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そんなことあるの

 


 完全に忘れかけてしまっていたドレス製作ですが、目の前に作りかけのドレスが落ちていたらさすがに思い出す訳で、あの後丸一日掛けてなんとか仕上げました。俺頑張った。ちょうがんばった。

 もうね、手がね、産まれたての子鹿だよね。

 筋肉痛になったよ久しぶりに。


 そんな訳で現在、クロはいつもより楽なドレスを満足気に翻しながら、ソファーに登ったりタンスの上に登ったりとアクロバティックに遊び回っている。

 どこかに引っかかったり、目の端に裾がチラチラしたり、埃だらけになったり、動きを阻害したりしない上に、着ている気もしない新しいドレスは相当お気に召したらしく、クロはご機嫌にぐるるにゃんと鳴いている。可愛いね。そして俺グッジョブ。


「あらクロエちゃん! 今日も可愛いわねぇ~!」

「なぅん?」


 ちょうどクロが着地した先のドアが開いたと思ったら、今世のクロの産みの母親である公爵夫人が登場した。

 社交界の金剛石(ダイヤモンド)と名高く、クロの容姿を更に妖艶にボンキュッボンにして、口元にホクロを付け、髪の色だけ金にしたような、とにかく美女な奥様、セラフィラティア・フォルトゥナイト様。

 その姿は子供が一人居るようには全く見えない程に一切の崩れが無かった。

 クロと同じ金色の瞳が美しく、人々が彼女を金剛石と呼んだのも頷ける程に、透き通った美しさである。


 本日は白地に黒いレースのマーメイドラインドレスがよく似合っておりますお美しい。目の保養過ぎる素晴らしい。


 こんな奥さん貰った公爵閣下羨ましすぎるんですけど、閣下が居なければクロは生まれてないので感謝しかございません本当にありがとうございます。


「よしよし、新しいドレスにしたの? 似合ってるわ~」

「ぐるなん」


 そしてそんな美女が、良く似た黒髪の美少女の頭を優しく撫で、にこにこと微笑んでいる。

 なんとも素晴らしい景色である。天国かな?


「そうなの? あらあら、じゃあお礼言わないとだわね~」

「なぅな?」

「うふふ、そうね~」


 ん?

 いやいや、ちょっと待て、どういう事だ。


 あ、分かった見間違い&聞き間違いだな?

 だってこんな事有り得ないもんな、うん。


「……あの、ギンセンカ様、……奥様、お嬢様と会話してませんか、あれ」

「…………してますね……」


 リィーンさんも見てるとか見間違い&聞き間違いじゃないって事じゃないですかやだー。

 幻覚かと思いたかったのに現実なのこれー!?

 やだー!


「そういえば、ギンセンカ君とはどんな感じなの?」

「なぅんな~」


 嘘だろ、俺でも出来なかった猫ちゃんと会話という神の所業にも近いそれを、異世界人で美女な奥様が会得してるってどういう事だってばよ!?

 あ、間違えた異世界人俺だ、奥様現地人だった。てへぺろ。


 大分混乱してるな俺、落ち着こう、吸って吸って吐く。ひっひっふー。

 どうでもいいけど知ってる人居るのかなこの呼吸法。


「へぇ~、そうなのねぇ、じゃあやっぱりそういう感じにしなきゃかしら~」

「にゃ」


 待ってどういう会話それ。

 今何を話してるのめっちゃ気になる俺もクロと話したい羨ましい。

 どうしたらいいの、どうしたらそれ会得出来るの俺もしたい。ご教授願いたいマジで。


「という訳でギンセンカ君、貴方ウチにお婿にいらっしゃいな~」

「何が『という訳で』なのかさっぱり分からないのですが私はむしろ大歓迎です」


 いや完全に何も分からんけどマジで大歓迎です。

 割とガチで大歓迎です。本当にありがとうございます。


 やったぜ!!


 ふと、他のメイドが奥様の為に用意したのか、部屋の奥の扉から温かい紅茶やお菓子の載ったカートと共に一人のメイドが現れた。

 それをリィーンさんが引き継ぎ、カートを押しながら口を開く。


「奥様、失礼ながら一体何がどうなってそうなったんですか、というかお嬢様とお話出来るんですか奥様」

「うふふ~、これは何となくで喋ってるだけよぉ~」


 奥様に対してリィーンさんがめっちゃ気安い気がするんだけど、それはそれだけ彼女が信頼されているからなんだろう。

 それはその筈というか、聞いた所彼女の産まれは奥様の専属メイドとご当主様の専属執事の間、つまり、確実に信頼出来る者の娘という事になる。

 産まれた時から見て来た少女なのだから、家族同然と言った所か。

 なお、公爵家の寄り子な地位なので、その辺の伯爵子息よりは上なんじゃないかな、ご両親は。


「…………何となくであんなに通じ合ってる感出るんですか」

「だって親子ですもの~」

「そういうものなんですか……?」


 リィーンさんの問いにおっとりと笑って答える奥様が美しい。そしてクロが可愛い。そして親子って凄いんですね。知らんけど。


「そうよ~、あ、そうそうギンセンカ君、お婿に来るならご実家の家督をどうするのか考えないとダメよ~」

「あ、それなら大丈夫です、弟が居ますので」

「あらそうなの~」


 はい、そうなんです、実は弟が居ます俺。

 そうでなきゃ生涯魔術の研究したり有事の際に魔術師として戦争に参加させられる、次期魔術師団長候補になんかなれないからね。


 と言っても、前世返りする前の俺が行方不明になった後、物凄く仕方なくスペアとして作られた弟だったりする。

 兄弟関係としては全然一緒に育って来なかったからちょっと冷めてるけど、事務的になら全然会話もするしそれなりに交流はしていたりもする。


 しかし、俺が前世返りになってしまった事で完全に次期当主として家を継ぐ事が決まってしまったちょっと不憫な子だ。

 俺に振り回されてしまって正直申し訳ない……とは思わないけど、被害者には変わりないので不憫に思ってしまうのは仕方ないと思うんだ。


 あいつが俺をどう思ってるかは知らないけど、知ったとしても俺は家を継ぐつもりなんて微塵も無いので、プラマイゼロかなぁと思っていたりする。


「ギンセンカ君がお婿に来てくれるなら本当に助かるわぁ~」

「え? でも王子とお嬢様が結婚する予定でしたよね?」

「そうよ~、でもワタクシ、クロエちゃんしか子供が出来なかったから養子を取ろうと思って~」

「まだ取ってなかったんですか」


 リィーンさんの冷静なツッコミで予想外の事実が判明した。


 うん、それはちょっと俺でもダメだと思うよ奥様。


「だって~……クロエちゃんがお嫁に行くなんて考えたくなかったんですもの~……」

「奥様……高位貴族としてどうなんですかそれ……」


 リィーンさんそれ言っちゃダメなやつ。


「大丈夫よぉ~、親戚の子を連れてくる予定だったもの~」

「そういえばギンセンカ様は何故婚約者がいらっしゃらなかったんです? 人として何か欠陥が?」

「シバき倒しますよリィーンさん、そんな訳無いじゃないですか」


 俺の事なんだと思ってんだこのメイド。

 いくらある程度有能で家人から信用されてても言っていい事と悪い事あるだろ。教育したの誰だ。俺一応伯爵子息なんですけど?

 同じくらいだよね? 地位的にも娘でメイドでプラマイゼロで、大体同等くらいだよね?

 どんだけ俺の事嫌いなの。


「そうよぉリィーンちゃん、彼の場合は前世返りだから、ちゃんと恋愛して結婚して欲しいって皆が気を使った結果なの」

「お陰様でこうなりました」


 キリッと真剣な顔で答えたら、なんか凄く微妙な表情が返ってきた。


「うわぁ……」

「なんですかその反応」

「いえ、何でもございません」


 一瞬物凄く腹立つ顔してたの見逃してねぇからな、リィーンさんてめぇこのやろう覚えてろ。


「さぁて、そうと決まれば、旦那様にご報告しなきゃいけないわねぇ~」

「え? まさかとは思いますが、本気なんですか奥様」


 え、ちょっと待ってマジだったの?

 冗談かと思ってたんですけどマジなんですか?


 え?


「うふふ、どうなるかは、お、た、の、し、み~」


 妖艶に微笑む奥様が美しくて眩しい。

 人妻ってのも相俟(あいま)って色気が半端ない。


 いやそれよりもえーっと、……なんかもう一波乱来る予感しかしないんですけどどうしたらいいですか奥様。



 

あけましておめでとうございます。

ここからは鈍足ですが、本年もどうぞ宜しく御願い申し上げます。( ´ ▽ ` )

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