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パスピエ『more humor』(2019年)

●キラーチューン連発、だけど歌詞は「表現」ではない


パスピエ、約2年半ぶりのニューアルバム。


キメの多いイントロを完璧にキめてくる#1の「グラフィティー」からテクニカルでモダンなニューウェーブサウンドの曲が続く。


個人的に好きなのは、ミステリアスなR&B調の#2「ONE」。海外のヒップホップシーンとも共鳴するようなウウーウウーのコーラスにおける音の感触。全体的にEDMからの影響も感じ取れる。


#3「resonance」は、切実な「表現」になっている。「わたし」を映し出すシャボン玉を「わたし」がたくさんあってどれが自分か分からないというメタファーに用いていて、「わたしはどこ」という問いかけに温度がある。本作で最も好きな曲かもしれない。今まで、僕はパスピエの曲の歌詞に温度を感じたことはなかった。言葉遊びを多く用いた、楽曲のオシャレさに貢献しているだけの歌詞という印象を受けていた。


その他の曲の歌詞は、相変わらず「表現」になっていない。例えば、「resonance」の次の曲である#4「煙」の歌詞。


リフレイン 微熱繰り返す

気まぐれな一言で午後の予定をなくした

雨のせいにしても


付かず離れずの二人の間に

確かな名前をひとつ つけるのなら


辿る なぞる 振り返る

思い出の輪郭を言葉で縁取るようにピントを合わせた

(パスピエ「煙」から歌詞を一部引用)


この歌詞を聴いて、何か具体的な情景が思い浮かぶだろうか? 僕の想像力が足りないせいか、思い浮かばなかった。「付かず離れずの二人」は恋人に近い関係なのだろう。曲の主人公は、その「付かず離れず」なことに対して思いをめぐらしているのだろう。それくらいは分かる。しかし、それ以上の情景が全く思い浮かばないし、それ以上の感傷はない。


相対性理論はよくパスピエと比較されるが、相対性理論には「主張」があるのだ。意見の主張というよりも、感情の主張といった方が近いと思う。曲の主人公の感情が息づいている。


例えば、地獄先生のこの歌詞。


セーラー服は戦闘服

クラス対抗のデスマッチ

防災訓練決行で

めったに鳴らない

チャイムが鳴るとき


先生 言いたいけど言えないの

悔しいほど切ないの

先生 先生ってば先生

ああ先生 フルネームで呼ばないで

下の名前で呼んで

お願い お願いよ先生

(相対性理論「地獄先生」から歌詞を一部引用)


ここには、心に突き刺さる表現がある。別次元を描くような意味の繋がらない歌詞で煙に巻いた後、曲の主人公の感情が予測調和を突き破って主張している。


(相対性理論、パスピエと表現については、「相対性理論とパスピエ」『踏み付けられた小天使』https://sp.ch.nicovideo.jp/yamadahifumi/blomaga/ar1639069 に先行する詳しい考察があるので参照してください。大変面白い考察でした。)


続いて、#5「R138」はシンセが煌びやかに鳴り響くキラーチューン。


#6「だ」は音に遊び心があるミディアムテンポの曲。本作のタイトルは『more humor』だが、本作の中で音に最もユーモアを感じる曲だ。


#7「waltz」は別れてもまた会いたい気持ちをスローテンポで丁寧に描く。この曲の歌詞も表現になっているといえばなっているのだが、情景を浮かび上がらせる力が弱い気する。#3「resonance」が僕に刺さったのは、「わたしはどこ」というのは僕の胸の底でも鳴り響く通奏低音だからかもしれない。


#8「ユモレスク」。「ユモレスク」とは軽やかな気分の小曲という意味らしい。この曲は軽やかかといわれれば、ちょっと疑問だけど。


#9「BTB」もキラーチューン。即効性のあるアップテンポのキラーチューンが多いのは、パスピエの人気の理由の一つだろう。


#10「始まりはいつも」も即効性がある。ああ、僕は音の快感にだけ酔っていればよいのだろう。そうすれば、パスピエも人並みに楽しめる。だけど、歌詞が表現であることは、聴く音楽に外せない条件なんだ。


今までのパスピエが好きな方ならオススメのアルバムです。僕はというと、歌詞の問題で入り込めなかったし、オシャレなサウンドよりはオルタナティブ寄りのサウンドが好きなので星2つといったところかな。

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