1 学生会とバイト部
2022年1月4日火曜日午前7時45分。
「おはよう」
三泊六日という南米ボリビアへの強行軍の旅行を終え、疲れ切った稲田広志が学生会室兼バイト部室のドアを開けると寮で同室の原田良治がもう登校していた。
週の初めの一日や長い休み明けの初日は、学生会とバイト部は、朝8時に会議することになっている。
「おう、広志。朝帰りたぁいいご身分だな。なんだ、従姉妹は一緒じゃないのか?」
「リーナとサラは母さんと市役所行ってるよ。午後には転入手続きで学校に来るらしいけど」
「えー、もう呼び捨てかよ。随分仲が良くなったんだな」
「あっちじゃ、それが当たり前なんだから仕方ないだろ」
広志の親友の原田良治は、中学からの同級生だ。中学では水泳部に所属していて、イケメンに加えて、きれいな逆三角形の身体から女子の一番人気だったのだが、女嫌いで誰ひとりとして付き合おうとはしなかった。
母、姉ふたりの4人家族だが、家から出るために全寮制のこの学校を選んでいる。
『僕がリーナに一目惚れしたなんて言ったらなんと言われるか。』
広志はブルっと思わず身震いしてしまう。
福岡市立アイシティ特殊学校学生会は、会長、副会長、会計、風紀の4名で構成されている。カリキュラム含めて全くの新しい学校だから上級生はいない。
学生会役員は入学時の成績に応じて学校から仮決めされており、今年の9月末に選挙で新しい役員が選出されることになっている。そして、バイト部は、学生会室に部長と副部長の席が割り当てられているが、学生会の組織ではない。
「おはよう」学生会長仲村一華の爽やかな声に続いて、「「おはようございます」」と涼やかな声で、会計・監査委員長石橋美智と風紀委員長田中舞花が入ってくる。
「稲田君。初めての海外旅行はどうだった?」
「仲村さんのアドバイスのおかげで随分助かったよ」
広志はそういうとマイアミで購入したイルカのぬいぐるみを手渡す。
「わぁ、ありがとう。フリッパー君だぁ」
フリッパーと書かれたTシャツを着て帽子を被ったイルカのぬいぐるみだ。
『えっ、あのTシャツの文字ってイルカの名前だったの?』
買ってきた本人の広志のほうが驚いている。
「それから、これはみんなに買ってきたんだ」
マカダミアナッツチョコとドライフルーツ詰合せの大袋を机の上に置いた。安くて大量に入っているので、大人数の学生会にはちょうどいい。
さっそく、原田がドライフルーツの方の袋を開けている。
石橋と田中はお茶の用意だ。
「大友君と木下さんたちは、今朝はこないのかな?」
「大友君は退学者の荷物の引渡しで寮に残っているわ。花音は芽衣さんと律ちゃんを迎えに行ってたから、もうくると思うわ」
学生会副会長の大友嗣久は、男子寮の寮長を兼任している。アイシティ特殊高校は開校してまだ1年経っていないのに、不祥事や他校からの引き抜きで、既に数名の退学者を出している。今回は男子学生らしい。
「おはよーす」ちょっとハスキーな声の伊地芽衣子に続いて、「「おはようございまーす」」と木下花音と河合律子が入ってきた。3人ともバイト部だ。