとき、ふとご令嬢のことが頭に浮かんだ。
あたしが家へ帰るため神殿を出ると、ご令嬢はもういなかった。
多分すぐに発ったんだと思う。
あの人も素直になれる日が来るといいな。身分のことなんて考えずに、ちゃんと護衛の騎士と……。
そこまで考えて、あたしは違和感を覚える。
……あれ?
ご令嬢が護衛の騎士を運命の相手にしなかった理由って、確か身分が低いからだったよね。でもアーヴィンのことは相手として相応しいって考えてたわけでしょ。
ってことはアーヴィンの身分は少なくとも、あのご令嬢が自分の運命の相手として選ぶくらいのものだってこと?
あたしはごくりとつばを飲み込む。
……そういえばあたし、アーヴィンがどこ出身のどういう人なのか、全然知らない。
もしかしてアーヴィンは、あたしの『運命の王子様』ってだけじゃなく、本当に王子様だったり、する……?
そんなあたしの考えを読んだのかどうなのか。ふっと甘い笑みを浮かべたアーヴィンは、あたしの顔を上向かせて囁く。
「好きだよ、ローゼ。この先も、ずっとね」
近づく彼の唇があたしの唇に重なる。
初めてのキスは思ってた以上に素敵で、あたしは考えてたすべてのことも、レオンの苦笑も、全部がどうでも良くなった。
そうよ。
この人が何だって関係ない。
アーヴィンはあたしの『運命の王子様』。それだけで十分。
だってアーヴィンはあたしだけを一生愛してくれる。
そしてあたしも、アーヴィンだけを一生愛するんだからね!




