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雪国での決意




転移した瞬間、魔力で周囲が埋め尽くされ辺りが見えなくなった。すると直後魔素は霧散し、顔を刺すような冷気に襲われた。気温が急激に下がったことで転移が完了したことが分かった。ついさっき覚えた方法で辺りを視認できるようにする。一面真っ白だ。モノクロの世界だが雪で辺り一面白く染まっている。

 ここがベリシア帝国か。かなり北方に位置しているのか、気温が寒い。天気は吹雪いているようだ。さっきから冷たい雪が顔を刺すように鋭く打ち付けてくる。魔素が乱れて上手く視界が確保できないな。




「ここが私の故郷ベリシアだ。かなり寒いがそのローブを着ていれば問題ないだろう。」



「はい、おかげさまで暖かいです。」



「そうか。ここから私の家まではそう遠くない。気を付けて歩けよ。」



「そんな心配しなくて大丈夫ですよ~。」



 ルーシーの後を追って雪面に踏み出した瞬間、体重を乗せた足が積もった雪に飲み込まれていく。「だから言ったろ」と僕の事雪の中からを引っこ抜いてくれた。

 最悪だ、かなり恰好悪いところを見られてしまった。顔についた雪を払いながら赤面を隠す。それにしてもなんて深い雪だ。しかし驚くことにルーシーは雪に足跡をつけることもなく歩いている。まるで妖精だ。こんなところをルーシーはどうやって歩いているのか疑問で仕方ない。



「あの。ルーシーは何で埋まらないんですか?」



「あぁ、雪の上を歩くときは沈まないように足の裏に魔力を張るんだ。」



「なるほど!やってみます!」



 魔力を操作するだけなら自信があった。どうやら自分の魔力を操作する能力は思いの他高いらしい。魔法陣を描いて何か現象を起こすことはできないが、勉強すればできるようになる気がする。いや絶対に使って見せる!だって異世界に来たんだから!

 しかしそんな夢の雲行きはかなり怪しい。靴の底に魔力を流すのは簡単だ。しかし雪を踏み抜いてしまうのには変わりない。

 魔法適性があり、異世界無双する夢が遠のいた・・・



「日が暮れると魔物が動き出す。これを靴の底に貼りつけろ。それからこの紐をつかんでいろ。私とはぐれないための命綱だここじゃ音で私を追えまい。決して放すなよ。」



 言われるがままそれを靴底に張り付けると雪を踏み固めてしまうが埋まりはしない。かんじきを履いている感覚だ。これなら歩けると、ルーシーの後ろを紐で引かれるように歩いていく。にしてもすごい吹雪だ。魔素の操作に慣れてきたため、自分を中心とした10mくらいは視界に入っている。ルーシーの言いつけだから紐は放さないが、散歩に連れられる犬の気分だ。ルーシーのペットなら大歓迎だが、どうせなら手を引いてほしかったところだ。



「ルーシーさん、寒くないんですか?」



「私の服も特別だ、問題ない。それに寒さには慣れている。問題ない。」



 慣れるものなのか?という疑問はさておき、ルーシーの服も魔法の加護があるらしい。袖が手をすっぽりと隠す長さで、肩辺りはピッチリしているが、ひじの辺りから袖が広がっている。襟は高く口元をすっぽり覆い隠している。しかし、そこまで暖かいようには見えない。ソコはルーシーが魔族ということで平気なのだろうと思っておくことにした。




 それからしばらく歩くとルーシーの家についた。家の外観は雪の多い地方に多い三角のとがった屋根だ。中に入ると木の心が安らぐような匂いがした。テントを張って野宿ばかりだったので、しっかりとした家屋に入れてより安心感を感じた。広さは普通の平屋といった感じだ。

 それにしてもこんな絶世の美女と同姓か・・依然の俺からしたら信じられないだろうな。



「ここが私の家だ。好きに使ってくれていい。お前は目が見えないから不便な事も多いだろう。その時は私を頼れ。」



「ありがとうございます。でも何でそんなに僕に良くしてくれるんですか?」



「・・・お前から。何か特別なものを感じた。」



 そんな理由でここまで自分によくしてくれるのが理解できなかった。なんというか、肩身が狭い思いだ。これは何としても恩返しをせねば。よく考えたらルーシーって命の恩人じゃん。そう考えると恩を返したいという思いがどんどん燃え上がっていく。



「ルーシーさん!あなたは僕の命の恩人です!この命、ルーシーさんの物です!不束者ですが、あなたのために生涯を捧げる覚悟です!」




「ルーシーでいい。それは必要ない。お前が独り立ちできるようになったらここを出ていけ。自分の歩む道を見つけるんだ。」




「お断りします。歩むべき道はもう見えました!僕をなんなりとお使いください」




「ダメだ!」



「なぜですか!!」



 これは譲れない。こんなに人に親切にされたのは生まれて初めてだ。俺にとってそれは大きな意味を持っていた。俺は周りの人間が利己的で、勝手な生き物に見えていた。だから壁を作り、人と接するときは別の自分を演じて、波風が立たないよう過ごしてきた。

 それが初めて、見返りを求めず真っすぐに自分に向かい合い、手を取ってくれた事がたまらなく嬉しかった。単にストックホルム症候群ってやつかもしれないがそれでも構わない。そう思えた。だから退けない




「私は、孤独に生きなくてはならないんだ。私の近くにいるとお前も私を恐れる事になる。生まれてきたときから変わらなかった事実だ。私の傍にいれば不幸な目に遭う。危険が伴う。だからダメだ」



 少し語気を強めて拒絶された。以前の俺ならあっさり折れたかもしれない。しかし、今は違う。この家にたどり着くまで目が見えず、不便な思いをする俺に幾度となく手を差し伸べ、あろうことか自分の家にあげて面倒までみてやると言っている。

 そんなルーシーの心の温かさを知った。言葉は少ないしぶっきらぼうに見えるが、彼女は心の優しい人だ。だからこそ俺は決心した。彼女のために生きると。だから折れない!




「孤独に生きなければいけないなんて誰が言った。そんな事を言う奴は俺が許さん!俺がルーシーを恐れる?君が目の前で天地をひっくり返そうが受け入れてみせる。不幸な目に遭っても君のためを思えば乗り越えられる!危険があっても君のおとりにでも盾にでもなる覚悟だ!」




「自分の身も守れないのにか?」




「そうだ!・・・とにかく俺は折れない!諦めてくれ!」



「なぜこんな短い時間でそこまで思う。信じられん」



「君が命の恩人だからだ!」



「・・・お前は・・目が見えないからそんな事が言える。私の姿を見たら・・・」



「何言ってんですか。もう見えてます。長い髪も、華奢な体も、綺麗な顔も全て!」



 するとルーシーが目を見開いて驚いている。眠たげに半開きの目も素敵だが、こうして驚いた顔も綺麗だ。目が見えたら怖がるなんてそんな訳あるはずがない。



「お前目が見えるのか!?なぜ私を怖がらない!」



「なぜって、僕から見れば怖がるどころか見惚れるところですよ?」



「な!・・・お前は、何を言っている。」



 驚いて顔を反らしてしまった。変なこと言ってるのか?自覚が全くないので自分がおかしいのかと不安になり、悩んでしまう。



「もしかしたら、お前が・・・いや、どうしても折れる気がないのか?後悔するぞ?」



「後悔なんてしません!折れません!」



「しかし・・・」



 さっき何か言いかけたのが気になったが、そんな事よりもうひと押しだ。ここで妥協案を出せば乗ってくるはずだ。



「でしたら、一つお願いを聞いてください。」



「・・・なんだ?」




「ルーシーさん、僕を鍛えてください!ルーシーさんから見てそれなりの敵が来ても大丈夫くらいに!そのラインに僕が到達したときに、もう一度さっきの話をしましょう!」



 自分で言ってて自分が嫌になる。結局ルーシーに厚かましくも世話になろうとしているのだから。しかし、これが通るなら俺の未来は明るい!!どう出るルーシー!




「ん、分かった。その願い聞き入れよう。しかし、私の訓練は厳しいぞ?」



「望むところです!!よろしくお願いします。」



 通った!俺のルーシーにおんぶに抱っこな案だけど通った。これで俺はそこまで拒絶されているわけではないと思える。しかし、ルーシーを怖がるってのは何でだ?こんなに可愛いのに、何かの間違いではないのか。



「ところでルーシー、君はそんなに可愛いのに何を怖がられることがあるんだい?」




「か・・・その、可愛いとか言うな。ち、調子狂うだろ。」



 なんて言って言いつつ顔を赤くしているのがモノクロ俯瞰カメラの自分でもわかった。無意識とはいえなんと愛らしい。これは神の思し召か、ど真ん中ですルーシーさん!

 こんな感じで、天使ルーシーとの修行生活が始めるのだ。俺がんばれそう!

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