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トゥラン、違う未来にたどり着く

 飛ぶ、というにはあまりにも短い時間のことだった。浮いた感覚すらほとんどないうちに、トゥランは見たことのない場所のただなかに降り立っていた。

 吐息も凍り付くような寒さと静けさと、青白く浮かび上がる遠い天井。ちょうど月光神殿の奥の間と同じくらいの広さの、円形の部屋だった。ぐるりと壁一面に描かれた絵もそっくり同じで、一瞬月光神殿に着いてしまったかと思うほど似通っている。

 けれどその絵を除けば天井の高さも床材も柱の形もまるで違う上、尋常でなく寒いので、違う場所だというのも確かだった。


(獅子と太陽……死神、天使に悪魔……やっぱり月光神殿で見たのと全く同じだわ)

 見覚えのある壁画に、改めて見入る。

 見れば見るほど、ヒエロニムスの予言書通りの絵だった。

 玉座から転がり落ちるようにして倒れ込む「皇帝」の隣には、輝くような乙女が描かれている。その頭上にはさらに輝く女性がいて、まるで乙女に何事か囁きかけるようにしている。

父王と、女神として覚醒した自分と、祝福を与えに来た母の姿だ。

 初めて見た時には神話か寓話の挿絵にしか思えなかったそれが、自分自身のことだと知るのは奇妙な気分だ。遠い昔、今の自分の姿を見て絵に残した人がいたということも。

 まだ意味のよく分からない絵もあるが、これはこれから出会うべき未来なのだろうか。


 まじまじと観察する間、見とがめる人は誰もいなかった。。極北の神殿のそばには小さな村しかないと聞いていたが、神官の一人もいないのだろうか。

 見捨てられた神殿のような雰囲気さえあるが、建物に傷みはなく、空気は清浄そのものだ。

 不思議と、懐かしいような気がした。あまりに寒くて快適には程遠いのに、妙に心が惹きつけられる。魂の奥底から、力がみなぎる。

「……お母さま」

 首都の月光神殿で感じたのと同じ気配を感じて、その元を探ろうと走り出す。けれど、母の気配はどこへ行っても茫洋としたまま、近づきもしなければ遠ざかりもしなかった。

 ただひとつ分かるのは、母はまだ何らかの形でトゥランを「見ている」ということ。この世から神はいなくなったというが、神殿には微かに力の残滓が感じられる。

 かつての守護女神は、完全にこの世を見捨てたわけではない。


「いつか会えるよね、お母さま」

 モリも力が満ちれば会えると言っていたのだから、きっといずれはその時が来るはずだ。どうすれば力が満ちるのかは具体的によく分からないが、それでもトゥランはどこか楽観的だった。何となく星読みの杖と翼を取り戻せたように、いずれ時が解決するような気がしていた。

 ともあれ、今のトゥランは母に会うためにここへ来たわけではない。おもむろに異空間から星読みの杖を取り出すと、天高く掲げて声を張り上げた。


「今日からここを本拠地とする!」

(……なんちゃって)

 誰ともない宣言がわんわんと四方に反響しているうちに、トゥランの周りには次々と人の姿が現れた。

 アロイス、ファニー、ウルにゲルダ、フィンとリタ、それからグウィオン。

 突然の空間移動に目を丸くしている一同の中で、いち早く我に返ったのはアロイスだった。トゥランを目にするなり、駆け寄って力いっぱい抱きすくめる。

「息が止まるかと思ったよ、突然消えるなんて」

 珍しく責めるような調子で言う。逃げられまいというのか、そのまま腕を解かないので、冷えたからだがじわじわと温まってきた。


「えっ、何これ、どこ? 何がどうなったのさ?」

 非常にまっとうな反応を見せているリタの隣では、フィンが歓喜に震えていた。

「女神の力だ……これが! 女神の! 力だ!」

「やかましい。二度も言うな」

「突然! 移動したんですよ! ここで驚かなくていつ驚くんです! 感情という感情が死滅したんですか?」

 感極まって絶叫しているフィンについては、存在自体を意識から消し去ることにしたらしい。ウルはするりと視線を外すと、あたりを見回した。


「ここは……神殿か?」

「ずいぶんと冷えるわね」

 腕をさするゲルダに上着を貸しながら、ウルは早くも答えを導き出していた。

「北の聖光神殿か」

「星巫女がお勤めを果たすという?」

 何気ない会話を耳にしたフィンの興奮は突如として限界を超えた。手足は棒のようにこわばり、視線は虚空をさまよっている。

「何だって……じゃあこの壁画はヒエロニムスの挿画の原画か? 嘘だろ、こんなに状態が良くて、今まさに書かれたように鮮やかじゃないか。まるで……まるで俺のことを待っていたみたいだ!」

 嬉しさのあまりおかしなことを口走りはじめた頭目を前に、リタはすぐさま落ち着きを取り戻した。

「自分以上に正気を失った奴がいると、かえって冷静になるもんだね」

 こういうところが、この二人はよくバランスがとれている。


「ふふ、フィン、幸せそうね」

「前に、こっそり月光神殿に忍び込んだことがあるんだけどさ。あの時もすごかったよ。目を開いたままほとんど気絶してた」

 初めて聞く冒険譚に、興味をそそられた。彼らの組織の名ばかりの「仲間」となったトゥランだが、実のところ、彼らの活動内容をよく知らない。

「忍び込めたの? 月光神殿は神官がたくさんいたんじゃない?」

「ま、そこは眠り薬やら色々駆使してね。大変だったよ、最終的にここに住みたいとか言い出すから。永眠して亡霊になってから好きにしてくれって言ったけどね」

 忍び込むよりも頭目の扱いに苦労したらしい。

 いかにも楽しそうで、その場に居合わせなかったことを惜しんだ。今は自分の翼でどこへでも行けるけれど、誰かと一緒でないと味わえない楽しみだってある。


「で、何だって急にこんなところへ連れてきたのさ?」

 リタが率直に尋ねると、ウルやグウィオンもこちらを向いた。

 当然ながら、それを誰もが知りたがっている。

「安全な所へ行かなくちゃって思ったら、ここを思いついたの。ここなら首都から離れているし、ブラオトローン軍も通らないだろうし。それに神殿って、そもそも私のための建物ってことよね?」

 いつかモリが教えてくれたところによると、聖光神殿のあたりは道らしい道もなく、ほとんど外界と隔絶されているという。あまりに土地としての旨みがないので、国内外含めて領土争いに巻き込まれたこともない。

 思いつきで選んだ避難先ではあるが、考えてみると、これ以上ない選択に思えてくる。僻地であることは、翼がある今は大した問題ではないのだし。


「いや、安全かもしれないけどさ、ここに来たところでどうするのさ? 寒さで死ぬか、退屈で死ぬかの二択じゃないか」

 リタは我慢できなくなったのか、フィンのおしゃれなスカーフをむしりとって首に巻いた。でも、ほとんど足しにはなっていないようで、両手に息を吹きかけている。

「確かに、ちょっと生活感はないかも」

「生活感のある神殿があってたまるか。家じゃないんだぞ」

「でも住んじゃいけないわけじゃないと思うの。生活感なら、住んでるうちに出てくるわ」

 

 呆れて言葉もない様子のウルに変わって、ファニーが前に出た。

「ですが、このような場所ではお世話が行き届きません。食料も物資も人手も限られていますし、町から遠すぎます」

「もう姫じゃないんだから、お世話しなくたって大丈夫よ。自分のことは自分でするわ。それに私、みんなを引き留めるつもりはないの。みんなが帰りたい場所へ送っていくわ。会いたくなったら、いつでも会いに行けるもの、この翼で」


 永遠の別れではないと思えばこそ、悲壮感もなくそう言えた。

 もしもこれが星巫女としての今生の別れだったら、きっとそうはできなかった。自分で自分の居場所を決められるということは、なんて素敵なのだろう。

「侍女はもう不要ということですか」

 ファニーは落胆しているように見えた。彼女は彼女なりに、侍女という仕事に誇りを持っていたのだろう。

「務めだからじゃなくて、会いたいと思った時に会えれば良いと思ったの。しょっちゅう会いに行ってしまうかもしれないけど」

「……トゥラン様は会いに来られても、私は会いに来られませんよ、こんな辺境じゃ」

 ぼそりとこぼしたファニーは、一拍おいて、きりと目をあげた。その双眸には、絶えることのない輝きが宿っている。


「分かりました。本日を限りに、侍女をやめさせていただきます。長らくお世話になりました。ひとまず家族と店員たちの安全が気がかりですから、首都へ戻りたく思います」

 決断の良さはいつものことだが、切り替えの早さも人並みならぬものがある。その勢いに、トゥランよりもアロイスの方が戸惑っていた。後ろから抱きしめた格好のままで、「いいのかい」と耳元へそっと囁きかけられる。

「こんな時だもの、大切な人が心配なのは当たり前よ。フィンやリタも、仲間と連絡を取るのでしょう?」

 水を向ければ、リタは壁画に夢中で聞いていないフィンをぱかんとはたきながらうなずいた。

「しばらくアジトを空けちゃったから、一度様子を見に行くよ。耳の早い連中だから、とっくに避難してると思うけどね。……ほらフィン、いつまでそうしてるのさ。早く正気に戻らないと、森で猿に囲まれて漏らした過去をばらすよ」

「もう全部ばらしてるじゃないか!」

 一瞬で我に返った頭目を横に、「このネタで一生強請れるから覚えておくといいよ」とリタはけろりとしたものだ。


「ただの猿じゃなかったんだよ、魔物かと思う大きさで……ゴホン、まあそれはさておきだ。我らが友人にして新たな女神にも、ヒエロニムスの壁画にも大いに心惹かれてはいるんだが、仲間や王宮の動きも気になるんでね。少し様子を見てくるよ。是非とも無事を祈ってくれ、女神の加護があれば無敵だ」

「祈るわ。でも無理はしないでね」

 王宮はきっと、大混乱のさなかだろう。

 絶対的な王が身罷り、大国の軍が押し寄せる今、何が起こってもおかしくない。きっと祈りの力だけでは、全ての人は救えない。

 しかしフィンは肝が据わっているのか単に暢気なのか、この状況を楽しんでいるようにすら見える。

「そんなことは祈るまでもないさ。俺たちが出会ったのは運命の導きによるものだ。じきにまた会いまみえるだろう……そしてファニー嬢、俺の運命の行きつく先には君がいる。次に会う時には、君という最上の謎を解かせてほしい」

 途中からくるりと矛先を変えて、ファニーを口説きにかかる余裕まである。良くも悪くも、いつも通りのフィンだ。


 対するファニーの返答は、周りの空気よりもいっそう冷え冷えとしていた。

「解き明かしたら謎は謎でなくなりますが、その後はどうするおつもり?」

「決まってる。君が俺の人生の答えとなるのさ」

「よくもまあ口が回ること。商人としてなら歓迎しますが、それ以外で接点が生まれることは今後ないと思いますわ」

「おや、入り婿の誘いですか?」

 どこまでも前向きなフィンにうんざりした風情で、ファニーはウルやグウィオンに向き直った。


「殿下たちはこれからどうなさいますの? もしや国を守るために軍にもどる可能性が?」

「ない」

 一言に断じたウルに迷いはなかった。

「たとえ土下座されても、軍に戻る選択肢はない。国が滅びようが、乗っ取られようが、俺の知ったことじゃないからな」

「ましてや、女神の守護を拒否した愚かな人々です。滅びるのならそれも定めでしょう」

 穏やかな口調で冷淡に言い放つと、ゲルダはトゥランに微笑みかけた。

「トゥラン様と出会ってから、私たちの運命は大きく変わりました。そして思ったのです。女神の加護とは、単に平和をもたらすだけではないのかもしれないと。起こるべきことを起こし、終わらせるべきことを終わらせること、それが守護女神の在り方なのかもしれません。

 私はしがらみから解き放たれました。もはや帰る場所はありませんが、それが私にとっての救いだったのです。ですからもしかすると、ブラオトローンの侵攻さえも、救いかもしれないと思うのです。この腐りきった国に滅びをもたらすことが、あなたの祝福かもしれないと」


 打たれたような思いで、トゥランは考え込んだ。

 実のところ、トゥランには何かを救ったつもりも祝福したつもりもなかったが、自分の力の本質が「守護」には向かないことは理解し始めている。

 トゥランは変容の女神で、争いを鎮めることや、平穏を持続させることには不向きだ。動かし、覆し、変えてゆく力を司っているのだから。

 それでも滅びをもたらすどころか、この世を変えたいと願ったこともなかったはずだった。死んだ父を前に祈ったのは安らぎだった。誰もが幸せになってほしいと願っていた。

 けれど気づいてみれば、自分の回りでは怒涛のようにあらゆることが変わっていった。王は斃れ、戦争が始まり、恋人と兄は家を失った。

 そのどこまでが自分の存在によるものだったのか分からないが、この力が充ちる時が来たら、一体どうなってしまうだろう。それこそ滅びが訪れてしまってもおかしくないような気がする。

 そんなこと、少しも望んではいないのに。


「まだよく分からないけど……私からの祝福は、終わりよりも始まりであれば良いなって思います」

 見たところ、ウルやゲルダがこの「変容」を前向きにとらえていることだけが救いだ。誰かを幸せにできる力なら、女神で良かったと思える。自分をこの世に取り残した母のことを、恨まないで済む。

 滅びの祝福を与えるのは、守護女神ではなく死神の役目だ。

 トゥランは死神になりたいわけではない。


「全ての始まりは、終わりの後に来るんだ。きみは僕の人生をようやく始めてくれた。きっとこの世界にも、素晴らしい始まりをもたらすと信じているよ」

「うん……そうだといいな」

 この世で一番安心できる腕に包まれながら、トゥランはほうと息をついた。信じてくれる人がいるから、自分でも自分自身を少しは信じてみようという気持ちになれる。

 すっかりいつも通りに甘やかしてくるおかげで、ファニーの屋敷でほんの少し感じた違和感のことは、もうすっかり忘れてしまっていた。もし覚えていても、気のせいだと思ってしまっただろう。

 


 人の気配がしたのは、ファニーとフィンを送り届ける場所を打ち合わせるうち、手持ち無沙汰のグウィオンがふらりと出口に向かい始めた頃のことだった。

 ためらいがちに何人分かの足音が近づき、戸口に顔を見せる。

 老人、老人、そして老人だった。着古した神官服をまとい、おそるおそるこちらをうかがっている。

 そのまま入ってくる様子がないので、こちらから近付いた。

 きっと、村の神官たちだろう。

「こんにちは」

 あれこれ説明するより、手っ取り早い方が良い。

 背から再び翼を出現させると、老人たちは一様に「おおおぉぉぉ」と言葉にならない声をあげて倒れ伏した。

 驚かせ過ぎたかと慌てたが、どうやら拝礼をしたつもりらしい。やがて最年長と思しき老人が、わななく声を張り上げた。

「長き時を越えてこの地へ帰り給いし我らが神よ、ついに我らの祈りに応えたもうたか……」

 フガフガと聞き取りづらい上に話し方が古めかしいので、ほとんど何を言っているのか分からない。が、歓迎されているのは確かなようだ。


「トゥランといいます。新米女神です。しばらくここに住みたいのだけど、問題ないですか? あると言われても住むつもりなんだけど」

 選択の余地のない問いかけに、老人三人衆は首が飛びそうな勢いでうなずいた。

「ここは貴方様を奉りし家、どうかごゆるりと千年でも万年でも安らぎ給え。そして願わくばあまねく祝福と繁栄を与え給え」

「住んで良いってこと? 良かった! 友人も一緒なの。ところで食事ってどうすれば良いのかしら。仕事があれば食べ物分くらいは稼ごうと思うんだけど」

 相手が低姿勢なのを良いことに、図々しく尋ねてみると、老人たちはぶんぶんと激しく枯れ木のような首を振った。

ボキボキと不安になるような音がする。

「とんでもないことです。女神に献上する食料は準備させていただきます。それが我らの勤めであるからして……」

「そうなの? 何だか悪いわ。この辺りって食糧調達が大変そうだし」

 それでも老人たちが気にしなくて良い、伝手はあると言い張るので、お言葉に甘えることにした。


 それにしても、ずいぶんと話が早い。首都でのように、何かひと悶着あるものと思っていたが、さすがは聖地というべきか。まるで命がけの勢いで要望を叶えようとしてくるので、かえってこちらが宥める羽目になったくらいだ。

 アイン、ツヴァイ、ドライと名乗った老人三人衆は、驚くべき早さで部屋の準備を始め、ストーヴを持ち込み、菓子やらパンやらをテーブルに山と運んだ。その間ずっとうめき声を発しているので、足でも悪いのかと思ったら、感激の涙を流しているのだった。

「この、このような、ことが、ま、まさか生きている内に、あろうかとは……」

 息切れがひどくてやはり聞き取れないが、喜んでくれているようだ。いきなりトビアスに追い出された身としては、感慨深い。


 その様子を見て安心したのか、ファニーは改めて、深く頭を垂れた。

「ウル殿下、ゲルダ様、アロイス様、どうかトゥラン様をよろしくお願いいたします」

 ほんのいっときの別れだと思うのに、むやみに寂しい。思えば物心ついてから、ファニーはほとんど毎日そばにいた。たまの帰郷をのぞけば、一緒にいるのが当たり前だった。何か嬉しいことや悲しいことがあった時、一番に呼ぶのはファニーの名だったのだ。

「気を付けてね、ファニー。何か困った時は、祈ってね。きっと届くわ」

「祈りを伝言板か何かと思っていませんか?」

 笑い出しながら、ファニーはもう一度深く頭を下げた。

「しばらくおいとまします、トゥラン様。何か欲しいものがある時は、エルスター系列の店を頼って下さい。お名前を出していただければ、何でも買えるようにしておきます」

「もう、やっぱりファニーの方がたのもしいんだから。ずるいわ」

「お世話の年季が違いますからね」


 別れ際まで、ファニーはファニーだった。おかげで、笑ったままの顔で別れることができた。フィンやリタともだ。

 ざわめく首都へと送り届け、ぽっかりと穴の開いた気分で神殿に舞い戻ると、老人たちによる歓迎の祭りが始まった。高齢化が進んでいるという村人たちはほとんどが老爺か老婆だったが、それでも心づくしの演奏や料理を振る舞ってくれたので、友人のいなくなった寂しさがいくらかやわらいだ。

「大丈夫、僕がそばにいる。それに、フィンたちともまたいつでも会えるよ」

 甘い言葉を囁くアロイスを、今日ばかりはウルも咎めない。


「……本当は、ひとりぼっちで来ていたかもしれないのよね」

 だいぶ無理をしている感触を受ける、老婆たちの舞いを見守りながら呟いた。

 もしかすると、あの舞いは自分が覚えるべきものだったかもしれない、と気づく。神に捧げる舞いも、星巫女の務めだったはずだ。

 友達とも引き離されて、恋をすることもなく、孤独に死ぬのだと思っていたのに、兄や恋人と一緒に歓待を受けている今が不思議でおかしかった。その上、星巫女でなく女神になって、予定より半年以上も早くここに来るなんて。


 何もかも、この数か月で変わってしまった。一年間で一生分生きようと心に決めたのが、遠い昔のようだ。アロイスとも、考えてみると半年だって一緒にいない。人生の半分も共にいたような気がするのに。

 今日からまた、何かが始まるのだと思いながら、アロイスの肩に頭を預けた。こうして幾度も終わりと始まりを迎えながら、自分はどこへ向かってゆくのだろう。

 例えば星巫女になる予定だった日の自分は、どんな自分になるだろう。

 それはほんの少し先の未来であるにも関わらず、途方もなく遠い先のことであるように思われて、今はまだ、何の予想もできないのだった。


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