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学園【鬼】戦記物語〜midnight crazy〜  作者: 望月 ワン子
【吉備 美琴】戦記 エピソード1
12/17

衝撃と衝突ー4月6日

遥か上空からとてつもない勢いで落下してきた巫女装束の女の子。落下するやすぐさま彼女の腕にしがみつきとても嬉しそうにしている。


「キメちゃんどこいってたのよ〜。出て行ったっきり帰ってこないから心配したんだからねぇー!!!」


嬉しそうな表情から頬を膨らませた不満げな表情へと変わった。

凄まじい落下の衝撃があったのにもかかわらず、無傷の彼女。表情一つ変えることなくビクともしなかった。が、フードの子はどうやら無事じゃないようだ。


「………な、なにするジャキ…、…バカハグ。」


落下の衝撃で私の後方にある公園入り口の木まで吹き飛ばされたフードの子は地面にうつ伏せになり、顔だけを起こし、最後の力を振り絞るようにして女の子に訊いた。

バカハグ…。バカはともかくどうやら「ハグ」が彼女の名前らしい。朝出会った時には気付かなかった。まさかこの歳で一人称が自分の下の名前だなんて思いもしなかった。「ハグ=抱擁…?なに言ってんだろうか。」ぐらいにしか思っていなかった。

隣にいる彼女とは対照的に暗闇に溶け込むような漆の髪、月光に反射して青玉サファイアのような輝きを放つ澄んだ青の瞳は夜空に輝く星月よりも美しく輝く。


「あら?アマノジャクじゃない。ハグ、気づかなかった〜。ゴッメンねぇ〜。テヘペロッ!」


仕草がいちいちムカ可愛い。


「アマノジャクじゃない…。アマノジャキ…ジャキ…。」


フードの子が名前が違うと訂正をする。

そして、力尽きたように倒れこんだ。


「あらら…倒れちゃった。まったく情けない。こんなことで倒れてたらキメちゃんのお供失格だね。…っていうことで、これからは私がずっとキメちゃんのお供をしてあげる!」


彼女の胸元に顔をグリグリさせながらうずくまるハグ。


「 ………で?」


うずくまっていた体勢からクルッと私の方に向きを変え、背後うしろで腕を組み、首をかしげた。

ポーズもいちいちムカ可愛い。


「どうしてあなたがキメちゃんの側にいるのかな?」


顔は笑っているけど、心は笑っていないのがまるわかりだ。私からすればそんなこと訊かれてもどう答えればいいのかわからない。ハグと彼女は親しい関係にあるのは一目瞭然。それに銃から人間?に姿を変えたフードの子ともどうやら面識があるようだ。ならハグに一連の出来事の話をしても問題はないだろう。そう考えた私はとりあえずここまでの経緯を掻い摘んで説明した。入学式帰宅後から今に至るまでに起きた出来事を。


「ー。それでキメさんが…私を助けてくれました…。化物に殺されそうだった私を…。」


私の話が終わるとハグは腕を組み「うーんんん…。」と何かを考えるようにうだっていた。そして、考えがまとまったのかハグがポンッと手を叩く。そして、


「…………じゃ!ハグが殺してあげる。」


満面の笑顔で私に放った衝撃の一言。

言葉とともに放たれた殺気は私の中の何かを止めた。

すかさず彼女が無言無表情でハグの頭を叩いた。


「…いてッ!なにすんのよキメちゃん!」


叩かれた頭を両の手でおさえながら勢いよく振り向くハグ。

彼女に叩かれことでハグの意識が私から逸れる。

その瞬間、私は自分が息をしていないことに気が付いた。すぐに空気を大きく吸い込み、大量の酸素を体内へと取り込んだ。乱れる呼吸。顔から流れ落ちる冷汗。血の流れが止まっていたかと思わされるぐらいに

硬直していた身体がゆっくりとほぐれていく。強く握りしめていた拳を広げてみると尋常じゃないくらいの手汗が出ていた。


「はぁ…はぁ…はぁ…ゴクッ…。」


圧力をかけ睨むようにキメはじっとハグを見つめている。


「もぉ〜キメちゃんったらぁ〜!じょ、冗談だよぉ〜!テヘヘへ…。」


笑ってごまかすハグ。

彼女が叩くまでの瞬間的に放たれたハグの殺気は私から身体の自由と呼吸という生理機能を奪うのには充分だった。

ハグがほんの一瞬放った殺気はさっきの化物とはまた別の恐怖を感じた。


『な、なに…今の…。心臓が止まったかと思った…。』


たった1日、しかも数時間の間に2度も殺されそうになり、計り知れない恐怖を味わった。

現実離れしすぎた出来事の連続。私は一体これからどうなるのだろう。皆目見当もつかない。


「………。」


「ごまかしてないよ!ホントに冗談だったの〜!ちょこっとからかってみただけなの!」


冗談だったと必死になって彼女を説得する女の子。すると、


「冗談だとしてもタチの悪い冗談ね。ハグ。」


「そうですよ。あなたの冗談は冗談に聞こえないんですよ。ハグさん。」


私の後方、公園の入り口から聴こえてきたこれまた聞き覚えのある二つの声。

私が振り返った先にいたのは女の子と同じ巫女装束を着た二人の女性。


「レイちゃん!!クゥーちゃん!!」


どこかで見覚えのある二人。

綺麗なお姉さんとお団子頭の女の子。

私と目が合ったお団子頭の女の子がなにやら恥ずかしそうにこっちへ駆け寄ってくる。身長は150cm前後、手が振袖に隠れているのがなんとも可愛らしい。


「お怪我はございませんか?」


「…えっ?」


私の目の前で立ち止まり、私を心配してくれるお団子頭の女の子。私の目を下から覗き込むようにじぃーっと見つめ、見つめ終わると袖から小さな可愛らしい手を出し私の身体を触診し始めた。


「ちょっ、ちょっとなにを…にゃはッ…にゃははははー」


頭の天辺から、足の先まで入念に触ってくるのだがそれがなんともこしょばゆい。


「…目立った外傷や痛みは特になし…、意識もしっかりしていますね…。目眩や吐き気、悪心といった症状はございませんか?」


「あ、…ありましぇん…。」


「それは何よりです!」


ーモミモミモミモミモミモミモミモミー


笑顔で私の乳を鷲掴み、揉みしだくお団子頭の女の子。


「…あの…、どこ触ってるんですか…。」


「はッ!これは失礼致しました。つい…、私のいけない癖が…。は、恥ずかしいです…。」


一歩後ろにか下がり、袖に隠れた手で赤らめる顔を隠すお団子頭の女の子。


『…わざとらしいけど、私…、キュン死にしそうです…。』


「ごめんなさいね。うちのバカ姉妹が迷惑をかけて。」


「ヒィッ!!」


突然背後から、私の耳元で囁いたのはさっきまで私の目の前にいた綺麗なお姉さんだった。


「あら?驚かせちゃったかしら。」


『い、いつの間に…!?』

「い、いえ…、大丈夫です…。あはは。」

『というか今、姉妹って言った?姉妹っていったよね?もしかして4姉妹…。夢の素敵4姉妹!!』


苦笑いの私を見てクスりと笑う綺麗なお姉さん。

妖艶で美しく綺麗な顔立ちは惚れ惚れしてしまう。


「ハグ。こっちに来てこの子に謝りなさい。」


綺麗なお姉さんはハグの方へと顔を向け、こちらへ来るように呼びかける。


「…えっ?いや…!私は大丈夫ですから…。」


「なっ!なんで私が謝んないといけないのよ…!私、悪いこと何もしてないもん!」


顔を膨らませプイッと顔を背ける女の子。


「良いも悪いもそんなことどっちでもいいのよ。あなたが故意にこの子に恐怖を与えたのは事実なんだからそれに対して謝るのは当然のことじゃないかしら?」


「ゔぅぅぅ…。嫌だ…。謝らない…。」


女の子の表情が険しくなり、頬がさらに大きく膨らむ。


「別に私は構わないけど。ただ、あなたの大好きなご主人キメに恥をかかせることになるわね。もしかしたら嫌われちゃうかも。ねっ?…ハグ。」


脅すようにゆすりをかける綺麗なお姉さん。

すると間髪入れずにハグは頭を下げた。


「怖い思いをさせて、ごめんなさい。」


『折れた!!!すっごい嫌そうな顔してるけど折れた!』

「き、気にしないでください。全然平気ですから。あはは…。」


ハグは頭を上げるとまたプイッと顔を背け、彼女の背後に隠れた。


「ごめんなさい。あれでもハグさんなりにきちんと謝ったつもりなんです。ハグさんを許してあげてくれませんか?」


お団子頭の女の子が言う。


「そんなのもちろんですよ!こちらこそ、えーと、ハグ…さん?の気に触るような人間でなんかごめんなさい。」


「あなたが謝る必要はありません。それに気にしないでください。少し嫉妬しているだけです。」


『あれ嫉妬なの?だとしたら少しどころか、とんでもない嫉妬だよあの子。』


チラッと彼女の方に視線を向けると、


『ヒィィッ!!!』


彼女の背後から私を鋭い眼光で睨みつけているハグ。

私はハグに苦笑いを返し、そのままハグから視線を外す。


「…それにしても珍しいわね。学校以外でキメが私達以外の人間と一緒にいるの。」


綺麗なお姉さんが彼女に話しかける。


「そういえばそうですね。何かあったのですか?」


お団子頭の女の子も疑問に思ったのか彼女に問う。


「………。」


黙ったままの彼女。


「何もないって言ってるよ。」


ハグが彼女の代わりに答える。


『やっぱり…、ハグさんにはキメさんの声が聞こえてるんだ。』


「ふぅ〜ん…。何もない…ね。」


怪しい何かを企むような表情を微かに浮かべる綺麗なお姉さん。


「また良からぬことを企んでいますね?」


その表情を見逃さなかったお団子頭の女の子がすかさず綺麗なお姉さんにくいついた。


「あら?いけないことかしら?」


「いけないですね。あなたの良からぬことは私たちにまで迷惑がかかると何度も言っています。何もせず、おとなしくじっとしていてください。」


「随分な言われようね。でも私が何しようが私の勝手なの。誰に迷惑がかかろうと私の知ったことじゃない。それに、あなたの言うことを聞く義理も指図を受ける義務もないの。だから巻き込まれたくないのなら私に関わらないこと。私をじっとさせたいのなら力づくで止めるか、それとも私を殺すことね。」


「あなたのようなお人がハグさんをよく注意できたものです。呆れて言葉も出ません。野良犬は野良犬でも人に害を及ぼす野良犬のあなたは害獣となんら変わりません。野良犬は野良犬らしく、大人しく生ゴミでもあさっていればいいんです。それができないというのでれば、私が害獣あなたを駆除します。」


フフッと笑う綺麗なお姉さん。


「害獣駆除に来た業者が害獣に襲殺されるなんて滑稽だと思わない?私そういうの大好きよ。」


「お得意の強がりですか?ちょうどいい機会です。あなたのわんわんという負け犬の鳴き声が耳障りだったんです。2度と吠えることができないようにして差し上げます。」


険悪な雰囲気が漂いだす。

二人の視線がぶつかり火花を散らす。

二人とも臨戦態勢に入り今にも攻撃を仕掛ける勢いだ。


「コォォォーラァァァー!!!ケンカしたらダメだっていってるでしょー!!!」


後ろから大きな声を張り上げるハグ。

だが、臨戦態勢の二人の耳には届かなかった。


「もぉぉぉ〜、キメちゃん!!!なんとか言ってやってよ!ビシっとビシっとビシビシっとぉ!!!」


「………。」


『…あれっ?こんな景色どこかで見たような気が………、』


どこかで見覚えのある光景。

思い出そうともう一度記憶を掘り起こしていく。

腕を組み、頭が次第に傾いていく。

夜風に吹かれ桜の花びらが舞い散るとともに、二人の振袖と髪が靡く。


「うぅぅぅ〜ん…。いつだったっけなぁ〜…、そう確かあれは…あのでっかい化物を見た…、」


巡りめくっていく記憶とは裏腹に二人の精神は研ぎ澄まされていく。互いに最初の一撃を繰り出す機会を伺っていた。そう、一撃で仕留めるための最高のタイミングを…。

舞い上がっていた桜の花びらが二人の間にヒラヒラと舞い落ちる。


「…さようなら、クソ猿さん。」


「…不再見《ブー ザイ ジエン》(さようなら)。」


二人が小声で何かを呟いた次の瞬間


ードンッ!ー


二人は地面を勢いよく蹴り跳んだ。


因縁の相手に一撃を喰らわせるため。


対角線上の中心で二人がぶつかろうとしたその時、


「アアアアアアアァァァァァァァアアアアアアア!!!!!おもいだしたぁぁぁ!!!」


私の出した突然の大声にぶつかる寸前だった二人は驚き、共に動きが止まった。


「あの時の女の人と女の子だ!!!」


二人を指差し大きな声を出す。

一体何のことかさっぱりわからない様子の二人はお互いに一度距離を取る。そしてお団子頭の女の子が私に尋ねた。


「あ、あの〜…どこかで私たちと一度お会いしましたか?」


「会ってないです!遠目に見ていただけです!ちょうど今日から2週間の深夜にあなたたち二人が今と同じように喧嘩しているとこを私見たんです!あっ!それと二人が喧嘩を始める前に、かなり大きな黒い影のような化物も見ました!!!そうです、確か…この辺りで!!」


「…2週間前…、喧嘩…、大きな黒い化物…。まさか…大きな黒い化物って…【オニ】…のことでしょうか?」


どうやら心当たりがあるお団子頭の女の子。けれど、「おに」といわれてもわからない。


「えっと…その「おに」って…なんですか?」


確かめるように訊かれたことを質問で返す。

すると、割って入るように綺麗なお姉さんが話しかけてきた。


「へぇ〜ぇ、あなた見えるのね…。【鬼】。」


なんだか興味を持たれたような感じがする。


「あのぉ〜…だからそのオニっていうのは…一体…。」


再度改めて今度は綺麗なお姉さんに尋ねてみる。

お姉さんはフフッと笑い、公園入り口近くの木の下の方を指差した。


「あなた、あそこのあれ見える?」


そこにはフードの子が仰向けになり鼻ちょうちんを膨らませ寝ていた。


「…あれって…あそこで寝てるフード被った子供のことですか?」


私の答えかどうかもわからない返事にまたクスッと笑ったお姉さん。


「あなた面白い子ね。お名前は?」


「…吉備…美琴です…。」


「美琴ちゃんね。どうかしら、今から家に来ない?」


「え?」←美琴わたし


「え?」←お団子頭の女の子


「え?」←ハグ


「…。」←彼女キメさん


綺麗なお姉さんの一言に驚く3人。

お姉さんは笑顔で続ける。


「どうやらこのまま放っておくわけにもいかなさそうだし、美琴ちゃんも私たちに聞きたいことあるんじゃないかしら?」


「ちょ、ちょっとまってよレイちゃん!!!私は嫌だよ!なんでその子を家に入れなきゃいけないのよ!」


彼女の背後に隠れていたハグが姿を現し、綺麗なお姉さんの提案に反対する。


「いいわよね?…キメ。」


綺麗なお姉さんはハグの反対を無視し、決定権を持つ彼女に尋ねた。だが、彼女は何も応えない。彼女は黙ったまま私達に背中を向け、そのまま歩き出した。


「…キメちゃん?どこいくの?キメちゃん!!」


ハグが呼びかけるも反応することなく、住宅街の暗闇の中へと姿を消した。ハグもそんな彼女の後を追って行ってしまった。

彼女の態度を見たお姉さんは小声で「ホント、わかりやすいわね。」と呟きフフッと笑った後、「それじゃ、行きましょうか。」と笑顔で私に声をかけた。


私は黙って頷きお姉さんの後について歩き出す。


『この先に私の知りたい真実がある。…真実を知った上で私の気持ちがもしあなたと出会った時と変わらなければ、その時はもう一度覚悟を決めます。』


決心することを自分自身に誓った。


『…いや、やっぱり、無理かも…。』

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