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学園【鬼】戦記物語〜midnight crazy〜  作者: 望月 ワン子
【吉備 美琴】戦記 エピソード1
11/17

偽りの覚悟ー4月6日

月光に照らされ姿を現したのはなんと、私と関わることを絶対的に避けていた彼女キメだった。


『な、なんで!!?なんでキメさんが家の前にいるの?!』


突然のことに驚きを隠せない私。

彼女わたしに関われば死ぬ」と警告しておきながらなぜ私に近づくのか。


『ど、どうしよう…。と、とりあえず挨拶を…。』


「キッ、キメさん?!こ、こんばんは…。」


「…。」


相変わらずだんまりな彼女。


「ははは…。 あ、あの〜…、キメさん?どうかしたんですか…?私に何か用事でも…?」


と尋ねると、彼女は何も言わず無言でその場から立ち去っていった。


「ちょ、ちょっとキメさん待って!」


私は慌てて部屋を飛び出し、玄関へと向かった。玄関を飛び出すと、薄暗い住宅街の中へと消えていく彼女の後ろ姿がまだ見えた。走れば余裕で追いつける距離。彼女がここへ来た理由は知らないが、これはまたとない機会だと確信し、必死になって歩いていく彼女を追いかけた。

走って、走って、走って、走って…。

走って、走って、走って、走って…。

走って…って…。


『…ん?』


ここで、おかしなことに気づいた。

いくら走っても彼女との距離は縮まらない。

走っても彼女に追いつくことができない。

彼女が私と同じ速度で移動しているようにはまったく見えない。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、一体…、どうなってんのよ…。なんで(距離が)縮まらないの…。」


息切らしながら必死に走るが、そろそろ私の体力も限界に近い。いつの間にか追いつくのではなく、置いて行かれないように追て走っていた。


「一体…はぁ、はぁ、どこまで行くんだろう…。」


と、ここで彼女は住宅街から近くの公園に入っていった。


『確かここは…鬼北公園…。どれだけ遠回りしてんの…。』


鬼北公園は私の家から徒歩5分ぐらいの場所にある。私は彼女を追いかけ、かれこれ10分ぐらい走っていたのだ。

とりあえず私も彼女に続いて公園の中へと入っていく。

すると、彼女は公園の中央で立ち止まっていた。私も足を止める。


「もうダメ、限界…。」


上半身の力が抜けて前に倒れてしまいそうになるのを膝に手をつき支え、ゆっくり呼吸を整える。整えながらうつむく顔を上げ彼女の方を見る。彼女は背中を向け、微動だにせずその場に立ち尽くしている。

呼吸が整うのを待たずして私は彼女に声をかけた。


「はぁ、はぁ…、キメさん…。どうして…私の家の前にいたんですか…?はぁ、はぁ…。」


彼女の反応はなし。黙ったまま動かない。私は上半身を起こし、背を向ける彼女に続けて問いかける。


「…どうして黙ったままで何も答えてくれないんですか…?どうしてずっと無視するんですか…?私がキメさんと関わったら死ぬかもしれないっていうのにどうして私の家の前で私の部屋を見てたんですか…?どうしてなんですか?ちゃんと答えてください…。」


溜め込んでいた疑問を口から吐き出した。どんな答えが返ってこようと、私の気持ちは決まっていた。あなたと仲良くすることができるなら…、覚悟はできている。「偽り」の「覚悟」ではなく、「本物」の「覚悟」。


「どうして?…だって?」


出会って初めて彼女が口を開いた。

しかし、その声を聞いた私は不安になった。

何故だろうか、彼女の声は私がよく聞き覚えのある声で、すごく違和感を感じる。

思い出せそうで思い出せない。近くでいつも聴いているはずの声なのに…。


「そんなことお前自身である私にわかるわけないだろ。」


彼女が何を言っているのかまったくもって理解できなかった。


「…私自身…、って何を言ってるの?」


私の質問に彼女はクスッと笑った。

この時ようやく、私は彼女が彼女キメではないということに気がついた。しかし、時既に遅く、


「…あなたキメさんじゃない。あなた一体誰なの…。」


「しつこいなぁ〜。言ったろ?私はお前だよ。お前から生まれたもう一人のお前だ。」


どこでこの声を聴いたのか、誰の声なのか思い出した。どこかで聞いたことがあり、違和感を感じる声。なぜすぐに気づくことができなかったのか。それもそのはず、私はこの声を誰よりも一番近くで聴いて、誰よりも知らない…。


そう、私自身の声だ。


彼女が振り返るのと同時にとてつもない恐怖と不安が押し寄せてきた。

振り返った彼女は彼女ではなかった。今私の目の前にいるのは彼女の姿をした化け物だ。

その姿は得体が知れず、実体のない影のような化け物。蠢く黒いカラダ、影で形成された額から飛び出すツノらしきモノに尖った耳、怪しく艶やかに光る赤い目、裂けるように大きく広がった赤い口…。

私の声を発し、私だという化け物。まさに異様で不気味な怪異的存在。

どういう仕組みなのか、何が起きてどうなったのかまったくわからない。だけどこれが目の前にいる奴の本当の姿だということはわかった。


「お前はもういらない。私は私一人で充分。何も知らないまま消してあげる。」


化け物がゆっくりと近づいてくる。

私を消すために…。

恐い。恐怖で足がすくんで動けない。

体の力が抜けて崩れ落ちるようにその場に座り込む。


『どうしてこんなことになったんだろう…。』


うつむき、そう頭の中で思った時、浮かんだのはキメさんのあの言葉だった。


『キメさんのあの言葉はこういうことだったんだろうな…。私なりに死ぬ覚悟はしていたつもりだったんだけど、実際に死ぬってなるとできてなかったことがよくわかる。心のどこか片隅で「関わったら死ぬ」なんて冗談だと疑っていたんだ。信じてなかったから簡単に「死ぬ覚悟」なんてできたんだ。疑っていたんだ。彼女を。私の中途半端な気持ちが招いた結果だけど、どうせ死ぬんならキメさんと仲良くなりたかったな…。』


ゆっくり歩み寄ってくる化け物を見上げる。私は化け物を見て、記憶の奥底に沈んでいた何かを思い出す。


『だけど…この化け物、前にどこかで似たような奴を一度見たことがあるような…。映画でも漫画でもない。この現実世界で…。あの時はもっと…巨大で…荒々しくて…。そう…あれは確か…この町に引っ越してきた時…。』


目の前に立ち止まる化け物。

地を這う虫けらを見るような目で私を見下ろす。


「さようなら…。人間のワタシ。」


そう言うと、化け物の5本の指が一つの束になり、束は鋭い刃のような形へと変わった。

ゆっくりと腕を振り上げ、私めがけて振り下ろそうと天高く構えた次の瞬間、


カチッ


化け物の後ろから聞こえた音。

その音が銃の撃鉄を引き起こす音だとわかったのはこの後すぐのこと。この時化け物は後頭部に銃を突きつけられていた。


「なッ…!」


音に反応した化け物はすぐさま振り返ろうとする。が、そんな間も与えず引き金が引かれた。


パンッ!!!


響く銃声音。木々に隠れて眠っていた鳥達が慌てて飛び去っていく。

銃弾は化け物の実体を捉え、後頭部から額を貫いていた。化け物は絶命し、地面に座り込んだ私の足下の前に倒れた。

一瞬の出来事に驚く事しかできない私。

息絶えた化け物の死骸を見つめていると、化け物の体が徐々に丸く白い光となり消滅し始めた。

動揺する私。砂利を擦って歩いてくる音が聞こえる。きっと化け物を殺した奴だ。消えゆく化け物の体から視線を外し、見上げた視線の先にいたのは…、


「キメ…さん…?」


彼女だった。

左手には化け物を撃ち殺した銃。右手は鬼桜高校のスカートのポケットの中。夜にも関わらずサングラスをしている彼女。朝出会った時と同じ、サングラス越しに私を見つめる彼女。


「ほ、ホンモノの…キメさん…ですよね…?」


少し安堵するとともに、本人であるかどうか確かめる。彼女のそっくりさんだとすれば確認のしようはないが、とりあえずさっきのような化け物じゃないかどうかを確かめる。


「………。」


『やっぱり何も答えて…。』


「あったりまえじゃきッ!!!」


「…………えっ?」


元気の良い声。一瞬、彼女から目をそらしてしまったため、彼女が言ったのかどうかわからなかった。だけど確かに元気の良い返事が聞こえた。


「あっ、あのぉ〜。今、返事しました…か?元気の良い声で…。』


恐る恐る聞いてみる。


「………。」


「してないジャキ!元気がナイ声でお返事したジャキ!」


彼女は口を開いていない。口は相変わらずつむったままだ。なら一体どこから…。

すると、彼女が左手で持ってていた銃がひとりでにゴニョゴニョと動き出した。そのまま宙に浮くと銃は形を変えていき、小さなフードマントを被った子供へと姿を変えた。


「じゅ、銃が…子供に…?!」


「コドモじゃないジャキ!僕はアマノジャクジャキ!」


「アマノジャクジャキ…?!」


「アー、マー、ノー、ジャー、キー!…ジャキ。」


フードを深く被っているせいで顔は見えない。赤子ぐらいの大きさで、彼女の肩の上にちょこんとと座り足をぶらつかせる。


「わかった!天野ジャッキー!」


「そうジャキ!ボクはアマノジャキ!ジャキ!」


『なんか通じてない…。』


「お前おもしろくないジャキ。お前つまらないジャキ。」


私に指差し不満そうな口調で文句を垂れる。


『こいつ、ムカつく…。』


だが、あまり驚かないのも無理もない。先にあんな化け物を目の当たりにしているのだから。


「あんたといい、さっきのキメさんの姿をした化け物といい…、あの夜の巨大な化け物といい…、一体なんなのよ。」


「…?!」


「ジャキ?!」


私の発言に彼女とフードの子が驚いた表情をした。


「………。」


「一体どういうことジャキ?!お前、あの夜のこと覚えてるジャキ?!」


「あの夜のことって…2週間前の夜中のこと?それなら覚えてるというより…思い出したって言った方が正しいかな。」


「そ、そんな…、ボクがかけた呪鬼式じゅきしきが破られてるジャキ…。キメ!どうなってるジャキ!!」


彼女のほっぺたを握り、彼女の顔を左右に揺らす。彼女は黙ったまま、なされるがままだ。


『そういえば私なんで今まで忘れてたんだろ…。』


「クッソー…。よくもボクの呪鬼式をぉぉぉぉぉぉぉ…ぉぉ!ぉおえっ。」


限界まで声を出しえずくフードの子。

汚いといわんばかりに彼女に叩かれていた。


「むぅぅ…。お前こそ、お前こそ一体何者…」


とフードの子が私を指差し問い詰めようとした次の瞬間、空から何かが彼女めがけて落下した。


ードゴォォォーーーン!!!ー


まるで隕石の落下のような衝撃。


「ジャグヴォッッッ!!!」


衝撃で吹き飛ぶフードの子。

辺り一帯に砂埃が舞い上がる。

砂煙の中から出できたのは、落下地点ど真ん中にいた彼女キメと、今朝出会ったあの巫女装束を着た女の子であった。


「キャハッ!」


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