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Official髭男dism『Traveler』(2019年)

●イマドキであるし、普遍的でもある音楽


ボーカルの藤原さんの華のあるハイトーンボイスと、ファンク色やブラックミュージック色の強いカラフルなポップスでブレイクしたOfficial髭男dismヒゲダンのメジャー1stアルバム。


スピッツでいったら『ハチミツ』、ミスチルでいったら『Atomic Heart』を彷彿とさせる、今が旬の音が鳴っている。


聴いていると、何より楽しい! 一曲目の「イエスタデイ」からエンジンはフルボリューム。ヒゲダンは音楽で人を楽しませることを心得ている一流のエンターテイナーだ。


「イエスタデイ」に以下の歌詞がある。


--------

何度失ったって 取り返してみせるよ

雨上がり 虹がかかった空みたいな君の笑みを

例えばその代償に 誰かの表情を曇らせてしまったっていい

悪者は僕だけでいい

(中略)

遥か先へ進め 身勝手すぎる恋だと 世界が後ろから指差しても

振り向かず進め 必死で 君の元へ急ぐよ

道の途中で聞こえたSOSさえ気づかないふりで

----------


僕はこの箇所を聴いて、映画『天気の子』を思い出した。『天気の子』も、恋人を守るためならその他が犠牲になっても良いという話だった。


空気に逆らえない「いい子ちゃん」が若い子たちの間で増えているから共感を集めているのかもしれない。かく言う僕も30代だが、周りの目や空気を気にしながら生きている。周囲を振り返らないで恋にひた走るということの一途さがこの曲に託されていて、そのまっすぐさに共鳴する人が多いのだろう。


King Gnuキングヌーはサザンの後継で、ヒゲダンがミスチルの後継なので邦楽は安泰だとする意見をネットで見た。だが、King Gnuはサザンより分かりにくい音楽だと思うし、ヒゲダンはミスチルみたいに悩める自画像を歌ったりはしないと思う。あと、僕に関して言えば、ミスチルは感情移入して気持ちを預けながら曲に酔って聴けるけれども、ミスチルよりもウェットではないヒゲダンでは曲に酔えない。しかし、それは世代の違いなのかもしれない。今の若い子ならヒゲダンに感情移入して曲に酔いながら聴けるのだろう。ヒゲダンの音楽には、今の時代の若者の多くに共通する爽やかなバイブスが鳴っている。


僕がヒゲダンを好きな理由の一つは、熱血だけど、暑苦しくなくサッパリしているところだ。「できっこないをやらなくちゃ」(サンボマスター)と他人の自由に干渉し始めたら、途端に曲は暑苦しくなる。他人と自分との境界線を守りつつ、自分は「宿命」を燃やすだけだと歌うのが、説教臭くなくて良い。そして、その熱血さで「Stand By You」と歌い、君と共にいるよとメッセージを送るのが素敵じゃないですか。


サンボマスターも一部の曲は大好きだけどさ。ロック一辺倒にならず、ブルースやソウルを織り混ぜる屈託が良いよね。


ヒゲダンの音楽には屈託が感じられない。どこまでも真っ直ぐで、その屈託のなさが現在的。よくヒゲダンと比較されるスピッツにもミスチルにも屈託はあるからね。屈託はないけれども、切なくて楽しい新感覚のポップスを鳴らすバンドとして僕はヒゲダンを評価している。


歌詞も聞き取りやすいし、情景が浮かびやすい曲が多い。「Pretender」は、本当は気がないのに女性と付き合っている主人公の姿が透けて見えるし(男性同性愛者が女性と付き合っている歌だとする解釈もあった)、「ラストソング」は、ライブハウスやコンサートホールでファンに贈る最後の歌だという情景がすぐに浮かんでくる。


メインのソングライターである藤原さんではなく、ギターの小笹さんとベースの楢﨑さんが作詞作曲し、それぞれの曲でボーカルを取るというのも一つのトピックだ。小笹さん作の「Rowan」は、PUNPEE、JJJ、KANDYTOWNなどを手掛けるThe Anticipation Illicit Tsuboiとの共作であり、 ヒップホップを意識したR&Bのトラックになっている。こういったヒップホップへの目配りも、新世代のバンドならでは。 楢﨑さん作詞作曲の「旅は道連れ」では楢﨑さんの美声が響き、他のメンバーも肩を組みながら歌うかのような陽気で牧歌的なナンバーで楽しませてくれる。


また、打ち込みと生録のバランスも非常に自然であり、現代の音楽という印象を受ける。特に「Pretender」の生録と打ち込みの仕方が素晴らしい。打ち込みに演奏を合わせたり、同期したりするには、かなりの技量が必要なのだが、完全にモノにしている。生録の演奏と打ち込みの両方をとんでもなく自由に使えるのがヒゲダンというバンドなのだ。


同時期にブレイクしたKing Gnuが隙を見せず、クールを貫徹した音楽なのに対し、ヒゲダンは悩みをにじませながら、隙も見せている音楽なのも良い。「イエスタデイ」では、「本当はいつでも誰とも思いやりあっていたい でもそんな悠長な理想論はここで捨てなくちゃな」と、現実と理想の間で揺れ動く心情を吐露している。しかし、その悩みを超える明るさとポジティビティーを音楽で鳴らし、最終的には上と前を向いているのも素敵だ。


既に配信されたりシングルになったりしている曲はどれも最高だし、オリジナル曲にも外れがない。この精度で曲を作り続けている彼らは、まさに邦楽界のトップランナーといって良いだろう。あらゆる人にオススメしたい。


Score 8.3/10.0

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