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短編集

こんな恋愛物語

 中学時代、違う学校の女子に一目惚れした。

そのままナンパしたが、柔道をやっていたらしく……派手に投げ飛ばされた。


それが中学三年の時の話。

後から知った事だが、彼女は中学一年生だった。


その時から俺は柔道を始めた。


いつか……彼女に勝ったら付き合ってもらう、と勝手に誓って……。


☆★☆


「月……綺麗だね。でも……君の方が綺麗だよ。マイスイートハニー……」


「ごめんなさい……ちょっと……用事思いだしました……」


 デートの最中、予約を取っていたイタリアンレストランへ向かう途中、海辺の公園で口を滑らせた俺は……女の子に逃げられた。しまった……またやってしまった……。


「スイートハニーは無いわ……」


自分で言った事をディスりつつ、イタリアンレストラン……どうしよう、と考える。

二人でコース料理を予約していたのだ。キャンセル料は全額プラス手数料。

せめて飯だけ食ってけ……! まあいい、世界の半分は女だ。その辺のをナンパして連れて行こう。

しかし時刻は午後七時前。こんな時間、海辺の公園に一人で女の子が居る筈が無い。

周りはバカップルばかりだ。


「はぁ……仕方ねえ……あいつ召喚するか……」


いいつつ携帯で女友達を呼び出す。

数コール後、かったるそうな声で電話に出る女。


『ぁーぃ……なんすかー』


一応学生時代の後輩。

今は飲み仲間のような物になっていた。


「今暇か?」


『超忙しいッスー……』


噓つけ、どうせ家でゲームやってんだろ。

俺は全て御見通しよ!


「実は例の如く女に逃げられてな……イタリアン奢ってやるから出て来いよ。キャンセル料とられ……」


『すぐに行きます!』


良い返事だ。

俺ノリの良い子好きよ。


 場所を伝え、その場で煙草を吹かしながら待つ事三十分後


「おま、おまたせしました……ハァ……ハァ……」


凄まじく巨漢の女友達が姿を現した。

田井中 真琴

高校時代の柔道の後輩で、これでも全国大会優勝という戦績を持つ女だ。

そして酒も強く、凄まじく食う。

食費はかさむが、俺は何気にコイツの事が気に入っていた。付き合いがいいから。


「うし、いくぞー。コース料理だかんな。量少ないし……それ食い終わったら飲みに行こうぜ」


「えーっ、私今月厳しいんすけど……」


奢るに決まってんだろ。ついでに俺の話も聞け!


「めんどくせえ」


そんな事言いながら付き合ってくれるコイツが好きだ。

決して恋愛感情などは無いが。


 イタリアンレストランへ付くと、早速ワインを頼んで乾杯。

コイツと二人で食事など珍しい事では無い。ことある毎に呼び出し、俺は愚痴を聞かせていた。


「んでよ……俺また言っちゃったんだ……スイートハニーって……」


「先輩辛党なのにねぇ」


先程逃げられた女の話を聞かせる俺。

どこぞの遊園地に行っただの、最初は俺にメロメロだっただの……

対して田井中はバクバク食事を進める。

やはりコース料理は量が少ないらしく、俺の分まで食う田井中。


「美味しいですねーっ、先輩、今度はいつフラれるんですか?」


「うるせえ、しばくぞ」


俺は酒を飲みながらの食事はあまり進まない。

ベロベロに酔った後、急激に腹が減った時は食うが……。

見ていて気持ちいくらいに食事が出来る田井中が少し羨ましい。


「お前さ、彼氏とか作らねえの?」


「先輩、私こんな見た目ですよ。出来る訳ないじゃないですか」


自覚してるなら痩せろよ……と思ってしまうが、こいつが太ってるのは半分俺のせいだ。

今まで事ある毎に呼び出して飲んでいるのだ。太って当たり前のような気もする。


「お前、今体重どんくらい?」


「123キロくらいっす」


マジか……俺の二倍あるぞ。

そこまで行くと命に関わるのでは……とも思ってしまう。

今日はこのまま真っすぐ帰るか……。また飲ませて太らせても……。


「ん……んぅ!」


その時、いきなり苦しみだす田井中。

椅子から床に落下し、そのまま悶える。


「田井中!? ど、どうした!」


「せ、先輩……く、苦しい……」


ヤバイ! 救急車……!

死ぬな! 田井中!


「せ、先輩……今まで……美味しい物沢山……ありがとうございました……」


「お、おい! ふざけんな! 縁起でもない事言うんじゃねえ! ちょ、すみません! 救急車!」


レストランのウェイターに救急車を要請し、必死に田井中を励まし続ける。

一体何がどうなっている。田井中は救急車が到着する数分前に意識を失い、そのまま病院へと搬送された。


 田井中に付き添い、病院の待合室で待つ俺。

数時間後、看護師らしき人物に呼び出され、そのまま医師の元へと。


「せ、先生……アイツは……大丈夫なんですか?」


「えぇ、過食による急性胃腸炎です。命にかかわるような事ではありませんが……このまま今の生活を続ければ……」


な、なんてこった……マジで俺のせいだ……


「とりあえず数日入院して経過を観察します。彼女のご家族の方は……」


「あ、いえ、あいつの家族は全員他界してて……」


田井中が高校の時、全国大会に出場するあいつを応援する為、両親と兄弟達は揃って車で会場に向かった。

だがその途中でトラックと正面衝突し、全員この世を去ってしまった。

田井中がそれを知ったのは試合が全て終わった後。今でもあの時の光景は忘れられない。

トロフィーを破壊し、顧問も殺しかけた。

暴れる田井中を抑え込んで、落ち着かせたのは俺だが……家族を全員失って耐えれる訳が無い。

田井中は何度も自殺未遂を繰り返した。だが死ねなかった。

 

 俺が今でもあいつと攣るんでいるのは、その事があるからかもしれない。


「先生……痩せる薬とか……手術とか……」


「あるにはありますが……後遺症が残る場合があります。彼女はまだ身動きが取れない、という程でもありません。なんとか本人の努力で……」


くそ……マジで俺のせいだ……。

あいつにも痩せようとしていた時期はあった。だがそんな時にも俺は飲みに誘ったんだ。

その時、無責任にも「お前が痩せたらお前じゃねーよ!」とか言ってしまったんだ。

バカか俺は……。




 翌朝、病院で夜を明かした俺は看護師さんに連れられ田井中の病室に。

ベットで寝ている田井中。

その手には……


「ぁ、先輩。オツカレッス」


うま○棒が握られていた。


「お前! 何食ってんだ! つかどっから持ってきた!」


「ひぃ! さ、さっき……男の子がくれて……」


う○い棒を取り上げ、丸椅子に座り田井中に聞かせる。昨日の医師との会話を。

すると田井中は無表情で言い放った。


「あぁ、別にいいっすよ……好きなもん食べて死ねるんなら……本望じゃないッスカ……」


「お前……」


俺がコイツを説教する資格は無い。

だが言わねばならない。こいつ自身を守る為にも。


「お前、中学時代は痩せてただろ。それで俺が違う中学のお前をナンパして……」


「あぁ、そんな事もあったっすね。それで私が先輩を投げ飛ばして……」


そう、その日から俺は柔道を始めた。

俺が勝ったら付き合ってもらう、勝手にそう決めて。


「んでその後……たまたま同じ高校に入学してきたお前を見て……最初は気付かなかったよ……ぽっちゃりしてたからな……」


「私も気づきませんでしたよ。あのモヤシっ子が柔道部の主将だなんて思いもしませんでしたから」


そんなぽっちゃりした田井中は、入学した当初で既に女子のどの先輩方よりも強かった。

しかし当時は女子と男子が完全に分かれていた柔道部。俺と田井中が勝負する事は無かった。

あの日までは。


「お前……覚えてるか? お前の家族が交通事故で亡くなって……暴れるお前を俺が抑えこんで……」


「あぁ、覚えてますよ。あの時は我を忘れてましたからね……」


そう、あの日……俺は田井中に勝った。

つまり……


「お前……俺の彼女な」


「……ん? ちょっと何言ってるか分からないッス」


「俺が勝ったんだから。これは強制だ。命令だ。口答えするな。お前は今日から俺のもんだ」


ポカーンとする田井中。

そのままベットで寝る田井中に顔を近づけ、そっと口付けをした。

あぁ、中学時代に誓った。

絶対コイツに勝って彼女にすると。

それが今叶った。


「な、なななななに……何するんですか! 私のファーストを!」


「うるせえ。いいか、お前を今日から俺好みにする。とりあえず痩せろ。間食は絶対にするな」


「そ、そんな……死んでしまう!」


死なねえよ。


 そこから俺の田井中改造計画は発動した。

入院中、出来る限り一緒に過ごして監視する。

退院後も仕事が終わると田井中の家に直行し、俺が料理を作って与えていた。

豆腐を使ったハンバーグ。大豆を使ったミートボール。米は雑穀米にし、健康面にも気を使いながらダイエット。青汁も飲ませ、筋力トレーニングも一緒に。

 

 その内一緒に田井中の家に住むようになり、毎朝友にランニングに出かけ、三食全て俺が料理を作った。


そして……そんな生活が三年続いた……。




 

 お互いに白い服を着ている。

田井中はドレス。俺はタキシード。


教会に二人きりで、指輪を互いに嵌め合う。


「わ……先輩……私夢のようで……」


「う、うっさい……恥ずかしいから喋んな……」


そのまま手を繋いで教会の外へ


海が見える


何処までも続く水平線


「先輩……お腹空いた……」


そんな事を嘆く真琴を抱き寄せ、軽くお姫様抱っこする




「じゃあ……イタリアンでも食べに行くか?」





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[良い点] ごちそう様でしたぁ! 最後がちょっと駆け足かなぁ、と。 あぁ、忘れてた。 末永く幸せに爆ぜやがれェェ!
[良い点] 田井中さんがものすごく可愛く見えました。 どんな見た目でも、内面は変わりませんものね! 先輩、ナイスガイ!! マイスイートハニーもご愛嬌(笑) この先輩なら田井中さんを幸せにできると思い…
[良い点] スイートハニーはねーわ思ったら 突っ込んでた [気になる点] ないなか [一言] お疲れ様です
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