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大森靖子『クソカワPARTY』(2018年)

●痛々しいまでに心に突き刺さる歌


4種あるうちの1種(『 銀茜宴"シルバニアフェス"』)を購入しました。4種それぞれ収録曲が違うので注意が必要です。


いつものアルバムのように情報量の多い曲も、中盤の弾き語り曲も楽しめました。前作までのアルバムが好きなら間違いなく「買い」です。YouTubeにも数曲アップロードされているので、それらの曲を気に入ったら本作も聴いてみてくださいね。



大森靖子の歌には、強い「YOUあなた」がある。歌いたい相手を強く意識した歌を作っている。「私は私が認めた私を認めさせたい 何が悪い」(#4「GIRL'S GIRL」)などの歌詞から強烈に感じられる自意識よりも強い興味を他者に対して抱いている。


たとえば、#1「死神」の「君が幸せに生きるなら 僕はポロポロでかまわない」という歌詞。ここまで相手に尽くそうとする姿は尊くて、ぼくの胸を打つ。


相手のことを深く愛するからこそ、彼女は「断絶」を恐れている。しかし、歌うのだ。「運命も主義も違うのはもうわかっている/それでも 話をしよう」(#2「ZOC実験室」)と。左右の思想、格差、生まれやジェンダー、趣味の島宇宙化など断絶にあふれたいまの時代において必要なのは彼女のような姿勢なのではないだろうか。


そして、他者のことを強く思うからこそ、リスナーに向かって「生きろ」というメッセージを投げかける。そのメッセージは悪口、陰口、暴力など呪いに満ちた世の中で祈りのように響く。


どの曲も「生きろ」というテーマの変奏曲だ。デジタルサウンド、バンドサウンド、弾き語りの巧みな使い分けにより、凄まじい強度で「生きろ」というメッセージを歌っている。ファンと共依存になってもいいから「生きろ」と歌い上げる大森靖子の頼もしさに惚れる。


世の中の醜い部分(=クソ)を自身の身体に吸い寄せて可愛い何物か(=カワ)に昇華している。クソもカワも一緒くたに掻き鳴らされるその歌は、傷ついた心に祈りのように響くのだ。クソな世の中でも自分も可憐に可愛く生きようと思える。ぼくは男だけど、そんなことは関係なく可愛く生きられる。だってぼくは「いつか男とか女とか関係なくなるくらいに愛し合おうよ」(#1「死神」)と大森靖子の歌に対して思えるから。まあ、自分はおっさんなので、この場合の「可愛く」は「健気に」くらいの意味ですが(^_^;)



オススメ曲は、断然#1「死神」だ。サビが切実に心に突き刺さる。サビのメロディをなぞったイントロのピアノの響きも切実で、その後に「死んで?」と言われると胸をナイフでグサリと貫かれたような気持ちになる。平板だけど感情の繊細な機微を描いたバースと熱量あふれて盛り上がるサビの対比が見事だ。このくらい(中程度)の情報量や熱量の曲を増やしてほしいなあと思うのです。


「川は海へと拡がる 人は死へと溢れる

 やり尽くしたかって西陽が責めてくる」

(#1「死神」)


死ぬ時に後悔のないように、ぼくもできることをやり尽くそう。生きられる限り、自分の生を輝かせよう。大森靖子の覚悟には程遠いけど、本作を聴いた後にぼくもそう思った。


Score 6.7

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