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三十路から始める撞球道  作者: 想々
第一章 ビリヤードを始めよう~C級編
8/52

ゲーム開始、C級一回戦

やっとゲームに入れました。


 一斉ブレイクが終わり、衝撃音が収まった後、一拍置いて会場内の全員から、まばらに拍手が送られる。


 いよいよ、一回戦の始まりだ。


「ふむ」


 ブレイク後の配置を見回す。ブレイクで無事ウイングの8番をポケット、手玉の位置も悪くないが、取り出しの1番はヘッド側の短クッションの真ん中付近、見えてはいるがバンク・ショットしか狙えない。


 ゲームは始まったばかりで相手もC級、残り8球でミスしたからと言って取り切られるという事も無いだろう。まずは肩慣らし、練習通りシュートできるようにキューを出して行こう。


 特に出しは意識せず、思い切ってバンクを狙いに行くが入らず。


「まあ、バンクショットはそう簡単に入るもんじゃない、これからこれから」


 手番を交代して座り、相手のプレーを見る。


 ミスした後の1番はさほど難しく無い配置、2番の位置からして、自分なら撞点左下の順引きで入れに行くかな?そう考えていると。相手がしきりに2番の位置を確認しながら構えに入る。


 コーナーを狙いショット_1番はポケットの角に当たり穴前でカタカタと止まった。手玉の回転と動きからして撞点は左下の順引き(手玉は赤い点が複数入っているドット・ボールなので回転が見やすい)、C級ながら一応捻りも使えるがそれほど精度は高くない、つまり自分と同じ位の実力だと思っていいだろう。


 相手もいつもなら決められるボールなのだろう、首をかしげて不満げな様子だ。


 手番を交代、穴前のボールは入れるのは簡単だが、その分厚みがいい加減になり出しミスすることが多い。慎重に2番への出しを意識してシュート、ワンクッション入れて手玉をテーブル中央付近へ・・・


________________________


 そう簡単に取り切れるワケもなく、お互いに入れたり外したりしながらゲームを進め、何度目かの自分の手番。


 残るボールは6,7,9番の3球、9番はフット側短クッション側の真ん中あたり、7番がその近くの長クッションレール際、6番はヘッドスポットあたりで、手玉は7番がある長クッション側サイドポケットあたり。

 多少入れは難しいが、力加減を間違えずに6番を入れさえすれば、自然と7番にほぼ真っ直ぐ出る配置だ。

 後は7番をストップ・ショットで入れれば9番に出る。つまりこの6番を入れられれば、ほぼこのセットを取る事ができる。


「さて、ここが勝負所だ。」


 実はこの試合に備え、7,8,9番の3球を適当に転がし、フリーボールから取りきるという練習をひたすら繰り返して来た。もちろん回ってきた時そこから全て取り切れれば一番良いが、そう上手くはいかない。


 自分も相手もC級なわけで、簡単な9番を外す事もあるため、勝負は9番を入れるまでわからない。

それでも残り3球以内で簡単な配置や、ファールでのフリーボールが回ってきた時に、高確率で9番まで沈める事ができれば勝率は劇的に上がる。


 今、まさにそう言う配置が回ってきたのである。


 フリーボールでは無いが6番以外の、7番、9番のハイ・ボールが穴前で入れが簡単なのだから、ここさえ取ればいける。

 これは逆にこれを外してしまうと相手に取り切られてしまう可能性も高いと言う事だ。初めての公式戦、初戦の第一ゲームの勝負玉、何だか急に緊張して手が震えてきた。

 テーブルから一歩下がり伸びをする。深呼吸をして落ち着こうとしたが、手の震えは止まらない。


「こういう時は、6番の入れに集中しよう」


 立った状態で慎重に厚みを見る、いつものルーティーン、右足の位置を決め、肘を固定し素振りを2回、それから体を前に倒し構えに入る。

 撞点は上、捻りは無し。的球の6番がコーナーポケットに向かうイメージが固まったところでショット、6番をコーナーにシュートし、手球を1~2クッションさせて長クッション沿いにポジション__するはずだった。


「弱い!」


 いわゆる「チビった」というやつである、恐る恐る繰り出されたショット。トロトロと転がった手球は何とか6番をポケットすることができたが力加減が弱く、ヘッド側短クッションを出てすぐのところで止まった。

 出しミス・・・。7番までの距離が遠くなり、微妙に振りがついてしまっている、これではストップショットは難しい。


挿絵(By みてみん)


 「まずい、これじゃ7番入れても9番が・・」


 微妙に振りが付いていることにより7番をポケットした後手球は動く、この場合動いた分だけ9番への角度が薄くなりシュートが難しくなる。

 というかストップショットの力加減でいったら、9番に対して垂直になる位まで動くだろう、そうなったら9番への厚みがなくなってしまう。


 入れさえすれば簡単だったはずの配置が突如難球に変わり、残り2球を前に途方にくれる。この状況を上手く捌ける技や知識が無いか必死に記憶の中を探るが、上手くいかない。


 予定通りならば簡単な的球の配置でも、手球の位置がボール1個、チョーク1個分違うだけで難球になる、ビリヤードの難しい所だが、自分は初めて出場した試合で、今まさにそれを思い知らされていた。


 動揺して固まっていたが、気を取り直す。

 ずっとこうして居る訳にもいかない、とにかく今できる範囲で何とか最善を尽くすしかない。


 思いつく選択肢は2つ。

 一つは撞点上でごく弱く転がして厚めに狙う、9番と手球の距離はかなり近くなるが、上手くいけば予定通り向かって左のコーナーに9番を狙えるようになるだろう。

 二つ目は思い切ってハードショットでシュートし、手球を逆側の長クッションまで走らせる事、そうすれば向かって右コーナーに9番を狙えるようになるはずだ。


 しかし、両方の選択共にリスクがあった。


 ごく弱く転がすようなショットはシュートラインがヨレやすいのと、スキット(摩擦によるズレ)によるシュートミスが発生しやすい。

 ハードショットはストローク自体がブレやすいし、的玉が前クッション気味に走った際ポケットに嫌われやすい、ラインによっては逆コーナーへのスクラッチもある。


「よし」


 自分が選んだのは1つ目の選択肢だった。積極的にこちらを選んだというより、ハードショットで入れることへの不安と、スクラッチするかもしれないという恐怖を避けたという方が正しい。


 とにかく7番を入れなければ9番を撞くことすらできない、入れのイメージがいいほうを選ぶのが正解だろう。

 自分では気がついていないが、そう考える時点で、かなり弱気になっている証拠だった。


「とにかく入れなくては!」そう考えながら放ったショットは無事7番をポケットできた。


 しかし、その後手球は予想通り9番に近づいていく・・・7番に対し多少薄く入ってしまったのか9番に真っ直ぐに近いコースで向かった手球は、そのまま9番にヒットして「カチッ」とわずかな音を立ててレール際に止まり、手球がヒットした事で9番はクッションから離れ、ボール2個分ほどクッションから浮いて止まった。


 これで残ったボールは9番一つ、これを入れればこのセットは自分の勝ちだ、残された配置は一応厚みはあるし距離も近い。

 しかしそれは髪の毛一筋というほどの極薄カットだ、サイドへのバンクを狙うこともできないことは無いが、こんな配置でのバンクの練習などした事がない。


 頭の中は「とにかく入れなくては!」という事で一杯だ。

 クッションのコンディションで変わるバンクより、厚みさえ合っていれば入るカットの方がまだ可能性が有る!


 9番の厚みを慎重に見る、確かに入れが有ることを確認して構えに入る。ゆっくりとテイクバック、9番をコーナーにカットするイメージが固まったところで、ショット!


 その今まさにキュー先が手球に当たろうとしている瞬間、嫌な予感が頭をよぎる。


「もし狙いが薄すぎて、9番に当たらずファールしてしまったら?」


「ッツ!」


 無意識にファールを恐れたからだろうか、ほんのわずかに厚く外れた9番はコーナーポケットの角に当たり、角と角の間を1往復し、穴の縁で止まった。


 その瞬間頭が真っ白になった。


 やらかした・・・


 どんなに他のボールを落としても、9番を取られれば負けなのがナインボール、直前のボールまで決めて、9番のみ外すというのは一番やってはいけない事だ。

 しかも9番は穴前、当然のごとくこのセットは対戦相手に取られた。


 3セット先取りのゲームで最初の1セットを取られるというのは、嫌なものである。

 

 何しろそこからは、1セット取られれば相手にリーチをかけられてしまう、それは避けたい。しかし失敗できないと思えば、それがプレッシャーになる。「ミスできない」そう思いながら縮こまってプレーしても、いいパフォーマンスは発揮できない。


 何でもないミスからセットを落とし0-2、次のセットを取られれば負けてしまう状況となり、更に強いプレッシャーを背負う悪循環。


 既にメンタルはガタガタだった、普段は決められるボールが入らない。


 グリップが悪いんだろうか?ストロークがこじれているのかも?それともスタンスが悪いんだろうか?手球とブリッジの位置が遠いのか、撞点が撞く瞬間ズレているのかもしれない。

いろいろ気にしすぎるせいで目の前のボールに集中できていない。結果何でもないボールをミスする。


 いわゆる「壊れた」と言われる状況、ここから復帰するのは上級者でもなかなか難しい。


 初戦の結果は0-3、1セットも取ることが出来ず、敗退。


 試合経験の無さがモロに出た。

 

 言い訳になるが、普段通りのプレイができれば勝てない相手では無かったと思う、それこそ残り3球以内のハイ・ボール、7,8,9番のイージーボールが回ってくる事も何回もあった、それなのに決めきれなかった。


 自己嫌悪に陥りそうになるが、この試合は予選ダブル・イルミネーション、まだ試合が終わった訳では無い。敗者復活のチャンスがある。


 そもそも、これが初めての試合なのだ、何でもそうそう初めから上手く行くもんじゃない。

 何とか気持ちを切り替えようとしていると、メール着信有り。


 沙樹ちゃんからだった。


「初戦が終わって、次の試合まで1時間以上有るので、時間が合うようなら今の内に昼ご飯行きましょう」 

 運営のスタッフに確認してみると、こちらも敗者ゾーンの試合まではしばらく時間が有るようだ。負けて一人で悶々とするより、飯でも食って気分転換した方がいい。


 気づけば時間も正午近くなっている、沙樹ちゃんに「OK」の返事を出すと共に食事場所を決め、運営側に携帯の番号を伝えて外出、待ち合わせ場所であるナイン・スポットの近所にあるチェーンの喫茶店に向かった。






ビリヤードの用語ってどの辺まで説明入れるべきでしょうか?多少説明文的な物も入れていますが、多すぎるとウザったいと思い、解らなくても話が通じる物に関してはスルーしてます。野球やらない人でもスクイズ、ゲッツーの意味は解ると思いますが、ビリヤードやらない人にマスワリ、イリーガル、ノークッションとか言っても意味不明ですよね。バンキングは・・セーフ?

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