表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三十路から始める撞球道  作者: 想々
第一章 ビリヤードを始めよう~C級編
9/52

ランチタイム、気持ちの切り替え。

次の試合前のブレイクタイム。

ビリヤード物で「ブレイク・タイム」とか言うとあまり休めそうにないですね。

短いです。


沙樹ちゃんと合流、この後の試合の事も考え、サドイッチとコーヒーで軽めの昼食にする。


「負けちゃいました」


 沙樹ちゃんの第一声がこれだった、2セットは取ったものの2-4で負けたらしい。

 それでも1セットも取れずにスコ負けした自分よりは善戦している。


「それでもまだ敗者ゾーンがあるんで、少しでも残れるように頑張ります」


「フンス!」と言う鼻息の音が聞こえてきそうな位、沙樹ちゃんの闘志は衰えていなかった。


「初参戦ですし負けて当たり前、とにかくいつも通りのプレーができるように、次も思いっきり行きます!」


実に男前な割り切り方だった。

考えてみれば自分も初参戦で他の参加者から見ればルーキーだ、それなのに「普段通りの実力が出せれば勝てた相手だった」とかおこがましいにも程がある。


「大会で出せる実力が本当の実力」って言葉もありますし!


「ゲフゥ!」何気ない沙樹ちゃんの言葉が刺さる。

確かにプロなんかでは練習でどれだけ凄かろうと、試合で勝てなければ意味がない、そういう意味ではプレッシャーのかかる状態で力を発揮できてこそ認められるということか。


「次の試合では自分も勝敗を気にせず、1セットごと集中して強気で行くよ」


 初めからそれができれば苦労はしないんだが、まあこうして飯を食べながら話している内に、なんとなく一回戦の敗戦の悔しさが薄らいで、挑戦者と言う意識が戻ってきた。気持ちの切り替えが出来ただけでも、かなり有難い。


 一回戦の負けを引きずったままの精神状態で次の試合に出ていたら、悲惨な結果になっていただろう。沙樹ちゃんに感謝だ。


 しかし、今、この状況、周りから見たらどう見えているんだろうか。

親子?兄弟?・・・事案ではないので通報するのは勘弁して欲しい。そんな馬鹿な事を考えられる位余裕が出てきた所で、そろそろ時間だ。


 会計はまとめて払った、沙樹ちゃんは「自分の分は出します」と言っていたが、ここは大人らしくまとめてしまおう。

たかだか数百円で恐縮してお礼を言ってくれる沙樹ちゃん、彼女には是非このまま成長してもらいたいものである。


 店を出るとお互いに健闘を約束し、それぞれの店に戻る、次の試合に負ければ今日の大会は終わりだ。

勝っても負けても悔いのないように、ビビらずに思い切って行こう。



_____________________________



 店に戻ってもまだ時間が有るようなので、他の選手の試合を見る。


 やはり皆、基本が出来ていて明らかに初心者とは違う、何より10台有るテーブル全てが埋まっており、周りで見学している人たちも皆ビリヤードプレイヤーという状況が明らかに普段と違う。

 ホームのプレイ人口で言うとビリヤードとダーツでは、ダーツの方が多い。ダーツの台が埋まることは有ってもビリヤードの台が全て埋まることはほとんど無かった。


 改めてこの状況を認識してテンションが上がる。トーナメント表を見ると、いま8番テーブルで対戦している二人の敗者と当たる事になるようだ。


 プレイを見るには遠くてよく見えないが、二人共男性で30代前後のようだ。誰と当たるにせよ思いっきり行くことに決めて居るので、そこまで気にならない。


 試合直後はそんな余裕が無かったが、改めて、よく見える近くのテーブルで対戦している選手の試合を眺めた。全く知らない人の試合を見学するのは新鮮で、これだけでも来てよかったと思える。


 目の前の試合では、良いプレイには客席から「ナイス・ショット!」の声が飛ぶ、またプレイしている選手と同じ店の人だろうか、イージーミスに「ヘイヘイ!」と軽いヤジ、選手も客席に「うるさい(笑)」と笑顔で返している。


「試合慣れ・・か。」


 同じ店から来た人同士で盛り上がっている人達を見て、羨ましい反面「もやっと」した気分になった。


 今回初めて参加する自分と違って、他の選手は大会の「常連」的な人も多いのだろう、プレイ人口の少ない競技で、更に大会にまで出る人は限られている。

同じ店からエントリーする人はもちろん、他の店からエントリーする人でも、大会ごとに顔を合わせていれば顔見知りになってもおかしくない。


 そうしている内に試合の雰囲気にも慣れて、緊張することなくプレイできるようになるのかも知れない。

今目の前で盛り上がっている人達の様に。


 それはいい。


 皆で楽しく盛り上がるのはいいことだ、とても楽しいのも解る。


 問題は、これがC級の試合だという事だ。


 試合で勝ち残り、優勝、それに準ずる成果を上げたり、「実力的にB級でエントリーするのが妥当」と店のオーナー等に判断された場合、「B級昇格」するのが普通だ。

それなのに、C級の試合でこれだけ試合慣れしているという事は、つまりそう言う事なのだろう。


 エンジョイ勢を否定する気は無い、自分もゲーセンではエンジョイ勢だ。

 

 しかし、その中でさえ1セットも取れずに負けているのが、今の自分の実力である。


「大会で出せる実力が、本当の実力」(By沙樹ちゃん)


 まずは1勝、力んではいけないことは解っているが、緊張感を失った方がいい訳では無いだろう。

適度な緊張感と闘志を維持しつつ固くならない、今がまさにそんな感じだ。


 さっきの試合で何がダメだったか考え、自分なりに「次の試合ではこうしよう」という方向性も固まった。それを早く試合で試したかった。


____________________


「コールします、敗者1回戦、プールイチハラ井出選手、クロス・ロード日吉選手、2番テーブルです」


 やっとのことで名前がコールされる。


「はい!」


 負ければこれで終わりだが、だからこそと言うべきか、妙に開き直った気分だった。


 「さあて、自分に出来ることを精一杯やろう、それでダメならしょうがない。」


 一つ深呼吸をし、ゆっくりと敗者ゾーン一回戦のテーブルに向かう。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ