アマナイン2回戦、VS河野さん②
楽しい!
現在ゲームカウントは3-4、中盤を過ぎたあたりともいえるが、どちらかが連取すればあっという間に決着が付く。河野さんのプレイスタイルはその後もブレる事が無く、攻撃8割、防御2割と言う所だろうか、何よりもショットの思い切りが良く、スピンをキュンキュンにかけたショットや、手球を長く大きく走らせる出し、いわゆる「魅せるショット」が多い、自分はどちらかと言うと確実性重視なのでこういう球を気持ちよく、しかも全国の試合で撞けるというのは羨ましい。
そういったプレイスタイル故か、ボールが走り過ぎた故の出しミスや、極端な撞点、難しいショットで攻めに行った上でのミスが何回か出ているため、それを回収してなんとか食いついて行っている。
自分と全然違うタイプなので見ているだけでも楽しいが、しかしコレは試合だ。
「フゥー」
一旦ショットしかけるも構えを解き頭を振って深呼吸。
「・・・失礼しました」とアピールする様に河野さんに軽く会釈。河野さんは笑顔で頷いてくれる。
1ミスすれば高確率で攻め切られるという、ヒリつくようなプレッシャーに気分は高揚するが腕が振るえる。自分は大きく手球を動かしていくタイプでは無いけれど、それでも弱気になって手球を置きに行く様なショットだけはやってはダメだ。
一見何の変哲もない、ちょっと振りが付いただけの7番、力加減は普通で少し弾き気味に入れれば良いだけのボールが、何でこんなに難しく思えるのか。
むしろこういうボールはC級で「上手くなったと」浮かれていた頃より、今の方が難しく感じているかもしれない。
7番をポケット、客席から見ていれば素人目に見てもつまらないイージーショットだ。
しかしプレイヤーとしてはとりあえず7番が入った事に心底安堵する、絶対外さないと思ったショットが外れた事なんて1度や2度では無いのだ。
河野さんとは違い、1球1球構えを確認して丁寧にポケットしていき、ラストの9番をポケットした後、手球がスクラッチコースに乗っていない事を確認してからやっと構えを解き、大きく息を吐く。
ここは24番テーブル、会場の端っこで観客席からも一番遠い、拍手などは無い‥と思っていたら。
「パチン、パチン、パチン、パチン」と言う拍手?の様な音が。
振り返るとそこでは椅子に座ったまま足を組み「指パッチン」(故・横山ノックのアレ)をしている河野さんの姿、目が合うと満面の笑みと共に「ナイス・ショット!」と言う声を掛けられた。
おう、何という紳士、仕草が一々エレガントである。
ちなみに自分のホームでは、良いプレイに拍手的な事をする場合、自分の二の腕や膝などを軽く叩いて音を出す、店によってはキュー尻で床を叩いて音を出したりする場合も有るらしいが、指を鳴らすのが絵になるのはイケメンだけだろう。(そもそも自分は指を弾いても音が鳴らない)
4-4
まあ、ともかく追い着きましたよ!
9ゲーム目のブレイク、今度はスクラッチを十分警戒して、厚みをやや右寄りに取る。
ブレイクラインを超えたボールは1番だけだが、ポケットされたボールが2個有るのでイリーガルは回避、しかし入ったのが1個だけだったらイリーガルだった訳で、次はもう少し強く割るか、厚みをもっとシビアに取る必要が有る。
ブレイクの課題は置いておいて、まずはこのラックの配置だ。特にトラブルは無い、1番は見えているし入れも有る。すべてのボールは狙いやすいポケットに対してシュートラインが通っているし、しいて言うなら7番から9番へ出す時振りによってかなり難しくなってしまうくらいか。この1番を入れて3番に出せれば問題なしだ。
そう、出せればね。
畜生、何でこんなにド真っ直ぐなんだよ!
1番はほぼ真っ直ぐ、強いて言えばやや右振りと言えなくも無い程度の振りしかない、9番の位置が3番のシュートコースを塞ぎやすい為、3番に出しに行くには配置図で言う右上エリアに手球を持ってこなければいけない。
ほとんど形になっているのに、最初の1球が・・・どうするよ、これ。とりあえず引くとかは絶対無いな。
初心者でもまず思いつきそうなのは「真っ直ぐ入れて、バックスピンでそのままのラインを引き戻して来れば良い」と言う物だろうが、ゴメン、こんな距離のある球を直引きとか無理。
それにこの距離を引くだけじゃなく、左右にブレずに真っ直ぐ引けとか恐らくプロでも難しいと思う。
となれば押すしかない訳だが、真っ直ぐ入れてしまうと追っかけスクラッチなので「気持ちで」右に振ってコーナーポケットの左ギリギリのクッションに入れる・・その後1クッションで戻して来る途中、5番や7番に当たってしまうとほぼ9番に隠れるから気合で躱す、と。
ミッションとしてはこんなところか。
「こんなところか」と言うほど簡単ではない気がするが、恐らくそれが一番いいプランだと思える、ショットクロックも迫って来た、長クッションに近いエリアの方が3番へのシュートコースが通る範囲が広いから、抜くべきは5番7番の間では無く、7番と長クッションの間!
ハードなショットは得意ではないけれど、あれだけ厚い球をポケットした後、手球を1クッションで手前まで持って来るにはそれなりに強い押しをかけてやる必要が有る。
ブレない様にしっかりとクローズドブリッジを組む、撞点を上げ確認、「強く撞く」のと「しっかり撞く」のは違う、バチコーン!とひっぱたくのではなく、タップがしっかりと手球を捉えるのをイメージする。
撞点真上だと7番に当たるコースを通る、撞点をやや右に、捻り過ぎれば1クッションで7番に当たってしまう、丁度7番のあたりで長クッションに入るのが理想、そのための撞点は・・
「行き過ぎか?もうっちょっと真に近く・・タップ半分右・・」
1番のシュートラインをにらみながら、撞点と見越しのすり合わせを行っていく。
それなりに強く撞くショットだが、レストの長さは普段と変わらない、むしろ短いくらいだ。
テイクバックも短い、きちんと力が伝わりさえすれば、それほど長いテイクバックは必要ない。
強く撞くからこそ可能な限りストロークのブレ、撞点のズレには細心の注意を払わなくてはいけない!
河野さんと違ってよく言えばコンパクト、悪く言えば地味なフォームから1番に向かって手球を撞き出す!タップが手球を捉えた瞬間、右手のグリップの親指と人差し指の間、その水掻き部分にガツンとした手応え、はっきりとタップが手球をグリップした感触が伝わって来る。
「ツターン!」と言う音と共に1番をポケットした手球はチョーク1個分ほどの横滑りの後、前進を開始して短クッションへ。
クッションから出てくる角度はほぼイメージ通りだが、1番に当たっ時の手球の弾け方が予想より大きかったためか7番に当たりそうなラインを取る。
「躱せ!」
7番に当たってしまったかどうか、結論だけを言えば当たったと言えるのだろう。ビリヤードのボールは横を手球が通過した時の風圧や振動だけで動いたりはしない。
7番は確かにほんの少しだけ揺れる様に動いた、しかしそれは手球のラインに影響を与える事は無かった。手球は無事7番を掠めながら3番が見える位置まで転がるとゆっくりと停止する。
「よし」
心の中で思わずガッツポーズ、河野さんの方からまたパチリ、パチリと指を鳴らす音が聞こえ、軽く会釈をする。
これで後は問題は無い筈だったのだが、ちょっと3番に対して厚すぎるか・・変にハードショットで弾きに行ってポケットに嫌われない様、妥協して4番を薄めに取る。
撞点左上で4番をサイドにカットしつつ1クッションで5番をサイドに取る、6番への振りが逆になってしまったが仕方がない。
しかし、ここで6番への出しに迷う。
選択肢は2つ、引いて1クッションで行くか、順押しで3クッションさせ6番の裏を通すか。
恐らく最高の結果を求めるなら3クッションなのだろうが、6番に当たってしまう確率も高い、自分はリスクを避ける事にした。引いて1クッションで良い位置に出てきてこれで楽になる。6番を入れつつ7番を遠いコーナーに取る、これもリスクを避けるためだ。
結果としてこのゲームをマスワリで取り1ゲームリード。河野さんとは対照的な地味な取り切りだったが、それでいい。
リスクを出来るだけ避け、基本通りに取っていくのが自分流だ。魅せるプレイは河野さんにお任せしてしまおう。
5-4
あと2ゲーム、調子はいい、相手に不足無し、全力で行こう。




