煩い
闇夜に轟く鬼の咆哮。まるで産声上げる赤子のよう。あの程度なら普通の人間に聞こえることはない。が、第六感の鋭い人間(霊感がある人間)には悶え苦しみ叫び散らすような重低音の断末魔が体の芯に響き渡るように聞こえてくる。誰にも届くことなく抱えきれなくなった恨み辛みの雑音。まったく…耳障りだわ。
「おーい。麗ちゃんさーん。鬼さんこっちに向かってきてるよー。一直線にこっちに向かってきてるよー。」ハグの声で我に帰った。
ここに向かってくるなんてよっぽどの大物かよっぽどのお馬鹿さんね。「違うよ!きっとあの鬼…ハグに会いたいんだよ!」どうやらバカが馬鹿を呼ぶのは本当のようね。「ムキャー!!!」さてと、それじゃいってくるわね。すぐ帰ってくるからちゃんとお留守番しとくのよ。ハグ姉様。「子供扱いもお姉様扱いもしないで!」
頬を膨らませるハグを見て私はクスっと笑った後、私はあの鬼の腕を斬り落とした。一瞬の出来事で何が起こったのかわからなくても当然。一瞬で鳥居の上から住宅街まで跳んだのだから。ついでに、あの鬼を横切った際に、この背負っていた箒であの腕を斬り落としたってだけの話。
<う、ご…ごご…うぅ、ぐご
鬼が腕を抑え悶えている間に住宅の屋根の上から鬼の頭上へと移動した。実体のないこの鬼に痛みがあるのかはわからないけど。
さて鬼、さっきからうるさい。その雑音、止めてくれるかしら。
<ぐごああああああああ
握り締めた拳が白い光を放ち出す。仕方がないわね。なら身を以て…、
<ぐるあああああああああああああ゛!!!
麗砕ッ!!!!!!!
親や一昔前の教師が子供に拳骨するかの如く、白き光を放った拳を鬼の頭頂部目掛けて勢いよく振り下ろし殴った。
<<<ドゴォーーーン!!!!!>>>
砂埃が舞い視界が閉ざされた中、私の何十倍とあるその巨体は顔面から地面に突き刺さるように叩きつけられ、文字通り地面にひれ伏した。もちろん叩きつけたのはこの私。殴った反動で宙に浮いていたが重力に引かれ地上に降りた。
私に迷惑を掛けるとどうなるか身を以てわかったでしょ?と問いかけるが、もちろん返事が帰ってくることはなく、先の一撃で鬼は浄化し、消滅した。
ーあっけないわ。もう少しタフかと思ったんだけど、ホント期待外れな鬼。私の舞台には相応しくない、とんだ三文役者ね。ー
地獄に帰って反省しなさい。
でも、退屈しのぎになったことには感謝してあげる。と台詞を吐き捨てその場を立ち去ろうとしたその時だった。
「あなたの退屈しのぎで町を危険にさらさないでくれますか?」私の背後から聞き馴れた声が聞こえた。もちろん私はこの声の主が誰だか嫌にでもすぐにわかった。
町を危険にさらしたなんておかしなこと言わないでくれるかしら?
「おかしい?おかしいのはあなたですよ。犬傘 麗子さん。」
私はいたって正常よ。町を守った人間に対して町を危険にさらしたなんて言う誰かさんとは違って。そうでしょ?猿鴇 空鈴さん。
【猿鴇 空鈴】。桃花源神社のもう一人の巫女見習い。私の生意気な妹(弟子)。
「気死我了。…クスッ。」