見かけによらない兄との邂逅
「はあ……また違った」
トゥランはぼやいて、読んでいた本を閉じた。
フィンたちとの約束で、母アウレリア妃の手記を探し続けているが、結果は芳しくない。
母の書いたものはあっても、手記というほど読み応えのあるものはなく、走り書きのメモとか、本の栞に使われている書き損じの手紙とか、そんなものばかりだ。
たった今まで開いていた本も、母の字だったから期待したものの、どうやらお気に入りの詩を写していただけらしい。近くに同じ内容の本がもう一冊あった。
トゥランはもう覚えていなかったが、母が失踪した後、官吏たちがやってきて、母に関する物をしらみつぶしに調べていったという。その時、没収されて返ってこなかったものもあったと。
探しても、見つからないわけだ。それでもあきらめきれなくて、こうして母の部屋中ひっくり返しているのだが。
「頼んだら、返してくれないかなあ」
ベッドに大の字になりながらつぶやくと、
「望みは薄いかと」
トゥランが広げたものを律儀にしまっていたモリは、痛ましげな顔で首を振った。
「何を持っていったんだろう。私に読まれたくないものとか、あったのかな」
謎は深まるばかりだ。
誰も信じるなと言った母の言葉が、否応なしに重さを増す。
モリは「不可能に近い言いつけ」と断じ、事もなげにトゥランを夜会へ送り出したが、やはり何か深い意味があったような気がしてならない。
母は誰かに、利用されたのかもしれない。どんな風にかは、想像もつかないけれど。
それにしても、困った。
星読みの書もアウレリア妃の手記もないとなると、フィンたちに会いづらい。あれだけ自信たっぷりに、母の手記なら持ってこられると言ってしまったのに。
(そもそも、外に出られないし)
モリはあれから、トゥランが一人で宮を出ないよう、目を光らせている。おかげで、アロイスが一緒でないとどこにも行けやしない。
これはどうにかして、協力者を増やすしか――と考えていると、まるで天の采配のような指令がトゥランに降りてきた。
次代の星巫女として、各地の神殿を訪れて祈祷せよというのだ。神殿は同じ都市内から郊外まで十数はあるだろうか。場合によっては泊まりもありえる。
となると、ちょっぴり寄り道して友達に会いに行くことくらい、簡単にできそうだ。日にちは指定されていないから、王宮の外に出たい時の口実に使える。
トゥランは嬉しくなって、いたずらを思いついた子供のようにほくそ笑んだ。
つくづく幸運な自分を、自分でほめたたえたい気分だった。
◆
「お前があの、雲隠れの十四王女か」
その日トゥランを迎えに来た目つきの鋭い男は、顔を見るなりそう言った。
灰色がかった茶髪はさっぱりと短く、機動性を重視した飾り気のない礼装をまとっている。兵士の礼装と同じような雰囲気だが、布地の上等さと、階級章のない特別仕立ての意匠から、そこらの一般兵ではないらしいと知れた。
偉そうな言葉づかいからしても、何者なのかよく分からない。トゥランは、首を傾げて問い返した。
「えーと、護衛してくださる方?」
すると男はにこりともせず、かといって怒った様子もなく、簡潔に答えた。
「第四王子、ウル」
「えっ、お兄さま?」
トゥランは頓狂な声をあげた。
さすがに兄弟の中でも年上の第四王子なら、これまでにも何度か顔を見ているはずだ。年上の兄たちは要職についていることが多く、人前に出る機会も多い。
けれど、男の顔に見覚えはなかったし、第一彼はとても王子には見えなかった。あまりにも、武人の印象が強すぎる。王子ともなれば、普通はもっと装飾の多い服装をするはずだ。
ただし、そう思ったのはトゥランだけではなかった。
ウルもまた、しげしげとトゥランを眺めると、
「なんというか、特に感想の出てこない顔だな。覚えていないのも当然か」
遠慮のかけらもない言葉を投げてくる。顔を知らない、あるいは覚えていないのはお互いさまというわけだ。
腹はたたなかった。自分が目を引く美人でないのは自覚している。アロイスが綿雲のように柔らかで素敵だと褒めてくれる髪だって、要は癖っ毛で収まりが悪いだけだし、目鼻立ちも可もなく不可もなく整っているという程度。不細工とは思わないが、絶世の美人だったと言われる母の娘にしては、印象が薄いのは否めない。
星を集めた瞳だとか、笑い声が小鳥のさえずりのようだとか言葉を尽くして褒めてくれるアロイスには、よくもまあ思いつくものだと感心してしまう。
「私も覚えてないわ。お兄さま、新年の集いにはいらしたの?」
「たまに。数年に一度は出ないと、母上がうるさいからな」
「私もほとんど出てないわ。だいたい仮病を使ってたから。今年は久しぶりに出たけど」
「…………」
王族の行事にさえまともに出ていない面では、似た者同士らしい。道理で、会ったことがないわけだ。
「えーと、お兄さまが一緒に神殿まで行ってくれるの?」
「陛下の命令だからな」
父王を「父上」ではなく「陛下」と呼ぶことが気にかかったが、その理由には心当たりがあった。
第四王子は、実のところ有名なのだ。その母については、かなり強引な入宮だった。略奪としか言えない経緯で王が元夫を死に追いやり、愛妾に召し上げたという。
ただその結果、第四王子は王の子でなく、元夫の子ではないかという噂が絶えない。
(確かに、似てないのよね、お父さまには)
こっそりそう考えたが、トゥランだって父王には似ていない。五十以上もの子があれば、全員似ているわけがないのだ。
それに、初めて会った兄の親が誰なのかは、トゥランにとってそれほど大きな問題ではなかった。母のいないトゥランを開口一番に蔑んでくるわけでも、引きこもりぶりを説教してくるわけでもなかった。それで十分、好感を抱いていたのだ。
手早く身支度を済ませると、ウルと複数の護衛官と共に宮を出た。手始めに、王宮からほど近い神殿を訪れることにしたのだ。
もちろん、ついでにフィンたちを訪ねたいという目論見もあった。母の手記は見つかっていないが、手書きの気になる走り書きや栞なんかを集めて服の下に仕込んでいる。心配なのは、前触れをしていないので会えるのかどうかという一点だ。彼らだって謎解きで忙しいだろうから、不在の可能性は十分ある。
馬車の中で、ウルは静かだった。話しかければ返事はするが、そうでなければ一言も話さなかったかもしれない。かといって険悪な雰囲気というわけではなく、単に無口な性質であるらしい。
「お兄さまは、いつも何をしているの?」
「鍛錬」
「剣術のこと? あっそうだ、私も何か武術を学ばなくちゃって思ってるの。手っ取り早く身につく護身術って何かある?」
「そんなものはない」
「じゃあ、手っ取り早くなくても、私にできそうなやつ」
「そんなものはない」
とりつく島もない。
「いじわる。少しは考えてくれてもいいのに」
ふてくされるトゥランを横に、ウルは面倒そうに目を閉じてしまう。
「お前は見るからに鈍くさそうだからな」
「でも、襲われた時に何もできないんじゃ、困るじゃない」
「お前は何に追われてるんだ」
呆れたような一言は、答えを求めたものではなかっただろう。
普通の姫は、そう頻繁に襲われはしない。
「だって人生何があるか分からないし……そうだ、お願いがあるんだけど」
「断る」
「帰り道に寄り道したいの。ちょっとだけ」
「聞いちゃいないな……」
態度はそっけないが、そう悪い人でもなさそうだ。そう判断したトゥランは、ウルが怒らないのを良いことに、好き勝手に話しかけた。
「だって、侍女たちがなかなか外出させてくれないんだもの。私、ずっと引きこもってたから専属の護衛官がいないの」
「俺を護衛官代わりにするな。陛下に頼めば増員してくれるだろ」
「どうかしら。今はお母さまもいないし、顔も覚えていないような娘の頼みだなんて、聞いてくれないわ、きっと」
「……知らん。面倒に巻き込むな」
なかなか難攻不落だ。心身ともにぴくりとも動かない。
そもそも、どうして友達と会うためにこんな苦労が必要なのだろう。
トゥランはそこからして納得がいかない。
「……どうして、王族や貴族以外と友達になっちゃいけないのかしら。みんな良い人なのに」
ウルは片目を薄くひらいて、冷ややかに流し見る。
「そう見せかけているだけの輩が多いからに決まってる。お前なら良いカモだな」
「フィンたちは違うわ。同じ作家が好きで、気が合うの。それに私のこと、姫とは知らなかったんだから」
「誰だって最初はそう思う」
含みのある言い方だ。何か、具体的な経験を元に言っているような。
「お兄さま、誰かに裏切られたの?」
「……さあな」
詳細を言うつもりはないらしい。かといって否定もせず、ウルは曖昧に濁して口をつぐむ。
「……お母さまも裏切られたのかな。裏切られたから、突然いなくなったのかな」
「…………」
少し興味を引かれた様子で、ウルが目を上げた。
「だから、侍女以外誰とも会うな、信じるなって言ったのかも。そんな気がするの。でも、何があったのか分からないし、誰も教えてくれない」
幼いころから、見えない真実のかたわらで生きてきた。
そういうところは、ウルもトゥランも少しだけ似通っている。
そのせいだろうか。ウルは少しだけ優しい声音になった。
「だとしても、母親の仇を討とうとは思うなよ。お前の問題じゃないし、第一お前の手には余る」
「そんなことは考えてないけど」
そもそも、事件の全貌が見えなさすぎて、誰かを恨む段階ですらない。
ただ、いま一つだけ、確信できることがあった。
「お兄さまは優しいのね。お母さまは誰も信じるなと言ったけど、お兄さまのことは信じるわ」
一見怖そうだけれど、ちゃんとトゥランのことを考えてくれている。そう思える。
ウルはにこりともせず、むしろげんなりとため息をついた。
「お前の“信じる”は簡単すぎて、重みがない」
「本当にそう思ったのに」
初対面の兄妹が親交を深める中、馬車はあっという間に大神殿へと二人を運んで行った。
王宮の門を出て、馬車を走らせること数十分。首都で二番目に大きい建物が見えてくる。
陽のもとでは白く、月光のもとには青っぽく浮かび上がる不思議な色合いで、その不思議さから月光神殿と呼びならわされている。
極北の聖光神殿が神官にとっての聖地なら、庶民にとっての聖地はこちらだった。日夜絶えることなく人が出入りし、家族の平安や恋の成就を願っている。
トゥランは出迎えた神官に、奥の間へ通された。民衆に解放された祭壇とは別に、神官のみが使用する祈りの間があるのだという。
入ってみると中はがらんとしていている代わりに、見事な壁画が描かれていて、思わず目を奪われた。
「聖光神殿の壁画を真似て描かれたらしいですよ」
案内の神官がそう教えてくれた。
何を意味しているのかは、よく分からない。物語というより、何かを象徴しているようにも見える。王や王妃、獅子や太陽、死神、裸の天使……。
「これは神話か何かですか?」
尋ねると、神官は意味深に声をひそめた。
「それが、分かっていないのです。実は、聖光神殿の壁画の作者も不明だそうで」
「なんだかわくわくする話ね」
フィンに話したら喜びそうだ。
それにしても――と、トゥランはざわざわする胸をそっと押さえた。
なんだろう、この妙な感覚は。初めて見るはずなのに、初めてじゃない気がする。幼い頃、来たことがあるのだろうか?
母がいた頃のことは、もうほとんど覚えていない。
「お兄さまはここに来たことがある?」
部屋の隅に控えている兄に話しかける。
「ない。神職に関わりのある者以外は、普通来ないだろ」
「そうよね、私も記憶にない。でも、なんでか懐かしいような気がするの」
祈りを捧げている間も、ずっと母がそばにいるような気がしていた。何度も振り返り、そこに誰もいないのを確認してがっかりするのを繰り返す。
正体不明の「何か」の気配が、確かにそこにはあった。
人の力の及ばない、「何か」が。
「私、神さまって本当にいると思うわ」
帰りの馬車で呟くと、ウルはぐふっとおかしな声を出した。
単にむせたのか、笑いを押し殺すのに失敗したのかは分からない。
「お前は、毎秒何かを信じないと気が済まないのか?」
「そんなことないわ。何でもかんでも信じるわけじゃなくて……ただ、感じたの。何か大きな力があそこに満ちてるって」
「俺は退屈と空腹しか感じなかったがな」
ウルはさっきから、何度も大あくびをしている。腰の剣に手を伸ばす展開もなく、妹のお喋りと祈祷に付き合わされるだけの任務だから、確かに暇だろう。
「あ、お兄さまお腹空いたの? 私もなの! ねえ、市場で何か買っていかない?」
突然ころりと話を変えたトゥランの額を、ウルはこぶしで軽く小突いた。
「お前、神さまはどうした」
「だって、お兄さまは感じなかったんでしょ? それより、私食べてみたいものがあるの。この前お忍びでね」
「……近づくな」
身を乗り出して熱弁するトゥランを押しのけて、ウルはため息をついた。
そして、馬車を止めると護衛官に何かを言いつける。
再び動き出した馬車の中で、トゥランは目を輝かせた。
「今、なんて言ったの?」
「妹がうるさい」
「もしかして、本当に寄り道してくれるの? じゃあ行きたいところがあるんだけど、待ってね、地図を……」
「本当にうるさいな、お前は」
ウルは疲れたように額を押さえている。
「そう言いながら、ちゃんと聞いてくれるんだから。お兄さま大好きよ」
どんどん苦々しくなる顔がおかしくて、トゥランはもっと、素直じゃない兄を褒めちぎりたくなった。
言葉と行動があまり一致しないだけで、この兄は良い人に違いない。推測はすでに確信に変わっている。
ウルは仏頂面でそっぽを向く。心なしか、頬のあたりが紅潮しているような。
「懐くな、鬱陶しい」
そうは言われても、もう遅かった。
こうして目をそらすのは、照れ隠しする時の癖なのだ、きっと。
邪険にされながらも、トゥランはウルに、この前の市場での騒動をあらいざらい話してしまった。
さらわれたことや、その首謀者と本の話で意気投合したこと。アロイスが迎えに来るまで、姫だというのを信じてもらえなかったこと。
ウルは聞いていないそぶりをしていたが、「お前は姫らしくないからな」などと時々憎まれ口を叩くので、しっかり聞いてくれているらしかった。
「ところで」
際限なく続くトゥランの話をさえぎって、ウルは尋ねた。
「お前、その格好で市場を歩くつもりか?」
トゥランは自分の恰好を見下ろした。
今日はさすがに侍女服などではなく、ゆったりとひだの垂れた服を着ている。大判の布をからだに巻いて肩で留め、帯を締めるだけの簡単なものだが、古めかしくて神職以外で着る者はいない。
要するに、町を歩けばたいそう目立つのだ。
トゥランはにやりと得意げに笑うと、帯の結び目に手をかけた。
「任せて。こんなこともあろうかと、ファニーの侍女服の替えをこっそり拝借してきたの」
トゥランの仕草に、ウルは嫌な予感がしたらしい。
「お前まさか……ちょ……」
止めようとした手は宙を掻いた。
一拍早く、トゥランは帯を緩め、神官服を一息に脱いでいる。その下からは、薄桃の侍女服が現れた。
「お前……恥じらいとかないのか」
初めて動揺を見せるウルを、トゥランは不思議そうに見やった。
「ちゃんと下に着てるもの、見られても平気よ。ねえ、早く行きましょ、お兄さま」
止めようとしたまま宙に浮いている兄の手を取ると、トゥランは馬車から駆け下りた。
行ってみたい場所、食べてみたいもの、会いたい友。そして隣には安心できる兄。
期待で心ははやり、トゥランの足は流星のごとく軽やかに、混みあう市場を分け入っていった。
「お兄さまは、町に来たことはあるの?」
ほくほくと湯気をたてる肉入り饅頭を頬張りながら、町を歩く。
早速一つ、夢がかなってしまった。ファニーと歩いた時、良い香りがして気になっていたのだが、実際食べてみると感動的に美味しい。ふわふわの生地の中に、甘く煮た肉がたっぷり詰まっている。誰がこんな天才的な料理を思いついたのだろう。
「こんな美味しいものがあるなんて、知らなかったわ。人生を損してた気分」
「大げさだな。まあ、たまには良いが」
返事は淡々としているが、ウルはトゥランの二倍の量をあっという間にたいらげている。
「他にも美味しいものを知ってたら、教えて。次に来た時に食べましょ」
「どうして俺が一緒に来る前提なんだ」
「一緒の方が楽しいもの」
「変わったやつだな……」
はっきりとした拒絶がなかったので、了承ととらえることにする。
「お兄さまだって、変わってるわ。他のお兄さまなら、きっと一緒に食べてくれないもの。あっ、だからお父さまも護衛にしてくださったのかしら? お兄さまなら適任だと思って?」
「買い食いの適性を見抜いて護衛にする王がどこにいる」
「それもそうね」
たわいのないことを話しながら、兄と並んで歩いている。王宮では食べられないものを、こっそり分け合いながら。
そんな状況が楽しくてたまらない。
「一生、誰のこともお兄さまとかお姉さまと呼ぶことはないんだと思ってたわ。兄弟の実感もないまま、星巫女になるんだと思ってた。あんなにたくさんいるのにね」
「たくさんいすぎるのも問題だろ」
「もっと少なかったら、仲良くなれたのかしら」
「……もっと険悪だったかもな」
だとすると、多くても少なくても正解はないことになる。
「お兄さまは、他の兄弟たちで仲の良い人はいるの?」
「いると思うか?」
「分からないから聞いたの」
「……ろくな奴がいない。以上だ」
にべもない答えに、がっかりして肩を落とした。
「そうなの……じゃあ夜会で声をかけてみるのはやめにするわ」
アロイス、フィン、ウルと、良い出会いが続いただけに、もっと交友を広げてみようかと思っていたのだが。
「侍女以外誰も信じるな、と言われたんだったな。それは正しい」
ふいに神妙な声音で、ウルが言った。
「信じる価値のあるやつは、王宮にはいない。笑顔で裏切る機会をうかがうやつばかりだ。優しい言葉をかけてくるやつほど、信じるな」
「そう言ってくれるお兄さまのことは、信じて良いの?」
「……俺のことも、信じなくていい」
「矛盾してるわ」
「…………」
ウルが頑固なので、おかしな会話になってしまった。
仏頂面の兄を見上げてつい微笑みながら、その腕に巻き付いた。
「信じるわ。もう信じてしまったから、今さら信じるなといっても手遅れよ。これから一年の間は、自分の感覚を信じることにしたんだもの。お母さまには悪いけど……一生分、お兄さまとも話しておきたいから」
ウルは信じるなと言い張るのをやめて、ため息をついた。
あきらめが多分に含まれるため息だった。見た目とは裏腹に、彼はけっこう、押しに弱いのかもしれない。
やがて面倒そうに「暑苦しい、離れろ」と言われたけれど、心から嫌がっているようには見えなかったので、ますますぎゅっと腕を抱きしめた。
それきり何もかも受け流すことにしたのか、ウルはもう何も命じてはこなかった。