第三夜 異世界
目が覚めるとそこは二つの、色が反転した世界だった。いや、完全に反転しているわけじゃない。しかし、ある境界線から決定的に色彩が裏返しになっていて、それを見てあたしは反転していると思ったのだ。明るい世界と暗い世界、あたしは仮にそれをそういう風に呼ぶことにした。
不思議な世界だった。あたしはまぶしい太陽の出ている明るい世界に立っている。辺りは雑木林だ。足を踏み出すと湿った腐葉を踏んだような、ふにゃりともぐにゃりとも言えない変な感覚が足に伝わってきた。
見るとあたしは裸足だった。ひざ下まで泥や葉っぱが付いて汚れている。何故あたしは裸足でこんな場所にいるのだろう?
空を見上げると頂点から少しずれた位置で太陽が輝いていた。昼下がりくらいの時間だと分かる。特に気にかかるものも無かったのであたしは暗い世界との境界線に近づいた。何か近づくのに障害でもあるかと思っていたが、何事もなくすんなりと境界線の手前までやってくることが出来た。案外この二つの反転した世界に大きな違いはないのかもしれないと思った。
あたしは足を止めずそのまま境界線を跨いだ――その瞬間、風景が入れ替わった。
少しの間、何が起こったのかよくわからなかった。しかし、踏み出した右足とまだ境界線を跨げていない左足を見降ろして気が付く。境界線を跨いだ瞬間に明るい世界と暗い世界が入れ替わったのだ。
あたしは境界線を踏み越えて振り返る。目線のすぐ先には暗い世界が広がっている。自分の足は明るい世界を踏みしめていた。太陽は頂点から、先ほどとは逆に傾いていて午前の時間帯をしめしていた。
だまし絵を見ているような出来の悪い鏡を見ているような気分になる。しかし同時に、それがあたしと言う主観から見た世界のあり方なのだろうと納得した。
立っている場所からしかあたしはあたしの正しさを判断できない。何かの境目があってそれを跨いでしまっても、跨いだ先にも時間は続いていくし、あたしが見る風景は「あたしが見ている」ことには変わりないからその違いに気が付かない。
ここは主観と客観が同居している世界なのだ。




