雪国の死神と亡霊と女神
交際している好きな彼女に何の前触れもなく振られたらこんな感じになるのかな?
焦りと戸惑いに全身が支配され、声を出そうにも喉で詰まる。呼吸が早くなる。しかし、このまま会話の主導権をルーシーに握られたままでは、本当にルーシーがどこかに行ってしまう。それが怖くて声を絞り出す。
「る・・いや・俺はっ」
「お前を追い出したいわけじゃない。そんなに焦るな。」
「はい。」そう言って返事したが、なんとも落ち着かない。焦りが落ち着いが、消えない。
このままルーシーが消えてしまいそうなそんな恐怖からだろうか。
「だったら何でそんな話を!」
「最後まで聞きなさい」
少し強めに言われ、発言権を奪われてしまった。しかし、そのおかげで少しだけ頭に上った血がひいていく。
「アキラ、私は自分の素性を隠している。そんな私はお前のそばにいるのが嫌なんだ。私の話を聞いてから、私から離れていったとしても私は止めない。」
俺はもう決心したんだ。ルーシーの助けになりたいと。恩を返したいと。だから修行に耐えられた。これは揺らがない!絶対に!もう一度固く決心し直した。絶対に俺からルーシーを拒むことはしない!と。
「何から話したらいいかな。私は孤児だったんだ。この北国の孤児は2種類いる。1つは孤児院で養ってもらうか、寒さで死ぬかだ。といっても60年くらい前かな。」
「ちょ、ちょっと待って!ルーシーさん?おいくつ?」
「んー今年で60歳くらいかな。」
「めっちゃ年上だったんです・・ね。」
「まー魔族は平均して人間の3倍くらい寿命があるからな。」
「てことは割る3して、同い年ですね!」
「その計算に物申したいところだが、話をつづけるぞ。60年前のベリシアは荒れていたのは知っているな?」
「うん、なんだか資源と豊かな環境を求めて近隣諸国に戦争を仕掛けまくったとか。」
「その通りだ。ベリシアは今でこそ落ち着いているが、当時はひどかった。軍人が減り、北方の魔族は例外なく戦争に駆り出された。私の両親も私を産んですぐ戦争へと駆り出された。ソレが原因で孤児だったそうだ。そして私が連れていかれた孤児院は国営のものだったのだが、その実、兵隊を育てるためのものだった。」
淡々と語るルーシーの声には感情がなかった。俺にとってはすでに心が痛い。俺がいかに恵まれていたかを思い知らされた。同時にルーシーを苦しめていた国家体制に行き場のない憤りを感じた。
「私のいた孤児院では基本的な戦闘訓練を子供に施した後、子供達を仕分ける。魔法に適性があるもの、剣の才能がある。みたいな感じだな。私は、全てに適性があったらしい。私は特別部隊を養成する施設へと移され、更に厳しい訓練を受けた。あれはきつかった。」
そういって僅かに顔をしかめるルーシーを見て、こらえていた胸の痛みが顔に出そうなのを必死にこらえる。
「特殊部隊の任務の内容は、敵の本拠地に潜入し、情報を集めたり、暗殺したりとそんな内容だ。もちろん前線での特攻もあるな。私の最初の任務は、要人の暗殺だった。やらなければ、処分すると脅され、私は何でもやった。敵だけでない、裏切り者の処分も私たちの仕事だ。敵を殺しながら自分の何かを殺しているきぶんだった。滑稽な話だ。結果、何人の命を奪ったか覚えていない。気づけば北国の悪魔なんてあだ名を付けられた程だ。」
「それからしばらくして、王が変わり、戦争が終わった。私が所属していた特殊部隊は私以外全員死んだ。戦争が終わりやっと平穏に暮らせると、ひそかに胸を撫で下ろした時だった。私の居場所はどこにもなかった。北国の悪魔は自国の民からも悪魔と恐れられていたらしい・・・これから平和になるはずの国に物騒な悪魔は煙たかったのだろう。」
「勝手な話だ。」
吐き捨てるように呟いた。しかし、この戦争でルーシーは何を得た?平和を求めて戦い、平和を信じて痛みを、悲しみを、恐怖を、全てを噛み殺し、血の涙を流して、幼い少女を戦わせ、いざ平和な世の中が訪れれば、最大の功労者を切り捨てようとするなんて。考えるほどに腸が煮えくり返った。
「そして私は王の側近に拾われた。当時の私は人間の年齢では30くらいかな?歳を数えた事がないので正確には分からんがな。当時の新王は良き王だった。心の優しい男だった。寝る間も惜しんで国を立て直そうと尽力していた。英雄王とまで言われたのは有名な話だろう。遠目で見た事しかないから詳しい事は知らないけどな。
側近の男は、ドラーノと呼ばれていた。奴が私みたいなのを雇った理由だが、国王は優しすぎた。ベリシアにいる貴族には、私利私欲のみを考える腐った奴らが多かった。そんな、国の改革に邪魔な貴族を処分させるために、国の暗部を抑える力として。」
遠い目をしながら、自嘲げに笑った。その姿はあまりにも悲痛で、あまりにも曇っていた。
「それからドラーノの依頼で国の陰の番人となる組織のリーダーとなった。戦争と比べると楽な仕事ばかりだった。ドラーノが集めたメンバーは優秀な奴らばかりだった。組織は経験を積み研ぎ澄まされていった。どんな屈強な護衛に守られている貴族だろうが、一瞬の隙をついて殺す事など造作もなかった。
すると、有効な関係築きたい諸国にも、手を貸したりなど、国益をも上げる私の組織は北国の亡霊なんて呼ばれていたそうだ。」
「その後ドラーノが死に、新たな人間が私たちの上司になった。そいつは突然私一人を呼び出し言った。『ノースファントムはこの国の闇を知りすぎた。お前に最後の指令を下す。お前の手で亡霊を殺せ』と。私は今まで下されてきた命令をしくじった事はない。拒んだこともだ。よほど信用されていたのだろうな。」
絶句した。あまりに身勝手で冷酷な命令だ。俺なら命令違反どころかその命令した男に殴りかかる自信がある。
「それで・・やったんですか?」
「いや、その命令には従えなかった。初めての命令違反だ。ファントムのメンバーは私を慕ってくれていた。そんな部下を殺すなど、私にはできなかった。だから殺すフリをしてメンバーを逃がした。そして、裏切り者と指名手配され、国を追われた。そこから私は旅に出た。もちろん私は追われる身だ。孤独に旅をした。目的の無い旅は楽しかったが、様々な国の家族や仲間といったものを見て、自分が孤独なんだなと、思い知らされたよ。
ある日、路地裏でボロ布みたいに足蹴にされるお前を見て助けてしまい、今に至る。・・・以上だ」
「壮絶な人生ですね」
「あぁ、そしてあまりにも血なまぐさい私の歴史だ。私はお前に危険が及ぶかもしれないのに、お前を連れまわした。結局は利己的に他人を利用する奴らと変わらないな。すまなかった。軽蔑してくれて構わない」
そう言って泣きそうな顔で目を閉じる彼女を見て俺は、自分でも分からない感情の渦に飲まれていった。怒りなのか、悲しみなのか分からない。確かに分かることは、目の前にいる、人間の身勝手さで何十年も手を汚してきた彼女が自分はそんな勝手な奴と一緒とまで言った、自分を卑下する言葉だけは、意地でも許せなかった。
「ルーシー、俺は君を軽蔑したりしない。でも、君は身勝手なんかじゃない!俺は、ルーシーを悪く言う奴は絶対に許さん。例え君でも!お前は身勝手なんかじゃない!俺が危険な狩に行くっていう修行の時、こっそり後をつけ俺を助けようとする君を俺は知っている!俺が寝てる間にも俺のためにトレーニングメニューを書いたりだとか!もう言い出したらキリがない!・・・そんな素敵なルーシーだぞ!悪く言うんじゃない!」
自分で自分が何言ってんのか分からなくなってきたぞ!でも関係あるかボケ!
「・・・アキラ落ち着け!」
そういってパニックになったルーシーの本気の鉄拳を顔面にもらい、家の外まで吹き飛ばされ、意識が飛んで行った。
「目が覚めたか・・・その、すまん、つい」
「いいんですよ。でもルーシー、君は俺なんかといていいのか?俺は君に拒絶されれば去るフリをして付け回す所存だが、嫌なら嫌と言ってくれていいんだぞ?」
「ん、付けられるのは嫌だな。・・・だから、お前の好きにしろ」
そういって笑ったルーシーの笑顔は、今まで見た微笑と違い、女神のような笑顔で笑った。その笑顔が俺の脳に焼き付いたのは言うまでもない。
読んでくださいました方がいらっしゃれば、忌憚なきご意見お待ちしております。更新少ないうえに、文才もない私ですけど、読んでくれている方がいらっしゃれば書き続ける所存です。
なので読んでくれてる方読んでるよー!ってコメントください。泣きながら自分で書いた本にコメント書きたくないのでお願いします(笑)
そろそろアキラ進化しますね。さっさと覚醒させたいです。