アマナイン3回戦、VS真嶋君④
令和初日、年号が変わってもよろしくお付き合いお願いします。
「不運と踊っちまった」真嶋君には悪いけど、こちらにとっては大チャンス。
3番に左振りを付け2クッションで5番にポジション、5番、6番と問題無くポケットして7番にほぼ真っ直ぐ出た時点で一安心。
6-4
再びリードを2セットに広げ、更にはリーチ。
迎える第11ゲームのブレイク、前回左からのブレイクがノーインだった事を思い出し、右からに戻してみる。真嶋君ほどの体重移動はしない、入るのは1球で良い、それよりも手球のコントロールを重視したコンパクトなブレイク。
それでもウイングの8番が正確にポケットされブレイクが成立する、1番も見えているしトラブルも無い。
「よし、まあ上出来」
全体の配置を見回して注意点を探す。
やはり一番の問題は4番だろう、近くにある5番の影響で4番を左下コーナーに取れるポジショニングの範囲が狭い。ヘッド側短クッション際のわずかな範囲以外ではどうしてもシュートラインに5番が被ってしまう。
しかしクッション際と言うのは比較的出しやすい場所ともいえる、3番からは引いて出す事になるだろうから2番から3番に出す際には「なるべく真っ直ぐで近い場所に出す事」それが絶対条件だ。
そう考えが纏まるとまずは1番にアプローチ、2番から3番への出しを考えると適度に振りを付けなければならない。
1番をコーナーにシュート、その後手球の動きを目で追う。「少し薄目だけど厚いよりはいいか」1クッションした手球は、予想よりボール2個分ほど走り過ぎて止まるが、まだ余裕で修正できる範囲だ。
そして問題の2番、なるべく引きやすい「3番に近すぎず、遠すぎない」位置、丁度サイドポケットの前あたりが理想。
これまた比較的イージーな2番へ構えつつ、1クッションで上側長クッション際で止まる力加減をイメージする。
撞点は右上、軽く転がすようにカットしつつ、微妙な右捻りを入れる。
2番はゆっくりとコーナーへ、手球は薄めに入った分走り・・っと危ない、ギリギリサイドポケットを躱して2クッション、長クッションからやや離れて停止する。
そう、やや離れてしまったのだ、少しだけ走り過ぎた。距離にすれば1ポイントにも満たない、せいぜいボール2・3個分といったポジションミス。
しかしビリヤードに置いて、そのわずかな差によって振りの大きさや方向が変われば、それは致命的なミスとなる。
もし手球の位置がもっとクッションに近く、半透明ボールの位置に有るなら、撞点下で引き戻せば①の様なラインで4番にポジション出来て問題は無かった。しかし現状から頑張って撞点下で引き戻そうとしても、3番に対して付いてしまった振りによって、②の様なラインにしかならない・・・この振りから4番にポジションに行くなら撞点右上の強烈なスピンをかけて切り返せば、ライン的には出せるだろう。
だがこの配置では6、7番が邪魔でそれも無理だ。
「まいったな」
リーチを掛けた状態で流れも良かった、出来れば攻め切ってしまいたかった・・・この3番でのセーフティーは思い浮かばない、だったらとりあえず3番を入れて、セーフに行くなら4番か?いやしかし・・・
一見イージーに見えるが悩ましい配置を前に、様々なアプローチが頭に浮かんでは否定されていく。
「30秒です」
「エクステンション」
考えが纏まり切らないうちにショットクロックが迫り、エクステンションを切る。
とにかく考えが纏まらないまま、中途半端で目的がはっきりしないショットをするのが一番まずい。
「むしろもっと薄ければ、バタバタで出しに行くって手もあったのにな」
もっと厚ければ直引きで、もっと薄ければバタバタでのポジションが狙えたかもしれないのに、現状の配置はどちらにも行けない中途半端な振りだった。
振りか・・・3番がポケットの近くの正面に有れば、穴振りと言う手も有るけど、この3番の位置じゃなぁ、クッション際のボールの振りを変えるなら後は前クッションぐらいしか・・・
あっ!
そこまで考えて思い出す、以前「曲球」の一種として田畑さんから教えてもらったショット。
その時に何度か練習したけど、あまりに実戦で使えそうも無かったのでそれ以降全く忘れていたショット。
「あれなら4番に出せるかも」
しかし教わったのはC級の頃、テクニックと言うよりは半分遊びで、田畑さんのショットが描くラインを見て喜んでいただけだった。今だったら理屈も判るし成功率も多少は上がってるかもしれないけど、本当にやるのか?
間違いなく成功率は低い、それでも。
「やってみるか」
出した答えは攻撃。
正直いい守り方が思い浮かばなかったことも有るけど、それを思いついた瞬間ワクワクした。
あと真嶋君が結構派手なをショット決めるのを見て来て、「俺だってこんな球を知ってるんだぜ」っていう所を見せたくなったと言うのも有るかも知れない、何を対抗してるんだか(笑)
そうやって調子に乗った時は大抵失敗して負けるんだけど。
方針が決まって胸のつかえが降り、顔に笑顔が浮かぶ。ショットクロックはあと30秒くらいかな?大きく肩と首を回し、身体をほぐしてから構えに入る、かなりのスピンを乗せたハードショットになる。
キュースピードと手首のスナップによる、インパクト時のキュー先の加速が肝だ。もちろん正確さが求められるのは大前提。
3番はクッションから1センチほど浮いている、狙うのは3番では無くその手前のクッション、撞点は右下MAX。
そう、いわゆる「前クッション」とか「引っ掛け」と呼ばれる類の狙い方だけど、普通こんなポケットから遠い球を前クッションで狙うことなどまず無い、しかし今回はあえてそれをやる。
クッションから跳ね返った手球が3番を引っかけてコーナーへ、イメージを固める様に右肘の角度をじりじりと調整する。
「ココだ」
体と目線をピタリと止め、テイクバックと共に静かに息を吸い、止める。
目線は3番のやや手前のクッションから,ショットと共に3番に移る!
「カッ」「タン!」
ハードなショットに手球と3番がぶつかる音、3番がポケットされる音がタイムラグなしに連続して響く。
前クッションから3番にヒットした手球は、慣性に従いフット側に飛び出す。
普通に3番を狙った場合、ここまで手球が勢いを維持したままと言う事は無いだろう。
3番をポケット出来る厚みで直接ヒットした場合、大部分のエネルギーが手球から3番に移ってしまうからだ。
だからこその前クッション、直接では無くクッションから3番のシュートポイントにヒットさせる場合、3番への厚みは薄くなる。そう、つまり前クッションによって3番に対して薄い振りを無理やり作り出し、手球を走らせたのだ。
右のスピンによって前方、つまりフット側に飛び出した手球はバックスピンによって弧を描きながら逆側の長クッションに走る、そして・・・
「来いっ!」
思わず手招きをするようなアクションと共に、声が出る。
長クッションに入った瞬間、バックスピンと共に加えられていた右捻りによって手球はクッションを噛み、加速してヘッド側に戻って来る!
そして、最後にもう一度1クッション目と同じ長クッションに入るが、この時わずかに残っていた右捻りは2クッション目とは逆にブレーキの役割を果たす!
「よっしゃ!出た」
さすがに思わずガッツポーズ、成功率で行けば1割有るかどうかと言うショットだが決まってくれた!
真嶋君も目を見開いて、驚いたように拍手してくれている。
へへ、どんなもんだい。こういう球も一応知ってるんですよ・・まあ成功率はアレだけど。
残りは5球、出さえすれば入れが難しいという球は無い、4番を撞点下でシュート、引き戻して5番を同じポケットに取る、5番は撞点中心やや下で横に滑らせるように、6番はほぼ真っ直ぐだったのでストップショットで、7番も入れれば球なりに出る。
ゲームボール、9番は右上のコーナーに対してほぼ真っ直ぐ、一旦深呼吸してしっかりと狙う。
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9番を沈め振り返ると、そこには充血して潤んだ目をした真嶋君が立っていた。
「ありがとうございましたっ」
慌てて挨拶を返す。
近くで見ていたのだろう、仲間らしい子たちが真嶋君の周りに集まって来て、背中を叩いたり話しかけたりしている。真嶋君は頷きながら、何度も掌で目の周りを拭っていた、よっぽど悔しかったのだろう。
通常のミスもそうだけど、ミスキューによるミスは、自己嫌悪の割合が1.5倍くらいある気がする。
でもその内、真嶋君は真っ赤な目をしながらも笑顔を見せ、仲間たちと一緒に退場していった。
いいねー、青春だねー。
ともかくこれで今日の試合は終わりだ。実質の試合時間は7,8時間程度だろうか?正直体感ではその3倍くらい試合をしていたような感じがする。
1日目の最終戦という事ですぐに場所を空けなくてもいいので、ゆっくりとキューを片付けよう。
ジョイントをバラしてジョイントキャップを嵌め、キューをケースに収納しようとして手が止まる、さっきの3番のショット。
「あのショットの成功はTADのおかげもあるかもしれないな」
改めて相棒のTADのインレイを見る、うん今日もカッコいい。
「明日も頼むよ」と言う思いを込めてインレイ部分をそっと撫でてから、ケースに仕舞いテーブルを後にした。
またちょっと派手な球を出しました、(前クッションからのリボイス・ショットと言います)今までのショットは基本実戦でも使えますが、このショットはもう少し3番がポケットに近くないときついですね。この話の配置でポジショニングまで含めた成功率は15~20回に一回くらいでしょうか?成功率5~7%では実戦向きでは無いですね。それでも「えーい、いっちゃえー」が有るのがB級戦です、なのでA級戦よりスーパーショットが多かったりしますw




