表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三十路から始める撞球道  作者: 想々
第一章 ビリヤードを始めよう~C級編
7/52

公式戦・参戦!


 マイキューが届いた翌日、公式戦の予定を確認したところ、約3週間後8月半ばに開催される県のB、C級戦がある事が解り、自分はこれに参加する事にした。


 大会は県庁所在地にある「ナイン・スポット」「プール・タイム」の2店舗で同時に予選を開催、それぞれ、B級、C級で決勝に残った選手が「ナイン・スポット」に集まり、決勝トーナメントを戦う。


 考えてみれば「クロス・ロード」以外の店に行くのも初めてだ。初めての場所に旅行に行く時のような期待感と、若干の不安。元々体育会系ではない自分にはスポーツの大会に出ること自体が初めてで、何もかもが初めてずくし、せめて今できる事といえば、来るべき試合に向けて練習に精を出すぐらいだろう。


 「クロス・ロード」の常連さんは基本的に「楽しめればいい」スタンスなので公式戦などにはあまり参加しない様だ、なので当然一人で会場に向かうことになり、それが若干の不安の原因だったりもした訳だが・・・


「私も出ます!」


 なんと沙樹ちゃんが参戦を表明。


 なんでも前々から大会には参加してみたかったが、一人で行くのは心細いし、会場が遠いので自転車では無理、公共交通機関を使うと参加費に加えて交通費が高校生の懐には痛いので、諦めていたとのこと


 公式戦ならそれほど遅くもならないし、両親もOKしてくれている、叔父である古賀さんも弟子ポジションの沙樹ちゃんには試合経験を積ませてあげたいので、エントリーフィーなどは出してあげても良いけど、店が有るので付き添いが出来ない。つまり丁度「会場までの足」と「保護者的な立場の人間」が足りなかった所に、今回の自分の参加表明。


 まさしく「渡りに船」という奴だった訳だ。


 確かに会場まで車で約一時間ちょっと、自転車ではキツかろう。参加するなら一緒に乗せていってほしいという事か。まあ、ついでだし全く問題ない。


 大会当日クロス・ロードの近くのコンビニで沙樹ちゃんを拾い、一緒に行くことになった。


「それじゃあ、何かあった時の連絡用にアドレス交換お願いします!」


「はい、了解」


 沙樹ちゃんとアドレスを交換した後、今日の練習に取り掛かる。


 本日の課題は、最近覚え始めた逆捻りの切り返し、手玉と的玉の距離を変え、ショットの強さとトビの大きさをすり合わせて行く・・・・


______________________________



 練習を終え、帰宅途中、運転している時にメール着信があった。


 自宅に着いてから確認すると、沙樹ちゃんからで、内容は「車を出してくれて、ありがとうございます!試合がんばりましょう!」というシンプルなものだった。


 しばらく文面を眺めた後、少し笑ってしまう。


 正直、本来そういう年代であるはずの、中学、高校時代ですら女の子とこんな「青春っぽい」やり取りをした記憶は無い。


「それじゃ、頑張りますか」


 こんな事で嬉しくなってしまうのだから男は単純である。



 それから試合までの間、空いている時間があればできるだけ練習した。仕事の関係で練習出来ない日もあったし、疲れて寝落ちしてしまった事もあったが、できる事はやったと自分では思う。


 

 いよいよ大会当日の朝。



 待ち合わせのコンビニに着くと、沙樹ちゃんは既に来ていた。

 古賀さんが着ていたのと同じ、店のユニフォームである「クロス・ロード」のロゴ入りの半袖ポロシャツにジーンズ、そして例のゴツイ厚底靴という出で立ちに、ウイットンのオシャレなキューケースを担いでいる。


「おはようございます」


「はい、おはようさん。店の位置は大体調べてきたけど、ナビをよろしくね?」


 自分は初めて行く場所なので、少し早めに出て高速を使い、余裕を持って会場入りする事にした。会場となる店舗の近くになったら、何度か行ったことが有るという助手席の沙樹ちゃんに、細かいナビを頼む方向で車を発車させる。


 助手席に女性を乗せて走るなんて事は、仕事関係で社用車に同僚のおばちゃんを乗せるくらいしかない。若い女の子と朝待ち合わせて一緒に出かけるというリア充っぽい流れに、少し浮かれつつ車を走らせる。

 軽い気持ちで、これから行くお店ってどんな所なのかな?などと話を振ると、沙樹ちゃんは澱みなく答えてくれた。


「日吉さんが出るC級戦の会場はプール・タイムの方なんですけど、2番台が花台で、ポケットがボール約1.8個位、ほかのテーブルが2.1個ぐらいなので2番台だけ極端に穴が渋いですから、2番台でプレイする事になったら気をつけて下さい。あとテーブル・コンディションはうちの店より、若干ラシャもクッションも速い感じなので、いつもより手玉が走る感じがするかもしれません」


 あ、これガチな奴だ・・・


 既に沙樹ちゃんは完全に戦闘モードに入っていた。


「ナイン・スポットの方はポケットは普通ですけど、ラシャがサララシャに近い感じでメンテしているので、引き球が引けすぎてしまう事がよく有ります、あとクッションが滑るので前クッションからのボールは拾って貰いやすい代わりに、逆捻りで殺すような球はクッションが噛まない事が多いので怖いですね。力技で持っていくような球にならない様に、振りを合わせて球なりにポジションしないと・・・」


 気分が高ぶっているのか、妙に饒舌な沙樹ちゃん。これから行く店のテーブルの情報を教えてくれるが、後半はC級の自分には理解が難しい内容になっている。上のレベルになると、テーブルコンディションを掴む事も重要なのだろう、ホームでしか撞いた事がない自分はまだそこまでのレベルではないが、話を聞いているうちに、自分も「これから試合だ!」という気分が高まってきた。


「すいません、私ばっか喋っちゃって」


 自分でもテンションが上がりすぎているのに気付いたのか、恥ずかしそうに謝る沙樹ちゃん。それから、試合の流れやら待ち時間、昼ご飯を食べる場所やタイミングなど、今日これからの事を話し合いながら運転を続けること約50分、試合会場の一つ、「ナイン・スポット」に着いた、ここは沙樹ちゃんの予選会場だ。

 自分の予選会場である「プール・タイム」はここから徒歩で10分ほど、2店舗同時開催という事で駐車場も共有可能ということだったので、ここに車を置いて「プール・タイム」までは歩いていく事にした。決勝トーナメントはここ「ナイン・スポット」で行われるので、是非決勝に残ってここに帰ってきたいものだ。


「それじゃ、自分はプールタイムに行くから、沙樹ちゃんも頑張って」

「わかりました、日吉さんも頑張ってください!」


 店に着いたらまずは受付でCSカードを見せてエントリーを確認、今回は初めてだから1000円払って選手登録証を発行してもらう、トーナメント表を確認(まあ、対戦相手の名前を見ても知らない人しかいないわけだが)店に着いたらやるべき事をシミュレーションしながら歩いていると、居ますね、同じようにキュー・ケースを背負いながら歩いている人が。


 ビリヤードを本格的にやり始める前なら、それがキュー・ケースである事にも気づかなかったと思う。恐らく楽器か何かだと思ったはずだ。


しかし、今なら解る。彼らは「キュー・プレイヤー」だ。


 と言っても今から行く店で試合をするのは主にC級、そんなハリウッド映画みたいに「彼らはキュー・プレイヤーだ」(日本語字幕:戸田奈津子)と言うほど凄い人はいないのかもしれないが、少なくとも温泉卓球のおっちゃんと卓球部員ぐらいは差がある。


 しばらく歩いた後無事到着した「プール・タイム」の駐車場にもちらほら車が止まっていて、トランクからキュー・ケースを取り出したり、立ち話をしている参加者らしい人が何人か居た。


 向こうもこちらがキュー・ケースを担いでいるのを見て察したのだろう、擦れ違う際、会釈をしてくれたり、「おはようございまーす」と挨拶をしてくれる人もいる。完全に初対面だけど同じマイナースポーツを競技レベルでやろうとしている人として妙な親近感を感じる。


 それらに挨拶を返しながら、まだ暗い店内に入ると、選手登録の受付をしているカウンターに向かった。



 受付自体はCSカードを見せて所属店名と名前を言うだけで簡単に済んだ。ただ、この所属というのがなんとも慣れない感じだった。「クロス・ロードの日吉選手」と言われると何だかこそばゆい感じがする。

それと同時に、自分が評判を落とすと店に迷惑がかかるのではないか?と妙な事を考えてしまう。まあそんな事はないのだけれど、「失敗できない」と思えば思うほど緊張するのが人間である。


 試合開始まであと20分、その待ち時間が妙に長く感じられた。


____________________________



 トーナメント表を眺めたり、ドリンクを注文したり、キューを組み立てたり、それが終わり時間を持て余し、手持ち無沙汰になってきた時、遂にその時間がやってきた。


 白髪混じりで60~70歳くらいの、いかにも「役職に就いてます」といった感じの男性が大会の開催の宣言とルール説明を始める。


 「ルールは9ボールの3セット先取り、ダブルイルミネーション、C級はプッシュアウト無し、ダブルヒットコール有り、勝者ブレイク、ラックは1番トップ、9番センター、2番ボトム、他は自由、セルフラックで行います。微妙な判定の際には第三者のジャッジを呼んでからショットして下さい・・・」


 おおよそ事前に聞いていたルールと同じな為問題は無い。プッシュアウトとはブレイク後、手玉の位置が悪い時、ブレイク側が手玉の位置を撞いて動かし、相手に撞くかパスするか選択させる事ができるオプションの事だが、このあたりの駆け引きはB、C級にはまだ早いという事か、A級以外の試合では使われないことが多い。

 逆にダブルヒットとは、手玉と狙う的玉の位置がチョーク1個分より近い時、つまり近すぎる球を付くとき、あらかじめ「ダブルヒット(二度撞きします)」とコールすれば二度撞きしてもファールにならないと言う救済措置のことである。当然A級にはダブルヒットコールなど無い。


 ルール説明が終わり、質問が無ければいよいよゲーム開始である。


「それではコールします、プール・タイム山口選手、マジック飯田選手1番テーブルです!、プールタイム園田選手、ナインスポット伊達選手2番テーブルです・・・・」



「クロス・ロード日吉選手、ビリヤード・ジゲン名波選手6番テーブルです」


「はい!」


 対戦表を受け取りコールされた6番テーブルに向かう、対戦相手は20代前半だろうか?若い女性だった。基本ビリヤードの試合はレディースクラスがある様な全国大会でもない限り男女混合だ、そして女性だからと言ってハンデ等は無い、男性と女性がノーハンデでガチにやりあえるスポーツというのもビリヤードの魅力かも知れない。


「一斉ブレイクを行います、各テーブルバンキングを行ってブレイクの準備をして下さい」


「「よろしくお願いします」」


 お互いに挨拶をしてバンキングを行う。勝ったのは自分、ブレイク権を得た自分は。ラックを組んでブレイク位置に手玉を置き、開始の合図を待つ。


「ブレイク用意!」


 右レールの上でレールブリッジを組み、サイドブレイクの形で狙いを定め、その時を待つ。緊張で少し手が震える。静まり返った会場に、声が響いた。


「ブレイク!」


 その瞬間、10台のテーブルで一斉にブレイクショットが放たれ、会場にラックが砕ける音が響き渡った。




「次話からはゲームに入れると言ったな?あれは嘘だ。」ごめんなさい。

前話タイトルにもなっている「キュー・プレイヤー」について。お読みの方の中には、ビリヤードが上手な人のことは「ハスラー」って言うんじゃないの?と思う方がいらっしゃるかも知れません。

しかし、これは恐らく映画「ハスラー2」(英名カラー・オブ・マネー)の影響で、ハスラーというのは本来「詐欺師」と言う意味、わざと弱いふりをして素人からお金を巻き上げる鮫プレイヤーの事です。

ゴルフをやる人>ゴルファーのような、ビリヤードをやる人と言う意味の単語は無いようで、敢えて言うなら「キュー・プレイヤー」が無難なところでしょうか。

なので外国人のビリヤードが上手な人を「カッコイイ!ハスラーみたい!」と褒めても、「失礼な事を言うな」と言われてしまうかも知れません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ