千里08
道中で機嫌がなおった雛ちゃんと、忍お姉ちゃん家に向かった。
インターホンを押すと中から返事がして待っていると忍お姉ちゃんが出てきた。
まだあまり目立ってはいないが、お腹の中には二人目がいて今日は調子が良いみたい。
だけど、あまり長居してはいけない。
葵ちゃんは今お昼寝中らしくてプレゼントだけ忍お姉ちゃんに渡して帰ろうとしたら「もう少ししたら起こす時間だから直接、渡したって。じゃないと葵に恨まれそうだから」と言って結局お邪魔する事になった。
葵ちゃんが起きるまで話しているとインターホンが鳴った。
だけど「アポがない場合に、もし誰か来ても出ない事!!」と常日頃から忍お姉ちゃんの旦那さんの尚貴さんに言われているみたいで、それを律儀に守っているみたいだった。
だから今回も出ないで話していた。
すると私達がいる部屋のドアが開いた。
「おーやはり俺の勘は当たってたな〜。忍に千里ちゃん雛ちゃんただいま〜」
両手を広げて入ってきたのは尚貴さんだった。
「あれ!? 今日は憲之さんと会うんじゃなかったの!?」
「憲之より千里ちゃんと雛ちゃんの方が大事!!」言いきったよ……。
中学からの腐れ縁よりも私達を迷わず選ぶ尚貴さん。
こうなる事が予想できたから念入りに計画したハズなんだけど尚貴さんの勘を前に、どうやら敗北したようだ。あまり成功したためしがないのだが……。
まあ尚貴さんが心配するのも分かるのだが、それは可愛い雛ちゃんだけだと思うって何回も言っているんだけど全く聞いてくれない。その上その時ばかりは皆、口を揃えて千里の方が心配って言うし……。
そんな私達の前では少し残念になってしまう尚貴さん。
それはまるで年の離れた妹を溺愛しすぎる兄になってしまう。
だけど本当は大人の貫禄があってカッコいい。----ハズなんだけど……。
「それよりも、また憲之さんに連絡してないでしょ!?」
「いや、うん、したよ」尚貴さん今のは私でも嘘だって分かりますよ……。
「だったら何で、さっきから鳴ってるのかな!? 確かこの音は憲之さん専用だったよね!?」いつもの事ながら忍お姉ちゃんスゴいなぁ〜。
「電話より----
「出て謝ってきなさい!! 憲之さん心配しているよ!?」」
一旦、廊下に電話をしに出た尚貴さん。
忍お姉ちゃんが私達の方を向いて謝る。
こういうところは特に、しっかりしている忍お姉ちゃんであった。
「忍お姉ちゃんが悪い訳じゃないです」
「だけど午後から留守にする事が分かってたから今日にしたのにね」
「そんな予感がしたから急遽、変更して帰ってきて正解だったな〜。やっぱ俺スゴい!?」
『あっ尚貴さんだぁ〜。もう戻ってきたんだぁ〜』と少し現実逃避してしまうの無理ないと思う。
それにしても、こんな大声で話していても全然、起きなかった葵ちゃん。スゴいマイペースだなぁ〜。
「憲之さんに、ちゃんと話した?」
「おう! でも何故か逆に忍に謝っといてくれって言われたんだけど!? まあ、そんなことより千里と雛は可愛んだから変な男に騙されてない!? ましてや彼氏なんか作ってなんかないよね!?」笑顔なんだけど威圧感があって、なんか怖い……。
尚貴さんが私達に会うと必ず聞く事の一つだ。
そして私は必ず「雛ちゃんは可愛いけど私は可愛くないから、そんな心配しなくても大丈夫だよ!?」と言うと皆に、ため息を吐かれるのである。何故だ??
「そんな事ないゾ!? 千里も雛も可愛い!! まあ、そんな二人の可愛さは俺だけが知っていたら良いんだけどな!!」
「ほんと、お前は相変わらずだなぁ〜。ってか二人の親か!?」あっ憲之さんだぁ〜。こんにちは〜。
「似たようなものだ!! 俊明さんと太郎さんとは同盟を結んでいるんだ!! 俺達を認めさせないと嫁には、やらん!!」太郎さんは雛ちゃん父です。
「だったら、この子達、結婚できないやろ!? 一生独身!? それは、かわいそうやろ!?」
「なに、俺達を認めさせたら良いだけの事!!」
言い争う二人をよそに可愛い声が聞こえてきた。
「ままーままー」
「葵、起きたの」
「うん、おあよ」うっ……舌足らずな葵ちゃんが可愛いすぎっ……。
そう思ったのは私だけじゃなかったみたいだ。
特に尚貴さんはメロメロだったようだ。
忍お姉ちゃんは葵ちゃんの下に向かった。
「葵に、お客さん来てるよ〜」
「えっ、あっ、にょりさんだぁ〜」
「こんにちは葵ちゃん」
「ちあ〜」
どうやら葵ちゃんの所からは尚貴さん達が壁になって私達が見えないようだった。
「葵〜憲之よりパパだよ〜」
憲之さんと言い争っていたのに、いつの間にやら葵ちゃんの下に行こうとしていた。
葵ちゃんは忍お姉ちゃんに抱っこしてもらっていた。
そして忍お姉ちゃんが葵ちゃんの耳元で何かを言っていた。
「やーや、しにゃいぱぱ、きにゃい」
その言葉を聞いた尚貴さんはショックのあまり固まってしまった。
「そうだよな〜。約束守らないのはダメだよなぁ〜」
固まったままの尚貴さんを無視して葵ちゃんの方を向いた憲之さん。
「あい。あー!! ちしゃとしゃんと、ひにゃしゃんだぁー」
私は、すでに葵ちゃんにノックアウトです。
◇◇◇
あの後、固まったままの尚貴さんを憲之さんが連れて行った。
そして私達は葵ちゃんと一緒に遊んだ。
幼児のパワー恐るべしである。
でも楽しかった。
だけど、ここで少し問題が発生した。
帰る時間帯になっても私達を中々離さなかった葵ちゃん。
そして葵ちゃんは泣いてしまったのである。うっ……。忍お姉ちゃん私には振りほどけなません……。
雛ちゃんも同じだったようで二人して忍お姉ちゃんに任せる事にした。
だけどすると忍お姉ちゃんは「千里ちゃんと雛ちゃんは明日から学校だからね!?」と言って忍お姉ちゃんが説得しても今回もダメだった。
「本当に、こう言う所は尚貴さんに似てるんだから……」と忍お姉ちゃんが言っていた。た、確かに……。
そして駄々を捏ねまくった葵ちゃんに今度、近くの公園に行く約束をして、なんとか納得してもらってから私達は家に帰った。本当に、渋々だったけどね……。
だけど私も今から楽しみでもあります。
プレゼントも、とても喜んでくれたし良かった。