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異世界は真っ暗闇でした。


 目の前が真っ暗だ。何も見えない。これは夢だな。五感全てにリアルな刺激をもたらす夢だ。だって俺がいたのは国道沿い、排気ガスの臭いも、喧しい エンジン音も、タイヤの音も聞こえない。




 今耳に入るのは活気のある店が立ち並ぶような、祭りのような雰囲気だ。聞こえているのは馬?のような足音、そして車輪の転がる音。タイヤでなく車輪だ。馬車かな。鼻孔を刺激するのは嗅いだことのない料理の臭いだ。美味しそうな匂いだ。視界に広がるは・・・・闇。瞬きしてる感覚はあるのに一向に景色が見えない。それに肌に感じるものに違和感を感じる。正体不明だ。温度や湿度以外にも感じる何か。




 「おっと、すまねーな!」


 突然横からぶつかられて転んでしまった。予期していない衝撃に心臓が跳ね上がり、頭が下絵と落ちていく感覚に襲われ反射で手をつく。目が見えてないと転倒もこんなに怖いのか。手を突こうとしたが踏ん張りどころが分からず頭を打ってしまった。



「痛っ・・・。」




 痛い・・・夢じゃないの?視覚以外の五感の冴え方を考えると夢と思うのは無理がある気がしてきた。

 地面から感じる土の臭いに眉間にしわが寄る。夢じゃなきゃなにごとだ?慌てて起き上がるがぶつかった犯人を判別することもできない。理不尽な怪我に腹を立てながらとりあえず安全地帯を探す。

 人気のない静かな道を行こう。活気のある喧騒から遠ざかるように歩みだす。目が見えないせいもあって手を前に伸ばしながら歩いていく。傍から見ればキョンシーみたいなんだろーな。とかくだらないことを考えながらヨチヨチ歩き出す。



 すると階段を踏み外し重力に吸い寄せられていく。5,6段しかなかったことが幸いして死にはしなかった。すると前方からよからぬ気配!というか足音がする。距離は5,6メートルだろうか。



「おいおい、出来損ないがこんなところ歩いてるなんて不用心だな~ハハ」


「まったくだ。おい出来損ない、怪我したくなかったら。分かるな?」




 人数は2人らしい。怖い。・・・ドッキリならさっさとテッテレーしてくれ。夢なら覚めてくれ。悪意を一身に浴び足がすくむ。



「す、・・すいませ。なにももってない。です。勘弁してください」



「つまんねー嘘ついてんじゃね!」



 男たちはこちらに向かて乱暴に歩いてくる。心拍数が跳ね上がり高等部から汗が噴き出る感覚に陥る。胸倉を捕まれた。驚きから前にいるであろう男を突き飛ばす。



「痛っ・・・テメこの野郎!」



 恐怖に身を任せ先に手を出してしまった。愚行だ。男は怒りにまかせて拳を俺の腹へと叩きこむ。身構えていなかったせいもあり鳩尾に見事にヒットし横隔膜が痙攣する。息ができない。



「目も見えねえ出来損ないがよっ!」



 跪き腹を抑える俺を罵りながら足蹴にする。俺が何をしたっていうんだ。悪い事なんかしてないだろ。泣きそうになりながら地面を這うが男たちは容赦ない罵詈雑言と暴力を俺に浴びせてくる。



 ・・・誰でもいい助けてくれ。心の叫びは虚しく誰も助けに来る者は現れず意識が遠のく・・・





 どれくらい眠っていたんだろう。体を起こそうとするが激しい痛みにそれを阻まれる。日が落ちたのか肌寒い。あぁ、なんてついてないんだ。俺は何があって見覚えのないこんな場所にいるんだ。成人式は、もういいや。ここがどこかも分からない。瞼を指でこじ開けても擦っても、擦っても擦っても!景色は、光は、一切見えない。深い闇に覆われている。分かったのは目が見えないことと、役に立たない眼球から涙が流れていることだけだ。




「はは・・・・役に立たない目ん玉なのに涙は出るんだな。」



 どーにでもなれ。そんな気持ちだ。傍から見れば傷だらけのボロぞうきんみたいな奴が笑ってるんだ、さぞかし不気味だろう。これじゃ誰も助けてなんかくれないだろうな。期待してないけど。そんな事より成人式のためだけに母が買ってくれたスーツが台無しだ。




「お前、目がみえないのか?」




 突然の声にビクりと体が飛び跳ねる。人がいないと思ってぼやいてた独り言が聞かれてしまった。それにしても目が見えないっていうのは心臓に悪い。

 声の主は女性の声だった。どこか寂しげな声だった。



「・・・えぇ、でも見ての通り先を越されましたね。すでに一文無しのボロぞうきんです。」



 ボコられた事への憤りか、情けない姿を見られた事による憤りかは分からないが、思わず憎まれ口をたたいてしまう。



「・・・何もとったりしない。」



「そうですか。」



 普通なら助けを求めるのが正解だ。こうして忠告までしてくる人間が、敵意を持ってるとも考えにくい。しかし、半分自暴自棄状態の自分にそういった冷静な判断ができるかといったら、難しい。



「・・・お前。人間か?」




「へ?」




 予期せぬ質問に間抜けな声を出してしまった。生まれてこの方「人間か?」なんて質問にあ出会う機会がなかった。てか人間に見えませんかね?僕。





「人間かと聞いている。」




「いや、見ての通り人間ですよ!薄汚れてはいますけどね!?」




 凄く心外な質問に思わず状況を忘れてツッコみをいれてしまった。直後冷静になれたのか頭が回り始めた。ここまでの問答で判断するのは浅はかかもしれないが、すくなくともすぐに殺される事はないと思う。いや、信じたい。




「これで人族だと?・・・。だとすれば・・・いや、うぅむ・・・。」




 なんか凄く悩んでる。そんなに人間に見えないのか?僕は。いや、そんな事より情報収集だ。俺は成人式に向かってるところで記憶が途切れた。気づいた時には視力を失い、空気が変わった。馬車らしき乗り物の音、聞きなれない単語。そして今も肌に感じる不思議な感覚。例えようのない過去に感じたことのない感覚。確かなのは、ここは日本じゃない。




「あの、質問してもいいでしょうか?」




「あぁ、すまん、考え事をしていたんだ。・・・言ってみろ。その代わりに私の質問にもこたえてもらう。」



「分かりました。ここはどこですか?できれば詳しく!」



「?・・・ここは、ヒューズ大陸のマルタン大国だ。」




 やっぱ日本じゃない。てか地球じゃない!完全に別の場所、異世界だ。これはワクワクして・・・こないね。だって目が見えないから。ファンタジー世界を堪能できない。目の前にいる女の人が超絶美女かもしれないってのに、なんて不幸な。



「お前はどこから来た。」




「すいません。覚えてないんです。気づいたら今の状況に・・・」



「行く当てはあるのか?」



「ないですけど。僕の質問は?」



「私についてこい。どうせ行く当てもないんだろう。」




 一方的に質問され、命令された。普通は怒るところなんだるが不思議と怒りよりも喜びがわいてきた。なんせ生まれて初めての逆ナンパに遭遇してしまった!さすが異世界!・・・冗談はさておき、お先真っ暗な自分に光明がさしたのだ。飛びつかない手はない。コレを逃したらどこぞで野垂れ死にだ。




「分かりました。ついていきます。でもお礼できるような物持ってませんよ?」




「必要ない。」




「・・・名前聞いていいですか?」




「私は、ルーシーだ。」



「ぼくは、アキラといいます。よろしくお願いします。ルーシーさん」



 異世界の人たちも捨てたもんじゃない。こんな自分に無償で手を差し伸べてくれるんだから。


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