アマナイン前夜。
試合前日の移動回です、ゲームは有りません。友人が外食の度に写真を撮ってますが、特にグルメ系雑誌のランキングを獲得した訳でもない、普通のチェーン店のラーメンの写真って需要有るんですかね?
新幹線での移動は数時間に及んだ。
更に新大阪の駅から御堂筋線で大阪駅へ、ココまで来れば、尼崎までは電車で1本。
駅にほど近いビジネスホテルがこの2日間のベースキャンプとなる。
「いやー、しかし有給が取れて良かったです。」
ホテルに向かい一緒に歩きながら、古賀さん、沙樹ちゃんに話しかける。
五月の半ば、全2日間の日程で行われる「全日本アマチュアナインボール選手権」、その前夜、クロスロードの面々の3人は、やっとのことで大阪駅に到着した。
「まあ大会の開始時間が午前9時だからね、当日自宅を出て大会に参加できるのは会場近くの府県の人達だけだろうし、まあ丁度良い所に宿が取れて良かったですね」とは古賀さんの談。
「うちは自営業なんで、家族旅行とかほとんど無かっから嬉しいです!修学旅行みたいですよね!」とは沙樹ちゃんの談。
会社には法事だとかそういう嘘は言わず,
「ビリヤードの全国大会に出るので、有給下さい!こんなチャンス、一生に一度有るか無いかなんです!!」と正直に言って、土日の前後に有給を2日間申請した。
決算月を過ぎていたのと、「申請時のあまりに必死な形相で、思わず受理してしまった。」というのは後に聞いた上司の話。
やっぱ「断じて敢行すれば、鬼神もこれを避く」と言うし、絶対に引かない心構えで交渉すれば有給も取れるんだな・・と言うか、そこまでしないと有給取れないって、もしかしてブラ〇ク・・いや、今は止そう。
ホテルに着いた自分たちは、チェックインを済ませ、荷物を部屋に置いて身軽になると、ロビーで合流してから、3人で夜の街に踏み出す、目的は晩御飯だ。
ちょっと時間が遅いので、レストランなんかはそろそろ閉店時間だけど、お酒を出すようなお店なら大丈夫だろう。
居酒屋系の店を中心に、食事メニューが充実していそうな店を探す。
「やっぱ大阪と言ったら粉ものですかね?、タコ焼きとかお好み焼きとか。」
「時間的にどうですかね?、居酒屋系を狙うとしても、串焼きの店とかだとねぇ、寝る前に揚げ物ばかりは、この年だと一寸きついかな」
「私も、揚げ物は・・好きなんですけど、寝る前に食べるのは罪悪感が・・・それを言ったら炭水化物山盛りの粉物も同じなんですけどね( ̄∇ ̄;)」
ハハハと、乾いた笑いを浮かべる沙樹ちゃん。
そうすると刺身とか魚介類系の居酒屋とかの方が良いのかもしれないけど、それ系だったら地元の方が絶対美味しい。せっかく大阪まで来たのだからという事で、何件か見て回った結果、一軒の店に狙いを定めた。
お好み焼き「紅葉」
昼営業は普通のお好み焼き屋さんで、夜は居酒屋を兼ねるようなお店らしい。判断基準は店の外に置いてある客待ち用の椅子。およそ7人程度が座れる椅子が店の外に置いてある。現在も女性二人がそこに座って待っていた。
つまり、待ってでも食べたいというお客さんが居る店だという事だ。そして現在の待ちは一組、大して待たずに店に入れるだろう。
「次3名様でお待ちのお客様~、お待たせいたしました!」
予想通り5分ほどで、座敷席に通される。テーブルに鉄板が付いているスタイルのお店で、メニューはやっぱりと言うか焼き物が多かった。
まあメインはお好み焼きとして・・・「とりあえず中生ですかね、古賀さんは?」「私も中生で、沙樹は?」
「え?」
沙樹ちゃんが固まる。
あ、そういえばこの娘、一応飲酒年齢に達してるんだっけ、オヤジ二人がナチュラルに飲み会モードに入ってしまったため、自分も飲まなきゃとか思ってるんだろうか?
「えーと、興味は有るんですけど烏龍茶にしときます。」
おお、ナイス自制心、まだ自分の適量が解ってないなら、大会前日に呑むのはダメですね。
個人的には酔っぱらった沙樹ちゃんがどうなるのか見てみたかった気もするけど。
「明日大会ですよね?、日吉さん普通にお酒頼んでるけど大丈夫なんですか?」
「毎日飲んでるし、飲み過ぎなければ大丈夫!」
大丈夫なだけであって、飲まない方がベストなのは言うまでも無い、だから言わない。
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さほど待たず、生二つと烏龍茶、お通しの枝豆が運ばれてくる。
「それじゃあ明日の大会の勝利を願って・・・」
「「「乾杯」」」
古賀さんの音頭に、軽くグラスをぶつけると、グイっとジョッキを煽る。
「「ぷはぁー」」
「やっぱ最初の一口目が最高ですよね!」「外で飲むのは久しぶりだけどヤッパリいいなー。」
盛り上がるオヤジ二人。
「なんかズルいんですけど・・・」
苦笑しながらこっちを見て呟く沙樹ちゃんに、「ちょっとこれ持ってみて。」と、ビールのジョッキを持たせてみる。
「どうですかね、古賀さんコレ・・絵的に」
「うーん、ちょっとマズイ気がするな・・・絵的に。」
笑顔で批評するオヤジ共二人。
沙樹ちゃんはポーチの中の財布から運転免許証を取り出すと、水戸黄門の印籠の様にこっちに掲げて見せる。
「身分証が有るから大丈夫です!」
ああ、絵的にマズいのは自分でも認めちゃうのね。
沙樹ちゃんを弄りながらビールを呑んでいると、枝豆が無くなる頃合いでお好み焼きが到着、しかしここからまだ数分間は鉄板で焼かないといけないらしい。
一緒に頼んだおつまみ系のモノで間を繋ぎつつ、明日の大会について話をする。
「じゃあテーブルもボールもラシャも、全部新品なんだ?」
まあ特設会場・・・この大会の為にわざわざセッティングされる会場なのだから、当然と言えば当然なのだが、改めて全国大会と言う事を思い知らされる。
他にも、ショットクロックは残り15秒で、30秒コールが有るとか、イリーガルブレイクルールの詳細とか、何で趣味の話をしながら飲む酒はこんなに旨いんだろう。
お好み焼きが焼きあがるのと、ほぼ同じタイミングで最初に頼んだ出汁巻き卵が到着する。
正直「卵焼きなんだからすぐ出てくるだろう」と思って繫ぎのつもりで頼んだので、「やけに遅かったな?」と思いながら皿を受け取ったのだが・・・
「なんだコレ、俺の知ってる出汁巻き卵と違う・・」
やや深めの角皿に鎮座しているのは淡く金色に輝く出汁巻き、深皿の底には溢れ出した出汁が溜まり、見るからに柔らかそうな出汁巻きのジューシーさを強調している。
沙樹ちゃんが嬌声を上げながら写真を撮り始める、「正直料理が来るたび写真を撮ってる人ってどうなの?」と思っていた、そんな事してる暇が有ったら温かい内に食べた方が美味しいだろうに。
フェイスブックにアップするにしたって、特に特徴のないラーメンとかの写真とかアップされても、見た人が反応に困るだけの様な気がするし、夜中に見たら飯テロだ。
という事で飯の写真を撮ってる人は、「テロ等準備罪」になるのでは?とか意味不明の場所に着地したりもした。
しかしコレは確かに写真撮りたくなるかもしれない。
そして一口食べて・・・すぐに店員さんを呼んだ。
「これは日本酒だ・・・」
古賀さんも全面的に同意の様だ、明日の試合の事も考えて冷酒を二人で分ける。
「シェアしたから!一人当たりの量は減るから大丈夫w」
沙樹ちゃんが呆れながらジト目でこっちを見ていた。
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流石にこれ以上はマズイという所で店を出る。夜風が頬に心地よい。
隣を歩く沙樹ちゃんの説教を聞き流しながら、夜道をホテルに向かって歩く。
古賀さんは少し飲みすぎたらしく足元が危うい。
自分はと言うと、量的には許容の範囲だけど念のために二日酔いに効くドリンクを飲んで、今日は早め寝る事にしよう。
明日はいよいよ大会だ、流石に飲みすぎて二日酔いで寝坊とか洒落にならない。
でもビリヤードはメンタルスポーツだから、あまり張り詰めすぎるのも良くない・・と自分に言い訳をする。
酒が入って良い心持のままシャワーを浴び、少し多めに水を飲んでベットに入る、時間は22時45分、普段寝る時間より大分早い、当然まだ眠れない、むしろ明日の大会の事に思いを馳せて、眼が冴える位だ。
人によっては前日深夜まで練習をする人も居る。自分も大会前の早朝5時とかに起きて、24時間営業のネカフェで、試合前に練習をしたことも有る。
でもそれによって得た教訓は、「やっぱり睡眠大事、体調管理はしっかりしないと勝てる物も勝てない」だった。
たとえ眠れなくても、横になっているだけでも大分違う、減量中のボクサーの様なストイックさは無いにしろ、こういう所はやはりスポーツ選手なのである。
枕が変わった事も有り、しばらくは眠れずにいたが、そういう時には無理に「眠らなければ」と思わないほうが良い。
今日食べた出汁巻きの味を思い出しながら、「どうやったらあの味を自宅で再現できるだろうか?」と目を閉じながら試行錯誤してみる、そうする内に睡魔が訪れたので、丁重にお迎えする、やっと眠れそうだ。
明日からは全国大会、コレは夢ではない。
最近のスポーツ選手のニュースを見ると、大抵プロで上位に入ってニュースになるような選手は、親の教育方針とかで小学交低学年、あるいは幼稚園位から英才教育を施されている選手も多い。
2年ちょっと前、やることも無く何となく始めたビリヤード。始めた年齢は30歳、マイナースポーツだからライバルが少なくて・・だからこそここに居られる。メジャー競技のプレイ人口とは比べるのも馬鹿らしいが、「全国の舞台で戦う」という事に変わり無い。
「俺は明日、全国大会の舞台に立つ!」
酔いと微睡の中、そう考えると、何だか自分が誇らしい気がした。
次回が会場入りの話で、2話後からゲームに入れると思います。正直ゲームの話は自己満足にしかならないのでは?と言う心配が有りました。出来るだけ解り易くしようと、配置図を模索したり色々考えていましたが、ビリヤードに理解の深い読者様も多く、驚くと共に感謝しています。試合に入る前に、1部のテーブル各部分名称ページに、9ボールの大まかなルールを図入りで追加しようと思っています。その分作業が遅れてしまいますが、新規のプレイヤーが少しでも増えてくれたらと思います。




