激闘! イカサマ麻雀選手権決勝戦! インチキおじさん大勝利! 希望の未来に向かってレディーゴー!
6日目。暇を持て余したので、私は近場で開催されていた競技大会を覗いてみることにした。
「お待たせしました! これよりイカサマ麻雀選手権決勝戦を開始します! さあさあ、イカサマがバレて様々なペナルティを与えられた大馬鹿野郎どもを集めた敗者復活戦の最終章の始まりです! 果たして勝利の女神は誰に微笑むのか!? 巨乳黒髪美女のオッパイもみもみ権を取り戻せるのは誰なのか!? 答えは神のみぞ知る! それでは全選手入場!」
「さあ東からは奴の登場だ! ファックユー!金は命よりも重い!ブチ殺すぞゴミめら! 麻雀会の頼れる中間管理職! 懐中時計に隠された秘密とは!? ガワトネ選手の登場だぁーっ!」
「彼の膝と額はすでにボロボロですね。表の大会でイカサマが発覚した時の焼き土下座が後半戦に響かなければよいのですが」
「南からは怪物が土俵入り! どうしたっ! 捨てろっ! わかるはずがないんだ!手牌を見でもしない限りっ! 異端の麻雀革命児! 丸いメガネの奥に何を見る! クニサダ選手が帰ってきたぁ! 」
「彼は仲間を使ったイカサマ、いわゆる通しに定評がありますね。どのように仲間からの合図を受け取るのかが見所です」
「西から姿を現すは筋肉モンスター! お前も博打では何とかと言われた男やもんなぁ…。往生際はきっとええぜ。そうやろ…。 点棒の支払いで相手の両手を潰した暴力超特急! 麻雀は力だパワーだ! ダルマ=ハン選手の出陣だー!」
「これにはクレア運営委員長もブチ切れてましたね。昨日は教会の鐘に逆さに貼り付けにされてましたよ。次やると股間の金を除夜の鐘にされるそうです。二度と煩悩が持てない体になってしまいますね」
「来た来た来た! 北から死神がやって来た! これはビタミン剤じゃ! どいつもこいつもシゴウしたる! 今宵も死と隣り合わせだからこそ冴え渡る! イケナイお薬の力は万能なのか!? オニギリ選手の伝説が今始まる!」
「完全にアレポンの中毒者ですね。しかし奇妙なことに、彼はまるで牌が透けて見えるような打ち方をするらしいですよ。大いに期待しましょう」
「さあ各者ゆっくりと席に着きました。会場にはざわざわとしたどよめきが波紋のように広がっていきます。これから始まる伝説の戦いを前に、私も興奮を隠せそうにありません。互いを牽制するかのように睨み合うイカサマ野郎ども! 戦いは牌を積む前から始まっているのかー!?」
「今一度ルールを確認しましょう。この決勝戦では単純な点棒のやり取りだけでなく、イカサマによる芸術点が加算されます。ギャラリーを沸かせる高度なイカサマからお子さまも鼻で笑う低レベルなイカサマまで何でもアリですが、当然イカサマの技術が低ければ減点対象となってしまいます。対局中に獲得芸術点の発表はありませんので、戦局を正確に把握する能力が求められます。勝負は半荘一度きり。誰かがハコを切った時点で試合終了です」
「しかし審判や私たちでさえ気付かない高度なイカサマならば、逆に得点にできないのでは?」
「そんなことができる人は、この大会に参加していないでしょう」
「これは一本取られました! あっとここで動きがありました! ガワトネ選手から突然の提案! 目か耳を賭けようと他の選手たちに持ちかけています!」
「相手を傷つけることは禁止されていますが、自分を傷つけることは禁止されていませんからね。これはルールの裏をかいた悪魔の発想ですよ。流石は中間管理職。部下の追い込み方、プレッシャーのかけ方を心得ていますね」
「しかし当然のように却下されました! これにはガワトネ選手も動揺を隠せない!」
「そりゃそうですよ。メリットがありませんから」
「さあ出鼻をくじかれたガワトネ選手! ぐにゃあしてる間に洗牌が始まり出遅れる形となりました! ここから遅れを挽回できるのか!? 各者自分の前に山を積み、始め…? おや? オニギリ選手の動きが妙にぎこちないですね。他の選手に比べると山を積む速度が妙に遅いような…?」
「積み込みですね。早速ここは仕掛けていくべき場所ですよ」
「ああっと! 早速高度なイカサマテクニックが発揮されるのかー!? しかし見たところ、字牌だけを選んで自分の山に積んでいるように見えますが…? これは何か意味があるんでしょうか!」
「初心者がよくやる字牌積み込みですね。初心者は意味もなくやりたがりますが、そこから一歩進むと無理やり意味をこじつけてきます」
「ほう! それはどのような!?」
「例えば自分の山に字牌しかないので、後半はそれを待ちにしたり降りる時の安全牌にしたりできると屁理屈をつけて積み込むわけです。正直うっとおしいだけなので、せっせとかき集めている字牌を横から奪って邪魔しましょう」
「うーん、何とも世知辛い! おっと! そうこうしている間に最初の親が決まったようです! 最初の親は…ガワトネ選手! 不敵に微笑みサイコロを〜? 降ったぁー! 果たして出た目は…4・5で9! …おや?何だか違和感がありますね。ダルマ=ハン選手が何やらガワトネ選手の降ったサイコロについて指摘しているようですが…ああーっと!? 何ということでしょう! ガワトネ選手が振ったサイコロは、4.5.6の目しかありません! いわゆる四五六賽です! いつの間にすり替えたのかこの男ー!」
「見事な手並みですね。あまり意味を成していないすり替えに思えますが、先制としてはまずまずです。サイコロだけでなく、手牌も自由にすり替えられるというアピールになりますからね。参加者は我々が感じるよりも強いプレッシャーに曝されるでしょう」
「なるほど! これは芸術点が期待できますね! さあ各自牌を順当にツモり配牌を………おや? 皆さん一斉に固まりましたね。何かあったのでしょうか」
「ガワトネ選手のすり替えに気を取られましたが、親であるガワトネ選手が9を出したということは、字牌積み込みをしていたオニギリ選手の山にまでツモが伸びましたからね。荒れますよこれは」
「選手たちの不利になってしまうので手牌の実況はできませんが、一部とんでもないことになっていますね。役満までカウントダウンが始まってますよ。オニギリ選手以外は」
「早速矛盾していくぅ! 思わぬところから配牌の悪さを晒されたオニギリ選手には頑張ってほしいとこらです!」
「悔しそうですね。ギギギと音を立てていますよ。意味もなく積み込みをするから天罰が下ったのですね。くやしいのう、くやしいのう」
「これは辛辣なコメント! オニギリ選手にはこの悔しさを力に変えてほしいところです! さあ、ガワトネ選手注目の第1打が…おおっと!? 捨て牌を横に倒した! リーチ! リーチ! リーチです! 東場からいきなり親のダブルリーチだぁー!」
「よく見るとドラまで変わっていますね。やはりすり替えでしょう。ここで上がれば後続を一気に引き離せるかもしれませんね」
「さあこれは怖い! 親のダブルリーチという名の地雷原に安全地帯はどこにも無い! 選手たちは裸でこの地雷原を突破しなくてはなりません!」
「何やらガワトネ選手の演説が始まりましたね。煽るだけ煽って勝負を仕掛けさせようとしているように見えますが、逆に対戦者が降りることを期待しているのかもしれません。とはいえダブリー相手では引くに引けませんが」
「これにはクニサダ選手も長考! 動きが止まりました!」
「彼の手もいいですからね。引くべきか戦うべきかを見定めているのでしょうか。………おや? ダルマ=ハン選手がクニサダ選手の隣へ体を大きく乗り出してますが…?」
「ああーっ!? これはいけない! 覗き! 覗きです! ダルマ=ハン選手が、クニサダの手牌を堂々と覗いています! これは酷い! 芸術点のマイナスは避けられません!」
「いや、待ってください。覗かれているクニサダ選手、気づいていませんよ」
「ええっ!? そんなことがあり得るんですか!? だってこんなに堂々と覗いてますよ!?」
「クニサダ選手はどうやら仲間からの通しのサインを受け取るのに夢中で、他の選手の動向には気が回っていないようですね。あ、ほら、ダルマ=ハン選手がクニサダ選手と自分の牌をいくつか取り替えましたよ。ついでにガワトネ選手も便乗して覗き始めましたね」
「これをイカサマと呼ぶのは抵抗がありますが、仕掛けられた側が気づいていない以上は有効です!芸術点を獲得した ダルマ=ハン選手とガワトネ選手が元の位置に戻ります!」
「クニサダ選手は今頃自分の手牌がすり替わっていることに気づいたようですが、時すでに遅しですね。すごい顔をしてますよ」
「これにはギャラリーも大ウケやむなし! 何やらクニサダ選手が騒いでいますが当然不正に関する文句は全て却下です! ごちゃごちゃ言わずにさっさと牌を切ってもらいましょう!」
「諦めたようですね。しょんぼりとした手つきで牌を捨てました。というかよく見たら少牌してますね。ダルマ=ハン選手が3つ牌を取って2つしか返さなかったのでしょうか」
「これは酷い! 等価交換の原則はどこに行ったぁ! さあ次はダルマ=ハンの手番ですが…? おおっと! リーチだ! 親のダブルリーに一歩も引かない姿勢は蛮勇か、はたまた英雄の気質かー!?」
「しかしいけませんよ。彼はツモってませんからね。多牌をごまかすつもりなのでしょうが、これは流石に減点対象ですね」
「さあオニギリ選手は親と子のリーチをどう凌ぐ! 当たれば役満は避けられない! まさに自分が蒔いた種! 毒草に育ってしまった責任は誰が取るのかぁー!? 震えております!その手が手が震えております! どうやら異様な量の汗もかいているようです! プレッシャーによるものでしょうか?」
「いえ、あれは薬物中毒者特有の禁断症状ですね。ああなってしまった以上、まともに麻雀が打てるはずがないんですが…なぜか彼はここからが強いんですよ」
「期待しましょう! さぁオニギリ選手、体調とは裏腹に眼光が異様な光を浴びてきたぁ! 牌はツモらずダルマ=ハン選手のリーチ牌、三萬を…ポン! これで2人の一発が消えたぁ!」
「逃げ道が塞がりますので悪手に思えますが、喰いタンや風牌のみの1000点で上がるのも手ですね。決してポンが打ちたいだけではないと思われます。どうせならポン中…失礼しました。中をポンしてもらいたかったのですが、三元牌は絶対出ないでしょう」
「大きく振りかぶって今! 叩きつけるように牌を捨てる! 切った牌は…なんと赤ウーピン! 地雷原のど真ん中ぁ! これは! これはぁー!? ………セーフ! 2つのダブリーをかいくぐりました! これは偶然か実力かー!?」
「積みに積んだ字牌が出回ってますからね。あの2人の待ちは字牌だと決め打ちしたのかもしれません。普通に親の山からも牌を取っていますが、字牌や端牌で振り込むよりはマシでしょう」
「しかしなぜいきなりドラを切ったのでしょうか!」
「同じく苦境に立たされているクニサダ選手へのアピールでしょう。自分は手を安くするので振り込んでくれという意図を感じられます」
「流石は決勝戦まで来た男! ただのクソッタレイカレジャンキーではないようです!」
「ええ、親友の恋人の独立資金をポンして、そのお金でポンを買っていた窃盗犯とは思えませんね」
「打つのは麻雀だけにしていただきたいところです! さてさてガワトネ選手のツモ順が巡ってきましたが………おや!? ツモ牌を手牌と入れ替えてますよ!? リーチではなかったのでしょうか!?」
「よりいい待ちに変えたのかもしれませんね」
「しかしこれは当然ながら減点対象です! ああっと今度は手牌と山牌をすり替えた! 1回、2回、3回、4回! 減点減点アンド減点! 怒涛の反則コンボはまだまだ止まらない! こごでやるか中間管理職! これが新人教育なのかーっ!」
「芸術点を犠牲にしても点棒差で勝つつもりなのかもしれませんね。しかしここまでメチャクチャやると流石に聴牌したでしょう」
「さぁ勝負は進み順調にツモ順が回っていきます! しかしダブリーをかけた2人がツモれません! 場はすでに6巡目! 安全牌も増えてきました! ここでオニギリ選手が更にポンを重ねる! 本格的に戦う意思を見せてきたーっ! 」
「ガワトネ選手とダルマ=ハン選手がお互いの当たり牌を握り合っている可能性も出てきましたね」
「おっと! クニサダ選手が自分のツモ順で卓に置かれているリーチ棒に手を伸ばし…? 持ち去ったぁー!? 何やら一仕事やり遂げたかのような不敵な笑みを浮かべています! 悪く思うなとか何とか言っていますが、私には理解できません! 他人のリーチ棒をポンする権利がお前にあるのかー!?」
「盗んだ割にはあまりに堂々としていますね。これこそ革命とか何とか言っていますが、当然ながら芸術点は減点です。セコすぎですね」
「各自ツモ切りが続きます! ここに来て戦況が停滞してきたか! それにしても1人だけ上がり目のないクニサダ選手、苦しい戦いの中で粘りを見せます!」
「クニサダ選手はギャラリーに混ぜた仲間から合図を受け取っていますからね。絶対に振り込むことはないでしょう」
「おっと!? ここでダルマ=ハン選手に動きが見られました! 引いた白をカン! 山から牌をツモって裏ドラをめくり…? さらに發をカン! 」
「クニサダ選手から盗んだ發がここで生きてきましたね」
「そして裏ドラをめくって…さらに中をカン! 大三元確定! これにはガワトネ選手も苦渋の表情! まるで自分の当たり牌が消えてしまったかのような、やるせない雰囲気が滲み出ております! ガワトネ選手の国士無双の夢、ここに潰える〜っ!」
「ん? あれ? 何かおかしくないですか?」
「さあ大三元から四暗刻まで見えてきた! 不要牌を捨ててターンエンド! ここでオニギリ選手が引いた牌は〜!? んんんん!?」
「中………ですね」
「おおっと!? しかし中はすでにダルマ=ハン選手がカンをしていたのでは!?」
「いえ、そもそも白も發もガワトネ選手が国士無双の面子にして中待ちのわけですから…ダルマ=ハン選手がカンできるはずがありませんね」
「これにはたまらず中を突きつけて指摘を入れようとしたオニギリ選手! バカタレー! おどりゃ汚いヤツじゃのう! 本当に汚いヤツじゃのう! まったくその通りです! しかしその手が強く握られました!」
「ダルマ=ハン選手は隠し持っていた牌を使ったのはオニギリ選手だと主張していますね。違うならオニギリ選手がやっていない証拠を出せと言っていますが、これは悪魔の証明ですよ。痴漢冤罪裁判ですよ」
「これにはオニギリ選手、泣く泣く相手の不正を飲み込むしかありません! スーパーギギギタイム突入です! 力で相手をねじ伏せるもまたイカサマ! 麻雀とはかくも奥の深い遊戯なのか!」
「オニギリ選手はこれで上がりの目を失いましたね。中を捨てるとガワトネ選手に振り込んでしまうわけですから、安全牌を捨て続けるしかないでしょう」
「ああーっと!? ここでアクシデント! なんと河に中が転がり出てしまったーっ!? ダルマ=ハン選手がオニギリ選手の腕を強く掴みすぎてしまったのかーっ!? これには当然ロン! ロン! ロンです! もう一度言います! ロン! ロンです! オニギリ選手、ガワトネ選手の国士無双に振り込んでしまいましたーっ!」
「親の役満に放銃してしまいましたね。これで試合終了です。ただし芸術点との合算で優勝者が決まりますので、ガワトネ選手は点棒差があっても油断できませんよ」
「さあ集計結果が出ました! ドラムの音が響き渡ります! デレレレレレレレレレ、優勝者は〜? デン! この男! クニサダ選手ー!」
「クニサダ選手ですか、意外ですね」
「そのスコアは持ち点27000点に加え…芸術点99999999点!?」
「えっ、なんでカンストしてるんですか」
「こ、これは! これはまさか!? まさかのまさか? そのまさかだぁー! クニサダ選手! 審判をすでに買収していたぁー!」
「うーん、なるほど。これは上手いですね。試合前に入念な情報収集を行い、ギャラリーだけでなく運営側にも仲間を忍び込ませていたわけですか。一本取られましたね」
「おめでとうクニサダ選手! お前がNo.1だ!宇宙一の卑怯者だ! 高らかに笑えクニサダ選手! 勝利者はいつの時代も高らかに笑う権利があるーっ! 黒髪巨乳美女のオッパイもみもみ権はお前のものだーっ!」
「惜しくも破れた3人には罰ゲームです。お互いの雄っぱいを公衆の面前で揉み合ってもらいましょう」
「ああ!? 服をめくられたオニギリ選手! ガリッガリ!ガリッガリです!」 ちょっと私これは見ていられません!
「この罰ゲーム誰が得するんですかね」
「何はともあれここまでお付き合いくださってありがとうございました! それでは次の大会でお会いしましょう! 優勝者予想を的中させた方は換金をお忘れなく! サヨナラ! サヨナラ! サヨナラー!」
退屈だからといって競技を見に行くのはやめておこう。私は固く誓った。