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四話 探していた『何か』を(3)○

 

「まったく、お前のせいで図書館を追い出されたじゃないか。ホントに、僕の邪魔ばかりして」


 図書館塔へ繋がる尖塔を下り、アカデミーの廊下を歩きながらロビンはぶつぶつ文句を言った。


「なんだよぅ、ロビンだって騒いでたじゃん。あとお前って言うのやめてくれない?」

「じゃあ落ちこぼれ」

「名前で呼ぼうよ!?」

「なんて名前だったか忘れたな」

「頑なに呼ばないなぁ……思春期か」

「うるさいな……というかどこまでついてくる気だよ?」

「えー、一緒に勉強しようよー」

「お前勉強してなかっただろ!」

「何さっ、そうやって勉強勉強言って! そんなに勉強が好きか!」

「開き直るな! 僕だって別に好きでやってるわけじゃない!」


 二人のやいのやいのと言い合う声が廊下に反響し、夏の到来を予感させる陽が射し込むアーチ窓に当たって砕けた。


 二週間後に控える中間考査を終えればアカデミーは夏休みに突入する。約二ヶ月もの大きな休暇を、生徒たちは帰省に旅行にと、おもいおもいに過ごすことになるのだ。


 しかしこの時期、ともすれば休暇の計画に浮き立つ生徒たちの心をずっしりと重くするのが一学期の総決算、中間考査だ。


 名門メザウィッヂ魔法アカデミーの名に相応しくその難度はかなり高い。夏休み気分が早めに到来してしまった生徒はこの中間考査の前にあえなく沈み、その休暇の予定をみっちりと補習で塗り替える羽目になったりするのである。


 アカデミーの廊下には今まさに、そんな夏への期待と考査へのプレッシャーを弱火でことことと煮込んだような空気が漂っていた。


 しかしそんな空気などどこ吹く風、とばかりに廊下を鼻歌交じりにスキップする少女が一人、リジーとロビンの向かいからやってきていた。


 それに気づいたリジーは手を振ってその少女に呼びかける。


「あ、おーいっ、キティー」

「あらっ、リジーじゃない。それと……ロビン? 珍しい組み合わせね」


 キティは溶けるような笑みを浮かべると足取りも軽く二人に駆け寄った。


「……なんかキティ、ご機嫌だねぇ?」

「あらぁ、わかっちゃうかしら? おほほほ」


 リジーが首を傾げると、キティは大仰な仕草で口許に手を添える。


「あれ、今度はお姫様じゃなくてお妃様キャラ?」

「なんで歳食ってるのよ! 違うわよ、これは練習」

「意地悪な継母の役でもやるの?」

「違う! なんで悪役チョイスなのよ!?」


 キティはもったいつけるように手入れの行き届いた栗色の髪の毛を払った。


「わたし、夏休みにバカンスに誘われているの! それも高級リゾート地よ? きっと華やかな人たちが集まるんだろうから、絶対に粗相のないように、今からお淑やかな女性の練習をしているのよ」

「なーんだ、そっかー。でもどうせすぐ足とボロが出るって」

「出ないわよ! 最悪ボロは出るかもだけど……でも足は出さないわよ! 何が悲しくてリゾート地でドロップキックする羽目になるわけ!?」

「ほら、こんなふうにすぐカッとなるから、キティは」

「誰のせいよ!?」


 笑いながらキティをおちょくっていたリジーはふと隣を見る。


 そこにはなぜかキティに熱視線を送るロビンの姿があった。


「どしたの、ロビン? キティのことガン見して」

「へっ」


 それに反応したキティがそちらを見ると、ロビンとばっちり目が合った。


「うっへぁ!? べべべ、別にキティさんのことを見つめたりなんかしてないんだからねっ!?」

「してないんだからねっ?」

「キティさん?」


 唐突に慌てふためくロビンに、リジーとキティは訝しげに詰め寄る。

 赤面しながらロビンはじりじりと後ずさった。


「あ、いや……」


 オロオロとするロビンの抱えた勉強道具の隙間から、ぱらり、と小さな紙切れが落ちる。


「ん?」

「これは……ッ」


 拾い上げたリジーの瞳が驚愕に見開いた。


「『キティ様に蹴られ隊』の会員証じゃない。え、ロビンもしかして……」

「ち、ちがっ、それは拾ったんだ!」

「……思いっきり名前書いてあるけど」

「はうっ!?」


 ニヤニヤするリジーの隣でキティは微妙そうな表情を浮かべる。


「え、あんたもわたしに蹴られたいとかいう奇特な趣味を持ってるわけ?」

「そ、それは断じて違うッ!」


 両手を激しく振って否定するロビンに、二人は懐疑的な目を向けた。


「そっかー、あの真面目なロビンがねー」

「きっと勉強のし過ぎでストレスが溜まってたんだよ」

「違うからな! なんか絶対違うからな!? 僕は純粋にキティさんに憧れてるだけだから!」


 赤面の至りのロビンは恥ずかしいことを口走る。


「うわぉ」

「ちょ、憧れとか……照れるじゃない」


 女子二人もなんだか照れた。リジーに至っては無関係だったが。


 その無関係なはずのリジーは瞳をきらきらさせてロビンに向き直る。


「ねえねえ、キティのどこに憧れてるのっ? やっぱり漢らしくて強いところ?」

「いやぁ、それは……」

「ねぇリジー、わたし女の子なんだけど? その憧れ方はおかしくない?」


 キティの苦情など聞こえなかったかのようにリジーはぐいぐいとロビンの顔を覗き込む。


「ねえねえねえねえ、教えてよぅ?」


「うるさいな! なんでお前がそんなに食いつくんだよ!?」

「わたしも気になるなぁ」

「ほらぁ、キティも聞きたいって」

「うぐぐ……わかったよ」


 観念したようにロビンは目を瞑った。


「僕がキティさんに憧れている理由は、その生き様なんだよ」

「漢らしい生き様に憧れてるんだね!」

「リジー、あんたはちょっと黙ってなさい……」

「ひっ、キティ顔が怖いよ!?」

「…………僕はキティさんの、『確固たる自分を持っているところ』に憧れたんだ――」


 そうしてロビンはぽつぽつと語り出した。

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