アマナイン3回戦、VS真嶋君③
この配置、ヘッド側とフット側にクラスターが有るが、それぞれ6か所中3か所のポケットは狙えるので完全に「トラブル」と言う訳ではない、しかし狙えるポケットが限定されるという時点でポジショニングの難易度が上がる、遠いポケットに出すならばシュート自体も難しくなるだろう、何より嫌らしいのがこの取り出しの1番だ。
1番を入れつつ分離角通りに走るなら4番に当たってしまう、押して躱したとしても3番に当たるかスクラッチだろう、スクラッチしないにしてもそもそも8番が在るので狭い方に出す意味が無い。
ならば引くのか?撞点左下で2クッション・・・しかし2番に対して薄くなってしまうと2から3への出しはどうするんだ?2番が遠くて入れるのすら難しい状態ならなおさらだ。しかし、それしか方法が無いのでは?
とっさに自分の頭に浮かんだ答えはこういう物だった。
とにかくセンター付近まで持ってきて、2番を入れやすい所に・・・2番が厚目になったら3番を上のサイドに取る・・薄かったときは2番を入れながら3,4番のクラスターに手球をぶつけて出たとこ勝負かな?
自分の手札の中ら使えるカードを引っ張り出し、予測する。
真嶋君も3番のシュートコースを確認している、理想としては3番を左下コーナーに取れれば一番良いのは解っているが、この状況から2番へ厚く出すとなると8番の近くまで持っていくのか?
真嶋君が構えに入る、狙っている撞点は下、やはりクラスターを躱しに来る様だ、がっちりと組まれ微動だにしないブリッジの中をキューが往復して、徐々に狙いが定まっていく、、
「タンっ!」
短く切るようなストロークで撞き出された手球が1番をポケット、一瞬分離角に滑った手球がドロー回転によって鋭い弧を描く!
カーブしながら手前のクッションに入った手球が、3クッションで2番に厚く近い位置にピンポイントでポジションされる。
悔しいがその発想は無かった・・・
この位置からならば3番を左下コーナーに取りに行くのは容易い、2番をポケットして3番へポジション、まるで「ドローショット・ドリル」と言われる引き球の練習配置の様に3番、4番を同じコーナーにシュートしていく・・・
「チッ、オイィ!」
4番をポケットした瞬間、真嶋君が舌打ちと同時に台を軽く叩く。
4番は薄め一杯でポケットされたが、恐らく撞点チョイ上でパチンと撞き、ちょい押ししたかったのだろう。しかし思ったより撞点が下がってしまった上に薄く入った分手球が走ったのか、クッション際の5番に対しかなり薄くなってしまったのだ。
先程の2番と同じく、7番のシュートコースが限られている以上、6番には薄く出したくない。7番の振りにしても、7番をポケットした後、手球が9番に当たってしまうような振りになると、8番への残りが碌でもなくなるのは明らかで非常にめんどくさい。
もっと厚い球なら、撞点左下で丁度6番に厚く出せるのだろうが、恐らくここまで薄いと手球は止まらない、ならば走らせるか?今真嶋君は6番・9番の間を往復させる様なコースを見ているが、流石にそれは無理だろう。
おっとここでエクステンション。
真嶋君は短く息を吐くと一旦テーブルから離れて、全体を見ながらゆっくりと台の周りを一周する。
その間ずっと眉間に皺を寄せていた真嶋君の表情が、突然パアァっと明るくなった。
アフレコするなら「おっしゃ、その手があるじゃねぇか!」とかだろうか。
「あ、、気付いちゃった。」
今まで真嶋君は、当初の予定通り撞点左下でどう出そうか必死に考えている様だったけど、ビリヤードにはクッションが有る、テーブルを大きく使うと出しのバリエーションは驚くほど豊富になるのだ。
吹っ切れたような表情でショットに入る真嶋君、その撞点は右上。
前クッションから引っかけの様に入ってしまうと、右上コーナーへのスクラッチコースに乗ってしまうが、まず5番をカットしてから短クッションに入った手球は、右スピンによって上サイドポケット手前のクッションに向かう。
浅い角度でクッションに入るためここではスピンの効果は目立たない、しかし3クッション目、右側短クッションに入った際に手球に残っていた右捻りが絶妙の仕事をする。
う~ん、完璧。これは拍手するしかない。
真嶋君はそのまま難なく残り4球を取り切りった。
5-4
「っしゃぁ!」
おっと早速のフラグ回収ですか、ブレイクノーインからの撞き切り、いわゆる「裏マス」でゲーム差が1ゲームに詰まり、更に真嶋君のターン!あれ?コレ本当にマズいんじゃなかろうか、とにかく一回どこかで流れを変えないと。
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「死ねや!」
と言う幻聴が聞こえそうな、全体重を乗せた真嶋君のブレイクが炸裂する。イリーガルは当然回避、ポケットされたのは1番、2番、4番、8番の4球、残り5球で取り出しの3番は見えた、トラブルは無し。
取り出しの3番は入れるだけならイージーだが5番の位置的にこのロングなボールを引いて出さなければならない、、、けど真嶋君は第一ゲームで、これより遠い球を余裕で引いて出しているんだよね。
残りの配置はと見ると、5番、6番は穴に近く、しいて言えば6から7番のポジションをミスすると難しくなるかな?程度。要するにこの3番から5番に出てしまえば終わりの様な配置だ。
当然の様に真嶋君は「余裕だぜ」と言う表情で即座に構えに入る。
リラックスした表情から安定したシューティングメソッド、相変わらず微動だにしないブリッジとフォーム、その中で右腕だけが別の生き物の様に動き、手首から先が鞭のようにしなる。
「ッタン!」
キューが振り抜かれると同時に発射されるボール。・・・ん?発射!?
「っとぉぉぉl、危ねぇ!!!」
とっさに身を躱すと同時に今まで座っていた場所に飛来するボール、それはパイプ椅子を直撃し、スコアボードの置かれたテーブルや床にブチ当たって派手な音を立てる。
そのボールの正体はミスキューによって飛んできた手球だった。
「スイマセン、大丈夫っすか!」
慌てて駆け寄って来る真嶋君。
とっさにキューを庇いながら身を躱したおかげで被害も無く、手球の方にも傷がついたりはしていなかった。
「大丈夫、大丈夫」
そう答え、まだドキドキしている心臓を落ち着かせながら深呼吸する。
これだけの距離を引くためには、ミスキューギリギリの極端な撞点を、爆発的なパワーで撞かなくてはならないから、ほんの少しのズレでこうなる。
ワザとでは無い事は解っているしクレームなんてつけないよ、むしろショックが大きいのは真嶋君の方だろう。
「本当に、スミマセンっした」
頭を下げて席に戻った真嶋君は脱力し、目を瞑って顔を顰め、溜息と共にうつむく。
その姿は 「不運と踊っちまったぜ」 と言う想いを全身で表現していた。
A級に近い試合になって、少し単調になってきてしまっているかもしれません、配置図多目にしてみたり色々試してみます。




