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きのこ帝国『渦になる』(2012年)

●実存と共に、小さな救いのように鳴らされる音楽


次世代を担うべきバンド、きのこ帝国の初の全国流通盤。


ステージ上でたかれるスモークの向こうから聞こえてくるようなギターの音色とフィードバックノイズ。感情のまま奔流する2本のギター。ボトムを支えるベースとタフにリズムを刻むドラム。もやの中、凛として立ち現れるフロントマン佐藤のボーカル。最初聴いた時には、ボーカルが気負いすぎてトゥーマッチのように感じたが、何度か聴く内に、世界観が壮大なきのこ帝国の楽曲は、佐藤のボーカルがあってこそなのだと思うようになった。


シューゲイザーに影響を受けた静かに聴き入るタイプの楽曲だけでなく、「スクールフィクション」や「Girl meets NUMBER GIRL」のようなアップテンポのオルタナギターロックの曲もあるのがきのこ帝国の強みだろう。


歌詞も含めた表現力が卓越している。音数の少ないところは研ぎ澄まされて、盛り上がるところでは音の洪水がなだれを打って押し寄せてくる。


「退屈しのぎ」という曲では、ベースとドラムだけをバックに歌われる箇所が気だるい。ギターが入ってくる箇所がやるせない。その中でどこか達観した視点からの歌詞が歌われる。音楽が粟立っている。自分の退屈も消えていきそうだ。彼らが主催するライブイベントの名前も「退屈しのぎ」というらしい。


「Girl meets NUMBER GIRL」はタイトルのとおり、ナンバーガールの音楽を連想させる。ベース以外のメンバーはナンバーガールが好きらしい。「耳を通って脳に青が刺さる」という歌詞。ナンバーガールの音楽は、鋭角のギターが脳を突き、まさに脳に青が刺さるという感じ。中高生の時期に初めて音楽に夢中になる時のあの青い気持ちが、この曲には刻まれている。


このアルバムのハイライトは「夜が明けたら」だろう。クリーンなトーンのギターのアルペジオで始まり、歌詞は犯した罪が許されるか、許されないかについて逡巡する。この曲の主人公は決して罪は許されないと歌う。しかし、曲の最後で、「夜が明けたら 許されるようなそんな気がして 生きていたいと、涙が出たのです」と歌っている。この部分の歌唱は、表情豊かに様々なグラデーションを経て絶望から希望まで至る聴きどころだ。そして、夜明けをせかすように急いでドラムが鳴り、「ほら夜明けだ」と歌い、唐突にこの曲は終わる。


このアルバムは悩みや「許される/許されない」について歌った曲ばかりだ。しかし、その中で佐藤さんは「生きたい」、「生きろ」と力強く歌い放っている。バースのクリーンなギターや盛り上がりの音の氾濫に身を委ねていると、佐藤さんと同じく悩むこともある自分だけど、自分の存在は確かに許されていると感じる。


Score 7.0

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