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旅路



 僕はルーシーさんという女性に拾われた。文字通り拾われた。その後は、ルーシーさんの故郷へと戻る旅をすることになった。異論はない。道中いろいろとこの世界の事を聞き、情報を集めた。おかげでいろいろ分かった事がある。

 それは、この世界には多種多様な種族がいるということ。なかでも人族は数が多いらしく、っこヒューズ大陸の国はとくに人族が多いらしい。何より衝撃的なのがルーシーさんが魔族ということだ!



「あの、ルーシーさん?故郷まではあとどれくらいですか?」



「もうすぐだ、といってもこのペースでは3日かかるな。」



 もう1週間は歩き続けただろうか、結構限界だ。肌に感じる太陽光で日付の感覚はある。ここ一週間で視力のない生活にも少しずつ慣れてきた。肌の感覚で気温が分かるのもそうだ。そこの暑い革靴で歩いていても、どんな足場を歩いているのかが分かる。道端で拾った棒切れで地面を叩き、その音の反響で大まかな障害物の位置も分るようになった。おそらく今歩いているのは林道だろうか、虫や鳥の音が聞こえる。なんというか、自分でも気持ち悪い程に五感が冴えていく。それも異常な速度で。これが異世界での僕の能力なのだろうか。ならもっと強いのがよかったな~。

 

冴えていくなかで、この世界に来てから感じていた何かの存在も強く感じるようになった。一体何なのか気になるが、体の疲れでそれどころじゃない。



「止まれっ!」



 言葉は少ないが、どこか優しさを感じるルーシーだが、まるで別人のように鋭い声を発した。言葉の意味を理解する前に勝手に足が止まってしまったほどだ。そしてすぐにそれは緊急事態なのだと理解した。

 身の回りで音が聞こえる。衣服がこすれる音、呼吸音、刃物が鞘から抜かれる音、林の中を進む音。



「・・・4人ですか?」



「!?・・・その通りだ。来るぞ!」



 一瞬ルーシーの呼吸が乱れた。正解したのかな?林に隠れていた奴らがルーシーの警告通りにこちらに向かって来た。殺気を振りまき、林道をふさぐように配置された敵。逃げ道をふさがれた。体が強張り足が震える。



「おいお前ら、金目のっ!・・・」



 

 盗賊っぽい男が何かを言いかけた瞬間、ルーシーがいた地面が弾け盗賊から嫌な音が聞こえた。何の音だ?




「え?・・・ゴハッ!」



「てめっ!・・ガッ」




 え?え?何が起きてるんだ?・・・しかし、すぐ鉄臭い臭いが漂ってくる。人の命が流れ出る臭いだ。あっという間に二人の命が消えた。しかし、恐怖心は不思議と湧いてこなかった。一瞬殺気をみせたと思った時には敵を音もなく片付けてしまったルーシーの手腕に惚れ惚れしている自分がいた。そのことが何より恐ろしく感じる。自分が自分でなくなるような感覚だ。



「き、貴様!よくも!」



 すっかり後ろで待ち構えていた敵二人を忘れていた。すると敵は空中で魔法陣を展開していく。



「風よ刃となれ!」



 短い詠唱のようなものを終えると風が集束し、刃のようになり向かってくる。目では見えないが確かに分かる。感じることができる。僕の首めがけて飛んでくる風の刃をしゃがんで避ける。

 一瞬驚いたのか隙ができた。それをルーシーが見逃さないのも分かった。自分の隣を音もなく、すごいスピードで通り抜けていったと思ったら、残りの盗賊も狩ってしまった。おそらく目が見えていようがルーシーの動きは追えなかっただろう。



「盗賊に絡まれるとはついてないな。」



「ははー、本当ですね。」



 内心、死亡フラグを立てかけた瞬間に回収するルーシーは凄いが。あまりにも短かった盗賊の出番を思う一番ついてないのが盗賊なのではないかなどと思ってしまう。



「それにしてもアキラ、よく風系統の魔法を避けられたな。あれは視認しにくいから厄介なんだぞ。」



「僕そもそも魔法視認できませんから。なんとなく、なんとなく見えました。」




 視覚を失ったのに見えるなんておかしな話だと自覚している。でも見えた気がした。真っ暗な視界に三日月型の刃が向かってくるのが見えた気がした。



「ほぅ、興味深い話だな。」



「変な事言いましたね。」



「やはりそうか・・・アキラ手を出せ。」




 「はい」と言われるがまま手を出すとルーシーがその手を両手で包み込むように握ってきた。何このご褒美イベント。これはルーシーのヒロインコースがー!と思っていると手のいらから熱いものが伝わってきた。



「これが魔力だ。大気中にも漂っているものだ。体内にあるソレを魔力と呼び、大気中に漂う魔力は魔素と呼ぶ。」




 それだけ言うと手を離し歩き始めてしまった。少し名残惜しいがコレが魔力か。だとすれば大気中に漂っている魔力がこの世界にきてから感じていた違和感の正体か。少し意識してみよう。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・。






 「さー、ついたぞ」



 ルーシーはそう言うと洞窟の中へと進んでいった。洞窟の入り口は隠し扉となっており、魔法陣に暗号のような物を入力すると洞窟への階段が現れ、扉が開くシステムらしい。魔法って素晴らしい!

 洞窟内の温度は低い。杖で地面を叩くと硬い石を突くと乾いた音が洞窟内に響く、はずだが反響しない。どうしてか壁に音が吸い込まれていく。壁が見えない。

 どうやらここは魔力がやたらと濃い。肌がピリピリと痛い。



「物は試しだ。」




 思い付きで大気中の魔素へ自分の魔力を流してみる。すると自分の魔力にふれた魔素に干渉できるようになった。これを応用して・・・大気中の魔素を少しずつコントロール下に置く。コントロールできた魔素がまた他の魔素に干渉していき、布に水滴を落としたようにジワジワ広がっていく。

 魔素の形が分かると部屋の形が分かる。真っ黒な視界には自分を俯瞰で見ているようだ。色のないモノクロの世界だが、壁の形が、床の形、が・・・これは!!ルーシーの形までも!!

 細身でスラっと背が高く、髪を長く伸ばしている。顔はというと美人だ!美しい!整った顔立ちをしており、無表情で少し眠たげな目から漂うミステリアスさは人知を超えた美しさを際だてているようだぁぁ!


 

 色が見えないのが口惜しい!非常に惜しい!どーあってもカラーでルーシーを見たい!どんな色でも美しいのは分かった。でも色がつけばより一層可愛いはずだ。

 そんな冗談はさておき、視界が!視覚がよみがえった!これがどれほど嬉しいか!この世に生まれて良かった―――とか叫びたくなるねこれ。



 視界が開けたことで杖代わりの棒切れも必要ない。地面に投げ捨てるとカランと乾いた音がする。ここから、俺の異世界生活が始まったような気がした。



「これだ。ここに立て。」



 言われるがまま魔法陣の上に立つと魔力が吸われていく。



「私の故郷へ転移する。舌を噛むなよ。それから、転移先は寒い、これを着ろ。」



 ルーシーは大きなリュックからローブのようなものを取り出し差し出してきた。言われるがまま羽織るとなんかいい匂いがする。この香りは・・・ルーシーの!?



「あの、ルーシーさん?これはルーシーさんのでは?」



「ルーシーでいい。そうだが・・・嫌か?」



「とんでもございませ!ありがたく頂戴させていただきます!」



「そ、そうか。好きに使え。」



 若干ひかれた?がっつきすぎたか。一生の不覚!しかしこのローブ暖かいな。うーん見た感じ魔力が込められてるな。防寒用の魔法だろうか。それともルーシーの温も・・・やめておこう暴走するとロクなことがない。

 


「ルーシー、行先は?」


「ローブは着たな。行先はドランツ大陸のベリシア帝国だ。寒いが気にするな。」



 ルーシーの故郷か、楽しみだ!てか寒さ気にしないとか無理くね?

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