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2010年代邦楽ベストアルバム 30位→1位

2010年代の邦楽ベストアルバムの30枚を選んでみました。

本連載(2010年代邦楽ロック名盤アルバムを真剣レビュー)の総括的な記事になります。

それでは、30枚を一挙にカウントダウン!


【30位】RADWIMPS『人間開花』(2016年)

ゼロ年代のラッドウィンプス、つまり『アルトコロニーの定理』(2009年)まで、僕は熱烈なラッドのファンだった。


2010年代のラッドは初期衝動を完全に失ってしまったように僕には思える。ゼロ年代のラッドはハートが最初にあったけれども、2010年代のラッドは頭が最初にある感じとでもいえばいいだろうか。


それでも、2010年代もたくさんの良曲を届けてくれた。ラッドから良曲を引き出してくれた新海誠監督に感謝しています。中でも、本作収録の「スパークル」は映画の情景が思い浮かぶ名曲です。


【29位】笹口騒音オーケストラ『TOMORROWISLAND』(2016年)

うみのて等4バンドを率いる笹口騒音のバンド「笹口騒音オーケストラ」の音源。BeirutやArcade Fireの音楽性を下敷きにしながら、それらよりも強度な歌心を持った「うた」にしてしまっている。「僕の家」のトランペットの元ネタがベイルートの「Nantes」そのままで笑ったよ。


冒頭の「トゥモローランド」の祝祭感に引き寄せられるようにして全12曲スルっと聴けてしまう。最後の曲「NEW MUSIC.NEW LIFE」は一人の人生丸ごとを歌ってしまえるような射程を持った曲で感動する。


【28位】andymori『ファンファーレと熱狂』(2010年)

teto、サニーカーウォッシュ、プププランドなど、andymoriに影響を受けたバンドを挙げればキリがない。後続への影響という点からして、andymoriは2010年代で五指に入るバンドだろう。


だが、僕が言いたい彼らの素晴らしさは音楽史的な観点ではない。こんなにも心を揺さぶるロックンロールが今の日本にありますか? 冒頭の「1984」はトランペットも吹かれるおおらかな曲調のロックソングの名曲だ。


【27位】Official髭男dism『Traveler』(2019年)

これまでのJ-POPのクオリティを彼らはこの一作で更新してしまった。ソングライティングやアレンジの一つ一つの機微に、細やかな技巧を感じる。


藤原さんのハイトーンボイスの心地よさ、練り込まれている歌詞、跳躍によって即効性を稼ぐメロディ、複雑な進行だが複雑に感じさせないコードワーク、一つの違和感も覚えさせない演奏、どれも死角がない。


【26位】amazarashi『爆弾の作り方』(2010年)

amazarashiの音楽性は初期から完成されていて、近作に至るまでそれほど変わりがないと僕は考えている。また、音楽的になり過ぎることはなく、あくまでamazarashiの音楽は歌もののフォームを崩していない。となると、歌の良さが肝要になってくる訳だが、僕はその点で本作を推す。純粋で辛辣なメッセージの連なりに胸が熱くなる。


【25位】マキシマムザホルモン『予襲復讐』(2013年)

日本のエクストリームミュージック。メタルを下敷きにしているのだが、メタルを避ける僕でも聴けるポップさとキャッチーさがある。そして、一つ一つの歌に確固たるメッセージ性がある。しかし、歌詞カードを見ないと、分からない歌詞が多いのはマイナスポイント。ただし、歌詞カードを見ながら聴くと、彼らの精神性のエレメンツの一番濃いところを食べさせられているようで、満腹度(満足度)が高い。


【24位】チャットモンチー『告白』(2010年)

前述したandymoriも後続に与えた影響は大きかったが、影響の大きさだけでいったら、チャットモンチーはそれ以上だろう。現在活動しているガールズバンドのほとんどは、直接的・間接的にチャットモンチーの影響を受けている。チャットモンチーの前だったら、プリンセスプリンセスの影響が一番だっただろうから、チャットモンチーの存在はガールズバンドを一気にモダン化した。


チャットモンチーで僕が一番好きな「染まるよ」が収録されている本作。三人だけで音を出し、余計な装飾音のなく、武骨だけど女性らしさも兼ね備えたロックソングが展開されています。


【23位】サカナクション『834.194』(2019年)

2枚組18曲という大作だが、スルっと聴ける。それは、コンセプトが明確であることも理由だろう。一枚目は「東京」(作為的に外に向けて発信していこうという要素が強い作品)、二枚目は「札幌」(自分たちのために作ろうと考えていた、デビュー前の札幌時代のスタンスに近い作品 )というコンセプトで曲が収録されている(日経エンタテインメント!2019.7.より)。そして、東京と札幌の距離である834.194kmがタイトルに使われている。


だが、一曲目に「忘れられないの」を配置したことも、聴きやすさの理由の一つだろう。この80年代AORをモダンにしたような曲は、音や歌唱のカロリーが少なめであり、アルバムを聴く意欲を削ぐことがない。他の曲の配置や構成もよく練られていて、サカナクションの作戦勝ちのアルバムだろう。


【22位】cero『POLY LIFE MULTI SOUL』

2018年はceroをよく聴いた。本作はポリリズムやクロスリズムの譜割りを取り入れ、コードワークも凝っている、音楽的に複雑なアルバムなのだが、不思議な聴きやすさがあった。多層に折り合う魂が入り重なった社会の中で揺りかごに揺れているような感覚とでもいえばいいだろうか。これは僕にとって新感覚だった。


【21位】銀杏BOYZ『光のなかに立っていてね』(2014年)

ノイズの荒波に溺れながら、野太い峯田さんの歌唱が場を支配する。実験的なのだけど、歌として一本の筋が通っている。


異物を取り込んで進化し続けるロックの本質に沿ってノイズを取り入れて銀杏BOYZとしてネクストレベルへ進化した本作の革新性にシビれる。その一方で「ぽあだむ」というノイズの実験性に頼らないアンセミックな名曲を収録しており、ノイズのまどろみの中で光を見たような気分になってグッとくる。


【20位】リーガルリリー『the Post』(2016年)

本作に収録されている「リッケンバッカー」に一目ぼれ(一耳ぼれ?)。どんなに良い曲を演奏していても、「僕のバンド」と捉えられないバンドが多い中で、リーガルリリーは「リッケンバッカー」の一曲で「僕のバンド」になった。自分ごととして捉えられるバンドということね。本作収録曲では、ボーナストラックの「蛍狩り」も好きだ。


リーガルリリーは即効性に頼らない曲を多く作っているが、即効性のある「リッケンバッカー」のような曲をもう一度作ってほしい。「リッケンバッカー」は即効性があるだけではなく、「うた」としての強度もあった。歌ものロックが好きな方はぜひ「リッケンバッカー」を聴いてほしい。


【19位】羊文学『若者たちへ』(2018年)

リーガルリリーは「リッケンバッカー」の一曲で「僕のバンド」となったが、羊文学は本作品収録の「Step」の一曲で「僕のバンド」となった。あとは、他作品収録の「1999」「マフラー」が好きだ。リーガルリリーに「リッケンバッカー」を超える「うた」を作ってほしいのと同等以上に、羊文学にはこれらの三曲を超える「うた」を作ってほしい。


もちろん、本作には「Step」以外にも良曲がたくさんある。シューゲイズでノイジーなギターに魅せられたかったら、本作を聴いてほしい。


【18位】SAFETY SHOES『RISING』(2011年)

SAFETY SHOESの桜井敏郎さんはコナミの音楽ゲームの礎を築いたパイオニア。コナミを退社した後、バンド"SAFETY SHOES"を結成。その後、今はソロで活躍している。歌ものとして強度のある、リスナーの琴線に触れるポップスを演奏し、渋谷クアトロで何度か演奏したこともある、知る人ぞ知るポップス界の良心だ。


ポップな歌ものを聴きたかったら、SAFETY SHOESと桜井さんを聴いてほしい。どんな冴えない日常も、胸を打つカラフルなポップスに彩られて明るい気持ちになれることを保証します。降り注ぐ太陽のような温かい曲があなたを待っています。


【17位】ゲスの極み乙女。『両成敗』(2016年)

そのスキャンダルとあわせて、時代のアルバムとなったアルバム。めくるめくポップな聴き心地とセンチメンタリズム。川谷絵音の声に含まれる憂いがセンチメンタリズムを倍増させるんだよなー。


ゲス極の曲に含まれるセンチメンタリズムと性急な切迫感は他のバンドでは聴けない類のものだ。楽しい音楽に落とされる一筋の影。その影が含んでいる切実さとカルマを聴きたくて、これからも僕は彼らの音楽を聴くのだろう。孤独や愛着や違和感といった根源的な感情で内省して揺れる自己を昇華するように響く、あの天上へ響くようなファルセットを求めて。


【16位】大森靖子『絶対少女』(2013年)

『ミュージック・マガジン』の「2010年代オールジャンル・アルバム・ベスト100」と『とかげ日記』の2010年代ベストアルバムでかぶっているアルバムは本作だけ。なんというか、『ミュージック・マガジン』は音の良さを重視し、「うた」の強度をそれほど重視していないように感じる。


本作は『ミュージック・マガジン』の評論家のような玄人リスナーも、進取の気性に富んだアーティストが作る「うた」が好きなリスナーも満足させる作りだ。本作収録の「ミッドナイト清純異性交遊」は何度聴いたことか分からない。ここには、本物の「うた」がある。


【15位】GEZAN『Silence Will Speak』(2018年)

本作の前半には殺伐とした雰囲気のハードコアな曲が収録され、後半には優しげなロックソングが収録されている。そして、僕は後半に強く惹かれた。ハードコアの曲も収録されているアルバムだからこそ、後半の曲の優しさが映える。寒さの厳しい雪原に咲く一輪の花のように。本作は緩急ついていると思う。


ハードコアのような非日常の世界の後に日常を慈しむような曲が聴こえてくる。前半の怒りやヘイトのシャウトを聴いて灰色にこんがらがった気持ちが、後半の優しげな曲で解錠され、胸に温かい気持ちが残る。この本作の意図に感嘆する。


【14位】転校生『転校生』(2012年)

おぼろげな不安を運ぶようなピアノ。一方で、楽しい夢を見ているシンセサイザーの音色。曲を前に進める軽やかなリズム。そのうえにクリアーで天使のような歌声が乗る。それぞれの音の響きは柔らかな水面のように研ぎ澄まされている。


聞こえてくるのは、諦念と希望の中間地点で鳴らされる音。周りに馴染めないストレンジャーとしての自分を綴る歌。空気に溶け込めない自分の心を薄めた青い空のような歌。周りに馴染めないのは僕も同じだ。転校生の歌は、誰かを励まそうとするようなベクトルを持っていない。ただ静かに宙に横たわる歌。だが、私と同じだ、僕と同じだと思う人が熱心に耳を傾ける。


【13位】きのこ帝国『愛のゆくえ』(2016年)

アルバムジャケットのような透き通った淡い色調の作品。初期の曲「ユーリカ」の濁って汚れた世界から随分遠くまできのこ帝国は来たものだ。僕は「ユーリカ」のような実存を濃厚にぶちまけている曲のファンなのだが、「ユーリカ」収録のアルバム『eureka』で素晴らしい曲は「夜鷹」と「ユーリカ」だけではないですか。本作『愛のゆくえ』は総合力で『eureka』に勝るアルバムだと思い、『eureka』ではなく『愛のゆくえ』をランクインさせました。


『タイム・ラプス』(2018年)も良かったけれども、実験性のよりある本作の方が好みです。シックなR&Bの「LAST DANCE」と淡いレゲエの「夏の影」は何度聴いたことか分からない。 「夏の影」を聴くと、ここには知らぬ顔で通り過ぎることのできない切実な何かがあると感じる。


【12位】MOROHA『MOROHA Ⅳ』(2019年)

エモーションを直に伝えてくるようなUKのアコギの音色。前作からのアコギで鳴らすパーカッションは#1「ストロンガー」において更に進化している。変わらず頑張っているアフロのラップ。その歌心はリスナーに情景を伝えてくる。


彼らの作品の熱に感化される人も多いだろう。人を動かす力のある作品だ。シラけている人を動かすだけの熱さが彼らの作品にはある。「がむしゃら」という言葉が廃れた時代に、本気でがむしゃらな男二人がここにいる。


【11位】フジファブリック『MUSIC』(2010年)

先代のフロントマンである志村正彦の死後に作られ、志村さんの曲が入っている最後のアルバム。そういった経緯もあり、悲しさなしには聴けない。様々な表情の志村さんの最後のメロディと歌唱が聴ける。志村さんは死を予期していたはずはないのに、「Bye Bye」や「眠れぬ夜」という死のメタファーのような曲がある。その符号の一致は僕をますます切ない気分にさせる。


志村さんの死後のフジファブリックには、志村さんの死をコンテンツ化して利用しているような違和感を覚えていた。だが、最近になって「若者のすべて」が人気曲になっているという話を聞き、志村さんの残した曲が多くの人に知られることは、彼にとって一番の供養になるのではないかと考えを改めた。志村さんの作った曲が一人でも多くの人に聴かれることを僕も願っている。


【10位】YAOAY(a.k.a,笹口騒音)『名曲の描き方』(2019年)

一曲目の「名曲の描き方」を聴くだけで日常の喧騒をシャットダウンできる。静けさの深淵に通じる世界へ連れて行ってくれる。日常と世界を鋭い批評眼とユーモアで切り取り、笹口さんの表現論にも繋がる奥の深い作品だ。YAOAY名義の三作品では、この作品が一番コンパクトに笹口さんの言いたいことが詰まっていると思うので本作品を推します。


笹口さんソロの音楽的な魅力は、幅広い曲想を描き分けるソングライティングの巧みさ、綺麗にファルセットがかかったボーカル、歌詞から情景を浮かび上がらせる力があるギターとピアノの美しい響きにある。あなたもぜひ笹口さんのソロ作品を聴いてみて!


来年は笹口さん率いるうみのて、太平洋不知火楽団、NEW OLYMPIX、笹口騒音オーケストラの4バンドが音源を発表する笹口イヤー! 僕もとても楽しみにしています。


【9位】中村一義『対音楽』(2012年)

2010年代の中村一義では、『海賊盤』よりも『対音楽』を推します。バンド"海賊"による軽快な演奏も良かったけれども、一人でベートーベンの音楽と向き合って作った『対音楽』の濃密さには負けると思う。


前作の傑作『世界のフラワーロード』(2009年)は、中村一義の生まれ育った街(小岩のフラワーロード)を舞台として、父の暴力や家庭の崩壊を受けて苦しかった中村一義の子供時代を振り返って祝福するアルバムだった。それに対して、『対音楽』は一枚のアルバムを通して、ベートーベンの濃密な人生を追体験できるアルバムとなっている。


このサブスクの時代にあって、コンセプチュアルなアルバムこそ、アルバム全曲が聴かれるために必要な仕掛けではないかと思う。サブスクでは通常一曲ずつ聴くけれども、コンセプトアルバムなら全曲聴いてみようかという気になるからね。


【8位】NEW OLYMPIX『2020』(2016年)

笹口騒音さん率いるバンドの一つ。「踊っているのはお前じゃなくて 踊らされているのがお前だよ」(「NO MUSIC. NO DANCE)などの辛辣な歌詞は、嘘と欺瞞にあふれた世界のリアルを暴く。バンドの演奏も一つのスタイルを確立していて録音芸術の何たるかを教えてくれる。


この混沌を極めた音は、90年代後半のRadiohead『OK Computer』やMassive Attack『Mezzanine』の暗く閉じた音像を現在にアップデートし、さらに未来の先鋭的な音楽を幻視させる音に聴こえる。本作に収められているのは、暗いのに明るい、閉じているのに開いている、不思議な矛盾をはらんだ楽曲群だ。


オルタナティブロックが好きな方はぜひ聴いてみてくださいね! 上に掲げた「NO MUSIC. NO DANCE」の動画はドラマの逃げ恥などをパロっていて笑えるので、くすりと笑いたい方もぜひ動画をクリック! 僕の2010年代ベストMVです。


【7位】くるり『THE PIER』(2014年)

2010年代のくるりのアルバムから選ぶのなら、『THE PIER』一択だと思う。『坩堝の電圧』(2012年)はカオスにとっ散らかっていて五回目聴くぐらいまでは感激するけど、それ以降はやはり混沌よりも美しいくるりを求めてしまいたくなるから。その他2つのソングオリエンテッドなアルバムは、くるりの音楽に対するラディカルな姿勢が乏しいように思う。


今までエレクトロ・UK、USロック・ジャズ・クラシックなどを音楽のエッセンスとして取り入れてきたくるり。『THE PIER』では中東、東欧に伝わる伝統音楽を取り入れ、シターラ、ギターラ、サズなど民族楽器をふんだんに使っている。くるりの音楽は節操がないくらい、音楽に対して貪欲だ。そして、視線は常に日本と世界を向いている、音楽家としてあるべきミュージシャンだと思う。


【6位】SEKAI NO OWARI『Tree』(2015年)

歌ものセカオワの最高峰アルバム、それが『Tree』。ヒットシングルが惜しみなく収録されているし、どの曲もポップでキャッチーな歌ものの名曲だ。


マーチングバンド式のサウンドをポップスにしたのは、これまでも例があるのだろうけど、僕にとっては新鮮だった。楽しくも死や危険と隣り合わせにある危うい世界の魅力に取り憑かれ、今日も僕はセカオワを聴いている。


今の世の中は、SNSによって人々の本音が可視化され、様々な対立も起きている。そして、この世界は徐々に寛容でなくなってきている。中道は危機に瀕している。セカオワの「Dragon Night」は対立のどちらの側にも正義を認め、一夜だけ友達になれると歌う。そして、「コングラッチュレーション」と歌い、その一夜を祝福するのだ。


セカオワの「Dragon Night」が流行った2015年、人々の間で半ばふざけながら「ドラゲナイ」と言うのが流行ったのは、より深刻化していく対立へのアンサーソングだったのだ。これほどアクチュアルな歌が2010年代にあっただろうか。


【5位】毛皮のマリーズ『ティン・パン・アレイ』(2011年)

管弦楽器を大きくフィーチャーしたチェンバーポップの傑作。どの楽器のパートも美メロで響きが美しく、心に訴えかけてくる。これほど愛にあふれた作品は世界で数少ないと思う。細部にまで愛は張り巡らされ、とんでもなくウェルメイドなアルバムになっている。


大人という存在はそこまで頼れないということが社会で可視化され、大人や社会への反抗というロックの大きな物語はなくなった。ロックの主な三つの指標であるアウトサイド指標、リアル指標、アート指標のうち、アウトサイド指標とリアル指標はリアルな反抗ができなくなったことをきっかけに指標としての価値を落としている。それでもロックの思想に殉じようとした志磨遼平は、残るアート指標の美しさで、社会の美しくないものに抗おうとしたんですよ。そのリアルな美しさの反抗の記録がこのアルバムだ。


【4位】相対性理論『シンクロニシティーン』(2010年)

メンバー体制変更前の最後のアルバム。真部脩一さんがいた方が音楽全体に華があるという気がしてしまう。もちろん、真部さんと西浦さんがいなくなったアルバムも好きなんだけどね。だから、このアルバムは真部さんとやくしまるえつこという二人の音楽的な主導者がかち合って作られた最後のアルバムでそれゆえにとてもスリリングなんだ。


相対性理論を心を傾けて聴くと、心の中の憎悪がすっと消えていくような気がするのだ。世界にあふれる憎悪さえも薄めてくれる。それは、やくしまるさんがいつも仮装のファンタジーの中で本音の愛を歌っているからだと思う。


【3位】うみのて『21st CENTURY SOUNDTRACK』(2015年)

2010年代に現れた二人のロッカーの天才。それは神聖かまってちゃんの"の子"とうみのての笹口騒音。常識破りのエキセントリックな音楽性で、それまでのお行儀良いロックの様式を破壊していく。


本作は、エキセントリックな前作に比べ、「歌」の比重が大きくなっている。冒頭の「恋に至る病」のギターの音響の連なりにうみのて第1期の最後の叫びがこだまする。うみのて第1期は、笹口騒音さんと高野京介さんの二人のギタリストの個性のぶつかり合いがスリリングな音像を生んでいた。うみのては第2期として復活したが、うみのてでの高野さんのプレイはこの第1期でしか聴けない。


来年は笹口さんの4バンドが音源を出す笹口イヤー! うみのての音源が楽しみすぎる。新メンバーも若い才能が爆発していて、うみのての音楽をますます色鮮やかに染める。


【2位】ふくろうず『砂漠の流刑地』(2011年)

人は心震わせて誰かを好きになることもできるし、誰かに寄り添ってもらって生きることもできる。ただ、一人一人の中にある心は「わたし」という牢獄に閉じ込められている囚人なのだ(小説家の高橋源一郎が言っていたことを僕なりに咀嚼して書いています)。自分の隣にいる、これもまた牢獄に閉じ込められている「わたし」と心を通じ合わせるために言葉がある。


ふくろうずの歌は牢獄に閉じ込められた「わたし」を音楽の中で解放する。あなたは一人だと歌いつつ、孤独を慰めてくれる音楽を僕はふくろうずの他に知らない。安易な慰めではなく、たぎるような熱さで人生を歌ったアルバムだからこそ、牢獄の底にいる僕までその音楽は手が届くのだ。時代は流れ、正しさは変わっても、このアルバムの愛は永遠だと思う。


【1位】神聖かまってちゃん『友だちを殺してまで。』(2010年)

神聖かまってちゃんの「ロックンロールは鳴り止まないっ」という曲は、ロックンロールは意味に回収されないことを歌った歌だ。この曲の主人公は駅前のTSUTAYAでビートルズとセックスピストルズを借りる。しかし、「何がいいんだか全然分かりません」。


その後、夕暮れ時に部活の帰り道でまたビートルズとセックスピストルズを聴くと何かが以前と違う。「MD取っても、イヤホン取ってもなんでだ全然鳴り止まねぇっ」。「なんでだ」と言って鳴り止まない理由を分かっていない。


時が過ぎ、この曲の主人公はギターを持ち、それを掻き鳴らし、吐き出すように歌を歌い始める。近くや遠くにいる「君」に向かってギターを鳴らす。その時、「君」が曲の意味が分からずとも、「ロックンロールは鳴り止まないっ」と主人公は言う。


意味が分からなくても、ロックンロールは鳴り止まない。この曲にあるのは、熱だ。「ロックンロールは鳴り止まない」と歌う最後(「今!」)まで、時間が経つにつれて曲の体温は上昇していく。ロックンロールと同様、熱も意味に回収されない。皮肉家はちゃかすが(それも大切)、熱くなるのに意味などいるものか。の子が「do da」と歌うのは、意味のある言葉では熱を語ることはできないからだ。


TOWER RECORDで『友達を殺してまで。』がパワープッシュされていて、1曲目のこの曲を聴いてすぐに、僕はレジに直行した。意味に疲れた僕にとって、この曲は意味の世界を超えた何かがあった。理性ではそんなことを考えていなかったが、直感がそれを悟ったのだと思う。


中学生の時にスピッツに出会って音楽が大好きになった時期を第一次音徴(性徴ではなく"音"徴)とすると、社会人になって神聖かまってちゃんに出会って音楽ブログを書くようになるくらい音楽にのめり込むようになった時期は第二次音徴だろう。つまり、神聖かまってちゃんはスピッツに続いて二回目の音楽的な革命を僕の耳にもたらしたのだ。


神聖かまってちゃんに出会ってなかったら、『とかげ日記』(このブログ)もなかったし、音楽から離れていたかもしれないなー。今の自分と密接に繋がっている神聖かまってちゃん。彼らの音楽を愛することは、今の自分を愛することにも繋がる。僕とファンはほどけないアイデンティティーの鎖で神聖かまってちゃんと繋がっている。でも、の子は誰よりも自由に生きたいと願っているから、そんな鎖なんて引きはがして思いのままに音楽を紡いでいくのだろうな。


でも、僕らみたいなディープなファンでなくても、かまってちゃんの音楽は楽しめると思います。かまってちゃん初心者にはベストアルバムと『ツン×デレ』『英雄syndrome』あたりのポップなアルバムをオススメしますよ!


以上、ベストアルバム30枚、いかがでしたか?

気になった音源はぜひ聴いてみてくださいね!


★2010年代ベストアルバム(邦楽)30位→1位★


【1位】神聖かまってちゃん『友だちを殺してまで。』(2010年)

【2位】ふくろうず『砂漠の流刑地』(2011年)

【3位】うみのて『21st CENTURY SOUNDTRACK』(2015年)

【4位】相対性理論『シンクロニシティーン』(2010年)

【5位】毛皮のマリーズ『ティン・パン・アレイ』(2011年)

【6位】SEKAI NO OWARI『Tree』(2015年)

【7位】くるり『THE PIER』(2014年)

【8位】NEW OLYMPIX『2020』(2016年)

【9位】中村一義『対音楽』(2012年)

【10位】YAOAY(a.k.a,笹口騒音)『名曲の描き方』(2019年)


【11位】フジファブリック『MUSIC』(2010年)

【12位】MOROHA『MOROHA Ⅳ』(2019年)

【13位】きのこ帝国『愛のゆくえ』(2016年)

【14位】転校生『転校生』(2012年)

【15位】GEZAN『Silence Will Speak』(2018年)

【16位】大森靖子『絶対少女』(2013年)

【17位】ゲスの極み乙女。『両成敗』(2016年)

【18位】SAFETY SHOES『RISING』(2011年)

【19位】羊文学『若者たちへ』(2018年)

【20位】リーガルリリー『the Telephone』(2018年)


【21位】銀杏BOYZ『光のなかに立っていてね』(2014年)

【22位】cero『POLY LIFE MULTI SOUL』(2018年)

【23位】サカナクション『834.194』(2019年)

【24位】チャットモンチー『告白』(2010年)

【25位】マキシマムザホルモン『予襲復讐』(2013年)

【26位】amazarashi『爆弾の作り方』(2010年)

【27位】Official髭男dism『Traveler』(2019年)

【28位】andymori『ファンファーレと熱狂』(2010年)

【29位】笹口騒音オーケストラ『TOMORROWISLAND』(2016年)

【30位】RADWIMPS『人間開花』(2016年)

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