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三十路から始める撞球道  作者: 想々
第一章 ビリヤードを始めよう~C級編
11/52

敗者ゾーン2回戦 「接戦」

本文内(注1)については後書きに説明が有ります。

少し長くなってしまいました、試合の流れによっては、前後半に分ける等した方が良さそうですね。


 勝者ゾーンで決勝進出を決めた人が勝ち抜け、敗者ゾーンで負けた人は敗者復活の権利を失い、敗退が決まる。

 プレイしている人数が減った結果、試合のサイクルは短くななっている様だ。

 敗者ゾーン一回戦が終わった直後に二回戦のコール、トーナメント表を見ると、後2回勝てば敗者復活で決勝トーナメントに復帰できるらしい。丁度肩も温まってきた感じなので、先ほどの試合のようにのびのびと行きたい。


 テーブルは4番、渋台は2番だけのようなので、この台ならサイドポケットも有効に活用出来るだろう。


「「よろしくお願いします」」


 バンキングで専攻を決める、相手は二十歳そこそこの中々イケメンな男の子、店のユニフォームのようなポロシャツを着ていることから、マジックという店のバイト君か何かなのかもしれない。


 バンキングは自分の勝ち、相手の子はかなりしっかり撞くタイプのようだ、バンキングもかなり強めで走りすぎてしまい「あちゃー」という表情、それが様になるのだからイケメンは得だ。


お決まりのサイドブレイク、ウイングのボールは入らなかったが、1番がサイドポケットにイン、2番からの取り出しとなる。薄目の玉なので走り過ぎないようソフトに狙ったが、純粋に厚みが違ったのか、はたまたスキッドしたのか厚く外れてしまった、イージーミスだ。


 相手の手番、比較的穴に近くイージーな2番、3番は同じ短クッション沿いにあり、これは弱く転がして入れるのかなと思っていたら「ズガン!」という音と共にかなりのハードショット。短クッションの間を一往復させてポジション。入れると言うより「叩き込む」と言った方がしっくり来る様なショットだった。

 前の試合でやったように「止まらないなら走らせればい良い」という発想は理解できるが、そこは止まる厚みだからソフトに撞いた方が安定すると思うのだが、まあ人それぞれ得意な力加減というものは違うしね。


 それからのプレイを見ていて、彼はとにかく弱く転がすのが苦手らしいことがよく解った。


 そして、そういった力加減とかは苦手だが、厚みが正確で、とにかく入れが強かった。明らかに出しミスをしているのに、カットやらバンクやらとにかくよく入れる。だけど入れイチなので、入れたあと出ていなくて苦しくなる、それでも入れ継なぐ。

 いつの間にやらラストの9番、土手撞きのロング、微妙な振りのついている、いわゆる「への字」正直絶対撞きたくない9番だ、これも飯田君はハードに入れに行くが流石にミス。9番が簡単に残ってくれるよう祈りながら見ていると、9番が停止するより前に手球が2クッション後スクラッチした。振りのある入れイチハードショットは手球が走る分こういうリスクもある。


 1-0、はっきり言って2番を外した以外何もしていない。それでもポイントを取ったのはこっちだ、流れというヤツだろう。かなりのシュート力だったけど流石にあの9番は難しかったか。

 

 と言うか、A級の試合とかを見ていると解るが、本当に上手い人達は9番に近づくにつれ配置が簡単になっていく、大抵9番を撞く時は近くて厚い、入れるだけの配置になっている。それだけ手球のコントロールが正確で引き出しも多い、見ていて5番あたりから「ああ、これは終わった」と思うぐらい安定感がある。

 そういう意味では、この子はそんなに上手とは言えないのかもしれない。だけど入れの正確さと、思い切りの良さが凄い、乗せるとヤバそうだ。入れが強いというのはC級ではそれだけで脅威だ。


 とにかく見えている目の前のボールを入れまくってポイントを上げる飯田君、反面出しミスで難しい球になるとハイボールでのミスも多いため、そういった相手のミスから取り切ったり、回ってきたボールが難しかった場合、セーフティーで相手のミスを誘い崩してセットを取る自分。


 2-2、次のセットを取った方が勝ち、俗に言う「ヒル・ヒル」



 ブレイクは飯田君、ハードショットが得意なだけ有り、気持ちのいいフルブレイク!


 ブレイクはパワーではない、パワーもある事に越したことはないが、タイミングとキュースピード、厚みの正確さである。ウイングのボールがポケット、残りのボールも激しく動く、A級の試合に有る「イリーガル・ブレイク」ルール(注1)も彼には関係なさそうだ。


 

3,6,7番ボールがポケット、いきなり残り6球だ、しかし取り出しの1番は短クッション際、厚みは無い。「こんな球の出しなんかわかんねー」とでも言うように、すぐにバンク狙いで構えに入る飯田君。

 大会中で、負ければ終わりのヒル・ヒルという状況、緊張は無いんだろうか、正直その心臓の強さは羨ましい。


 逆側のコーナーを狙った縦バンク(だと思う)、思い切りよく撞いたボールは明らかにバンクショットのコースには乗っていない、ミスだと思い立ち上がりかけるが、3クッションした1番はサイドポケットに向かった、さっきの2番テーブルなら入っていなかったかもしれない、しかし先ほどのテーブルより甘い、このテーブルはその1番ボールを受け入れた。

 ハードに撞くショットは、手球が走ってスクラッチするリスクが有る。だが、それと同じように的球が走ってフロックイン(狙っていないボールが偶然ポケットする事)も起こりうるのだ。


「失礼しました」


 と言う飯田君の言葉に軽く手を上げて答える。

 しかし本音は「勘弁してくれ」である。残り5球、「まだ焦る様な時間じゃ無い」と、どこかで聞いた事の有るような言葉を自分に言い聞かせる。


 実際、5番と8番がトラブルになっていて、そこを何とかしない限りは5番を入れることは出来そうに無いため、どんな形にせよそこで1回は自分に手番が回って来る筈だ、そう信じて待つ。


飯田君は2番、4番をポケットするが、案の定5-8のトラブルを前にして「困った」と言う表情。


 残りは3球、ここで飯田君がこのトラブルを壊しつつ、イージーな配置が残ってくれればチャンスである、今までのプレイからセーフティーはさほど得意ではなさそうだ、さあどうする?


 しばらく考えて居た飯田君だったが、やがて開き直ったように笑うと、5-8トラブルに向かい真っ直ぐ構える、一体彼はどんなバンクやコンビを狙っているのだろうか?自分には全く予想が出来ない。


「ドッカン行きます」


「へ?」


 飯田君の宣言に思わず変な声が漏れた、コレはもしかして。


 そのまま飯田君はまるでブレイクショットの様な強さで、トラブルをったき割った。


「おいィ!ちょッ、何してんの?」


 一応これは公式戦のトーナメントなんだが・・テンボールと違って、ラッキーでも何でも入ってしまえば有効なのがナインボール、だからこんな格言があるとか。


__困ったときは強く撞け。__


「ソレを試合でやるか普通!?」


 心の中で叫びつつ、激しく走るボールの行方を見守る。


 

 手球に弾かれた5番が8番に当たり、8番を弾き飛ばす、5番はクッションに入った後、手球に再び当たり、明後日の方向に転がっていく。手球も5番に弾かれた後、撞いた本人さえ解らないコースですっ飛んでいく。もはや完全に運任せ、後は神のみぞ知る。


 結果から言うと、5番と8番はポケットイン、手球はヘッドスポット真横の長クッション際で止まった。


 何とトラブルになっていた2球共ポケットしてしまったのである。


 まず勢いよく弾き飛ばされた8番が、スリークッションでコーナーにポケット。


 この時点で頭を抱えた。後は5番が難しく残ってくれる事を祈るばかりだったのだが、2クッションして走っている5番に、同じく2クッションして戻ってきた手球がヒット、5番がサイドポケットに入った時には「嘘だろ!?」としか思えなかった。


 もう「焦るような時間」だ。


 ただこの5番が入った事は自分にとってラッキーだったのかもしれない、そこで手球と5番が当たらなかったら、5番はコーナーポケットの穴前で止まっていただろう、そうなっていたら5番を入れながら9番に出すのは簡単だった筈だ。


 しかし、そこで5番までもがポケットされた事によって、次に狙うボールは最後の1球、9番となった。

ゲームボールの配置は、ヘッドスポットを挟んでそれぞれ逆の長クッション際、バンクしか狙えない配置。


難しく残ったとも言えるが、入れられたら負けとも言える。さて、これは運が良かったのか悪かったのか。


「失礼しました」


 飯田君が笑顔で声をかけてくる、一応答えるが、正直顔が引きつっていたと思う。


 もう、こうなったら後は祈るだけだ。当然飯田君は入れに来る、角度からして、サイドではなくコーナーへのバンクショットを見ている様だ。試合中にも何回かバンクショットを決めている。それなりの練習は積んでいるのだろう。


バンク・ショットのシステムを参照しているのかもしれない、9番があるクッションのポイントと手球のあるクッションのポイントを数え、慎重にキューで角度を測っている。


 やがて角度と入れるクッションのポイントが決まったようで、構えに入る。


 ・・・入れられたら負け。自分がショットする訳でもないのに緊張感が高まる。


 しかしこの子は、こんな場面だというのに全く緊張した様子が無いな。性格的な物なんだろうが、ノミの心臓の自分とはえらい違いだ。


 今も「目の前の9番をどうやって入れようか?楽しくてしょうがない」というのが見ていて解る表情を浮かべている。やがて少し真剣な目をすると、バンクショットの構えに入る。


 そして、思い切りよく撞く!


 9番は、コーナーポケットの手前に若干厚めに外れるが、逆サイドのコーナーへ・・


 これもギリギリ短クッション側に外れ、長クッション間を往復して短クッション中央付近で止まった。

手球はバンクショット後、長ー長のツークッション、9番と逆の短クッション側で止まっている。


 「フゥーーーー。」


 飯田君のショットの後、ボールが停止するまで呼吸をするのを忘れていたようだ。何とかまだ負けずに済んでいる。この残り玉がイージーであれば、自分の勝ちだったのだろうが、そうは上手くいかないようだ。


 回ってきた配置は、9番がヘッド側短クッションの真ん中辺り、クッションからはボール1個分程浮いている。手球は9番と逆サイド、フット側短クッションのこれまた真ん中辺り、クッションからはチョーク一個分浮き・・・恐ろしくロングな上に、バンクしか狙えない配置。残りボール1個と言うシチュエーションでは抜群に難しい残り方だ。攻めた結果の残り玉がコレとか勘弁して欲しい。


 まず考えるのは手球の有るコーナーへのバンクショット、いわゆる縦バンクだが、距離がある上に手球が撞きづらい、成功率は低いだろう。ならばセーフティー?この状況からのセーフティーなら長ー長に残して相手にバンクショットを残すもの、つまりさっき飯田君が撞いたのと同じような配置にする事だが、さっきのバンクショットはかなり近かった、2回目ともなれば決められてもおかしくない、しかもさっきのバンクショットの残り玉がこの配置なのだ、セーフティーが成功して相手がミスしても、またこんな配置になるかもしれない。この選択は無しだ。


 もう一つのセーフティーは順ヒネリで9番に擦るほどギリギリ薄く当てて、手球をツークッションで今あるクッションに戻してくる、つまり今のこの現状をそのまま相手に返す様なショットだが、このロングの距離でそこまで薄く当てられるだろうか?セーフティーも成功すればいいが、失敗すれば相手に簡単なゲームボールを献上するだけだ。それでも成功して相手がミスすれば、今度こそイージーなボールが回ってくるかも知れない。

 しかし、それは「来るかも知れない」だけであって、ミスしてもまた難しいボールが回ってくるかもしれない、ということは、今自分がバンクで攻めてミスしても、相手に難しいボールが残るかも知れないわけで・・・


「あれ?・・・つまりどういう事だ?」


 考えすぎて頭が混乱してきた。

 何をやっても相手に有利になるような気がしてしまう。


 一回戦もこんな感じで考えすぎて「壊れて」自滅した。


 その後、沙樹ちゃんと昼飯を食べながら思ったんだった、「勝っても負けても悔いのないように、思い切ってキューを出して行こう。」って。


__________________________________


「良し、攻めよう。」


 心は決まった。


 攻めに行ってミスしてセーフティーになる事は有るが、セーフティーミスしてポケットできることは無い。というのは乱暴な言い方かもしれないが、今この配置では、セーフティーにいっても入れにいっても成功率は変わらない気がする。


 だったら相手に結果を委ねるより、自分で決めに行こう。


 そうと決まれば、余計な事は考えず、100%入れに集中しなきゃな。


 まずは一歩後ろに下がる、立った状態でシュートのイメージを思い描き、的玉を凝視する、手球の()()を撞いて、9番のの()()に当てる、クッションに跳ね返った9番がそのまま真っ直ぐ右コーナーポケットに戻ってくるイメージを描く。厚めに入れて撞点は左上、9番はボール一個分浮いている、球クッションも無い!


 アドレナリンというやつの影響だろうか、テンションが上がり、顔がニヤケてくるのが解る。


 一歩前に踏み出して構えに入る、右足、肘の角度、良し。撞点、狙い、良し。見越し、良し。できるだけ水平にテイクバック、的玉の9番だけを見て・・・


 撞く!


  自分にしてはややハードに撞き出された手球はイメージ通りに9番にヒット、9番はまさに撞く前に自分がイメージしたコースと寸分違わないラインを走り、綺麗にコーナーポケットのど真ん中に吸い込まれる。


「っし!」


 小さくガッツポーズ!・・した次の瞬間手球が怪しいコースを走っている事に気付く。短ー長でツークッションした手球は、たった今9番が落ちたポケットに向かっている。


 「嘘!?」


 手球はセンタースポットを越えたあたりから、徐々にスピードを落とし・・コーナーポケットの数ミリ手前で止まった。


 「はぁァァァァァァ・・」


 心臓に悪い。締まらないが結果は結果だ、9番はコーナーに入り、手球は残った。

セットカウント3-2、勝利である。こんな疲れたゲームは初めてだ。


 「「有難うございました」」 

 挨拶の後飯田君と軽く話し、「またよろしくお願いします」というお決まりの言葉で別れる。


 記入をした対戦表を運営に出し、冷たい烏龍茶を注文する。後1勝、次に勝てば決勝に残れる。


 少し汗ばんだ顔をおしぼりで拭き、大きく息をついた。



 

10話を機に、自分で読み返して見て思いました、あれ?この主人公C級じゃ無くね?

球の動きがおおよそ解り、イージーミスが少なく、捻りもセーフティーも使えるって、それは普通B級だよな?・・・まあBに近いC級ってことで、よろしくお願いします。


イリーガル・ブレイク:

通称スリーポイントルール、ブレイクショットで3球以上の的玉が、ポケットされるか、ブレイクゾーンに入る、または通過しない限り、ブレイク不成立イリーガルとなり、手番が相手に移る。この時相手側のオプションになり、配置によって相手はパスする事もできる。

ラックシートが普及して、ブレイクでウイングのボールを入れるのが容易になったため、手球と一番の位置を重視したソフトなブレイク(コントロール・ブレイク)が流行ってしまった、ブレイクショットはビリヤードの中で、最も派手で花のあるショットの一つなのにプロが弱いブレイクを撞いてばかりいるのはテレビ的に映えない。という理由かどうかは知らないが、コントロールブレイクを抑制するために出来たルールだとは思われます。


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