誰にも言えなかった言葉
賑わう大通りから小道にそれ、少し歩いたところにその店はあった。人通りは少ないが店内はそれなりに賑わっており、話し声が目立つこともない。
一見したところ、ごく普通の道具屋だ。壁や柱いっぱいに、文具や装飾品やよく分からないオブジェなんかが、雑多に並んでいる。
じっくり見て回りたい気持ちを押さえて、主人に符丁を告げる。フィンたちと別れてから、毎日忘れないように唱えて覚えていたものだ。
主人は「待ってな」とだけ言って、店の奥に消えた。
まるで特注の品物を取りに行くような、自然な動きだ。初対面なのに、誰何されることもなかった。こういうことは、よくあるのだろうか。
待っている間、物珍しく店の中を見て回った。あらゆるものがごちゃまぜに置かれていて、見ていて飽きない。でも、特定のものを探すのはひどく難しそうだ。
「これ、ファニーに似合いそう」
トゥランが耳飾りを見ている隣で、ウルは興味深そうに手のひらほどの大きさの刃物を眺めている。
「それ、なあに?」
「東洋の暗器だ。刺さったら抜けにくいようになってる」
興味のあることのためか、自ら説明までしてくれる。
「痛そうね」
「そうでなければ意味ないだろ」
事もなげに言う兄を、トゥランはそっと見上げた。見かけよりは優しいところのある人だが、その手を血で汚したこともあるのだろうか。
トゥランにはまだ、うまく想像のできない世界だ。
「待たせたな、姫さん」
急に後ろから肩を叩かれて、びくりと振り返った。
ちょっと気取った感じの言い回し。洒落た柄のシャツにリボンタイ、つば広の帽子。相変わらず見栄えの良い、待ち人の登場だ。
「フィン!」
フィンはトゥランの手を取ると軽く口づけ、貴公子のように一礼してみせた。
「ご機嫌麗しゅう。この前の無礼はお許しいただけますか?」
あまりに芝居がかった仕草に、トゥランは声を立てて笑った。
「よろしくてよ。そのかわり、前みたいに普通に話してほしいわ」
「お許しいただけるのであれば、姫」
茶番を終えて満足したふうのフィンは、隣でげんなりとした顔をしているウルに視線を向けた。
「今日は護衛がいるんだな。さては、あれから侍女たちに叱られたのか?」
「そりゃあもう、たっぷりと」
「ああそれと、あの日迎えに来た、とんでもなく美形の恋人にも怒られただろうな?」
フィンはにやにやと、からかい交じりに小突いてくる。
「アロイスのこと? あの人は良いお友達よ。心配性だから、怒るというより悲しませちゃったみたい」
トゥランがその名を口にすると、フィンとウルの顔色が同時に変わった。
「アロイスだと?」
「アロイスって、あのラング家の?」
二人の声が重なる。
「そうだけど?」
何をそんなに驚いているのだろう。特にフィンはアロイスの名を知っているはずだが、あの時ちゃんと聞いていなかったのだろうか。
「あの女たらしのアロイスが友達?」
ウルが吐き捨てるように言ったかと思うと、
「あれが王宮中の女が夢中になってるっていう、伝説の?」
フィンはどこか野次馬根性で面白がっているようだ。
「お前、信じやすいにも程があるぞ。あんなクソ野郎とは縁を切れ。百害あって一利なしだ。いいな」
ウルがいつになく強い口調で言うので、トゥランは目をしばたかせた。彼の口から、こんな長い文章を聞くのは初めてだ。
「お兄さま、アロイスのこと嫌いなの?」
そう尋ねた途端、隣でフィンが声を裏返して叫ぶ。
「お兄さまァ!?」
そういえば紹介をきちんとしていなかった。
「そうだが、お前に兄と呼ばれる筋合いはないな」
ウルの冷ややかなまなざしに射すくめられ、フィンは直立不動になった。
「ぞっ存じ上げず、この度は大変な失礼を……」
王子を護衛官扱いし、姫に冗談を言ったとなれば、大変な不敬罪だ。場合によっては死を覚悟するほどの。トゥラン自身が気にしていないとしても、一般的にはそうだ。
一方のトゥランは、まるで大事とはとらえていなかった。
「大丈夫よ、お兄さまは優しい方だから。お母さまのことも、一緒に聞いてほしいの。相談したいことがあって」
緊張感走る二人を意に介さず、あっけらかんと話を進める。
母のことを口にすると、二人の表情が引き締まった。人のいる場所で話すことではない。
「場所を変えましょう。こちらへ」
一転、丁寧な口調になったフィンに連れられて、店を出た。
「あの妙な男、信用できるのか?」
道中、ウルがトゥランの耳元に口を寄せて囁く。
「秘密を漏らすような人じゃないと思うわ」
「ふん。アロイスを信用している時点で、お前の感覚は信頼できん」
よほど思うところがあるようだ。
「アロイスと何かあったの?」
それについての返事はなかった。
でも、ただの噂でここまで断言するとは考えにくい。少なくとも、面識はあるのだろう。
フィンは二人を、ある民家の一室へ連れて行った。
中には誰もいない。家具も必要最低限しかなかったが、敷物をめくると、地下へと続く階段が現れた。おそらく使っているのはこの地下室のみで、住んでいるわけではないのだろう。
目隠しでアジトに連れていかれた時は怖くてたまらなかったが、案内されるのはまるで違う。冒険気分でわくわくしてしまう。秘密の通路に地下の隠し部屋だなんて、小説の主人公になった気分だ。
階段はさほど長くはなく、下りた先には、初めて会った時のアジトよりも小さな部屋があった。机と椅子とランプがあるきりの、五人程度しか入らなさそうな狭さだが、密談には格好の場所だ。
「約束してたお母さまの手記だけど、なかったわ」
机を囲んで腰かけるなり、手始めに切り出すと、フィンはみるからに落胆した。
「お母さまがいなくなってから、官吏がお母さまにまつわるものをあらかた持っていってしまったらしいの。それが思っていた以上に徹底していて、残っていたのはこんな走り書きとか、書き損じばかりよ」
隠し持っていた紙類を、ランプの近くに広げてみせる。
フィンはそれらを難しい顔であらため、やがて首をふった。やはり、これといった手がかりは何もないらしい。
「この他にあった手書きのものは、詩集の写しだけよ。でも、やっぱりそれじゃあだめよね」
ため息交じりに肩を落とす。姫であることは信じてもらえても、肝心の謎解きの手がかりがまるでないと、請け負ってもらえないかもしれないと思ったのだ。
が、フィンは何かに興味を引かれたらしい。眉をぴくりと動かした。
「詩集だって……ですか? 内容は憶えていますか?」
フィンに敬語を使われると、変な感じだ。
落ち着かない気持ちで、トゥランは目を泳がせた。母が好きだった詩集だからと、一応あの後全て読んではみたのだ。
「細かいところは憶えてないけど、何だか変わった詩だったわ。運命の輪がどうとか、愚者がどうとか……。皇帝とか女帝とか出てきて、支配系統の良く分からない国だなって思って……」
「運命の輪に、愚者……皇帝?」
フィンはトゥランの発した単語をゆっくりと繰り返した。
その目には怖れと興奮がないまぜになり、異様な気配を孕んでいる。唇はふるえ、やがて指先までもがわなないた。
どうしたの、と尋ねる間もなかった。
フィンは椅子を倒す勢いで立ち上がり、机をたたいた。
「ヒエロニムスだ!!!!」
「ヒエロニムス?」
「未来を謳うと言われた吟遊詩人だ。予言者だとも、魔術師とも言われてる。彼の残した唯一の著書、【黄昏の書】の原本はほとんど焚書になって、ほとんど現存していないはずだ」
興奮のあまり、元の口調に戻ってしまっている。
が、話に惹きこまれていたトゥランも、そんなことには気づかなかった。
「じゃあ、どうしてフィンは知っているの?」
「口頭で密かに伝えられてきたのさ。もちろん、原書とは少しずつ乖離してきているかもしれないが、意味深で、寓意的で……例えば、“愚者の翼が闇夜を滑り”」
「「“吊られた男に朝日は昇る”」」
二人の声が重なった。
トゥランもその文章はなぜか印象に残っていたのだ。まるで意味は分からなかったけれど。
そしてその文言を口にしたとき、かちりと音を立てるようにして、何かがつながった。ずっとぼんやりとした違和感として、トゥランの脳裏に残っていたものが、ようやく輪郭を持ち始める。
「……お兄さま、どうしよう」
予感に、胸が震えた。散らばっていたものが一つずつ元の場所へ戻ってゆくように、突如として見え始めたものがある。
「何だ」
黙って聞いていたウルが応じる。
椅子ごと寄り添って、その腕にすがりついた。力強くて太い腕は、こうしてつかんでも微動だにしない。
「壁画よ、今日、神殿で見た絵。皇帝に、女帝に、吊られた男、太陽と月と星、獅子と乙女、悪魔や死神。全部、あの詩に書いてあったことだった」
「そうなのか?」
ウルの返事には、戸惑う調子があった。話の展開についていけていないようだ。
「俺はよく見なかった」
「神殿って、何のことだ……ですか?」
ウルに対してのみ、礼儀を思い出すらしいフィンが、また妙な言葉づかいで尋ねる。
「月光神殿の祈りの間に、作者不明の壁画があるの。誰も意味が分からなかったらしいけど、今思えば、あの詩を元にした絵だと思うわ」
「月光神殿だって?」
「ええ、でも神官しか入れない奥の間よ」
今にも矢のように飛び出していきそうだったフィンが、じりじりと腰を落として椅子に座り直す。
「なるほど。潜入には準備が必要だな」
当然のごとく忍び込むつもりらしい。それが世界中の謎を解き明かさんとする、彼らの組織としての在り方なのだろう。
「私の護衛としてなら、普通に入れるんじゃないかしら?」
思いつきを口にすると、ウルは渋い顔をした。
「同じ神殿に二度行く必要はないだろう。怪しまれるぞ」
「あの絵がもう一度見たいって、素直に言うつもりよ。そんなにおかしいかな」
「……女の気まぐれと思えば、ありえんことではないが」
「じゃあ、決まりね。今度は、詩集も持っていくわ」
勝手に決めてしまうトゥランの腕を、今度はウルが引いた。
「待て。思いつきで決めるな。お前は危機感がなさすぎる」
「危機感って?」
まるで無防備な様子に、さすがのフィンもなだめにかかった。
「俺としても……私としても、お申し出は大変ありがたいんですがね、殿下。事は思ったより、複雑で危険かもしれませんよ。黄昏の書は禁書です。官吏たちはそもそも存在を知らなかったから没収しなかったんでしょうが、知る人が知れば、ただじゃすみません。その詩集の話は、他の誰にもしない方が良いでしょう。持ちだすのも注意して、我々や殿下以外には決して見られないようにするべきです」
さらにウルも、言葉を継ぐ。
「アウレリア妃殿下は恐らく何か重大なことを知っていた。そしてそれを探っていた者がいるはずだ。私物を持ち去らせた当人がな。そいつはほぼ間違いなく、まだ王宮内にいる。下手な動きをすると悟られる。それがお前に残されていた伝言の理由じゃないのか」
「そ、そうよね……」
二人に押されるようにしてうなずきながらも、トゥランの中には収まりきらない感情があった。
「分かった。よく考えて行動するわ。でも私、絶対にお母さまがいなくなった理由を知りたいの。その理由があの詩集にあるなら、詩の意味だって知りたいし、何もしないなんてできない。だめって言われても、きっと動かずにはいられない」
だから、とフィンとウルの手をつかむ。
「二人とも、私に手を貸して。私が一人で調べてうっかり死んだら目覚めが悪いって思ってくれるなら、一緒に謎を解いてほしいの」
「…………」
「……くっ」
ほとんど脅迫めいた頼み方に、ウルは頭を抱え、フィンは笑いだした。
「いやあ、断れない言い回しが上手いですね、殿下は。まあ、俺は願ったり叶ったりなんで、断るつもりはなかったんですがね?」
「ありがとう、フィン!」
さっそく協力の申し出をくれたフィンの手を、ちぎれんばかりに振ると、その手をウルが引きはがした。
「たやすく男に触れるな。王女の自覚がないのか」
「お兄さまはいいの?」
「肉親は別だ」
と言いつつも、きまり悪げに手を離してしまう。
「へえ、案外そういうの気にするんですね? 妹姫を可愛がっていらっしゃるんですねえ」
横からフィンが茶々を入れる。と、ウルの殺人級に険呑な視線がフィンを貫いた。
「命が惜しくないようだな」
「一生黙ります」
再び直立不動になったフィンをそのままにして、ウルはトゥランに向き直った。
「好奇心だけで言っているなら、やめておけ。アウレリア妃殿下は殺された可能性もある。二の舞になるぞ」
フィンに向けていたのと違って、トゥランに向かってくるまなざしの強さは、真剣な思いからきているのが分かる。
ああこの人は――今日出会ったばかりの兄は、心から心配してくれているのだ。だから、誰もが面と向かっては言わない言葉をかけてくれる。
そう思うと嬉しくて、トゥランはウルに抱きついた。肉親だから、許されるはずだ。
「お、おい」
たじろぐ声が聞こえたが、より一層強く抱きしめる。
初めて、本当の兄ができた気がした。
「ありがとう、お兄さま。でも、お母さまはたぶん、生きているわ」
「何だと?」
トゥランより頭一つ以上背の高いウルの声は、頭上から聞こえてくる。
「今日、神殿で感じたの。あれはお母さまの気配だった。私を守ってくれているみたいだったの」
「……幽霊じゃないのか?」
「分からないけど、きっとまた会える気がするの」
「漠然とした話だな」
まだ全容の見えない謎が、トゥランを駆り立てる。まるで誘うように。どこへつながっているのか分からなくても、その道を選ばずにはいられない。
「……まあ、護衛程度なら、引き受けてやる」
やがて面倒そうに、ウルが呟いた。最後まで抱き返してはこなかったけれど、突き離すこともなかった。
それを良いことに、子猫のように頬をすりつけながら、触れ合うぬくもりの嬉しさを思った。こんな風に甘えるのは、母がいなくなって以来、初めてだ。
ずっとこんな幸せを求めていたのかもしれない。自分でも見て見ぬふりをしていた寂しさに、ようやく気づく。
「お母さまに、会いたい」
どうしようのない本音が、つい口からこぼれた。
誰にも何もできないと分かっていたから、口にしたことはなかった。十二年前、母がいなくなった日を除いては。
人生で一番泣いたあの日のことは、今でもおぼろげに覚えている。モリはそばにいてくれたけれど、また会えますよ、と気休めを言ってはくれなかった。昔からそういう人だったのだ。
「そう思うことさえ、許されないような気がしていたの。誰も本当のことを知らないのに、まるで罪人の扱いだった。もう名前を呼ぶことさえ、してはいけないみたいだった」
「……そうか」
ウルはウルで、やはり気休めを言ってはくれなかったが、ずっと言えなかった言葉を誰かが聞いてくれたというだけで、心が軽くなるようだった。
「だがお前はもう子供じゃない。信じたいものを信じ、望むものは自分で手に入れろ。できないことを、他人のせいにはするな」
厳しく突き放すような言葉でも、言われてみると嬉しかった。これまでトゥランに、こんな言葉をかけてくれた人はいない。生きるすべを教えてくれた人は。
力強くうなずいてみせる。
「信じてるわ、お兄さまのこと。助けが欲しい時は、何度断られても頼みに行くわ」
「どうしてそうなる」
「だって信じたいものを信じ、望むものは自分で手に入れろってお兄さまが」
「それは単に……ああくそ、何で最終的に全部俺に降りかかってくるんだ」
くしゃりと灰茶の頭を抱えて、ウルがうめいた。何者にも惑わされないかに見える強い兄が、こんな些細なことで困っているのがおかしかった。原因は自分なのだけれど。
「お願い、一年だけ付き合って。そのあとは、遠くからお兄さまの幸せを祈るわ」
両手を組み合わせて拝み倒すと、ウルは頭を抱えた姿勢のまま、ぽつりと呟いた。
「……そういえば星巫女になるんだったか」
「一年後にね。その時こそ真の引きこもりになるの」
「これまでは仮の姿だったってわけか」
フィンがもっともらしい相槌をうつ。そんな風に言われると、引きこもりでさえ急に格好よく聞こえてくるから不思議だ。
「引きこもりに仮も真もあるか」
ゆるゆると話すうちに、論旨と思考は少しずつ脇にそれていった。
◆
帰りの馬車の中の二人は、往路と違って静かだった。
トゥランは神殿で感じた母の気配や壁画のことを思い返しており、ウルはそもそも、こちらから話しかけない限りはほとんど口を開かない男だ。
神殿でのあの言葉で言い表せない気配を、なぜ母のものだと断定できたのかは、自分でも分からない。母の姿も声も、もう少しずつ忘れてしまっているのに。
懐かしくて、あたたかくて、慈しみに溢れていた。トゥラン、と呼びかけられたような気がした。
幽霊だと言われると、これまたうまく反論ができないのだが。
「星巫女になるのは、嫌か」
まるで違うことを考えていたらしいウルが、おもむろに口を開いた。
質問されるのは妙な感じだ。他人には一切興味がなさそうに見えるのに。少しは妹として親しみを感じてくれたのだろうか。
「……楽しみではないのは確かね」
命じられた直後は、別に構わないと思っていた。暮らしぶりは大して変わらないのだからと。
今は少し違う。やりたいことが次から次に思いつくので、一年では足りないような気がしている。それに、アロイスやフィンやウルと別れてしまうのも、今からすでに寂しい。
「少しだけ、お前がうらやましい」
思わぬ言葉を放ったきり、ウルは口をつぐんだ。
どうしてなのか、今の生活に不満があるのかといくつか問いを投げてようやく、ぼそりと答えが返ってくる。
「どこであろうと、あの王宮よりはマシな場所だろうからな」
「……嫌な目にあったの?」
「くだらん目にしかあってない」
自分から話題を振っておきながら、詳細は教えてはくれない。
「お前もそうだったろう」
「私は……引きこもっていたから」
「ああ」
俺もそうするべきだったなと、独り言のようにぼやいた。ウルの中に根を張った不信は大きい。
「でも私、引きこもりをやめて良かったわ。お兄さまと会えたもの。やっと家族ができたもの」
「家族……か」
何か言いたげな含みを持たせたものの、結局その先を言おうとはしない。言葉の端々に見え隠れする絶望をかすかに感じ取りながら、それをのぞき込む資格はまだ与えられていないのだと思った。
誰にも言えない言葉なら、自分の中にもあった。
いつか兄がそれを吐き出したくなったとき、自分はそばにいるだろうかと考えた。そばにいられたらいい。兄がただ受け止めてくれたように、自分もそうできたらいい。
けれどそれができるのはただの一年でしかなく、その先の兄の人生を知ることはないのだと思うと、最終巻のない本を読み始めるような、心許ない気持ちになるのだった。