決戦の地へ。
さて、いよいよアマナイン開幕です。
その日はいつもより早く目覚めた。
「やっぱりちょっと飲みすぎだったかな。」
昨日の内に買っておいたミネラルウォーターに口を付ける。
二日酔いと言うほどでもないが、やけに渇いた喉に、冷たい水が浸み込んでいくようだった。
時間はAM6:02、二度寝するにも中途半端な時間だ、顔を洗い髭を剃る、着ていくものの確認も終わり、時間を持て余しているとスマホの目覚ましが鳴るのとほぼ同時のライン着信、沙樹ちゃんからの朝食のお誘いだ。
一拍朝食付きのプランで、朝食はバイキング形式、普段は好きなものだけ取って来るのだが、今日はサラダにヨーグルトとか体によさそうなものを多めに取って来た、少しでも体調を良くして勝率を上げたかった。
だったら前日に呑むなと言う話だが、それはソレ。
ちなみに古賀さんは完全に二日酔いらしく、ぐったりしている。
尼崎までは大阪駅にほど近い駅から電車で一本、乗り換えも無く余裕を持って会場入りできそうだ、駅からの道順も古賀さんが知っているので問題ない。
待ち合わせの時間を決めて部屋に戻る。
一応会場にも選手控室みたいな部屋が有るようなので、そこで着替える事も出来るが、面倒なので蝶ネクタイ以外はここから着ていくことにする。
7:30に集まって電車に揺られ尼崎へ、駅からは徒歩だったが、そこそこ距離が有り、また遊歩道の階段を上ったり下りたり、一人だったら迷ったかもしれない。
そして、遂に辿り着いた決戦の地・・・
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あましんアルカイックホール オクト
会場となるホールの有る、アルカイック・ホテルに着いた自分達は、すぐに選手受付を済ませ、大会のプログラムや対戦表が書かれた冊子と、小学校の運動会なんかで貰うような色付きのリボンを貰う。
コレはそれぞれのリボンの色で何級の選手か一目でわかるようにと言うもので、「見える所につけて下さい。」と言われたので、左の袖口に着けた。
冊子をパラパラとめくりながら沙樹ちゃんと並んでホールへの入り口をくぐる。
まず目に飛び込んで来たのは整然と並ぶビリヤードテーブル、その数24台、すべてが新品でこの日の為にわざわざ用意されたのは一目瞭然だ。
それをすり鉢型にぐるりと取り囲むように配置された観客席、収容人数は数百人から千人は入れそうなぐらいに広い。
他にも運営本部のブース、偉い人挨拶するであろう一段高くなった舞台には演台とマイク、客席の一部では大阪の選手に向けた横断幕が準備されつつある。
ホテルの大ホールを貸し切り、そこに設置された特設会場、野球で言えば甲子園、ラグビーで言えば花園だ。周りにも選手らしき人が大勢いて、みんな強そうに見える。
「何だか緊張してきた・・」
「私もです・・」
普段の、「普通に営業しているビリヤード場を借り切って一日大会に使う」という大会のスタイルとは何もかも違うスケールに圧倒される。
それでもまだ試合にまでには時間が有る、客席の一角に県勢の荷物をまとめ、ベースキャンプを作る、今回同県から出場するのは、A級二人、B級二人、女子級一人、A級はまさに県勢のエースと呼ぶべき方々、他店の方なので一緒にプレイしたことは無いが、自分でも顔と名前を知っているトップアマだ。
そして女子級が沙樹ちゃん、B級は自分と・・
「ガンバリマショウネ、ンフフ」
関口・アントニーの爺さんだった、まあ全く話した事無い人よりいいかも。
対戦表には既に自分の名前が載っていて、何試合目かを見れば、自分の出番がおおよそどれくらいになるか予想は付く、自分はB級3組の19試合目・・・コレ4時間くらい待つんじゃないかな・・・
でもこのB級8組の最終とかになると、最初の出番が64試合目って・・これ一体何時間待つことになるんだ?これに比べればまだマシなのか、ちょっと大会の規模が大きすぎて訳が分からない。
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時間になり、開会式が始まる。
選手入場・開会宣言・国歌斉唱・偉い人の挨拶・・・・
式典は続く。
前回優勝者による選手代表宣言やら始球式まであった、、オリンピックかな?それとも甲子園?
来賓も兵庫県知事やら、尼崎市長やら偉い人達がゾロゾロとでてくる。
小一時間程式典が続き、時間は午前10時、最初の試合の前だけに許されている2分間のウォーミングアップが終わり、いよいよオープニングブレイクを迎える。
24台のテーブルで、バンキングに勝利した各選手がブレイクの体勢でその時を待つ、すり鉢型の客席は、出番を待つ選手たちや、その付き添いの人たち、あるいは純粋な見物客で、半分以上が埋まっている。
その、数百人のギャラリーが、一斉に口をつぐみ、会場に静寂が訪れた。
沈黙を破るのは、尼崎市長による静かな宣言。
「只今より第〇回、全国アマチュアナインボール選手権を開催します、ブレイク用意・・・」
「ブレイク!」
24台のテーブルから放たれたブレイクの音は、まさに轟音と言ってよかった、台の数が多いのもあるけど、ホールの造りからして音響の関係も有るのかもしれない、空気の振動が客席まで伝わって来た。
派手に散らばったボールが緩やかに停止すると同時に、湧き上がる拍手を背に受けた各プレイヤー達が、一斉に動き始める。
「始まった!」
観客席を含めた試合会場全体が、独特の緊張感に包まれた。
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「まあ、人間が緊張感を持続させる事の出来る時間ってさ、2時間が限界とか言うよね。」
はじめこそ会場の空気に触発されて、興奮気味に他のプレイヤーの試合を観戦していた自分だったが、1時間も経つとその空気にも慣れ、そして自分の出番まで、この状態が後3時間ほど続くであろうという現実にうんざりし始めていた。
一応長時間待つことも想定されたので、時間つぶし用の単行本も持ってきてはいた、しかし、試合会場の客席と言う環境では落ち着いて本を読むのも難しい。
正午を過ぎ、昼食をとって更に1時間ほどが経ち、丁度お腹が落ち着いて来た頃、遂にその時が訪れる。
「試合の呼び出しをします・・・B級〇〇県代表、日吉健吾選手・・・22番テーブルで試合です、繰り返します・・」
「来た!」
沙樹ちゃんの「頑張れー」と言う声に短く答え、すでに準備万端、組み立て終わっているキューを、ケースごと背負い、テーブルに向った。
クラス分けのリボンは、女子級の選手も付けるんですが、女子級の選手は見ただけで解ると思うんですけど、男の娘とかいるんでしょうか?「少し考えれば解るのに」っていう事有りますよね。
友人の話ですが役所の書類、(免許関係だったかな?)で、新住所、新氏名、新生年月日を書く欄があって戸惑ったそうです。(写真も見せてもらいました)
新住所>引っ越しすると変わります、新氏名>結婚や改名で変える事も有るよね。新生年月日>転生者用かな?
普通の人は生年月日が変わる事は無いと思います。




