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三十路から始める撞球道  作者: 想々
第一章 ビリヤードを始めよう~C級編
3/52

お一人様御来店・センターショット



 折角ならネットカフェや多目的レジャー施設ではなく、専門の「ビリヤード場」に行ってみることにしよう。


 昨日の夜「県名、ビリヤード」で検索したところ何件かの店の名前がヒット、自宅から一番近いところは、車で20分程の国道沿いにある「ダーツ&ビリヤード クロスロード」というお店だった。


 しかし・・営業時間14時~4時って、昼飯食べてからぼちぼち出かけようと思っていたが、事前に調べてなければ待ちぼうけになる所だ。明らかに堅気ではない営業時間にちょっとビビるが、ガラス張りで外からもよく見える店内は明るく、オシャレな雰囲気で特に危ない感じはしない。


 中では短パンにサンダル履きのおっさんがリラックスした様子で一人ビリヤード台に向かっている、この人が店員さんだろうか、にしては随分ラフな格好だけど。


 一応キレイ目な格好をしてきたが、そこまで気にしなくても良かったかな。


 声をかけようと店内に入ると、そのおっちゃんは店の奥に向かって声を上げた。


「古ちゃ~ん、お客さん!」


 やっぱり店員ではなかったらしい、いわゆる常連さんというやつだろうか。

 呼ばれて奥の扉から顔を出したのは、店名の入ったポロシャツにジーンズを履いた初老の小柄な男性だった。


「いらっしゃいませ、ダーツとビリヤード、どちらに致しますか?」


「ビリヤードで、一人なんですけど・・・」


「お好きな台へ」と言われたので、ほかの人の邪魔にならない一番端のテーブルに移動する。


 ちなみに聞いた料金は1時間一人650円、最近はゲーセンでもクレジット制+追加でのクレジット消費システムなどで、容赦なくプレイヤーの懐を狙ってくるゲームが増えた。(1プレイ100円とかは過去の話である)


これは十分安上がりと言える、ほどなくおしぼりと灰皿が届いた。(まあタバコは吸わないんだけど)


 さて、まずは・・ソファーの隅にまとめて立て掛けられているハウスキューの中から一本を選び、テーブルの上にボールを転がす、最初はネットで調べた基礎練習、センターショットかな。




センターショット



的玉をセンタースポット(要はテーブルのど真ん中だ)に置き、2ポイント離した所に置いた手玉で真っ直ぐに逆側のコーナーポケットを狙う。


基本中の基本、バスケで言えばフリースローみたいなものだろうか、しかし・・・


「入らねぇ!」


 とりあえず10個のボールをテーブルの上に出し、センターショットをやってみたが1球も入らない。



 おかしい、まっすぐ狙ってるんだから厚みが違ってるという事はありえない、つまりこんな近くのボールを狙ってるのに、狙い通りの所に当たっていないという事だろうか?

 逆サイドのコーナーでもう1セット10球やってみる、今度は2球入ったが8球は同じように外れた。


 ある程度続けて気付いたが、外れ方に法則があるように思える、外れたボールがほとんど狙ったポケットのやや左に外れるのだ。


 もう一度、10球左側のコーナーを狙ってセンターショット、やはり左に外れる、、というかさっきから外れたボールが2クッションして右のサイドポケットに入るんですけど・・・


 むしろ左コーナーを狙うと、狙ったコーナーポケットより右のサイドポケットに入っているボールの方が多い、あ、また入った。


「だから、狙ってるの、そこじゃ無いから!」


 もしかして、目の錯覚のせいで真正面より右にボールが当たっているのかと、正面より左に狙いを修正すると今度はポケットの右側に大きく外れる。


「こんなド真っ直ぐの基本練習すらまともに入らないなんて・・・向いてないのかも」


 早くもネガティブモードに入りそうになっている時、モップがけを終えたらしい店員さんが話しかけてきた。


「普段はどちらのお店で撞かれているんですか?」


 一人で練習していたので経験者だと思われたんだろうか?

 ここは正直に初心者でこれから始めてみようと思っていることを告げる。

 そして今センターショットをやってみて、思ったより難しくてびっくりしている事などを話した。


 店員さんの名前は古賀さんと言い、このお店のオーナーで、「新規プレイヤーは大歓迎、良かったらフォーム等基本的な事を教えましょうか」と言われたので、お言葉に甘えることにした。


まずはフォームチェック、「ブリッジ、顎(又は利き眼)、グリップ、肘、右足が一直線にキューのライン上になるように、姿勢は低く、肘が直角になるようにグリップの位置を・・」


 言われる通りの姿勢を取っていくが、かなり窮屈だ、右肩がちょっと痛い。

 慣れればそれほど苦しくなくなるらしいが、普段使わない筋肉を使ってるのをひしひしと感じる。


 そしてセンターショットが左に外れる原因についてのレクチャー。

「まずバンキングのように手玉を向こうのクッションに向かって真っ直ぐショットしてみて下さい」


 言われた通りショットする。真っ直ぐ撞いたんだからクッションに跳ね返ったボールは真っ直ぐ戻ってくるのが普通だ、しかしクッションに入ったボールは何故か大きく右にコースを変えた。


「??」


「クッションに入ったボールが右に跳ねるという事は、ボールに右回転がかかっているということです、もう一度同じようにショットして下さい」


「そこでストップ」


 古賀さんに言われてテイクバックの姿勢のまま停止する。


「テイクバックが体の内側に寄っているのが解りますか?」


 言われてみると、確かに真っ直ぐというよりは少し内側に引いているかもしれない。


「人間の体は機械みたいにそれほど真っ直ぐ動くようには出来ていません、意識しないで動かすと関節の動きに合わせて少し弧を描きます、テイクバックが内側にズレると、ブリッジを支点にしてキュー先は外側、つまり右側にズレます」


「ショットスピードが速いとそれが修正しきれないうちに手玉にヒットするので狙った撞点より右を撞いてしまい、右回転が掛かってしまっているんですね」


「撞点が左右にズレると「トビ」と言われるコースのズレや手玉のカーブ、あと的玉に当たった時に摩擦によるコースのズレなんかが出るんです、それを利用するやり方も有るんですがまずは「水平に真っ直ぐ引いて真っ直ぐ出す」を意識してください」


 ぶっちゃけ言われた事の5割も判らなかった、それでも分かった事は「ストロークは水平にしなきゃいけない、で、ボールの真ん中を撞けてないから外れる」という事なのだと理解する。


言われてもう一度フォームを確認、ゆっくりとストロークしてみるがこれがなかなか難しい。左右にズレないように肘を固定してテイクバックすればキュー尻が上がる。

 とにかく水平に真っ直ぐ。基本は大事だ。


 古賀さんにお礼を言い、フォームをチェックしながらのセンターショットを続ける、さっきよりはマシになったかもしれない、明らかに入る様になってきて段々楽しくなってきたその時、それは起こった。


「ッターン!」


 今までの「ガコッ」とか「ボコッ」とかいう感じではなく、気持ちいい乾いた音を立てて、的玉がポケットのど真ん中に吸い込まれた、それと同時に手玉がその場に完全停止したのだ。

 そう、まさに完全停止としか言いようがない。まるでラシャに吸い付くように、「ピタッ」っていう擬音が聞こえそうなぐらい綺麗に停止したのである。


 理屈は解る、要は手玉が無回転の状態で、的玉に完全に正面から当たると手玉の運動エネルギーが100%的玉に移るため、運動エネルギーを失った手玉はその場に停止する。

 物理とかには詳しくないが、おおよそこんな所だろう。


「しかし、こんなに綺麗に止まるものなのか!」


 今まで何十回とショットをしたがこんなに綺麗に止まったのは初めてだった、しかし考えてみれば当然である、手玉も的玉も球体だ、当たった瞬間接するのは点でしかない。

 100%正面からほんのコンマ数ミリズレても手玉は停止しない、しかも完全無回転の状態でだ。(後で聞いたら実際はラシャとの摩擦があるため多少の引き回転はOKらしいが)


「もう一回!」


 感触が残っているうちに、と、再びショットするが的玉はポケットできたものの手玉が数センチ動いた、ほんの少し回転がかかっていたらしい。


 素振りでフォームを確認する。


「水平に・・撞点は中心やや下」


 とにかく、あの完全なストップ・ショットをもう一度やりたかった、理由は解らない。


 撞いた手玉が的玉に当たり、手玉が完全に停止し、そこから弾かれた的玉が糸を引くようにポケットに吸い込まれる。


 その一連のショットの流れが成功した時、たまらなく気持ちがよかった。




____________________________________




 疲労を感じて時計を見るともう夕方だった。

 4時間近く経過していることになる、その間延々とセンターショットを繰り返していたのか。


 集中していると時間はあっという間に経過する、でもこんなに何かに一生懸命になったのは何年ぶりだろう?一旦集中が切れたからだろうか、とてもお腹がすいてきた。


「これからこのお店も混む時間帯に入るだろうし、今日はこの辺で切り上げるか」


 キューを元に戻しカウンターに向かう。


 傍から見てもかなり熱中していたのが分かったらしく「かなり熱かったですね」と古賀さんに言われ少し照れた。

 こういったお店では、一人で来店したお客さん同士で合い撞き(一緒にプレー、対戦すること)も多く、店員さんがその仲立ちをする事が多いらしいが「あんまり一生懸命練習していたので、邪魔するのも悪いと思って声をかけなかった」とのこと。正直まだ常連さんとプレーできるレベルではないので、その気遣いは有難かった。


 来た時に居た常連さんは、いつの間にか帰っていた様だ。古賀さん曰くあのおじさんは「田畑さん」というA級プレイヤーで「上手な人のプレーは見ているだけでも参考になるので、積極的に上手い人と合い撞きするといいですよ」という事だがまだそんなレベルじゃない、それはもっと先の話かな。


 3000円弱の代金を払い帰途に着く。今日やった事といえばひたすら真っ直ぐの配置の基本練習を繰り返しただけ、それでも何も知らなかった昨日より上達したという満足感があった。

 自分は体育会系ではない。学生の頃、遅くまで自主練している運動部を見ても「なんであんな苦しい事を進んでやるのか」としか思わなかったが、彼らなりに楽しかったのかもしれない。



 一つ解ったことは「ビリヤードは楽しい」と言う事だ。



 結局完全な「ストップ・ショット」が成功したのは6回だけだった。

 まだ角度のあるボールは練習していない、しばらくは簡単なボールを入れるだけでも苦労しそうだ。

だけど安定したシュート力を手に入れて、手玉を自在に操れる様になったらどんなに楽しいだろう!


 帰り際に古賀さんから、「開店直後は空いていて、掃除が終わってからは時間がありますから、何か聞きたいことがあったら遠慮なく聞いて下さい」と言われたので、明日は角度のあるボールの狙い方を聞こう、せっかく無料でレッスン的なモノが受けられるんだから。


 今日は連休の初日、この連休の予定は全くの白紙だったが、自分の中で既に明日もここに来る事が確定していた。


 帰り道、車を運転しながら、ストップ・ショットの感触を思い出す。



「これは・・・・ハマるかもしれない」



昔はビリヤード=博打のイメージで、麻雀と同じようなカテゴリーでしたが、最近のビリヤード場はキレイで安全な所が多いです。

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