表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三十路から始める撞球道  作者: 想々
第二章、B級アマナイン編
28/52

アマナイン一回戦、VS島津さん①

試合に入りました、そういえばレギュレーションを書き忘れた様な・・・7先でイリーガルブレイクと、ショットクロックが有る以外は、C級の試合と一緒なので大丈夫だと思いますが・・・すいません(汗)


 コールされた22番テーブルに行くと、対戦相手はすでに来ていた。


 トーナメント表通りなら確か福岡県代表の、島津さんと言う人の筈だ。


 普通なら4セット先取りのB級戦だが、この全国大会では7セット先取りの長丁場、その代わり完全なシングルイルミネーションのトーナメント、つまり負けたら終わりで敗者復活と言うものは無い。


 そう、たとえ北海道や沖縄から来た選手であっても、一回戦で負ければ「はい、お疲れさまでした」となってしまう厳しいレギュレーション。


「すいません、お待たせしました」


 対戦相手と、今回レフリーを務めてくれるらしい選手に一言詫びる、レフリーの人はリボンの色からしてA級の人みたいだ。


「いえいえ、よろしくお願いします」


 挨拶をしてバンキング・・・の前に握手を求められたので答える。


 おぉぉ、凄い、プロのの試合みたいだ!


 ブレイク権を取る事が出来たので、いつものサイドブレイクの形に入る。


「よろしくお願いします!」


 自分に言い聞かせるように、声を出し、気合を入れると今日最初のブレイクを放った。




_______________________________




「イリーガルです。」




「くぅぅ、またかぁ・・・」


 レフリーのコールに思わず愚痴が出る。

 ブレイクの当たりが悪い、それだけではなく全体的にキューが出ていない。


 本日2回目のブレイクは、オープニングのブレイク同様、的球のポケット数とブレイクゾーンに侵入したボールの数が足りずイリーガル(不成立)、ウイングのボールはポケットしているものの相手に手番が回ってしまう。


 現在のスコアは1-4、かなりリードされてしまっている、通常のB級戦なら勝負が付いている。


 待ち時間が長かったせいか、何だかストロークが強張ってしまっている様だった、、ただそんなのは言い訳にもならない、相手だって同じ条件だ。


イリーガルから順調に取りきりに入る相手だったが、7番でミス、手番が回って来る。7番は多少薄めのカットで入れが難しいが、8番が穴前なので入れに集中できる配置。


 シューティング・メソッドを行い、いつも通りに構えに入る。慎重に慎重に厚みを合わせ入れに行く。


 そう、あまりに慎重に丁寧すぎるほど。


 「うわっ」


 撞いた瞬間の違和感で分かった、完全に「()()()()()()()()()()」ショット。


 予想通り7番は薄く外れ、残り3球、残ったイージーな配置を対戦相手が難なく取りった。


1-5


 目を閉じて大きく息を吸いゆっくりと吐き出す、意識を自分の内側に向け、冷静に現在の状況を分析する。


 いよいよ後が無くなって来たけど、体は動く、緊張も思ったよりしていない、問題はショットの消極性だ、もっと自信を持って・・開き直ってキューを出さなきゃ。

 ただ大胆にプレイするのと自棄になるのは違う、そこは勘違いしないように・・まずそのために何をやらなければならないか、とにかく1球強く叩き込もう、ショットに自信を取り戻す必要が有る。


「マインドフルネス」日本語で言うと「瞑想」だろうか、なんか瞑想って言うと宗教っぽいけど、アメリカンスポーツのプロチームでも注目されているとか、、と、いかん余計な事を考えてしまった、しかしやる事は決まった、目を開けて相手のブレイクを見守る。

 

 自分とは逆、左サイドからのサイドブレイク、今まではかなり正確にフルヒットしていた様に思えるが、ここにきて力んだのか少し厚みがズレたのかウイングのボールが外れる、しかし複雑にヒットした的球の内の一つが9番をサイドに向かって弾いた。


「ここでエースか・・」


 出来るだけ表情に出さない様、静かにスコアカードを操作する。


1-6


 相手が更に続けてブレイクをしようと、テーブル上のボールを片付けようとした時だった。


「ちょっとすいません、本部に確認してくることが有るので、テーブルの上をキープしておいて下さい。」


 そう言い残し、レフリーがその場を離れる。


 いったい何が有ったのだろうか?自分は座ったまま、相手は立ったまま暫く待っていると、小走りで帰って来たレフリーが息を弾ませながら告げた。


「エースとイリーガルが同時に発生した場合、イリーガルの方が有効となります、なので今のエースは無効となるため、9番をフットに戻して続行してください」


 なるほど、今確認しに行ったのはコレか。

「解りました」とか言いながら平静を装いスコアボードを元に戻す。


 しかし内心では、


「助かったぁぁぁ!、1-5と1-6じゃ天地の差だよ。イリーガルルールに救われたっていうか、ナイスレフリー、自分は全く気付いて無かったから、レフリーに言われなかったら普通にエースで続行してたよ!、流石A級!そこに痺れる憧れる!」


 とレフリーに感謝、正直背中から嫌な汗が噴き出ていて、心臓はバクバク言っていた。


 何にせよイリーガル有効なのでこちらからの手番、ここは絶対に取らなければいけないセットだ。


 「まずは1セット、絶対に取る!」


 気合を入れ直し、配置を見回す。


挿絵(By みてみん)


 穴に近いボールが多く、上手く出せれば入れの難しいボールは少ないように見えるが、問題はこの3番か。


 シュートコースが通っているポケットが2か所しかない、ヘッド側コーナーへのシュートは距離が有り、かなり難しくなる為サイドポケット一択と言ってもいいだろう、逆に言えばコレさえ何とか出来ればチャンスだ。


 少し考えて2番から3番へのの出しを決めた、この1番はストップで良いと判断して構えに入った所でレフリーから30秒のコール。

 まあこの1番は入れるだけで良いので焦る事は無い、落ち着いて沈める。


 さて・・・2番に対して振りを見て問題無い事を確認、3番をサイドに狙える位置に持っていくために、最良と判断したショットに向けて構えに入る。

 撞点は左下、力加減はやや強めアバウト・・・イメージが固まったところでコーナーに向けて2番をシュートに行く。


 狙い通り2番をコーナーに沈めた手球は、引き回転で短クッションに浅く入りつつ、サイドスピンによって加速しながら3クッションでフット側に戻って来る!




挿絵(By みてみん)


「よしっ」


 ほぼ完璧なショットで3番をサイドに取れた事に思わず声が漏れる。


 続けて慎重に3番をサイドへ、自然な押しで4番に出す、4番をコーナーへ入れれば自然に同じコーナーへ5番を狙える場所へ、やや厚くなってしまった5番から6番へは撞点右上の逆押し、スピンを効かせたショットで6番をサイドに取りに行く。


 手球はセンタースポット付近へ、逆振りだが問題ない、撞点右で6番をサイドへ、2クッションで7番へポジション、撞点下で弾くように7番をコーナーに沈め残るは2球、ここまでは完璧、キューも出て来たし8番は穴前、このまま行ける!


 撞点右で強めのスピンを掛けつつスロウで8番をコーナーへ、狙いよりやや薄めに入ったそのボールは穴前の8番を捉え問題なくポケットする、そのまま手球は9番の横を通り、今8番を入れた同じコーナーへ9番を狙える位置にポジションされる筈だった。


 しかしそのほんの少しの厚みの差が、出しのラインを狂わせる。


 9番の横を通る筈だった手球はほぼ真っ直ぐ9番に向かい、9番を弾いて止まった。




挿絵(By みてみん)



「くっ・・・」


 残った配置を見て思わず呻く。


 9番を沈めるのに一番近いポケットはサイドだ・・しかし極薄な上、薄めに入ると手球がコーナーへスクラッチするコースが見える。

 ならばコーナーか、しかしコーナーへのシュートもいやらしい角度の上に距離が有る。


 こうしている間にもレフリーの持つストップウォッチは無情にも時を刻んでいるだろう、持ち時間は45秒、イージーな配置の時は長すぎる様に感じるその時間は、長考するにはあまりにも短い。


「コーナーだな」


 自らの直感がそう語りかける、撞点左下でコーナーを狙う限りスクラッチは無い。


 自分もこうして全国大会に出るほどビリヤードをやって来たのだ、それなりのシュート力は有る、もちろん単純なシュートミスも有るけど、外す時は難球か又は迷いながら撞く時、後は無理やり出そうとして無理な撞点や力加減で撞く時・・


 距離は遠いが、これぐらいの振りの球を順引きで入れる練習は腐るほどして来たではないか、だったらちゃんと狙えば入る筈だ。


 

 何かがストンと胸の中に落ちる気がした。


 構えに入る、撞点は左下、いつものシューティングメソッド、、撞点も力加減もシュートコースも全てイメージ出来ている、この撞点で撞く限りスクラッチも無い、後は・・

 

「要はコレを入れれば良いんだ」


 100%入れに集中できる状況が出来ると、今まで聞こえていた喧騒が遠くなるような感覚に襲われる、練習通りに的球をよく見て真っ直ぐに引いて・・キュー先が的球に向かうイメージで一気に突き出す!



「ッータン!」


 9番がコーナーポケットの真ん中に突き刺さり乾いた音を立てる。


それは今まで自分自身信じきれないでいた、自らの努力の積み重ねが肯定された瞬間だった。




「・・そうだよ、ちゃんと狙えば入るんだ」



 何となくだけど、この9番を入れた事で得たものは、単純に「1セットを取って追い上げた」と言う表面上の事だけでは無いという事を、頭では無く本能で理解する。


2-5


 さあ、行こうか。



アマナインの試合は7先と長い為に、1試合を何話かに分けることになると思います、最初1試合分纏めて読めた方がストレスが少ないだろうと思い、1試合分全部書き溜めてからまとめて投稿しようと思ったのですが、間が空きすぎてしまいそうなので、出来た分から順次投稿していく事にしました。出来るだけ「レイニー止め」にならないように気を付けます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ