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三十路から始める撞球道  作者: 想々
第一章 ビリヤードを始めよう~C級編
22/52

祭りの後。

大会の後、成績が振るわなかった時は、ホームの店に帰ってから大抵「反省会」と言う名の練習やゲームが始まります、そして、反省会の時はやけに球が入るし出しも決まります。

「何故、試合でこれが出来ないのか!?」と自分にツッコむまでがワンセット。


「C級三位、日吉健吾殿、以下同文です、おめでとう。」


 自分は今、C級三位で表彰を受けていた。


_____________________________



 ゲーム終了後、初めてのマスワリ、プレッシャーのかかるゲームでの勝利。色々な感情が混じりあって感極まっていた自分だったが、対戦相手からの「有難うございました」の挨拶に、我に返る。


 慌てて「こちらこそっ、有難うございます!」と、ややテンパり気味に返すと、対戦相手の名波さんは、「ナイス・マスワリです、いやーやられましたーw」と、和やかに話しかけてくれる。


 「ビリヤード」と言えば麻雀と同じく「ギャンブル」のイメージが強くて、アンダーグラウンドな感じがするが、スポーツとして、真剣にビリヤードに取り組んでいる人達のスポーツマンシップに乗っ取った爽やかさは、他の競技に劣らないと思う。


 運営の人達が表彰、その他の準備に追われている。自分はキューを片付けて沙樹ちゃんの元へ。


「凄いです!追い詰められた状況から、逆転のマスワリとか、漫画みたいでした!」


 沙樹ちゃんの第一声、確かに自分でも出来すぎだと思う。上級者のように、手球を正確に操って取り切っていく、「まるでテーブルを支配している」様なカッコいい取り切りでは無かった。

 頑張って入れ繋いで、出しもミスして、博打気味なバンクが入ってくれたのは運も有った。最後は滅茶滅茶ビビってたし、泥臭くて情けない、そんなマスワリだったけど。それでも、最後の試合のヒル・ヒルと言うプレッシャーがかかる状況でマスワリが出せたことは、これからの自信につながると思う。


 沙樹ちゃんと話しているうちに、ほどなくして表彰式が始まった。


________________________________


 賞状を受け取りながら、運営の方に「有難うございます。」と軽く会釈をする。


 賞状と一緒に、25cmほどの小さなトロフィーを貰い、1~3位の人達で並んで写真を一枚。


 時間はそろそろ夕方の7時を回ろうとしている、あまり遅くならないうちに、クロス・ロードまで沙樹ちゃんを送らなくてはならない。余韻に浸る間もなく撤収。


 帰りの車の中では、今日の試合のゲームの話、沙樹ちゃんはよほど悔しかったらしく、帰ったら早速お店で、反省会を兼ねた練習をすると張り切っている。う~ん、元気だ。


 自分はと言えば、すでに疲れ果てていた。考えてみれば、9時間ぐらいずっとぶっ続けで、試合をしていたのだ。体力もそうだけど、主に精神的な疲れが溜まっている、とても眠い。

 何とかクロスロードにたどり着く。店に入ると沙樹ちゃんからのラインで、自分の3位入賞は古賀さんをはじめ店の常連さんに伝わっていたらしく、いろんな人から祝福してもらえた。

 正直普段、褒められたり「凄い」と言われる事なんてほとんど無いので、なんだか物凄く、くすぐったい様な気分だった。

__________________________


 無事沙樹ちゃんをクロスに送り届けた事により、今日の自分の役目はこれで終わり。だけど家に帰るまでが試合ですからね、眠気に負けない様に気を付けて帰ろう。沙樹ちゃんと常連さん達は早速撞き始めていたが、自分は明日も早くから仕事なので、一抹の寂しさを感じながら、後ろ髪を引かれる思いで家路につく。


 流石に家に帰って晩飯を作る気にはなれないので、途中コンビニに寄って総菜とビール、そして普段はあまり飲まないワインを買ってみる、ちょっとした祝杯だ。


 総菜はチルドのビーフシチューに、お値段の張るちょっと良いサンドイッチにしてみた。コンロにかけたお湯の入った鍋の中にビーフシチューのパウチを放り込むと、風呂場に向かう、疲れているので本当なら湯船に浸かりたい所だが、今から風呂を沸かすのは面倒だ、シャワーで我慢しよう。


 風呂から上がると、いい具合にお湯が沸騰していてビーフシチューの方はもう食べられそうだったので、深皿に移してテーブルの上へ、サンドイッチとビールを添えてテレビをつける。

 いつもの夕食と同じ態勢だけど、今日は一つ違うところが有る、テレビの脇に置かれた小さなトロフィーと卒業証書とかが入っていそうな筒の存在。筒の中にはもちろんC級戦3位の賞状が入っている。


 ジョッキに注いだビールを一気に半分ほど煽る。


「ぷはぁー」


 風呂上がりの火照った喉を、冷えたビールが一気に通り抜けていく。


「ふぅ~~、たまらん!」


 ケチって発泡酒とかにせず、ちゃんとしたビールにして良かった!アルコールが体に浸透していくと共に、色々と強張っていたモノが緩んで体が元の状態に戻っていくのを実感する。


 なんだかんだで、今日の過ごし方は、いつもの休日の過ごし方とは全く違う、いわば「非・日常」だったという事だろう、やっと「日常」が戻ってきたといった所か。



 テレビを見るとも無しに眺めながら、サンドイッチを齧り、シチューに口をつける。あまり空腹は感じていなかった筈なのに、最初の一口を食べた途端急激に空腹が増した。


「う~ん、もう少し買ってくれば良かった、でも今からまた買いに行くのもな。」


 ビールを飲み終わって、ワインに移行しながらそんなことを思っていると、再びテレビの横のトロフィーが目に入った。


 しばらくそのトロフィーを眺める。

 

 ゲームではなく、リアルの世界でトロフィーを貰ったのは、恐らくこれが初めてだ。学生時代、運動部とかに所属でもしていない限り、トロフィーを貰う機会なんてほとんどないだろう。運動部に居たとしても優秀な成績を修めたごく一部の人だけしか貰えない物なのだから、不思議ではないと思う。


 賞状に関して言えば、小学生くらいの時は何枚か貰った記憶が有る、だけどそれも習字とか縄跳びとか、頑張れば誰でも貰える系の奴だった気がするので。ハッキリ「優秀な成績を修めて」貰う賞状は初めてかもしれない。


 20数人の小さな大会で、それも「C級」と言う一番下のグレードではあるけど、これは確かに「県主催の大会で、戦って勝ち取った」ものである。そう思うと少し誇らしい。


 自分でも「ちょっとキモイ」と思うけど、思わず顔がニヤケてしまう、まあ、周りに誰も居ないから勘弁して貰おう。

 大分酔いが回った頭で、今日の事を思い返す。その内容は大分美化されていて、まるで自分が物語の主人公になった様に感じられて、再び笑みが漏れる。


 「次の休みに、100均でフォトフレームでも買ってくるかな?」


 額の代わりには十分だろう。


 

 さらに酔いが回ると、猛烈な眠気が襲ってくる、「もう後片付けは、明日にしよう。」食器を流しに漬けると、ベッドに潜り込む。


 充実感でフワフワした脳に、体の疲れとアルコール。眠気が限界となり、意識を手放す寸前に思う。


「ビリヤード・・・明日から、また頑張ろう。」


 最後に大きく息を吐くと、そのまま眠りに落ちる。


 多分、その寝顔は笑っていたと思う、そんな心地良い眠りだった。







何とかC級編が一段落しました。一応この後は、閑話や、番外編をいくつか挟んで、「B級編」に入るつもりでいます。つたない話ですが、読んで楽しんで頂ければ幸いです。


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