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不可思議/wonderboyのこと

●その深度と密度


2010年代もそろそろ終わろうとしているが、2010年代を語る上で僕にとって大切なポエトリーラッパーについて書きたい。


今年の6月、それまでYouTubeで観るだけだったけれども、不可思議/wondeboyの遺作を買った。他のクリエイターの方がプロデュースしているサウンドには新しさや面白味は感じないけれども、彼のラップはまっすぐ過ぎるくらいにまっすぐだ。最短距離の直線で僕の心を捉える。


サブスクでは聴けなかったので、その後に彼の他の音源二つも入手し、コンプリートした。リスナーの心をエグってくるような本音のラップ。そのリアリズム。そして、銀河に鉄道をかけようとするファンタジーで理想主義的な詩情。彼の音源には、他のアーティストにはない何かがある。そう思わずにはいられない。


日に日に彼の存在は僕の中で大きくなっていく。彼が生きている頃に出会っていたかったと思わずにはいられない。しかし、その後の彼の死を耐えられなかったかもしれないと思うと、彼の死後に彼の音楽に出会って良かったのだと思う。フジファブリックの志村さんの死も未だに受け止め切れていないんだよ、僕は。


「本物」や「オリジナリティ」の存在を作品で茶化しながら、誰よりも不可思議/wonderboyは本物だった。彼が作品のラップの世界の中へ入り込む、その深度と集中力が格別だから、リスナーの僕らも夢中になって彼の作品を聴かざるを得ない。


人生も性もテーマにする彼のラップにはコンドームから迷宮までを繋ぐ独創性と自由があった。リスナーの僕の分裂していた心のかけらが繋ぎ合わせられるような密度の濃さがあった。


そう、彼のラップは生きる力を僕にくれる。彼の言葉の弾丸に貫かれ、その攻撃性に心をエグられ取られながらも、励まされているような感覚になる。彼は安易な励ましの言葉は用いないが、彼がラップの世界に入り込む、その真剣な深度を聴いていると、自分も自分の人生に深く入り込まなければいけないという気分になるのだ。「〜しなければいけない」というような義務感の押し付けからは彼の自由なラップはかけ離れているけれども、人生に強くコミットしなければいけない気分になる。


彼の名曲「Pellicule」で「二人だけで話そう」とラップされると、もう故人の彼と二人で飲みながら話しているような思いになる。この曲でラップされている「俺たちっていつかさ、結婚とかするのかな/子供とかできてさ/庭付き一戸建てとかをローン組んで買ったらできた気になるかな」という未来の可能性。だが、その可能性はその後の死によって否定されたことを思うと、やり切れない。だが、僕も彼のラップの密度の濃さくらい、人生を生き抜こう、そう思えるのだ。


言葉に魂を吹き込み、言葉に魂が宿る。文字通りの魂のラップ。彼のラップの言葉はこんなにも(ぬく)い。荒涼とした人間関係に疲れ果てた時に、こんなにも僕は彼のラップを求めている。彼のラップには真心がある。温度がある。歌心がある。彼の熱情に、こんなにも僕の心は感化されている。


ポエトリーラップの世界では最重要人物だと思う。それどころか、歌詞の伝え方の強度という点で、彼の音楽は邦楽の歴史に残る達成なのではないかとさえ思う。僕は不可思議/wonderboyの音楽を携えてこれからも生きていくだろう。日々の螺旋階段を駈け上がり、駆け下りていった、彼のそのスピードをこそ、僕は愛している。

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