中村一義『海賊盤』(2016年)
■中村一義の二つの魅力
11人の大所帯のバンド「大海賊」を引き連れて、中村一義が4年ぶりに新作である本作を発表。長く長く首を伸ばして待ってました!
中村一義には二つの大きな魅力があると思っている。そして、その魅力は本作でも健在だ。
ベストアルバム『最高宝』で寄せられたコメントでもあったが、一つは心の根拠、心の拠り所としての中村一義。僕も大げさではなく、自分の生きる指針として日頃から中村一義の音楽を参照してきた。
もう一つは洋楽と張り合えるかっこいいサウンドを鳴らす中村一義。邦楽ロックに洋楽的な要素をもたらし、邦楽界でオルタナティブロックが産声を上げた立役者の97年組(デビューしたのが1997年近辺)の一角として、日本の音楽ファンの洋楽コンプレックスをなくしていくようなかっこいい音楽を作ってきた。くるり、スーパーカー、ナンバーガール、中村一義などの97年組がデビューして活躍するまでは、洋楽ファンは邦楽ファンを今よりも見下していたし、邦楽ファンも肩身が狭かった。
■文化の源を旅する
心の根拠としての中村一義の音楽も、洋楽に引けを取らないかっこよい音楽としての中村一義も、ビートルズやブライアン・ウィルソン(ビーチ・ボーイズ)の影響あってのものだろう。
本作でも、「ビクターズ」はビーチ・ボーイズの「GOD ONLY KNOWS」の影響を受けている。InterFMのラジオでもブライアン・ウィルソンにシンパシーを感じると言い、「全然及ばない」と謙遜しながらも発想がブライアン・ウィルソンと同じだと語っていた。
#4「GTR」の「64だって? だとしたって。」という歌詞は、ビートルズの「When I'm Sixty-Four」から取られていると思われるし、#5「世界は笑う」の「あの4人バンドも、たった10年だけだったんだ。」という歌詞はビートルズを指しているはずだ。
ロックのオリジネイターからの影響を完全に咀嚼し、人によっては盗んでいるというほど自分のものにしている中村一義の音楽は、心の拠り所としても、かっこいい音楽としても、オリジネイターに負けないくらい音楽の源に迫っている。中村さんの敬愛する手塚治虫の漫画のように、一つの歌の歌詞や音が描く光景の情報量が凄まじいのだ。
漫画の源の一つである手塚治虫へのリスペクトだけでなく、#2「アドオン」ではゲームの源である『スーパーマリオブラザーズ』を曲にしていて、中村さんは文化の源の持つ可能性を現代に引き出してきているようにも思えるのだ。
■『海賊盤』に至るまでのストーリー
『金字塔』から『対音楽』までは計画性を持ってアルバムを作ってきたとインタビューで語る中村一義。 『対音楽』で自分のキャリアを総括して『金字塔』からやってきたものが一つ終わったとも語っていた。その際、音楽を辞めることも考えたという。そこから先は未知の領域で、新しく犬(魂-ゴン-)を飼い始めたり、海賊のバンドメンバーと出会ったり、新しい生活・新しい音楽が始まる。そうして現在、ナタリーのインタビューで「(酷い家庭環境のもとで苦しかった)幼少の頃の中村くんは消えたのかな」と語っている。
幼少のトラウマを払拭し、新しい仲間とわいわい作った中村さんの新しい音楽は開放的で明るい。
非常に感覚的な感触だが、100sでのキャリアを含めた中村一義のアルバムは、『世界のフラワーロード』まで「高密度→開放的」の順序を繰り返してきた。
『金字塔』(1997年)→高密度
『太陽』(1998年)→開放的
『ERA』(2000年)→高密度
『100s』(2002年)→開放的
『OZ』(2005年)→高密度
『ALL!!!!!!』(2007年)→開放的
『世界のフラワーロード』(2009年)→高密度
そして、2012年の『対音楽』は前作から連続して高密度のアルバムだった。本作の開放的な明るさは、二連続した高密度アルバムの反動と捉えることもできるのではないだろうか。
「スカイライン」のコーラス部分をライブハウスで観客のものを録音(その模様は付属のDVDで観ることができる)。『世界のフラワーロード』でも観客の声を入れた箇所はあったが、コーラスという音楽的に大事な箇所を観客に任せてしまうあたりにも、本作の開放的なモードは現れている。
■おすすめ曲は?
リード曲の#1「スカイライン」が間口が広くておすすめできると思う。バンジョーの音色が心弾む気持ちにさせる王道のバンドサウンドの曲。でもこの曲、即効性がある割に幾度か聴かないと魅力が半分も分からないスルメソングだったりもするので、ピンとこなかったとしても、最低でも3度は聴いてほしいと思う。
#9「ビクターズ」もおすすめだ。「Victor」とは「勝利者」の意味で、レコード会社をビクターに移籍する前から曲名の構想があったというこの曲。「みんな!『この世』っていう場にさ、集まれた?」というラインでグッとくる。
ボーナストラックの「魔法をかけてやる!!」も、ライブ会場で録音され、アコギ一本の伴奏と一緒に歌われる佳曲だ。クリアーな音響とアコギ一本のシンプルな伴奏により、メロディと歌詞の良さが浮き彫りに。良い具合に歌声にエコーがかかっていて、力強い歌声が温かさを帯びて気持ち良い。観客との一体感が本作のムードを象徴していると思う。
■拍子抜けもしたけれど最高のアルバム
最初に聴いた時は、サウンドが抜けたように開放的で拍子抜けした。人生を凝縮したような曲を作ってきた今までの中村一義はどこに行ったのか?と。今までの人生の長さを凝縮した一曲を作ってきた中村一義が、生きる今の一瞬の楽しさを歌っている。
だが、何度も聴いてみると、これが中村さんの新しいモードであり、そしてそのモードは自分が好きな類のものであることが分かってきた。自分を律しながらも、海賊が口笛を吹くようにあふれだす感情に身を任した享楽的なサウンドを奏でている。本作の#5「世界は笑う」にも「『バカ』の中に、『笑い』は眠るんだ。」という歌詞があるが、過去作(『ALL!!!!!!』収録)の「そうさ世界は」の「Do The バカ To The World」を『ALL!!!!!!』時代よりも心の底から実践している。
そして、今までのアルバムと同様、大切なことを大切に歌っているこのアルバムも、自分にとって大切な一枚になる予感がしている。生きることの喜びを全身で受け止めるようなこのアルバムがたくさんの人に聴かれてほしいと思う。
Score 7.0




