アマナイン2回戦、VS河野さん
あけましておめでとうございます、本年もよろしくお願いいたします。
新年から絶賛インフルエンザ療養中、やっと良くなってきました、ちなみにA型が流行っているらしいです、皆様もお気を付けて。あと三日は外出禁止か・・・やる事なんて、「なろう」がはかどりますねw
本文中の(注1)は後書きに説明文が有ります。
コールされた時、名前を呼ばれたのが後だったため直接テーブルに向かう、対戦表は相手が持ってきてくれるはずだ。
ブレイクキュー、プレイキューをキュー立てに立てかけてしばらく待っていると、「すいません、お待たせしました」と言いながら、 50絡みだろうか、色黒で白髪交じり、年は取っているものの精悍、だからこそと言うか、その人好きのする笑顔が女性を魅了しそうなダンディーなおじ様が現れた。
「河野です、よろしくお願いします」
「日吉です、よろしくお願いします」
定番の挨拶を終えた後、バンキングの為にお互いテーブルに向かうが「タッドですか?綺麗なキューですねぇ、自分もキューが好きで」その間も河野さんはにこにこしながら話を続けている。
おおう、何というコミュ力。
自分も会場の雰囲気に慣れてきたと思っていたけど、この人完全にリラックスしている。
「ありがとうございます」と返し「試合じゃなかったらもっとキューについて語りたいのに」と思いながらも慎重に、力加減をイメージしてバンキング。
右隣でもバンキング体制に入る河野さん。
!?
そのフォームを見て驚愕する
手球とブリッジの間隔、いわゆるレストの長さは4、50センチは有るだろうか、自分もそうだけど、普通手球とブリッジの間隔が空きすぎるとストロークが安定しない、なので「レストの広さは広すぎない方が良い」と教えられる。
そしてストローク、ストロークは水平に真っ直ぐ、これは撞点ののズレ、手球のカーブを防ぐための基本中の基本の筈である、なのに今素振りをしている河野さんのグリップは激しく上下に動き、それに合わせてキュー先も踊るように動いている。
そしてショット前、ブリッジ付近まで一気に大きくテイクバックすると一気に突き出す・・かと思いきや手玉にヒットする瞬間キュースピードが落ちて、実際に打ち出したボールはピッタリバンキングの力加減になっていた。
「ええぇぇ・・・?」
バンキングは河野さんの勝ち・・それは良いんだけど、なんであんなフォームでちゃんと狙った撞点を正しい力加減で撞けるんだ!?
最後のフォロースルーなんか、まるでキューを手玉に向かって投げ出している様に見えた。今までいろんな店に行ったけど、こんな変な・・いや特徴的なフォームの人を見たのは初めてだ。
そして河野さんのブレイク。
通常のショットと同じくレストを大きく取って激しく素振りをしたかと思ったら急にピタリと止まる、そこからあり得ないほど大きくテイクバックして、キュー尻が上がり横から見ていると完全にキューが斜めになっている、そんな不安定な状態で溜めを作り・・そこからジェットコースターが滑り降りる様な軌道で一気に突き出す。
激しい炸裂音の後、3番、6番がポケット、残りのボールも激しく散らばる、もちろんイリーガルはクリア。どちらかと言えばやせ型なのに凄いパワーブレイクだ。
取り出しの1番はレール際、恐らく逆捻りの切り返しで2番にポジションに行くのがベストに見えるが、距離の有る逆捻りのボールを弱めの力加減で撞かなくてはならない嫌らしい配置。しかし河野さんは悩む様子も無く、同じようなロングレストの構えから、踊るようなストロークで流れるようなショットを放つ。
そのショットは、ストロークの大きさからは考えられない様な繊細なタッチで1番をポケットすると、手球を走らせる、ショットのペースも「本当に考えてるの?」と言いたくなるほど早いのだが力加減も振りも絶妙、瞬く間に残り1球ラストの9番になる。
8番から9番への出しがやや走り過ぎたため土手撞きに近い形。ファーストゲームの9番が土手撞きになってしまい、普通ならもっと慎重にならざるを得ない場面なのだが、河野さんは全くペースを乱さず、同じ入り方、同じ撞き方で9番をショット。
結果としてそのショットは外れ、棚ボタの1ゲームを手に入れる事になったのだが、少し苦笑いを浮かべた位でまるで気にした様子は無い。
1-0
相手のミスで、ほとんど何もせずにリードできた訳だが、ミスの後全く動揺しない自然でポジティブな態度にむしろ恐怖する。
トルネード投法然り一本足打法然り、特徴的なフォームと言う物は、本人が長い間試行錯誤した結果の産物だろう。恐らくプレイが異様に速いのも「このシチュエーションならこうする」と言う自分なりのパターンが決まっていて、それに自信が有るから迷いが無いのではないか。
「これは、相手が崩れてくれるのを期待するのは無理そうだなぁ」
人によっては9番でのミスでポイントを失ったりすると、一気に崩れたりすることもあるけど・・・こういう人は超絶マイペースなので、メンタルの強さが半端ない。
ああ、居たよ「9番とかで緊張すると球が入んないんですけど」とか相談しても「俺、緊張しないから解んない」とか言ってくれちゃうタイプ、うちの店で言えば田畑さんタイプだ。
2ゲーム目のブレイク、右側からからのサイドブレイク、イリーガルは出来るだけ意識せず、余分な力を抜くことを意識する。
「ふっ!」
1番への厚みを意識して放ったブレイクは、正確にウイングの8番をポケットするが、それと殆んど同じタイミングで手玉がダイレクトにサイドポケットへイン・・
少し厚みが左にズレたか・・
この手のブレイクスクラッチは、ブレイクの時に最も注意しなければならない事の一つ、イリーガルに気を取られて失念していた。
まあ仕方がない、切り替えて行こう。
「ファールです」
リピーターに戻って来た手玉を河野さんに手渡し、席に戻る。
「ありがとう」
河野さんは笑顔で手玉を受け取り、配置を確認する。
「うーん」
3番、4番のトラブルを覗きこみ、少し苦笑いをすると、ヘッドスポット近く(透明ボールの位置あたり)に手玉を置き、1番をコーナーへポケット・・・手玉は3、4番のトラブルの4番のすぐ下を通り過ぎ、サイドポケット前で止まる。
がっくりとテーブルに手を突き、すごくイイ笑顔で頭を振る河野さん。恐らく「1番を入れつつ3、4番のトラブルを壊したかったのにミスっちゃった」って事なんだろうけど、本当にゲームを楽しんでるなーこの人。
止まった手玉の位置から、もう一度3、4のトラブル箇所を確認する。ちょっと驚いた様な、イタズラっぽい表情で2番に対して構えを取る。
相変わらず凄い構えだ、4回の素振りの後大きくテイクバック・・・そこから、、恐らく撞点左上で転がす様なタッチのショットを放つ。2番をサイドポケットへ入れた後の手球は3クッションで3,4番の間を一周しておおよそ元の場所に戻って来た。
手球が停止したところで河野さんはレフリーを呼ぶ、「セーフかどうか見ていてください」と言っているようだけど・・パッと見トラブルの様に見えるけど、もしかしてあの3番、通ってるのか??
手球の位置は下側サイドポケットの近く、3番をヘッド側上コーナーに狙うにしても4番に先に当たってしまいそうに見える。まあそれを確認してもらうためのレフリーコールなのだろうけど。
レフリーを呼ぶほどきわどいショットなのに河野さんのシューティングペースは相変わらず。
放り込むようにキューを出しているのに、なぜかスピードが抑えられスピンの乗った殺し玉系の手球が3番にヒット、見事にコーナーへ、レフリーは「セーフ!」のコール、おお、やっぱりあったのか。
手球は4番に当たった後、その場で止まったまま時計回りに回転している、4番に先に当たっていれば手球はセンター寄りに動くだろうし、文句のつけようも無くセーフだな。そしてあの左捻りの量は、、やっぱり3番はただ厚みを狙っただけでは無かったんだろう、スピンによるスロウ(注1)で無理やりコースをズラしたということか。
4番は1クッションでコーナー前で止まっている、残りの配置は問題無さそうで手球の回転が止まるのと同時に河野さんは取り切りにかかる、某漫画の様に「その場でスピンしていたボールがラシャを噛んでいて、まともなショットが出来ない」とかいう事も無く、ものの3分も掛からずに9番までの取り切りをやってのける。出しのラインも文句のつけようのない綺麗な取りきりだった。
1-1
2ゲームが終わった時点で自分が撞いたボールは1ゲーム目の9番と2ゲーム目のブレイクのみとか・・
こりゃ、間違いなく強敵だ、でもなぜだろう、その時自分の中では「強い人と当たっちゃって運が悪い」とか「こんな人に勝つなんて無理」などと言った悲観的な気持ちは全く無かった。
この気持ちを言い表せる某漫画の名台詞が有る、言ってしまって著作権とか大丈夫だろうか・・まあいい、その時の気持ちを一言で言うならこうだ。
「オラ、ワクワクしてきたぞ」
(注1)スロウ
手球と的球、または的球と的球の摩擦によるコースのズレの事(ただしスロウで撞くという表現は「ゆっくり転がす」と言う意味なので「スロウが出る・スロウの影響を受ける」とは別の意味・・紛らわしい)、ハードショットの時はあまり影響を受けないが弱いショットの時やボールが汚れている時、ボール同士が密着している場合などには良く解る。それを打ち消すためにスピンで相殺したりするが、逆に限度は有るが「100%の厚みで狙ってボールをストップさせつつ的球のコースをズラす」などという事も出来る。スキッドもスロウの一種。
厚みなどと違いその日の台のコンディションや湿度などにも影響を受けるため感覚的で、「スロウを使う」事を嫌うプレイヤーも多い。




