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四話 探していた『何か』を(5)○

 

 中間考査までの時間は矢のように過ぎていった。

 リジーが見かける度にロビンは勉強に励んでおり、シュシュは読書に耽っていた。


 そして考査当日。

 女子寮を出たリジーは寮からアカデミー本棟へと続く生垣に囲まれた小道を歩くロビンの姿を見かけ後ろから声をかけた。


「おはよ、ロビン――って、うぉわっ、何その顔!?」


 眩しいほどの朝日のなか振り返ったロビンは二徹明けのような顔をしていた。

 レンズの向こうにひどいクマのついた顔で不敵に笑う。


「ふっ、シュメットに勝つためにありとあらゆる出題パターンを予測し、演習を重ねていたんだ。……お陰でちょっと寝不足だが、今の僕には負けたシュメットが泣いて悔しがる未来が見えるぞ――!」

「ロビン」

「なんだ?」


 顎を持ち上げ高笑いしながら歩いていくロビンに、リジーは呼びかける。


「いや、未来を見るのもいいけど、ちゃんと前を見て歩かないとぶつかる――って言おうとしたんだけど遅かったか」

「そういうことは先に言え……」


 生垣に頭から突っ込んだままロビンは呻いた。


「……そんなボロボロで試験受けて大丈夫?」

「ふっ、むしろこのくらいはハンデとして丁度良いさ」


 立ち上がって制服に付いた葉っぱを払い落とし眼鏡をかけ直すと、ロビンは何事もなかったかのように歩き出す。


「ねぇロビン?」


 リジーは慌ててロビンの後を追った。


「なんだ、まだ何かあるのか?」

「そっちは寮に戻る道なんだけど」

「…………」

「……大丈夫?」

「はあ? 全然大丈夫ですけど?」


 ようやくアカデミー本棟へと何かにぶつかることなく歩き出したロビン。

 その危なっかしい姿を、リジーは後ろからハラハラした気持ちで見守りながらついていった。


 *


「シュメット! 今日という今日はお前に勝つ!」


 バン、と試験に使われる大教室の両開きの樫の扉を押し開けたロビンはとるものもとりあえず宣戦布告した。


「ふん、できるものならな」


 扉の近くの席に小さな体をちょこんと乗っけていたシュシュは不遜に応じる。


「――また姿は見えないのに声だけ聞こえる!? どこだ、シュメット?」

「だから下だ」


 クマのひどい目元で虚空を睨むロビンの脛をシュシュの足が鮮やかな弧を描き蹴り上げる。


「痛ったぁ!? ――ふ、だがこれで目が覚めたぞ……」


 痛みで涙目になりながらもロビンは虚勢を張った。


「随分と強気だが顔色が悪いぞ。医務室で寝ていた方がいいんじゃないか? ――いや、むしろ体調が悪い方が言い訳がきくな。私に負けた時の」


「はあ? 体調が悪い? むしろ絶好調ですが何か? 言い訳を考えておくなら僕じゃなく自分が負けた時のためにしたらどうかな?」


 額をぶつけるように睨み合い舌戦を繰り広げる二人に、教室にいる他の生徒は皆(静かにしてくれ)と心の中で嘆願した。試験直前の見直しに集中したい皆にとって、二人は至極邪魔な存在であった。


「ふんっ、まあいい。後で泣いたってハンカチは貸してやらないからな」

「いらん! むしろ僕のを貸すわ!」

「それこそいらん。なんか臭そうだから」

「臭くないわっ。フローラルな洗剤使ってるから!」

「――二人とも静かに。試験を始めるので席につきなさい」


 二人の攻防が試験と全く関係ないジャンルに及び始めた頃、教壇に立ったロースウッド先生が手を打ち叩いた。

 教室にピリリ、と緊張が走る。

 ロビンとシュシュは最後にもう一度無言で睨み合うと答案用紙に向かった。


 *


 メザウィッヂ魔法アカデミーの中間考査の全日程が終了し、待ちに待った夏休み。


 ――の前に待ち受けているのはもちろん考査の結果である。


「おーい、キティ。早くしないと先に行くよ?」

「ちょっと待って、毛先の具合があと二ミリほど理想と違うのよ」

「今日は試験結果が返ってくるだけじゃない。そんな気合い入れなくていいでしょ」


 リジーは鏡の前で毛先をいじくるキティの背中をぐいぐいと押す。朝はいつも身支度に時間をかけ過ぎのキティが遅刻しないようにしているのだ。


「あと五分ー」

「いいから行くよー」


 渋るキティを引きずるようにして、リジーは寮を出た。


 アカデミー本棟への小道を辿りながら、リジーは眩しい陽射しに手をかざした。


「もうすっかり夏だねぇ」

「そうねー、最近湿気で髪の毛がうまくまとまらなくて困るわ」

「キティは年中鏡の前で髪の毛いじってるでしょ」


 夏の朝日を浴びて瑞々しく色づく生垣の間を歩く。


「まったく無駄な努力だな」

「なんですってぇ!? て、シュシュっ、いつからいたのよ?」


 ぴょこり、と二人の間から覗いた金色の頭に、キティは面食らった。


「いつからって……寮の玄関くらいからだな」

「マジか……小さいせいか視界から見切れて気づかなかったわ」

「ロビンのようなことを言うな」


 シュシュは顔をしかめた。

 そのまま三人は連れ立って本棟へと歩く。


「明日から夏休みだねぇ」

「あんたはその前に赤点回避できてんの?」

「うっ……」

「リジー。補習漬けの良い夏休みを」

「ちょ、結果が出る前に補習だって決めないでよっ」


 普段通りの軽口もなんだか浮かれ気味に耳に響くような、夏休み前日であった。


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