表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/127

BUMP OF CHICKEN『aurora arc』(2019年)

●『orbital period』以前のバンプに戻ってほしい


バンプオブチキンを好きなファンは、『orbital period』(2007年発表)以前を好きなファンと以後を好きなファンに大別できると思う。僕は『orbital period』以前のバンプが好きなファンだ。


インスト曲の#1「aurora arc」は良かった。オーロラの光の層の連なりのように、エコーがかかったギターのアルペジオのクリーンで透明な音の連なりが聴こえてくる。そこに重なっていく鍵盤の音。美しくてため息が漏れる。


#2「月虹」は、ギターリフがアイリッシュなギターロック。ギターロックだけど、熱い下北系ギターロックを鳴らしていたあの頃のバンプとは違うスケール感がある。


その後も、四つ打ちのリズムの#3「Aurora」や、中盤から中音の電子音が曲に締まりを与える#4「記念撮影」と進んでいくが、昔のバンプからスケール感が上がった代わりに失ったものを考えていて集中できない。


#5「ジャングルジム」。アコギ弾き語りの曲で、これは少しだけ昔のバンプを彷彿とさせる熱がある。


そうして曲は進んでいくが、昔のバンプのような胸を熱くさせる演奏や歌詞はその後にはなかった。


『FLAME VEIN』が発売されたのは1999年で、『THE LIVING DEAD』が、発売されたのは2000年だが、この頃のバンプには演奏からはみ出してしまうほどの熱があった。今に比べて演奏技術も未熟なのだが、聴く者を熱く燃え上がらせるサムシングがある。勢いで切実さを表現している、生き急いでいる性急感がたまらない。


渋谷のタワレコで『THE LIVING DEAD』をジャケ買いした僕。聴いてみたら、そこには世界があった。どの曲もそれぞれの輝きを放っていて、意思と熱さがあった。中でも、「ベストピクチャー」は一番のお気に入りだ。「ねぇ 僕ここで生きてるよ まだ絵を描いてるよ/ここからは何が見えるの? 僕が描かずにいられない景色!」「ねぇ ほら 見てくれよ! 生きてるんだよ?/だって 絵を描いてるんだぜ!? あなたにも見えるでしょう?」この曲の主人公が生きる理由は絵を描くことだが、バンプが生きる理由は音楽を演奏することだよと言えるような純粋な熱さや生きることへのまっすぐな意欲がこの頃の演奏にはあった。


その後、『jupiter』(2002年)、『ユグドラシル』(2004年)、『orbital period』(2007年)と、アルバムを重ねるごとに演奏が上手く巧みになっていくが、この頃のバンプにも熱さはあった。歌詞が情景を描く力が凄まじい。歌詞が頭にスッと入り、光景を描く。


斜に構えた視点を持ったそれまでのサブカルと違い、バンプはベタに音楽でリスナーの世界を変えるという「物語」を信じ、力強く生きることをまっすぐに歌ったから、その音楽で救われた人も多かったはず。中村一義とバンプの登場をリアルタイムで経験し、当時高校生の僕はそのまっすぐさに心を鷲掴みにされたのだ。


しかし、『COSMONAUT』(2010年)以降のバンプのソングライティングは変わってしまったよ。なんというか、歌を形作るフォルムが変わってしまった。疾走する曲もスローな曲もメロディがポップではなく即効性がない。歌詞に情景を描く力もあるとは思えないんだ。抽象的な言葉の羅列が空を切る。


10年代のバンプオブチキンは満たされてしまったんじゃないかな。この温かさは今のぼくには必要ない。もっとパンチのあるヒリヒリした音楽が聴きたくて、神聖かまってちゃんやうみのてを聴いている。


だけど、#13「新世界」は良かった。次点で#10「アンサー」も良かった。「新世界」は思いっきり、ポップのベタに寄せてきた。タイアップしているCMに合わせたのだろうか、「ベイビーアイラブユーだぜ」というコーラスもベタだ。歪んでないキラキラしたギターの響きが視界を前に上げさせる。


これからのバンプが僕にとって良いバンドになってくれるには、二つの未来の世界線がある。一つは、『orbital period』以前のバンプに戻ること。これは今のバンプの進路上無理だろう。もう一つは、「新世界」「Butterfly」「ray」のようなポップのベタに寄ったキャッチーな曲を作ること。『Butterflies』では「Butterfly」の一曲だけ良かったし、『RAY』では「ray」の一曲のみ良かった。このようなポップでキャッチーな曲をアルバム一枚通して聴いてみたい。


『orbital period』以前が好きなのに、今もバンプを追いかけているのはなぜかって? それはバンプが大切なバンドだからですよ。昔のような曲をまた作ってくれないか期待しているからですよ。または、昔とも今とも違う新機軸の良曲を作ってくれないか期待しているからですよ。今のバンプは好きだとは言えないけれども、バンプのことはこれからも追いかけます。


Score 7.0/10.0

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遊道よーよーの運営する音楽ブログ『とかげ日記』です。
音楽を通じて深く何かを考えてみませんか? さあ、一緒に音楽の旅へ…。上記の『とかげ日記』へのリンクをクリックしてくださいね!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ