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三十路から始める撞球道  作者: 想々
第二章、B級アマナイン編
48/52

4回戦終了・ブレイクタイム


 ベスト8での再抽選を終え、ベースキャンプに戻った自分を、メンバーがやさしく出迎えてくれる。



古賀さん「ベスト8だね、お疲れ様」


桜井さん「いつものやつwwww」


田畑さん「いつものやつwwww」


沙樹ちゃん「いつものやつですね♪」



・・・古賀さん以外が優しくない。


 いや、自分でも解ってるよ、マスワリの時やジャパでの高得点9番だけ異様に外す確率が高いのは!だけど緊張するんだよ、しょうがないじゃん!


田畑さん「明らかに撞き急いでたね」


桜井さん「撞く前のメソッドも適当だったし」


沙樹ちゃん「ゲームボールなのにね~♪」



 すいませんでした。

 真実の暴力はよくない。


 って言うか、さっきから沙樹ちゃんはなんでそんなに楽しそうなの?いじめっ子なの?Sなの?


ゲームボールの9番を飛ばした事をひとしきり揶揄(からか)われるが、これはいつものことだ。別に悪意があるわけじゃ無いことはわかっているけど、おっさん連中の( ´艸`)みたいな表情が非常にうっとうしい。


「やかましいわ」と適当に流しつつ、戻ってきたメインの用事、つまり昼飯。


 まだ正午までは大分時間があって、昼飯というには早い時間だけれど、これからは試合の間隔はほぼ空かずに連戦となるので、何かを食べるならここが最後の時間となるだろう。

 昨日は外のお店に食べに行ったけど今日はそんな時間も無いので、あらかじめコンビニで軽食を買ってきてある。


 今日買ってきたのは、ランチパックのタマゴとハムサンド、あとお茶だけ。あまり腹持ちはしないけどそれでいい。

 大会に出始めた頃、ゲンを担いでカツサンドやカツカレーを食べたら胃もたれする上に眠くなって「大会の昼飯はおなかいっぱい食べたらダメ」と言う事から学んだ教訓である。


昔はそんな事無かったんだけど、30代も半ばになってくると、ちょっと脂っこかったり食べ過ぎたりするとすぐ胃もたれするんだよなぁ、まあ胃もたれの原因の半分は前日の酒のせいかもしれないけど。


 そういう「何か食べなきゃいけないけど、食べると胃もたれする」時のランチパックは、量と言い味と言い個人的に神のバランスだと思う。


 タマゴとハムを交互に食べながらお茶で流し込む、隣では沙樹ちゃんが、紫蘇昆布おにぎりを両手で持ってほおばっている。

 手元の飲み物はラベルにでかでかと「濃い味」と書かれたお茶。小動物みたいで可愛いんだが、相変わらず内容が渋い(いろんな意味で)


 試合場の方を見ると何やら1つのテーブルの周りだけ異様にギャラリーが多かった、不思議に思って古賀さんに聞いてみる。


「あそこのテーブルでは、昨年優勝してプロ入り確実と言われている広島代表と、毎年優勝候補に挙げられる大阪代表のトップアマ同士の試合をやってるんですよ」


「なにそれ、見たい!」


 慌てて残りのランチパックを口に押し込み、第1テーブルに向って人混みに加わる。


 試合は大詰めを迎えていて、テーブルの近くは張り詰めた緊張感が漂っていた。まるでそこだけ重力が増して空気が重くなったかのようで、大勢いるギャラリーも、声を上げるどころか咳の一つすらせず固唾をのんで見守っている。


 プレイ自体はそんなに派手ではない、むしろ地味だといっていい。


 ただ異様にミスが少ないというだけだ。


 必殺ショットも無ければ盛り上がりにも欠ける、漫画や小説にしたら絶対につまらない、ラックを取りきる、あるいは相手に取らせないために最も確立の高いショットを選択して、それが淡々と続いていくだけ。


 しかし現在この試合を取り巻いているギャラリー達は、それがどれ程凄い事なのか、現在淡々とプレイしているように見える二人が、どれ程神経を擦り減らせながらプレイしているのかを理解していた。


 その結果がこの緊張感だ。



 そして決着________。


 去年の優勝者だという広島代表の選手が8番をポケットする、何気ないショットなのだが的玉の転がり方も手玉のラインも何だかとても奇麗に見える。


 手玉がゆっくりと動きを止め、9番にポジションされた所で、座っていた大阪代表の選手が立ち上がりOKコール、二人はがっしりと握手をして健闘を讃え合った。


 瞬間、ふっと周りの緊張感が消え、ギャラリーがどよめきと共に拍手を送る、もちろん自分も拍手した。


 A級の試合には独特の雰囲気が有る。



 自分もこの大会が終わったらA級に昇格するつもりだ、一応県のB級戦で優勝しているのでその資格は有る、B級で出場しているほかの多くのプレイヤーにとっても同じ事が言えると思う。


 それはつまり、多くのプレイヤーにとって「アマナインB級戦に出場できるのは最初で最後、ただ1回きりのチャンス」と言う事だ。


 緊張感のある試合に身が引き締まった気がした、そして改めて自分が今ここまで勝ち残っていることに嬉しさと興奮が込み上げてくる。


 いつの間にかとなりに来ていた沙樹ちゃんが、自分の顔を見てにやりと笑う。


「テンション戻ってきたみたいですね」


 自分も沙樹ちゃんに対してニヤリと笑い返す。


「うん、やっぱA級は凄いよ、こっちまでドキドキしてきた」




 さあ、次は5回戦だ。





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