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三十路から始める撞球道  作者: 想々
第一章 ビリヤードを始めよう~C級編
13/52

敗者最終戦


 3番テーブルに到着、対戦相手はまだ来ていない。


 キューをおしぼりで拭き、キューケースからヤスリを取り出して、タップのメンテナンスをしていると、対戦相手の伊達さんが到着した。


「すいません、トイレが混んでて」


「いえいえ」


 と、言いながら顔を上げてびっくりした。


 一言でいえば、「でかい」(説明不要)という事になるだろうか、男性、190cm、髪は茶、筋肉モリモリ、マッチョマンなプレイヤーだった。


 こちらの反応を見て察したのか、「自衛官で鍛えているので威圧感があると良く言われますけど、ビリヤードは始めたばかりで初心者同然なんですよ」などと気さくに話しかけてきた。隆々たる巨躯で迫力満点だが、笑うと愛嬌がある顔立ちをしている、照れ臭そうに話す姿が爽やかだった。


「すごくいい人です、はい」


 人柄云々は置いておくとしても、ぶっちゃけ身体能力がモノを言う系のスポーツだったら、全く勝負になりません。それでもこれからやるのはビリヤード、体格の差はそこまで影響しない。


「「よろしくお願いします」」


 いよいよ試合開始、バンキングに入る。沙樹ちゃんが厚底靴で調整していた様に、ビリヤードテーブルというのは平均的な成人男性を基準に、高さの調整をしている場合が多い。


 なので体格が良すぎる伊達さんの場合、テーブルが低く感じてしまうのかもしれない、若干フォームが窮屈そうだ。


 バンキングを取り、ブレイクで2番がイン、1番は厚めでコーナーに狙えるが、手球の近くに6番があり普通にブリッジを組むことが出来ず撞きずらい。


 入れは難しいが入れば出る配置、イレイチででショットしてみる・・・ミス。まあコレはしょうがない。


 手番を交代し伊達さんのターン、手球の位置がテーブルの中央奥で、レスト(注1)を使うのかと思って見ていたが使わなくても問題ないようだ。

 このあたりは身長の高い人の利点だろう。1番を入れて3番へポジションに行く。この出しは、振り、厚さ、距離ともにバッチリだったが手球がクッションにくっつく、いわゆる土手撞きの形になった。


 体が大きい人にとって、こういう土手撞きはめんどくさい、、ビリヤード場の広さは有限なので、台と台の間がそんなに広くないため、土手撞きのようなテーブルの端に手球がある配置になってしまうと、後ろにある台が邪魔になって構え辛くなる事が多いのだ。


 伊達さんは、後ろにある台のレール付近にボールが無く、現在プレイヤーがショットの体制に入っていないことを確認すると、隣の台のレールに腰掛けるようなフォームで構えに入る。それでも突き下ろすような姿勢になり窮屈だ。


 それでも力強く3番をシュートすると1クッションで4番にポジショニング。土手撞きで強く撞くのは入れが難しいが、確実に決めてきた。初心者だとか言っていたがかなり上手に見える。


 その後4番、5番とポケットした伊達さんだったが6番へのポジショニングでミス、手球が走りすぎ、コーナーへのポジションだったはずが、コーナー、サイドどちらを狙うにしても中途半端な場所に出てしまう。結局サイドへのシュートを狙うがミス、やっと手番が回ってきた。


 残り球は6,7,8,9の4球、さっきの手番、伊達さんは1から5まで4球ポケットしている、ミスして相手に回ってしまったら、そのままセットを取られてしまうことも有りうる。ここは慎重に行きたい所だ。


 配置をざっと見回す、6番はテーブルのほぼ真ん中あたり、ややフット側、手球はサイドポケット付近のクッションにタッチしている。

 7番はヘッド側の短クッション沿い、8番はちょうど手球と同じクッションのサイドポケットを挟んで反対側といった感じで、サイドポケット近くのレール際に有る。

 9番はゲーム開始からほぼ動いていない、フットスポットのやや下辺りだ。


 6番はサイドポケットに狙える位置、土手撞きだという事を考えても入れるだけならさほど難しい球ではない。


 問題はその角度、この角度だと6番を入れた後の手球は、7番と逆の方向、つまりフットスポット側に転がる事になる、いわゆる逆振りである。

 7番に出すためには強く撞いて、短クッションに跳ね返らせて戻してこなければならないが、土手撞きという事で撞点が上しか撞けない、そしてこの角度・・・


「このまま上を強く撞いて6番をサイドにシュートすると、手球は真っ直ぐコーナーポケットに向かうんじゃ・・・だけどぎりぎりスクラッチを躱して短クッションに入ってくれれば、2クッションで7番に出る筈・・・」


 6番はただ入れただけでは次に繋がらない、しかし7番に出しに行くにはリスクがある、さてどうするか?


「ここはイチかバチか攻めてみるか」


 さっきの試合も強気に攻めた結果勝つことが出来た、弱気はいけない。レールの端に指を引っかけるようにしてオープンブリッジを組む、グリップをやや短めに持ち替え体を倒す角度はいつもより幾分高め、6番に狙いを定める。


 テイクバックで少し溜め、バチンとはじくように強めの力加減で6番をシュート!


「タン!」と乾いた音を立て6番がポケットされると同時に手球がフット方向に滑るように分離、前進回転の影響でカーブを描きながらコーナーポケットの方向に向かう。


「躱せ!」


 祈りが通じたのか手球はコーナーポケットぎりぎりの短クッションに入り、2クッションでヘッド側に向かった。

 予想ではもっと長クッションに平行に近い感じで走って向かって左上のコーナーの方に戻ってきてくれると思っていたが、カーブの影響なのか、センタースポットを対角線状に横切る様なコースを走り、向かって左下方向に出てきた。



挿絵(By みてみん)


 はっきり言って予想とはだいぶ違う結果となったが、まあスクラッチしなかっただけラッキーだろう。狭いほうに出てきたため7番の狙いはかなり薄くなってしまったが、十分入れが有る範囲だ。


 しかし、正直こんな薄い球は入れるだけで精一杯、よくわからないが、8番の位置からして撞点は上より下のほうが良いんじゃないかな?位の気持ちで撞点を決め、とにかく7番を入れる事に集中する。


 力加減は普通、とにかく入れイチの時は自分の一番良いイメージのショットを心掛ける事、古賀さんに教わった事だ。


 カットした7番は多少厚めで前クッション気味にコーナーポケットへ、渋い台なら穴前でカタカタと止まったようなショットだったが何とかポケットイン、手球は短クッションから真っ直ぐ8番の方向に走ると8番に当たって9番の近くで止まる。

 手球に弾かれた8番は、そのまま1クッションの後クッション沿いを転がってコーナー前で止まった。


 ラッキー!当たり方が良かった、もっと薄く当たっていたら難しく残っていただろう、何となく撞点下で撞いたがそれによって厚く当たることになり、残りが良くなった。


 8番をコーナーにショット、ちょっと力加減が強くて薄くなってしまったが、9番をコーナーにシュートしてこのセットを取った。


 考えてみると、ブレイクから選手の交代は2回だけで1セットが終わっている、今回はブレイク後の配置が良かったのとラッキーに助けられたのもあったが、流石にC級の敗者ゾーンとは言え最終戦になるとレベルが高い。


・・・・と思っていたんだけど、、


 この1セットを取った事が伊達さんに予想以上のプレッシャーをかけたようだ。「C級戦で残り4球だからまだ回って来ると思ていたら、取り切られてしまった」


 この事で、「相手は上手い、ミスできない」と考えてしまったのだろうか、それからの伊達さんのプレイは精彩を欠いた、丁度「初戦の自分がこんな感じだったのだろうな」と冷静に分析する、今も伊達さんのターンなのだが取り切られる気がしない。ストロークする右手が小刻みに震えている。


 2-0となり、リーチをかけた3戦目の7番ボール、イージーなミスで自分に手番が回って来る。


 厚みの無い配置だったのでセーフティーに行く、「見えていても良いから、難しく残そう」アバウトに行ったセーフティーがガッツリ決まる。技術的云々より精神的優位と、それによる試合の流れは明らかにこちらに有った。


 伊達さんが最初に「初心者です」と言った言葉は嘘ではないようで、クッションの知識はまるで無かった様だ。見えていない球が回って来ると明らかに「どうしていいかわからない」という表情を浮かべる。


 クッションからのセーフを狙うがファール、残り3球、配置も難しくない。


 6番をサイドに狙える位置に手球をセット、押し球でポケットしつつレール際にポジション。7番はブレイクで入っているためネクストボールの8番をストップショットで沈め、9番に出す。


 現在セットカウントは2-0この9番が「ゲームボール」だ。


 

 こういう状況になると流石に緊張はするが、相手が自分より「壊れている」ため「外せば負け」といったようなプレッシャーが無い分、普段通りのプレイができた。このラストの9番を沈め、敗者最終戦に勝利、



「「ありがとうございました」」


 正直相手がテンパってくれなければ勝てなかったかもしれないが、まあ勝ちは勝ち。対戦票を運営に提出すると。沙樹ちゃんが寄ってきて「ナイスゲームです!」と声を掛けて来てくれた。


 確かに相手の自滅という部分もあるけど、その後ちゃんと自分のプレイが出来たのは良い事だ。

 一旦キューをバラしてケースに戻し、移動のための準備をする。


 向かう先はもちろん、決勝トーナメント会場「ナイン・スポット」だ。





(注1)レスト:

キューと同じくらいの長さの棒の先に、キューを乗せてストロークするためのパーツが付いた、ビリヤードの補助具。手球が遠くに有って届かない、ブリッジが組めないと言ったときに使用する。レスト、ブリッジ、孫の手、熊手、お助け棒とか色々な呼び方をされているが、正式名称は「メカニカル・ブリッジ」


現在進行中の話が完結していないのに、他の話を書く漫画家や小説家を見るたびに、「そんな事やってる暇が有ったら本編進めろよ」と思っていた私ですが、書きたくなっちゃう事って有るんですね、ごめんなさい。

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