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三十路から始める撞球道  作者: 想々
第二章、B級アマナイン編
31/52

アマナイン一回戦、VS島津さん④


5ー5


遂に追い付いた、一時は1ー5まで離されたが、これで振り出しに戻り、「あと2ゲーム先に取った方が勝ち」と言うシンプルな構図になった。



 ブレイクは続けて自分から、最初はイリーガルブレイクを恐れるあまり力んでいたが、そこまで強く割りに行かなくても、普段通りにブレイクすれば大丈夫だという事に気付いてからはブレイクも安定してきている。


いつも通りの右からのサイドブレイク、今まで何千回と確認してきた作業を今回も繰り返す、、ブリッジと左足は絶対に動かさない、頭を動かすと撞点や狙いがズレる、ここもなるべく動かさない様に体重移動をしつつ、重視するのは厚みと撞点そしてタイミング、力は必要ない。



__________________________________________________



 ・・・7番、残り3球だが、多少出しミスをしてしまった。無理に攻める事も出来なくは無いが、今までの流れも有り、落ち着いて長ー長に持っていくセーフティーを選択する。



 セーフティーはやや甘くなり厚みのあるボールが残ったが簡単では無い、コーナーバンクを狙えば8番がまたバンクになる、下手をすれば9番に隠れるコース、カットも激薄で、しかも入れたとしても手球はサイドへのスクラッチコース。


挿絵(By みてみん)


 悩ましい表情で配置を見る島津さんだが、もはやエクステンションは無く長考する時間は無い。


そんな中で島津さんが選んだ選択は7番のコーナーカットだった、かなり薄い撞点を正確に捉え7番はコーナーへ、捻り無しで狙えばスクラッチコースに乗る筈の手球は、絶妙な加減でかけられた逆捻りによってスクラッチを回避、バタバタで8番にポジションされる。


 考えうる限りの中で最高の攻撃だ。


 これには自分も拍手するしかない、相手が一枚上だった。このセットは取られるだろうが、まだ終わりではない。次のセットを何が何でも取り、ヒルヒルに持ち込む!


 こう言うショットから流れが変わる事も有る、浮かんでくる嫌な予感を振り払う様に、気持ちを切り替えようとする。

 そうしている間にも島津さんは8番をほぼストップでポケット、やや土手撞き気味だが近くて厚い9番、島津さんはこれを沈め・・・


「あっ!?」


「え?」


 ・・一瞬目の前で起きた事が信じられなかった。


 やや土手撞き気味とはいえ、手球とクッションの間はボール一個分ほどあった、撞点が制限されるほどではない。厚みも問題なく距離も近い、8から9への出しに何ら問題は無かった。ショット前のメソッドもきちんとしていたし、油断や慢心も無かったと思う。


 しかしその9番を島津さんは「本当に単純な入れミス」をしたのだ。



 島津さん自身も何が起こったか解らないような表情で固まり、9番を飛ばした事に思考が追いつくとがっくりと肩を落とす。

 片手をレール上に突くとキューに縋るように立ち尽くし、赤く潤んだ目で9番を見つめるその表情からは自責の念が伝わって来る。やがて「ギリリ」と音が聞こえそうなほど奥歯を噛みしめると、何かを振り払うように席に戻った。


普段であれば100回ショットして100回入れられる様なボールだった、よほど堪えたのだろう、席に戻ってから顔を伏せ、大きく溜息をついている。


せっかく貰ったチャンス、ここは決める!


残ったボールはヘッド側コーナーを狙える配置、やや距離があり、簡単では無いがスクラッチが無い分入れに集中出来る。


撞点上で構え的玉を凝視して、「ここだ」と言うところに手玉を放つ。厚み通りヒットしたボール、9番は綺麗な前進回転でレール際を走りコーナーポケットに吸い込まれた。


6ー5


あと1つ!


ラックを組んで隙間を確認、1番と2列目の3番4番はフローズンだ。ラシャに両手を突き目を閉じる、静かに息を吐いて顔を上げるとブレイクキューを手に取りブレイク位置に着いた。



____________________________



 緊張の為かウイングボールは入らず、かろうじて1番がサイドにポケット、縺れた配置で取り出しの2番と手球の位置も良くない。

 これはセーフティーしかないかと思いつつ配置を見回す。


挿絵(By みてみん)


 9番がポケットに近い、決められれば勝ちだ、イチかバチか2-9番のバンクコンビを狙ってみようか、しゃがみ込み後ろからバンクショットの厚みを覗き込む。


「ダメだな・・これだけ厚くて2番がクッションに近いと、どうしても「玉クッション」つまりクッションに入った2番が再び手球に当たってしまい、2番をバンクショットで9番に当てて・・と言う狙い方は出来そうにない。


「やっぱりセーフティー・・いや、待てよ?」


 クッションタッチに近い球だからこそ狙えるこの形は、何かで読んだぞ?


 ショットクロックが迫る中、この9番を沈める事の出来るショットの記憶が頭をよぎる。

 思い出せ、そう、確か赤い表紙のかなり古い教本、外国人が書いたものの日本語版、本屋に無くて通販で探したあの本だ!


「この角度なら狙いは真正面から1ミリ程度左くらいか・・撞点は確か、真下」


 記憶を辿りながら狙いを付け、撞点を決める。


 そう玉クッションを避けるんじゃなくて、()()()()()()()()()()()()()()()


 2番に向け放たれたショットは、撞点真下でほぼ真正面からヒットする。

「カカッ」っという音がして、2番はクッションに入ると同時に再び手球にぶつかってほぼ動かず、2番に蹴られた手球がまるでバンクショットの様に戻って来る。


 要はは考え方の転換だ、そう、2番をバンクショットで9番に向かわせ、玉クッションを躱そうとするのではなく、あえて玉クッションさせて、玉クッション後の手球の動きをコントロールする。


 2-9のコンビネーションショットでは無く、玉クッションからのキャノンショット。


 ショット時にはドロー回転だったスピンは玉クッション後はフォロー回転となって手球の走り方を安定させる。そしてそのコース上に有った9番を捉えて、サイドポケットに沈めた。


挿絵(By みてみん)


「よおおぉぉし!」


 叫ぶとまではいかないが思わず声が漏れ、それと共にガッツポーズが自然に出た。

 そんなキャラじゃ無いと思っていたけど、自然に出てしまったのだ。


「ありがとうございました」

「あ、どうも」


7-5


 終了の挨拶をするも、島津さんは心ここにあらずと言った感じ、その後キューを片付けながら、時折きつく目を閉じ、何か思い出すように溜息をついてる。


 気持ちは良く解る、ここで声を掛けたりするのは無粋だろう。時間の関係で試合が終わったら最短で運営へ届けなくてはならない事も有り、最後に対戦表の記入に間違いが無いかチェックすると、心の中だけでもう一度「ありがとうございました」と挨拶をして、テーブルを後にした。


________________________




 古賀さんたちの所に帰ると、「ナイス・ゲーム」と笑顔で迎えられる。それに答えながら、最初は「個人競技」な所がいいとか言ってたけど、こうやって勝利を喜んでもらえる仲間がいるっていうのは純粋に嬉しいな。


 今古賀さん達の視線が注がれているのは12番テーブル、自分が呼び出された直後に、沙樹ちゃんにもゲームの呼び出しがかかったらしく、現在試合中だ。

 ゲームは佳境に差し掛かっていて、スコアは6-4、沙樹ちゃんがリーチをかけている、あと1ゲーム。


「何とか勝ってほしい」


 祈るような気持ちで客席に座り、試合を見守るチームメイトの輪に加わった。


次回、沙樹ちゃん視点になります。御指摘、感想、評価等頂けると嬉しいです。「ここはおかしい」とか「この球は違うんじゃない?」というのがあれば、検証したり上手い人に聞いたりして、修正します。


最後の玉クッションキャノンは、形になっていれば意外と成功率が高いです。

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