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くるり『ソングライン』(2018年)

●誠実だけど、切実じゃない


いくつもの音楽性の引き出しを持っているくるり。だが、本作の引き出しは僕は好きじゃない。牧歌的でレイドバックした歌ものが並び、前のめりに音楽に打ち込んでいたくるりはどこへやら。ここに並べられた曲は、洗練された実力を身につけたくるりが、自身の音楽への向き合い方をコントロールしながら作った曲に思える。僕が好きなアルバム『図鑑』や『坩堝の電圧』のような、コントロール不可能になって半ば暴走気味に実存をぶちまけるくるりはここにはいない。実存が引き裂かれるような曲にアートを感じる僕にとって、本作はアートじゃない。


ストリングスの入れ方とか、不安定さを全く感じないアンサンブル、情景を描くような心のこもった歌い方はプロフェッショナルだ。しかし、僕はプロフェッショナルなだけでは心を動かされない。アマチュアでもいいから、純粋な表現欲求が汚されないままに表出し、青く黒くこんがらがった心の叫びが聞こえるような音楽が好きなのだ。本作は製品としては優れているが、コントロールされ過ぎていて、裸の心が見えてこない。心の叫びがそのまま音楽になっているような初期のくるりはどこに行ったんだよ…。


僕は切迫し、急迫しているようなメロディに切実さを感じるけど、本作の伸びやかなメロディでは切実さのかけらも感じない。僕にとって、本作のメロディは誠実なのだけど、切実ではないんだ。


グルーヴも完成度は高いものの、レイドバックし過ぎていて、くるりに関していえば、アンチ・レイドバックだ。レイドバックした歌もののアルバム『魂のゆくえ』や『言葉にならない、笑顔を見せてくれよ』の失敗を繰り返しているように思えるのだ。本作はこれら二作よりは実験性はあるけど、本作もオーセンティックな歌もののアルバムで、くるりにそういう音楽性は求めてないよ。


音楽で実験しているくるりも好きだったよ。前作『THE PIER』の打ち込みや民族音楽を駆使した多国籍な音楽性は好物だった。本作も冒険しているけど、その冒険はサウンドの背後に構え、前面に出てこない。もっと音楽的なエゴを押し出してほしい。もっと、くるりのくるり自身を見せてほしい。


だが、オープナーの「その線は水平線」、この曲は名曲だ。サビの鉄壁のメロディとコーラスで畳み掛けるような後半に切実さを感じる。この曲一曲で今年のベストアルバム候補になれるくらいの訴求性があるように思うのだ。


初期のような心の在り方をそのまま叫ぶような名曲を生み出してくれとは言わない。くるりは充分に成熟したのだから、また初期のスタイルを繰り返すことは無理だ。だが、実験性が前面に出ていて、かつ、訴求性もある曲をまた作ってほしい。一人のくるりファンからのお願いである。


Score 6.8

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