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福岡市立アイシティ特殊高等学校  作者: したとせみ
第一章 来訪者
3/7

1ー1 初顔合わせ

 広志の前を歩く4人の女子は入学してからずっと仲が良い。


 特殊高校には、目指す大学に応じて大まかなグループ分けが存在する。理工系を目指すAとB、文系その他を目指すCとDだ。ひとクラスは32人。今年は各グループをふたつに分けて合計8クラスになっている。一学年の定員は256名だ。


 広志らの学年は圧倒的に女子の方が優秀で人数も多い。入学時、女子学生が142名、男子学生が114名だった。(今は、女子141名と男子108名だ。)


 そして、フォーマンセル。入学試験の成績に合わせて、上位から順に4人ずつ寮の同室が割り当てられた。残念ながら男女は別だ。4人のうちリーダーをひとり決めて、3ヶ月間は、そのリーダーのやり方に従って生活する。人に教えることによって自分の足りないところを学ぶ、アクティブラーニングという制度を取り入れている。


 学生会長の仲村一華と同室ということは、彼女たちが1AⅠの女子トップ4なのは間違いない。そして副会長の大友嗣久と同室でない広志は、間違いなくトップテンから漏れているのだが、バイト部長は、生徒会役員と同格の立場にある。

 広志は仲村の横をひょこひょこと歩いている木下花音の後ろ姿を見ながら、入学式の放課後のことを思い出していた。


◇ ◇ ◇


2021年4月1日木曜日17時

 入学式のあと、学校や寮の施設の使い方やオリエンテーションに時間がかかり、結局、ホームルーム無しで下校時刻となったこの日。学生会室兼バイト部室にゾロゾロと人が集まってくる。

 一華は定刻が来たことを確認すると、学生会室に集まっている4人の女子と3人の男子学生を前にして、話を切り出した。


 「どうやら全員A1(エーワン)のクラスメイトのようですね。改めて自己紹介をさせていただきます。私は仲村一華(いちか)。沖縄県出身。父がハーフだから私はクオーターね。趣味はスクーバ。バイト先は某モデル事務所で、実は小学校の頃から既に働いていたわ。」


 長身で亜麻色の長いストレートヘアとブルーの大きな目、長いまつげが印象的だ。何よりも長い手足が目立つ。少し浅グロで背筋はしっかり伸ばしているのだが、伏し目がちでどことなく守ってあげたくなるような雰囲気を持つ美少女だ。


 「学生会長の仕事は、校則の執行と見直し、学生主導での行事や部活の調整、あと人事ってあるんだけど、人事って何のことかしら? まったくぅ、私なんか学生会長なんて向いてないと思うんだけど。とにかく皆さんと相談しながら、ひとつずつ片付けていきたいと思います。これから1年半宜しくお願いしますね。私からは以上です」


「僕は副会長をやることになった大友嗣久(つぐひさ)です。出身は大分県日出町(ひじまち)。ひのでってかいてひじって読む海沿いの小さな町です。趣味はキャンプとかのアウトドア、大分は耶馬溪とかやまなみハイウェイとか綺麗どころが多いから、是非みんなにも来てもらいたいな。あとバイト先は学校の斡旋で昼飯を販売する屋台に決まってます。チョリパンって名前のソーセージパンなんだけど、買いに来てくれると嬉しいです」


 白い歯をキラッと覗かせて、はにかむように笑う。スポーツ刈りを伸ばし始めたばかりの髪と太い眉毛は彼の意志の強さを表しているかのようだ。趣味はアウトドアということだが、どちらかというとやせ形に見える。沖縄出身で浅黒い仲村と比べると更に黒いのでスポーツをやっていることは分かる。


 「仕事は、会長の補佐と、寮長兼務で3ヶ月毎に意向調査して必要があれば部屋替えと・・・・退寮ちあるけど、退寮って退学だよね・・・、こっちも分からないことだらけだからみんなと相談しながらやっていきたいと思います。・・・そんなとこかな。」そう言い終えるとしっかりお辞儀した。


 「次は私でいいかな。一華と同室で会計・監査担当の石橋美智(いしばし みち)です。マレーシアからの帰国子女で、小・中学校とマレーシアのクアラルンプールで過ごしたから、日本の常識とか分からないので宜しくお願いします。・・・趣味は水泳。そうはいっても私がいたマレーシアの学校にはプールが無かったから、今からが楽しみ。・・・バイト先は博多駅の家電量販店の免税部門。土日、祝祭日だけなので、ほかも探すつもりだよ。」


 マレーシアからの帰国子女というだけあって一華程度には日焼けしている。ショートカットヘアに笑うと白い歯がこぼれるその姿は、大友と兄弟だといっても通用しそうだ。

 あまり胸の膨らみを感じさせないスレンダーな身体。

 香港人デザイナーが制作したというアイシティの制服は、チマチョゴリのような丈の短い上着をスカートのうえに着けるため、並んで立つと胸の高さが一目瞭然なのだ。


 「会計監査の仕事は、交付金とバイト部からの収入で来年度の予算書を作成することと、学生会行事、部活に配付した予算の執行状況確認と監査とあるけど、学生会行事も部活も決まってないから、当面は他の仕事の手伝いね」


 外国人ぽい、ヤレヤレといった表情で肩をすくめると、隣の女子にどうぞという仕草をする。


 「えっとぉ、風紀担当の田中舞花でーす。両親は、地元早良区(さわらく)に住んでいます。趣味は読書とアニメですねぇ。風紀の仕事は、校則違反者の取締りですけれど、AI(エーアイ)さんがぜんぶ、やってくれるそーなので、わたくしも、なにかあるまでは、他の人のバックアップですね。あっAIさんてのは人工知能さんですよ。イジメとか喫煙とか怪しい人見つけたら、3台のカメラで追っかけちゃうらしいんで、校内と学校近くじゃ隠れる場所内みたいですよぉ。」


 どこかのアニメのキャラみたいなしゃべり方をしている。ゆるふわの髪と、すこしぽっちゃりした感がある体つきをしているが、女子4人の中では1番胸が大きい。

 ちなみに、一華は身長が170センチくらいだが、他の女子は150センチ前後だ。


 「あっ、エッチしてる現場の画像はちょっと見てみたいかも、よし、カメラに死角が無いことは他の学生には秘密にしておこう」

 ふと真剣な表情になり、早口でとんでもないことを口走る。どうやら、こちらの方が素らしい。バイト先はセルフスタンドなのだが、妄想に夢中になり、紹介し忘れているようだ。


 ムフフとした表情をしている田中を、ちょっと引いた表情で見ながら恐る恐る手を小さく上げる広志。

 「えっと。次いいかな。ビクトリアの研究所で勤めてる叔父さんからの依頼で、バイト部長になった稲田広志です。僕も地元福岡出身です。趣味は読書です。純文からラノベまで好き嫌いはありません。・・・バイト部の仕事は、労働組合みたいなもので、働く者の権利を守るために、雇用契約内容とか業務上の不満とか疑問点を本部に報告することです。本部っていうのは、ビクトリア本社の法律顧問団で、文科省とか厚労省とかと、やり取りするそうです。」


 「僕の方はしばらく忙しいかな? 全校生徒分のをとりまとめて、報告しなきゃだし、・・・今から職探しする学生の方が、きっと、多いよね。僕は自宅の一階にあるコンビニに決まってるけど。・・・それで、皆さんに相談だけど、バイト部の副部長をクラスメイトの原田良治(りょうじ)君にお願いしようと思っているんだ。どうかな?」


 「ちょっと待って、さっき寮のもめ事って話、聞いたときから考えてたんだけど、女子同士のトラブルとか悩みとか、大友君とか、い、稲田君?だっけ、聞いて分かるの?それに男子なんかに相談したくないって女子は必ず居ると思うんだけど。・・・私、副部長に立候補しようかな。」


 明らかに高校生デビューしたような茶髪で化粧をした女子だ。 胴長・短足、顔にはシミ・そばかすがあり、目が細く美人とはほど遠い容姿をしている。一華と並んでいるから余計に目立っていた。


 「あっ私、木下花音(かのん)。一華たちと同室だけど、私だけ学生会に選ばれなかったから、ついて来ちゃった。蟹座の優しい乙女よ。趣味は宮地嶽(みやぢだけ)神社にお参りすることと自分を磨くこと。将来の夢は中国人の大金持ちと結婚してシンガポールに住むことよ」


 原田が右手をあげる。

 「俺も、その方が良いと思う。俺や広志だと絶対女子の対応は無理だ。もともと広志に頼まれて仕方なく、ついて来ただけだから。副部長なんてガラでもないしな。」


 「おい、良治、僕を見捨てるのかよ?」


 「心配すんな。軌道にのるまでは手伝いにきてやるからよ。俺も、いちおう自己紹介しとくな。俺も福岡県出身。趣味は今んところ自転車、将来はバイクに乗って全国を走り回りたいと考えてる。ひとりでな。バイト先は、このアイランドシティーのネットショッピング配送会社。この近所で1番バイト代が高いんだぜ」


 「大友君はどうなの?」一華が大友の意見を求めた。


 「・・・確か寮のトラブルについては学生会メンバー専用でメールが届いて、転送が不可になっているはずなんだ。二度手間になるけど、女子寮のことについては仲村さんたちが確認して、概要をメールで木下さんに送れば何とかなるんじゃないかな。僕も女子のプライベートにあまり関わりたくないから、木下さんの申し出は有り難いな。あと、原田君も手伝いなら正式にバイト部に所属した方がいい。今日はオリエンテーションでフリーパスだったけど、メンバー以外が入室しようとすると中に居る人にいちいち許可求めなきゃいけないし、守秘義務もあるからね。」


 「そうね。学生会とバイト部に所属した学生のメールは基本業務連絡用のタグが付くから、メンバー間以外の転送は出来ないし、花音と原田君が窮屈でないならお願いしようかしら。でもバイト部のメンバーって無報酬だよね。校則に報酬規程があるのは、学生会メンバーだけだし、ほんとに良いのかしら?」


 「私は、報酬なんかより、一華や美智や舞花と一緒にいられることの方が嬉しいわ。クラスでも寮でも一緒なのに、なんだか私だけ仲間はずれみたいなんだもの」


 「俺も異議無し。広志とは幼なじみだからな。出来る範囲で協力させてもらうよ」


 「じゃあ、早速、明日朝一番でふたりのメンバー登録しとくね。あと全員が仕事持っているので定期会議は、週明けの朝一でどうかしら? 午前8時から8時25分までの短い時間だから、要点をまとめて喋る良い訓練になるわ。臨時会議はメンバーの誰でも招集できるようにしましょう。こちらも朝一ね。」


 「はい。会計から最初の議題を提出したいと思います。」

 いきなり右手を高く上げて、元気よく喋る石橋美智。


 「どうぞ」


 「学生会経費の中に miscellaneousというのがあります。なんでこれだけ英単語なんだろうと思い、校長先生に確認したら、3百円以下の商品で月3千円まで自由に使っていいという項目だそうです。・・・なんと、お菓子でもOKだそうです。今からみんなで、カップとかスプーンとかお菓子とか買いに行きませんか?」


 全員が「異議無し」と同意する。

 少し首を傾げた一華が、


 「でも、顧問は教頭先生のはずよね。なんで校長先生に聞いたのかしら?」


 「最初は、教頭に聞いたんです。でも、何にでも使えるという言質が取れなくて……。それで今度は校長先生がいるときに、同じ質問をして、ついでに、お菓子でも大丈夫ですよねって念押ししたんです。まったく帰国子女なめてもらっちゃ困るんですよねぇー」


 全員の視線が美智に向くが石橋はすましたままだ。

 1秒も間を置かず、全員の気を逸らすように一華が発言する。

 「他に議題ありますか?ないならすぐに出かけるわよ」



 教頭が職員会議を終えて、学生会室を見に来たときは既に誰も居なかった。


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