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「ペンギン機関車おなかいっぱい」

作者: いまっく

子どもの時に見た夢を童話にしてみました。

「空を飛ぶ機関車」っていうのは、原体験に近いですね。

 コウちゃんはまだちょっと小さい男の子。最近少しだけ字が読めるようになってきた。

小学生のユリお姉ちゃんには時々手紙が届く。コウちゃんはそれがうらやましくてしょうがなかった。

この間も、ユリお姉ちゃんが学校からもらってきたプリントをコウちゃんもほしかったらしく、ユリお姉ちゃんからプリントを奪い取ってしわくちゃにしてしまった。

お母さんがやっとのことなだめて、プリントをユリお姉ちゃんに返した。


そんなある日、コウちゃんにお手紙が届いた。

とても小さいお手紙だった。

コウちゃんはうれしくてうれしくて大はしゃぎだ。

お手紙を開けてみると、小さな便せんに「お友達になって下さい」と書いてあった。

少し字が読めるようなったコウちゃんは、得意になってほっぺを赤くした。

その次の日も、コウちゃんにお手紙が届いた。

手紙の最後に、「今日、遊びに行ってもいいですか?」と書いてあり、最後に小さいもみじの形をしたはんこが押してあった。

コウちゃんはうれしくて仕方がない。


「コウちゃん、なに見てんの?」


小学校から帰ってきたユリお姉ちゃんが、コウちゃんを後ろからだっこした。

コウちゃんはお手紙を急いでかくした。

自分にお手紙が届いたのは秘密なのだ。

お手紙の差出人がお家に遊びに来るのも内緒だ。

ユリお姉ちゃんは、コウちゃんが一生懸命かくそうとしているのがとてもかわいかったので、そのままぎゅうとだきしめた。


その日の夜のことである。寒い日が続いたせいか、外では大雪が降っていた。

こたつに入っていたコウちゃんは、そろそろ眠くなってきた。

その時、とつぜん「ピンポーン」とチャイムが鳴った。

コウちゃんがドアを開けてみると、真っ白な煙がもくもくと目の前をおおった。

何だろうと思っていると、煙の下から「コンバンハ」と声がした。

あれ? と思って煙をはらってみると、小さなペンギンが3匹こちらを見上げていた。

そのペンギンさんは、かわいい制服を着て小さな汽車に乗っていた。


「コウちゃんにお手紙を出したんですけど、届きましたか?」

「手紙を書くのははじめてで、ちゃんと届いたかどうか心配で心配で……」


そう、あの手紙をコウちゃんに出していたのは、このペンギンさんたちだったのだ。

なかなか返事がこないので、ペンギンさんたちがコウちゃんに会いに来たのだ。

コウちゃんは、もううれしくてうれしくて仕方がない。


「ペンギンさんからだったのか。ちゃんと届いたよ」


コウちゃんは、はずかしそうに返事をした。

ペンギンさんたちも大喜びだ。

玄関での物音を聞きつけたユリお姉ちゃんが、コウちゃんのあとからやって来た。


「ああーっ。すっごーい。ペンギンさんの汽車だ。乗ってもいいの?」

「どうぞ」


コウちゃんとユリお姉ちゃんは、大喜びでペンギンさんの汽車に飛び乗った。

そして、ペンギンさんとユリお姉ちゃん、コウちゃんの汽車の旅が始まった。

3匹のペンギンさんたちにはそれぞれ役割があった。

車掌さん、機関士さん、副車掌さん。

車掌ペンギンさんが「出発しんこーっ」と元気よく叫んだ。

機関士ペンギンさんが、一生懸命薪をくべた。

そして、副車掌ペンギンさんが元気よく言った。


「次の停車駅は、シャーベット駅、シャーベット駅」

「ええ? シャーベット駅?」


コウちゃんとユリお姉ちゃんは目を合わせて大喜びした。

ペンギン機関車は白い煙を吐きながら、雪に埋め尽くされた家の前の道路を、どんどんどんどん進んでいった。

あたりはすっかり真っ暗で、白い雪に覆われている。いつものお家の周りじゃないみたいだ。

しばらく行くと、目の前に大きい雪の固まりがあった。

機関車はその固まりめがけて、おもいっきりずぼっとつっこんでしまった。

その瞬間なんと、急にまばゆいばかりの青空が目の前に広がった。

そして地面には青、赤、黄色に染まったシャーベットが遠くまでずうっと広がっていた。

コウちゃんたちを乗せた汽車が、ゆっくりと止まる。

コウちゃんたちは、汽車から降りて、線路の横にあった青色の木をペロッとなめてみた。


「わーい、本当にシャーベットだー」


ここは全ての物がシャーベットでできているのだ。


「ここの名物は、あの建物です」


ペンギンさんたちが、遠くに見える大きい三角形の建物を指さして言った。


「あそこまで行ってみましょう」


みんなは汽車に乗り、きれいな三角形の形をした建物まで行った。

どんどん近づくにつれその三角形の建物はとんでもない大きさだと気がついた。

なんとそれは、山ほどもある大きなすべり台で、上の方は雲に隠れて見えなかった。

汽車はコウちゃん達を乗せて、そのすべり台の頂上まで登った。

どんどんどんどん登っていき、地面にあるシャーベットの木がまるで小さいピンのように小さく見えた。

汽車は更に登っていき、雲をつきぬけて行った。

そしてそこには、すきとおるような青空が空いっぱいに広がっていた。


「はい。シャーベットマウンテン駅に到着しました。この山は大きなすべり台になっています。せっかくですから、ここから下まですべりましょう。競争ですよ」


車掌ペンギンさんが運転席から大きな声で言った。


機関士ペンギンさんと副車掌ペンギンさんが汽車から降りて、すべり台の降り口に立った。

ペンギンさんたちはすべるのが得意なのだ。

コウちゃんたちも汽車から降りて、ペンギンさんたちの横に並んだ。

車掌ペンギンさんが、運転席から大きな声で「ヨーイ」と言った。

そして、大きな音で汽笛をポーと鳴らした。

それと同時に2匹のペンギンさんが勢いよく滑り出した。

手と足をパタパタとばたつかせて、おなかで滑った。すごい早さだ。

コウちゃんとユリお姉ちゃんも負けじと滑り出した。

二人はすごい早さでペンギンさんたちを追いかけた。

実は二人ともすべり台を滑るのは得意であった。

いつも近くの公園で練習していたのだ。

ペンギンさんたちも、ものすごい早さで滑っている。

このままではペンギンさんの勝ちだ。

お尻で滑っていたコウちゃんが「えいっ」と両手を伸ばして、今度はおなかで滑り出した。

ユリお姉ちゃんもまねして、おなかで滑り出した。

コウちゃんとユリお姉ちゃんは、手をつないで見つめ合った。

そして、どんどんどんどんスピードをあげた。

あんまり早く滑りすぎたので、ものすごい風が顔にあたった。

コウちゃんとユリお姉ちゃんのお顔がプルプルとゆれた。

そしてゴールが目の前へと迫ってきた。

コウちゃんとユリお姉ちゃんは、思いっきり両手を伸ばした。

そしてとうとう、ペンギンさんたちに追いついた。

ゴールにペンギンさんの鼻とコウちゃんの指が同時についた。

一緒にゴールしたのである。

みんなは汗びっしょりになり、見つめ合った。


「こんなに大きいすべり台、はじめてー、とっても楽しかった」


コウちゃんたちは手を取り合って大喜びした。

それからずっと遅れて、車掌ペンギンさんの乗った汽車が降りてきた。


汽車はまた、みんなを乗せて広大なシャーベットの大地を地平線に向かって走りだした。

地面が青いシャーベットからだんだん白い色へと変わっていった。

そして汽車は、ゆっくりとフワフワ揺れだした。


「次の停車駅は、ソフトクリーム駅、ソフトクリーム駅」


副車掌ペンギンさんが言った。


「ええ? ソフトクリーム駅?」


気がつくと、周りは見わたす限りソフトクリームだらけだった。

木、山、ベンチ、ブランコ、そして丸っこい形をした家も、みんなみんなおいしそうなソフトクリームでできていた。

コウちゃんとユリお姉ちゃんは大喜びだ。

汽車が停車し、みんなは汽車から降りるとまっ先にソフトクリームのベンチへと向かった。

ユリお姉ちゃんが、ソフトクリームベンチを指でちょっとすくってなめてみた。

舌がとろけそうになるくらい甘かった。

コウちゃんもうれしくなって、ベンチに向かって走って行った。

あまりにも勢いがありすぎたので、ベンチにぶつかってしまい、ソフトクリームベンチに「べちゃあ」とぶつかってしまった。

コウちゃんの顔は、ソフトクリームだらけになってしまった。

ユリお姉ちゃんとペンギンさんたちが、コウちゃんのお顔についたソフトクリームを、みんなでペロペロなめまわした。

ユリお姉ちゃんが、かまくらを作ろうと言い出した。

そしてみんなでソフトクリームでかまくらを作り、中には、かわいいテーブルも作った。

ユリお姉ちゃんが、その上にソフトクリームでかわいいおまんじゅうをたくさん作ってならべた。

それをみんなで食べようとしたとき、かまくらの入り口から「もしもし?」という声が聞こえてきた。

丸っこいかげが見え、そのまん丸が、そおっとのぞき込んできた。

雪だるまだった。

コウちゃんたちがビックリして飛び出してみると、かまくらの外にはたくさんの雪だるまがいた。

大きいのや小さいの。ふとっちょや、細いの。中には三段がさねの雪だるまもいた。


「もしもし。お願いがあるのですが」


一番大きい雪だるまが困った顔をしながら言った。

そのとなりで、一番小さな雪だるまがブルブル寒そうにふるえていた。


「どうしたの?」


車掌ペンギンさんが訪ねた。


「寒くて寒くて凍り付きそうなんです。この暖かそうなかまくらに入れさせて下さい」

「???」


雪だるまなのに「寒い」なんて変なの。と思いながらユリお姉ちゃんが聞いた。


「何で寒いの? 雪だるまって寒いのへっちゃらでしょ?」

「僕たちは”雪だるま”じゃないんです。雲の上に住んでいる”雲だるま”なんです。さっき雲の下からもくもくと白い雲が僕たちのところまで来て、何だろうと思って追っかけてきたら、ここに着いてしまったのです」


その「雲の下の白い雲」とは、ペンギンさんの汽車から出た煙だったのでした。

その煙の後から、雲だるまさんたちの親子が着いてきてしまったのです。

そして気がついたら地上まで降りてきて、今まで太陽がさんさんとふりそそいでいた雲の上から、とっても寒いソフトクリームの国に着いてしまったのでした。

それを聞いたコウちゃんが言った。


「そんなときには、おしくらまんじゅうをするといいです」


雲だるまさんたちは、丸い目をもっと丸くして不思議そうに驚いた。


「おしくらまんじゅうー?」


雲だるまさんたちの住む雲の上は、いつも太陽が当たっていて暖かかったので、おしくらまんじゅうを知らなかったのだ。


「こうやってこうするの」


ユリお姉ちゃんが一番大きな雲だるまさんの手を取って、自分のお尻を思いっきり雲だるまさんのお尻にぶつけた。雲だるまさんの体がぶよーんと飛んだ。


「うわー、おもしろーい」


ちびっ子雲だるまたちがやって来て、ユリお姉ちゃんのまねをして、みんなで輪になった。

コウちゃんやペンギンさんたちも、一緒になって大きな輪になった。


「わっしょい。わっしょい。おしくらまんじゅうおっされて泣くな。おしくらまんじゅうおっされて泣くな」


みんな大きな声でおしくらまんじゅうをやり始めた。雲だるまさんの体はだんだんぽかぽかしてきて、ふわふわになってきた。

ぽわぽわになった雲だるまさんと一緒におしくらまんじゅうをして、コウちゃんも気持ちよくなって大喜びだ。


「ありがとう、とってもあったかくなったよ」


雲だるまさんがほっぺをピンク色にして言った。


「だけど、このソフトクリームの国では、じっとしているとまた寒くなってしまいます」

「よし、それではみんなで雲の上まで行きましょう」


車掌ペンギンさんが言った。

コウちゃんは不思議そうな顔をしてペンギンさんに聞いた。


「ええ? どうやって行くの?」

「はい。この汽車は飛ぶことができるのです」

「うわーい。運転させてー」

「はい。いいですよ」


コウちゃんはペンギンさんに頼んで汽車を運転させてもらうことになった。

操縦席の左側に大きいレバーがあり、その横に「飛ぶ」「走る」「泳ぐ」「潜る」と書いてあった。

一番下に小さな字で「転がる」と書いてあったけど、それにレバーをあわせるとどうなるのかわからなかった。

操縦席に乗ったコウちゃんに向かって、車掌ペンギンさんが言った。


「さあ。行きますよー。レバーを『飛ぶ』に合わせて下さい」


コウちゃんは、レバーを両手で思いっきりつかみ、「飛ぶ」に合わせた。

ギイーガッチャン!

すると、ペンギン機関車はものすごいいきおいで煙を吐いて、それまたものすごいスピードで進み出した。

車輪の下から勢いよく湯気が出たかと思うと、機関車はゆっくりと宙に浮いた。

そして、そのまま大空へとつきすすんで行った。

ドンドンドンドン大空へ上り、雲の中に入ったかと思うと、急に周りが明るくなった。

雲の上についたのである。


「ようこそ。ここが僕らの雲の国です」


雲だるまさんたちが勢いよく機関車から飛び降りて、フワフワの雲の上で転がりながら言った。

コウちゃんとユリお姉ちゃんたちも機関車から飛び降りて、フワフワの雲の上で転がった。


「うわーい。きもちいー」


車掌ペンギンさん、機関士ペンギンさん、副車掌ペンギンさん、みーんな機関車から降りてきて、フワフワの雲の上で転がった。

みんなが降りた後で、機関車もフワフワの雲の上にごろんと気持ちよさそうに、その大きな車体で転がった。

レバーが「転がる」になっていた。

そしてみんなで、ふわふわの雲の上でねっころがったまま、大空を見上げた。

雲の上はあったかくて、ふわふわで、とてもきもちいい。

そしてコウちゃんとユリお姉ちゃんは、いつの間にか雲の布団で寝てしまった。

それはそれはとっても気持ちよさそうに眠った。


「あらあら、二人ともこたつの中で寝ちゃって。それにしても、二人とも楽しそうな顔をしてるわね。何の夢を見てるのかしら」


ニコニコしながら眠っているコウちゃんとユリお姉ちゃんの横で、お母さんが笑っていた。


             おわり


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