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2話 親の心子知らず

亀更新で申し訳ないです。

It's a Another World 【旧題:まさか魔王と異世界転移】もよろしくお願いします。

 フェアリ村と薬師の大森林の間には、村を隔てる5メートル程の高さの防壁がある。

 防壁は村を蹄型に囲うように建築されており、守備兵の大半は、この防壁の守護に務めている。


 その防壁に勤める、門番の青年リーグは6年間毎日この門を出入りしている少年へと声を描けていた。


 「今日も行くのか?アルト。」


 「うん。今日こそ見付かるかもしれないしね。」


 何がとは聞かない。

 6年間欠かさず森へと薬草を探がしにいく目的を、リーグは少年から聞いていた。


 最初は聞いたこともない薬効をもつ薬草を探すアルトを止めていたし、力なく笑うアルトの姿を見ると、こちらまで陰鬱な気分にさせられ、怒鳴ったこともある。


 しかし、アルトは例え雨が降ろうと、風邪を引こうと、本当に毎日この門を潜り、大森林へと薬草の探索に向かっていた。


 さすがに、高熱を出しフラフラと歩くアルトを見咎めたリュークは、その時ばかりはアルトを力付くで引き留め、防壁内で休ませた。

 やはり無理をしていたのであろう、アルトは気を失うとうわ言のように、「姉さんごめん。」と姉への懺悔を呟き、眼からは涙がポロポロと伝っていたのだ。


 その姿は、リーグやその時砦にいた同僚達の同情を買うには充分だった。

 実は秘かにアルトの姉、アリアに恋心を抱いていたリーグは、今まで何故アリアだけがという思いも少なからずあり、アルトを疎ましく感じる時もあったが、アルトの深い懺悔の言葉を聞いた今、癇癪のような憤りを少しでもアルトに抱いていた自分を恥じた。


 それ以来リュークはアルトのことをずっと気にかけている。


 「そうか。あまり無理はするなよ。、、、それと、たまには休め。」


 「ははは、ありがとうリーグさん。じゃあ行ってきます。」


 「、、、。あぁ。」


 リーグはアルトの赤く腫れた頬に気付いていたが、そこには触れることはなく、アルトを見送ることにした。


 以前より、アルトが村の子供達と上手くいっていないことは知っている。


 これまでもアルトが体の何処かに、怪我をしていた事はあったし、初めて見た時には、アルトを傷つけたことへの怒りを感じ、悪ガキどもを成敗しようと村へと走り、アルトを傷つけたガキどもを殴って回ったこともある。


 まぁ、駆けつけた隻眼の先輩に、自分が成敗された訳だが、その時に言われた言葉を今でもリーグは鮮明に覚えている。


 「お前がアイツを傷つけてどうする。」


 その時は、何いってんだこの半目やろうと憤ったものだが、後日訪ねて来たアルトに言われた言葉で、リーグは先輩の言葉の真意を悟った。


 「リュークさん、僕の為に怒ってくれてありがとう。だけど、僕は護って貰うような人間じゃない。大切な人を守れなかった僕に、見捨てて逃げ出した僕は、誰かに護られちゃいけないんだ」


 そう今にも泣き出しそうな声で言われた言葉にリーグは激しく動揺した。

 何を言っているんだと。幼いアルトが魔人の恐怖から逃げ出したって仕方ないじゃないかと。


 「相手は魔人だ。幼いお前が逃げたって誰も文句はーーー」


 「惨めじゃないか!!!!」


 普段は穏やかなアルトの怒声にリーグは思わず口を紡ぐ。


 「ーーー仕方がないって、そんなふうに思ったら、姉さんが惨めじゃないか、、、。」


 そう言うとアルトはいよいよ抑えきれなくなったのか、両目からボロボロと涙を流しながら、くしゃくしゃに顔に笑顔をつくって言った。


 めちゃくちゃだとリーグは思った。その表情も、声も、言っていることも全部が破綻していると。

 だが、同時に納得していた。

 アルトは姉を守れず逃げ出した自分が嫌いで、どうしようもなく後悔していて、だけど許されるのが、それで安心してしまう自分が許せなくて。


 「すまなかった。」


 アルトの心は、守られる事を臨んじゃいない。弱いけど、優しい少年の心は、自分を許したらきっと壊れてしまう。

 リーグはそう感じ、ただ一言だけアルトへ謝罪の言葉を口にした。


 守ろうとする事はきっとアルトを傷つける。誰かに守られた分だけ、アルトは自分で自分を責めてしまう。


 だったら、自分に出来ることは見守ることだけだ。

 ただ、アルトが自分自身を許せたら、その時は目一杯に、アルトもアルトを馬鹿にしていたガキ共も殴って蹴飛ばして怒鳴ってやろうと。


 過去に思いを馳せつつ、リーグは6年間見守り続けている背中を今日も門から見送った。

 胃までは慕っていた少女の弟だからという訳ではなく、本当の弟のように思っているアルトの背中はまだまだ小さくて、アルトを思いっきり殴れる時はいつになるかと、未来に思いを馳せた。


 「リーグ、交替の時間だぜ。お、アルトの坊やじゃないか。アイツも飽きもせず毎日毎日よくやるな。」


 交替に来た同僚がリーグに話しかける。


 「アルトが、ここを通らなくなった時は、アイツのアリアが目を覚ました時以外、あり得ねーよ。」


 「それなんだがよ、あんなにアリアを治したいと思ってるアルトが、何で薬草なんだ?解呪の神法の使い捨ては何年も前に死んじまってるし、なら、残された手段は、呪術を掛けた魔人本人を倒すしか方法がないと思うんだが、、、。」


 「お前、それ絶対アルトに聞くなよ。」


 「分かってるよ、ただそこだけが腑に落ちないんだわ。まぁ隊長からも言われてるし、他の奴らも本人に聞くことはないだろうさ。」


 「あぁ、本当に頼むぞ。」


 「分かってるって。」


 そう言うと、話は終りだとばかりに、同僚はリーグの肩を押し、リーグがいた場所へとたった。


 もう一度しっかり念を押そうとリーグが口を開きかけると、目の前で手をしっしっと振られ、多少苛つきながらもリーグはその場を離れ大人しく壁内の休憩所へと向かう。


 リーグも先程の同僚と同じく、疑問を感じ、今では隊長となった、当時から村の子供達に剣を教えていた隻眼の先輩に尋ねたことがあった。


 隻眼の先輩は、ただ静かにリーグに告げた。


 「アルトは剣を置いたんじゃない。剣を振れなくなったんだ。」


 アルトも勿論最初は魔人を倒そうとしていたらしい。

 しかし、素振りは問題なく出来たが、いざ剣を持ち誰かと立ち会うと途端に震えだし、激しく嘔吐してしまう。

 アルトの顔は日に日に自分への失望からか、元気をなくしていって、その内、教練場にも来なくなったと。


 隻眼の先輩いわく、姉を救いたいのに行動を起こせない自分への失望と、本の少しの希望にすがって薬草を取りに行くようになったんだろうと。


 リーグはその言葉にその通りかもしれないも納得した。

 しかし、その隊長よりもアルトと接した時間が長く、誰よりもアルトを見てきたと自負しているリーグは最近こうも思っていた。


 アルトはまだ完全に折れたわけじゃないと、普段は下ばっかり向いてるが、目が合った時に奥に見えるその光りは、自分を慰めてるだけの奴には決して出せないと。


 「だから、気張れよ。アルト。」


 リーグはそう休憩室に入ると、小さな窓から森を眺めながら呟いた。


 その時、ガチャっと扉が開く音がし、リーグは後ろを振り返る。

 そこには、隻眼の壮年の男がたっていた。


 「休憩か、リーグ」


 「先輩は休憩には早くないですか?まだガキ共を見ている時間でしょ?」


 まだ日は空の真上を少し過ぎたあたり、本来ならこの壮年の男性は村の子供達に剣を教えている時間である。


 「先輩ではなく、隊長と呼べといってるだろつが。」


 「そんな、そんな。ガキ共も躾られない良い歳した男を隊長だなんて。恥ずかしくてとても呼べないですよ。ギルセ・ン・パ・イ」


 リーグの隠すつもりのない嫌みにギルは少々顔をしかめた。


 「ちゃんと罰は与えてきた。今頃はひぃひぃ言いながら剣を降ってるだろうさ。」


 あぁ、だから今はここに来たのだろう。恐らく殴られたアルトが心配で着いてきた次いでに寄ったのだろう。

 ここの窓枠からなら森の入り口まで見下ろせるしな。

 そうは思いつつも、他の子供達よりアルトが大事なリーグの怒りは収まることはなく、せめてこの先輩でムカッ腹をどうにかしようと口を回す。


 「いやいや、先輩が離れたらきっと今サボってますって。早く戻った方が良いんじゃないですか?」


 自分の教え子を馬鹿にされたことで、ギルは少し眉を上げる。


 「アイツ等はまだまだガキだが、罰はしっかりとやりきるさ。もともと、村を守りたくて残った子供達がサボるわけないだろう。」


 「そうは言いますが、村を守りたいヤツが、何故アルトを傷つけるんです?アイツの頬の傷、知ってますよね?」


 「っぬ。」


 それを出されるとギルは少し弱い。普段は言葉だけだが、精神的な未熟さ故に、今日のように手が出てしまう時があるのは知っている。


 アルトへの暴言や暴力を見つけたら時は、必ず叱り、罰を与えている。


 それでも幼い心は抑えが効かず、今日のようになってしまう。

 その事にギルは苦慮しつつも、幼い彼等が少しでも早く大人になってくれるよう諦めず指導しているが、彼らと同じようにまだ大人の階段を登りはじめたリーグは、この隻眼の男性の苦労をおもんばかる事を知らない。


 「それに、最近のアルトへの暴言って正直見てられない位に酷くないですか?こちとら殴り倒したいの必死で我慢してるんですけど。、、、ほら見てくださいよ。この手。」


 そう言うと、リーグは今さっきグッと握りしめて爪痕を着けたその手をギルに向ける。


 ギルはその手の跡が今着けたものであることを知りながらも、それについて指摘することはない。何故ならリーグが言うことは正論であり、ギル自身も思っていることだからだ。


 「確かにそうだが、大人のオレが出ても余計拗れる。アルト自身が前を向くか、子供達の成長を待つのが一番の解決策だ。オレ達に出来ることは子供達を見守り、手助けしてやることだろう。」


 その中に、アルトは入っているのかとリーグは思う。


 ギルとしては、アルトだけではなく、他の子供達も等しく可愛い教え子であり、その為に双方の成長を望んでいる。


 アルトには早く立ち直り、少しでも前を向いて欲しいと思ってるし、他の子供達には、人を責めるのではなく、手を差し伸べる人間となって欲しいとも思う。


 しかし、中々に難しい。正直ギルは暴力を振ろうしたら直ぐ止めに入るが(今日は間に合わなかったが)、少々のいさかいなら止めない事にしている。


 それはアルト自身の尊厳を踏みにじらないように配慮しているからだ。だが、最近は聞くに絶えないこともあるし、アルトを見る子供達の目に嫌な光が宿ってきているのは感じているギルとしては、アルトは嫌がるだろうが、そろそろ介入しようか本気で悩んでいた。


 ただ、今の状態でそれをすれば、アルトは益々子供達から遠ざかり、子供達は子供達で、アルトへの不満を募らせるだろうと。


 何かきっかけさえあればと、ギルは思案にふける。


 「そつやって大人のオレがって言ってる時点で、まだまだガキですね。だから隊長じゃなくて先輩なんですよ。」


 そのギルの言葉に、こいつ人の苦労も知らないでと思い、そろそろ一発殴ってやろうかと、ギルはぐっと拳を握り締めた。


 「まぁ、アルトの事を心配して、ここまでこそこそと着けてきたことだけは認めちゃいますがね。じゃ、俺はそろそろ飯でも食いに行くんで、早くガキ共がサボっちゃいないか監視しに戻ってくだしいよ。ギル隊長。」


 そう言うと、返事も聞かず、リーグはさっさと休憩室を出ていった。


 とても隊長と呼ぶ男にする態度ではないが、あれはあれで、やり場のない怒りをぶつけているだけだろうと、何とか溜飲を飲み下すとギルも続いて部屋をでた。


 部下からは突き上げをくらい、教え子達は思うように成長してくれず、更には日々隊長としての仕事までこなす男の名は、守護隊長ギル・アザート。片目を失いつつも村を守る為に戦い抜いたフェアリ村の英雄、隻眼の騎士である。

読んでくれてありがとうございます。

今後ともご贔屓に。


【作者土下座】

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